フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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集結 紅魔四天王!(前)

 

 偉大なるレミリア閣下は言いました。「優秀で忠実な部下とは真に得難いものである」と。

 

 美鈴さんにパチュリーさん、そして咲夜さんと。非常に有能な部下を持ち前のカリスマと運命力で的確に拾い集めたかの方をして、人材蒐集を己の才能と天運に依存する趣味だと言わしめた事実は無視できない。

 

 星の数存在する凡百の中から宝石或いは原石を見つけ出し、あらゆる障害を排し手元に手繰り寄せ、そして己に心服させるというのは本当に難しい事なのだ。

 万年下っ端のニッヒちゃんも遂に人の上に立つ時がきて、レミリア閣下のそんな弛まぬ努力や密かな苦悩に思いを馳せるのであった。

 

 以上。要約すると、部下集めは凄く大変! 

 

 

「どうしたのさ、そんな顰めっ面で頭を悩ませて。お気楽でおバカなニッヒらしくない。もっと頭空っぽに生を楽しみなよ辛気臭い」

「うーん……ぬーん……」

「言い返さないのか?」

「何か言い返しても『そうなのかー』で終わりでしょ? 貴女とのレスバは全っ然割に合わない!」

「そうだね」

 

 この宵闇妖怪、確信犯である。

 ちゃぶ台越しに軽く睨んでみたものの、どこ吹く風で茶を啜っている。とまあ、この通り一応の右腕たるルーミアすら満足に統制できていないのが、ニッヒちゃんの悲しきカリスマ力を如実に物語っていた。

 

 そりゃ私だって、やろうと思えばマイロードみたく厳しい態度と暴力で無理やり言う事を聞かせるくらいはできると思うよ。吸血鬼の価値観に則って、悪逆非道な支配を行うのも一つの手だとは思う。

 でもやっぱり性に合わないんだよね。自分が守護りたいと願った相手をわざと傷付けるような真似は極力したくないもん。それに、ルーミアとのルームメイトみたいな関係に心地良さを感じているのも否定できない。

 

 まあそもそもの話、マイロードとの歪な主従関係はニッヒちゃんの太平洋よりも広い心によって成り立っていただけで、他の皆様にアレを耐えられるとは思えないしね。恐らく下剋上の嵐になるだろう。

 

 

「仲間集めの件については前にも話したでしょ? その事で悩んでたの」

「……私は別に増やさなくてもいいと思うんだけどなー。二人でも上手い事やれてるし」

「ノンノンノン! 現状に甘んじるだけじゃ何も変わらない。それじゃあせいぜい三、四面ボスが関の山! 私達はビッグになるんだって誓い合ったじゃない!」

「ニッヒが勝手に言ってるだけだよ」

「そ、それにルーミアにとっても悪い話じゃないと思うんだよね。あの子達が我が『紅魔館支部』に新しく加入してくれたら、生活がもっと楽しくなると思うよ」

「……?」

 

 先にも述べた通り、実績、カリスマ、能力ともに不足している現状の私ではレミリア閣下のように超絶優秀な方々を迎え入れる事はできないだろう。

 

 一定規模の勢力に属している人。例えば天狗の皆様や、命蓮寺の皆んなに引き抜きを仕掛けても成功確率は低い事が目に見えている。天魔さんや聖白蓮様が優秀なのは勿論のこと、組織としての思想がある程度定まっているために『大天使フランちゃん教』の付け入る隙が無いのだ。

 

 だからと言って在野から探しても、藤原妹紅さんのような我の強いタイプを組織に組み込む事は不可能。それに私よりも強い可能性が十分にあるから、上下関係が成り立たないなんて事もあり得る。あと紅い妹はウチの破壊神と色々被ってるから……。

 

 つまり現状の狙い目はどこにも属していない野良で、大した思想を持たずふらふらしていて、設定的にもそこまで強くない妖怪、という事になるね。

 そうやって考えるとバカルテットという存在はまさしく条件に合致した奇跡の集団だと言えよう。

 

 私の知識によると、バカルテットとはルーミア、チルノ、リグル・ナイトバグ、ミスティア・ローレライのお馬鹿四名で構成される仲良しグループなのである! 

 

 全員が幻想郷における雑魚の代表例みたいな扱われ方をしているが、私は彼女らに光を見出した。

 他の妖怪に比べ相対的に力が弱くても、突出した奇才に秀でているのは明確な強みである。

 

 みんな馬鹿だの雑魚だの言ってるけど、リグルは幻想郷においても希少な『数の暴力』を行える蟲の親玉的妖怪だし、ミスティアは相手に問答無用でデバフを掛ける事ができる有能で料理上手な歌姫だよ。チルノだって賢者なる方々から一目置かれ遂には自機にまで抜擢される最強の妖精だし、ルーミアもドリブルが上手い。

 

 うーん、隙が無いね! 

 

 

「実は仲間にしようと思ってる人の方向性はずっと前に決めてるんだ。けど何処に居るかは分かんないから、それで探す方法を悩んでたの。まあ方向性は固めたけどね」

「幻想郷中をしらみ潰しに探す気?」

「いや、ルーミアのツテを使う!」

「???」

 

 過去一の困惑が向けられる。自分にそういう役割を求められるとは露にも考えてなかったって顔だ。ルーミアって友達少ないのかな? 

 

 私の知識が正しければルーミアは一緒に寺子屋に通うほど他三人と親しい間柄にある筈で、彼女を仲介して私の同志にしてしまおうという計画だった。

 もっとも、少し前にチルノと戦った際は互いに初対面っぽかったし、ルーミアも一向に寺子屋に行く素振りを見せないので、いつも通りガセ情報(ワザップ)を掴んでしまった可能性が高いとは思っている。というかこんなモラル皆無の人喰い妖怪が人里を彷徨ける訳がない。私は冷静である。

 

 でも本当に全部が全部間違い(ワザップ)なのかは私には分からないので、今回探りを入れてみた形だ。

 

 

「ねね、ルーミアの友達……なんなら知り合いを紹介してくれるだけでいいから!」

「別にいいけど、そんな期待できるもんでもないと思うよ。あらかじめ言っておくけど」

「私の予知が正しければいける! 大丈夫!」

「だから信用できないんだってば」

 

 心底面倒臭そうではあるけれど、渋々協力の意思を示してくれた。なんだかんだ言っても最後には動いてくれるんだよね、ルーミアって。ああ見えて結構義理に堅い。そういうところはちょっとマイロードに似てる。

 

 

「うおおお未来が見える見える……! 新たな仲間は、鳥獣っぽくて歌声に自信のある子が一人。次に蟲っぽい子が一人。最後に元気で威勢の良い水色髪の妖精が一人! この三人だ!」

「……」

「どう? 心当たりはある?」

「うーん……」

 

 他三人の特徴を端的に伝えてみたが、ルーミアの反応はあまり芳しくない。

 

 名前を伝えるのが一番手っ取り早くはあるのだが、なんかそれだと知り過ぎてて気持ち悪いし、ハナから人脈目当てでルーミアに近付いたみたいに見られそうで嫌だった。実際ルーミアと友達、もとい同志になったのは完全にアドリブだもん。

 

 それに私の謎知識開示は一応未来予知とか占いみたいなもの、という体でやっているので、思わせぶりにぼかしておくのは大切だ。

 占いというのは大抵そういうものなのである。ソースはレミリア閣下。

 

 ちなみにチルノとはもう会ってるけど、弱肉強食の社会ゆえ、敗北を喫した私よりも完全勝利したルーミアが誘いを掛けた方が可能性があると思った。

 というか次に顔を合わせたら十中八九前回の事を煽られてマトモな話にならない気がする。煽り耐性完備のニッヒちゃんと言えど気持ちの良いものではない。

 

 ルーミアは考える。深く深く考える。

 普段何も考えずに宙を揺蕩っているだけのクラゲみたいなあのルーミアが、瞑目して眉間に皺を寄せている。あんまり真剣になられるのも違和感があるね。

 

 時間にして数分程度だろうか。ルーミアは目を開くと、自信に満ちた顔で言い放つ。

 

 

「友達って程じゃないけど、知り合いにそういう特徴を持った奴らがいるよ。あれがニッヒにとってどう役立つのか知らないけど、此処に連れてくる事はできる」

「おお、さすルミ! じゃあこれを持って行って!」

「……なにこれ」

「求人広告。『紅魔館支部』に所属してくれた際の労働環境やら待遇やら宗教やら、あと私達の恐ろしさを入念に書いてある。これを渡しておいてね。ついでに幻想郷各地にばら撒いてくれると嬉しいな!」

「徹夜で何を作ってるのかと思ったら」

 

 紙束を渡して広報もついでにお願いしておく。私はその間に『紅魔庵』を更に増改築して、五人でも過ごせるくらいの広さに仕上げておこう。

 ちなみに紙は毎度お馴染み、天狗の皆様から頂戴した。いつもお世話になっております。

 

 

「それじゃあ行ってくるね。取り敢えず一人ずつ連れてくるから」

「お願いねルーミア。ご飯用意して待ってるよ」

 

 ルーミアはにんまりと満足げに頷くと、いつものように暗闇を展開してふよふよと山の方角に飛んでいった。

 ほんの少しだけ、あの子に任せて大丈夫なのかと心配な気持ちがあるが、ここはルーミアを信じる事にしよう。きっとあの子はやる時はやる妖怪だ。

 

 私はルーミアへ過度な期待を寄せながら、その時の為に頬っぺたを千切るのであった。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 

「ここでナら自分の存在を証明できるト思い、一念発起して山から降りてきましタァ!!! どうぞよろしくおねがイしまァす!!!」

 

 

「指定通り、獣っぽくて声に自信がありそうな奴を連れてきたよ。これでいいんでしょ?」

「えぇ……」

 

 ドヤ顔で胸を張るルーミアの隣で、私は呆気に取られていた。

 原因は言わずもがな、ギャンギャンと濁声で鼓膜を振るわせる目の前の薄汚れた山犬妖怪のせいだ。

 

 身なりが私の記憶とは少々異なるが間違いない。

 彼女の名前は幽谷響子。東方神霊廟の二面ボスを務める山彦で、のちに命蓮寺一派の見習いになる子だ。そして本来のターゲットであるミスティアとは、将来ロックバンドを組む仲であるらしい。

 なんという運命のすれ違い、これにはレミリア閣下も苦笑を禁じ得ないだろう。

 

 取り敢えずルーミアへの追求は一旦置いといて、響子から話を聞いてみよう。

 

 

「えーっと……私の誘いを快諾してくれたのには何か理由があるのかな?」

「私たち山彦は外の世界で絶滅寸前まで衰退しちゃッて、幻想郷でも山で落ちぶれるばかりナンです!!! なノで日々のご飯と成り上がるチャンスを求めてやって来ましタ!!!」

「ごめんね、途中から聞こえなくなっちゃった」

 

 破られる鼓膜を都度再生させながら、彼女の話に耳を傾ける。そして最終的に私の鼓膜八十三枚を犠牲に大体の事情を聞き取ることができた。

 

 なんでも現在は妖怪の山に住んでいるらしいのだが、そこでの生活がかなり悲惨だったらしい。山彦は力を持たない為に強い妖怪から搾取されるばかりで、日々食い繋ぐことにすら窮していると。

 改めて身体や服装を見ても余す事なく泥に塗れていて、楽な生活でないのは明白だ。

 

 なるほど、響子も命蓮寺が誕生するまでは世知辛い人生を送っていたんだなって。

 やけに声が大きくて濁声なのも、消えていく自分の存在を証明するために叫び続けた故の結果で、それが身体に染み付いてしまい中々治らないんだとか。

 

 まあ彼女を受け入れないという選択肢はないよね。私は響子の為人を大体知っているので悪い妖怪じゃないのは分かってるし、なによりそのハングリー精神は嫌いじゃない。むしろフェイバリット! 

 当初の予定からは大分ズレてしまうが、問題ないね。大歓迎である。

 

 

「私を頼って来てくれたからには後悔の無い人生を約束するよ! でもまあ、何にしてもまずは身なりを整えるところからだね。お風呂で身を清めよう!」

「お風呂なんてあるんだ!!! 凄いナァ!!!」

 

 響子を浴場に案内して、お湯に浸からせておいた。服は後で私が洗濯しておこう。ニッヒちゃんの水魔法は洗剤さえ再現してしまうのだ。

 

 さて、次はルーミアと話す番である。

 彼女の方も私の何とも言えない顔を見て、ターゲット違いを悟ったようだった。

 

 

「ニッヒ、怒ってる?」

「怒ってないよ。私の伝え方が悪かったのもあるし。ただまあ……とっても吃驚した!」

「ごめんね。でも次の奴は大丈夫だと思う。幻想郷はとっても広いけど、あの条件に合う妖精は一人しかいないもん。それにすぐ近くに棲んでるし」

「ま、まあそれもそうか。それじゃあ早速連れて来てくれる? 私は響子を洗ってるからさ」

「分かった。待ってて」

 

 ほんの少しだけ申し訳なさそうに言うと、ルーミアはまたしても闇を展開して湖の方向に飛んでいった。今度こそ大丈夫だとは思うけど、流石に不安……! 

 

 私は何とも言えない不安を抱えながら、響子の髪をわしゃわしゃと洗ってあげるのだった。可哀想な野良犬を拾った気分なのは内緒だ。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 ルーミアが出て行って数十分後の事だった。

 風呂から上がり、マイロード直伝の風魔法で熱風を起こして響子を乾かしていたところ、突然入口のドアが勢いよく開かれた。ノック無しの侵入である。

 

 そこに佇んでいたのは「これで良いんでしょ」とでも言いたげな様子で此方を見るルーミアと、それに連れられた一匹の妖精であった。

 

 

「話は聞かせてもらったわ! 強大な妖怪達が支配するこの窮屈な幻想郷をひっくり返す為に、新興宗教を立ち上げるんだって? そんな楽しそうなお祭りに乗らないわけにはいかない! 誘いに応じてこのアゲハ蝶の妖精、エタニティラルバが助太刀するわ! 共に新世界を作り上げましょう!」

 

「言われた通り、蟲っぽい水色髪の妖精を連れてきたよ。今回は間違いないでしょ?」

「混ざってる……! 情報が混ざってるって……!」

 

 エタニティラルバちゃんは東方天空璋にて一面ボスとして登場する通行人A的な妖精である。出自、正体ともにまだまだ謎多き妖精なんだとか。

 

 こう、なんというか、闇深なバックボーンがあるかもしれないキャラがこの時点でやって来るのはちょっと想定外である。ルーミアの時点で今更かもだけど。

 まあ度量が大きいニッヒちゃんは全てを受け入れるんだけどね。それはそれは残酷な話なのだ。

 

 というか将来的には東方闇深キャラ筆頭のこいしちゃんと絡む予定なんだから、こんなところで挫けている場合ではない。私は己を奮い立たせた。

 

 

「い、いらっしゃい。『紅魔館支部』へようこそ。ちょっと聞きたいんだけど、新世界って何のことかな? ジャンプ系列だけでも二つくらい意味があるんだけど……」

「霧の湖は日当たりが悪いしチルノのせいで毎日寒いから近付かないんだけど、ここは日が照ってるし暖かくて良いねっ! 向こうの方にあった畑では何を作るの? 野菜? それともお花? どっちもわたしの大好物!」

「話を聞いてクレメンス……」

 

「ぶえっくしょぉん!!!」

 

 一人で勝手にはしゃいでいるラルバちゃんの鮮やかな羽から鱗粉が飛び散り、それを吸い込んだ響子が爆弾のようなくしゃみを放ち正面の壁を粉砕。その側ではルーミアがやり切った顔で私の頬肉を堪能していた。

 

 そんなカオスな光景を目の当たりにして、私の身体に未知の痛みが走る。マイロードにぶん殴られた時とはまた違う、内臓に響くような鈍い違和感。

 私の知識を総合するに、これは……胃痛である。急激な環境の変化と将来への不安、思い通りにならない不条理な現実が私の胃腸を破壊したのだ! 

 

 繋がりとは時に痛みを伴うのか。知り合った相手が比較的常識人ばかりだった弊害がニッヒちゃんを襲う!

 

 マイロードとの引き篭もり奴隷生活よりも新天地での中間管理職の方がダメージになるとはこれ如何に。

 ますます社畜に近付いているような気がしてならないニッヒちゃんであった。

 





フラ彼は皆様の新年度を応援しています。
ちなみに響子ちゃんの声は多分次回から治ってます。

「マイロードに似ている」というニッヒちゃんからの評価は最大級の褒め言葉であるものとする。ただし場合によっては最大級の罵倒として使われる事もあるものとする。
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