フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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やっとこさの登場です。


集結 紅魔四天王!(中)

 

 さてどうなるか、と。策士の九尾は静かに思考を巡らせた。眼前では主人が一枚の紙切れに目を落とし、興味深げな様子で文面を眺めている。

 

 恭しく跪き、その時を待つ。

 自らの意思を表に出す必要性は現段階で皆無であり、ただ黙って控えていればいい。八雲藍にできるのは、表情の機微に一喜一憂する事だけだ。

 

 頭脳明晰、博覧強記。後の時代で言うところのスーパーコンピューターにも引けを取らない優秀な式神である彼女をして、主人の考えを計り知る事はできない。

 なんとか思考を先読みして追い付こうと踠いた時期こそあったものの、昔の話だ。いつしか考えるだけ無駄であると自分の才を切り捨ててしまった。

 

 それだけ次元が違うのだ。

 主人は。八雲紫という妖怪の賢者は。

 

 と、陰のある桔梗色の瞳が藍を妖しく見据える。その表面的な意図を汲み取り、藍は漸く口を開いた。

 

 

「所詮は身の程を知らぬ新参妖怪の戯言。世俗は恐るるに足らぬと受け止め、足掻きを期待しているようですが、徐々に頭角を現しつつあるのは事実。念の為ご報告をと」

「貴女もそう思うかしら?」

「……断ずるのは些か早計であるかと。それなりに力のある妖怪が率いているのは確かですし、周辺勢力と幾度も衝突を繰り返している狂犬でございます。少なくとも、幻想郷に大人しく迎合する気は更々ないでしょう」

「ふふ、面白くなさそうね」

「馬鹿がまた一人増えたのです。今後どう転ぶにしろ、面倒な懸念事項が増えたのは憂慮すべき事かと」

 

 幻想郷の実務的な管理を担う藍にとって、要らぬ騒動を呼び込む有象無象の台頭など歓迎できる筈もなく。ただでさえ日々の業務に主従揃って忙殺されているというのに、堪ったものじゃない。

 百歩譲って自分はいい、望んで引き受けた大役だ。ただ主人の手を煩わせるのが許せなかった。

 

 一言命じてくれさえすれば、あっという間に叩き潰してみせよう。その自信が藍にはあった。

 しかし、やはりというべきか、紫は可笑しなモノを見た様に優雅な笑みを浮かべるだけ。まだその時ではないと、藍を暗に制していた。

 

 

「随分と時代錯誤な求人だと思わない? 未経験者大歓迎、三食おやつと昼寝付き、アットホームな職場、少数精鋭、休日は応相談ですって」

「は、はぁ」

「そのくせして詳しい勤務形態と給与、福利厚生には一切触れていないのよねぇ。狙ってないと、この清々しいほどのブラック感は出せないわ」

「紫様、失礼ですが見るべきはそちらではなく、スローガンと組織名の方では……」

 

 藍が持参したのは、宵闇の妖怪によって幻想郷各地にばら撒かれた奇妙なビラ。なにか呪術が込められている訳でもない、ただ『紅魔館支部』なる組織への加入を誘う内容が記された紙切れである。

 それ以前から天狗の新聞等で野盗崩れの集団として聞き齧ってはいたが、今回その野心の一部が露わになった事で、藍の警戒網に引っ掛かる事となったのだ。

 

 

「『破壊神の名の下に集えよ同志! 幻想郷を紅く染め上げ我が物に!』……共産主義かしら?」

「内実はどうであれ幻想郷の転覆を企んでいるのに変わりありません。当然、いずれは紫様にも矛先が向けられる可能性がございます」

「機会さえあれば向かってくるでしょうね。ふふ、気概のある妖怪は嫌いではありませんわ」

 

 そこまで分かっていて何故見逃すのか、これが理解できない。幻想郷への影響力を持っていない今の段階ならほんの一手間で事足りるというのに。

 しかしそんな藍の思惑も紫にはお見通しだったようで。

 

 

「不満に思う気持ちは分かるわ。だけどそれは幻想郷に求める機能を阻害する事になってしまう」

「機能、でございますか」

「幻想郷を制御下に置くのは容易い。この地に住まう全ての命の行く末を我が一存で決める事だってできてしまう。でもそれは私達が求める幻想郷の形からは程遠い」

「……」

「隠岐奈の言葉を借りるなら、今の幻想郷に必要なのは何者の意思も中枢に介在しない完全なる混沌なのよ。我が手を離れた時こそ、幻想郷は真に機能するのです。今回の件はその試金石として使える」

 

 突拍子のない言動のせいで勘違いされがちだが、八雲紫は博打を好む妖怪ではない。入念な準備と迂遠な手回しを行い、思惑の成就が確実になった時にだけ自ら動く。さらにタチの悪い妖怪なのである。

 全ては幻想郷の為だけに。

 

 藍は「なるほど」と頷くしかない。

 

 

「それに彼女の素性は既に知り得ているの。どういう類いの妖怪なのかも、ね。それを含め判断した」

「すると私の心配は杞憂でございましたか」

「事前知識があっただけよ。日本じゃ聞き馴染みが無いのだろうけど、紅魔館って大陸の方では有名なのよ。『紅』の名を冠した最強の吸血鬼姉妹が牛耳る、欧州最強の戦闘集団ね」

「吸血鬼……」

「しかも彼女らは過去に、月の都との戦争に勝利している。敗残の身からすれば気になるのは当然のことでしょう? いずれは繋がりを持とうと考えていたの」

「なるほど」

「仮に三度目があるなら、ご一緒させてもらう事になるでしょうしね」

 

 地上に棲まう妖怪の身でありながら月の民に勝利するという燦然たる実績は、欧州から遠く離れた日本においても強烈な印象を与える。

 月の文明力を誰よりも識る紫ならば尚更だ。

 

 

「といたしますと、名前から鑑みるにこの『紅魔館支部』なる組織は吸血鬼の先遣隊という事になりますね」

「素直に解釈するならね」

「……偽物である、と?」

「さてね。天狗の情報を見る限りでは身体の特徴が吸血鬼姉妹の妹の方に酷似しているけれど……彼女ほどの強大な力を持った妖怪が結界内に侵入したのなら、気が付かない方がおかしいでしょう」

 

「それに」と付け加える。

 

 

「妹の……確かフランドールと言ったかしら。彼女は種族問わず周りとの協調性を重んじる八方美人な性格だと聞く。それを踏まえると、今のような四方と敵対する狂気的なやり方には違和感がある」

「幻想郷で生まれた、あくまで吸血鬼を騙る別の妖怪という事ですか。あり得る話ですね」

「もしくは私達を欺くほどの高度な結界術を持っているのか。さて正解はどちらでしょう」

「紫様!」

 

 半ば責めるように紫を見つめる。

 正体が分からない地雷のような妖怪を本当に野放しにしていいのかと改めて問い掛ける視線。紫の幻想郷に対する一途なスタンスは理解したが、それでもやはり、藍にとっての最優先は己が主人の平穏なのである。

 

 そんな式神の心情を知り尽くした上で、紫は悪戯気に微笑む。藍もまた自分が意地悪されているのだという自覚があった。なんて事のない日常だ。

 

 

「私が彼女と直接顔を合わせれば大体の正体、おおよその目論見は看破できるでしょう。だけどその時は向こうにとって宣戦布告の合図になってしまう」

「それで先にも仰ったように、直接的な接触はまだ早いと判断されているのですね」

「その通り。こそこそ隠れて見極めるのも面倒だしね。だけど藍、貴女にまでそれを強制している訳ではない。あくまでも現場を担う貴女の納得を優先しなさい。その結果どう転ぼうが、私は責めたりしないわ」

「……かしこまりました」

 

 

「その上で幻想郷にとって致命的な脅威になると他ならぬ貴女が判断したのなら、私直々に叩き潰してさしあげましょう。実力行使というのも私、嫌いじゃなくてよ?」

「……存じております」

 

 

 伝えるべき事はこれで全てだったのだろう。徐に立ち上がると藍の頭と尻尾をひと撫でして、襖の奥へと消えていく。これでようやく、藍も一息つける。

 

 紫が藍に求める役割もまた幻想郷と同じだ。

 自らの手を離れ、自立して新たを生み出す完全自立型の式神。今回の件が試金石となるのは幻想郷だけではない。八雲藍という九尾の従者も対象となっているのだろう。

 

 身に余る期待だ。

 しかしそれに応えてこそ、己が畜生の理に身を焦がした欲深き獣ではなく、八雲紫の忠実な式神である事を魂の奥底まで実感できる。

 

 ともあれ紫の真意が何処にあるにしろ、今後の行動を藍の自由意思に委ねるのであれば、吸血鬼からを目を離すという選択肢はあり得ない。

 故に考えるべきは、如何に連中の哨戒網を掻い潜り、なおかつ紫の影を気取られずに監視するか。

 

 藍は再び思考を巡らせた。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

「おはよーございます!!!」

「おはよう響子! 挨拶は〜?」

 

「「心のオアシス!!!」」

 

 

 山彦と社畜の朝はハイタッチから始まる。

 自由奔放なラルバちゃんと朝に弱いルーミアは日の出から暫くしないと起きてこない。そして私は不眠。よって必然的に響子と一番に顔を合わせる事になる。

 

 そしてどうせなら朝が早いのを美徳にしてしまおうという事で、後々命蓮寺に宗旨替えする可能性も踏まえて大きな声での挨拶の大切さを説いたのだ。また山彦という種族に生まれた事に若干の劣等感を抱えているらしい響子に自信を取り戻させる為のルーティンでもある。

 

 大きな声で社交的に振る舞う暮らしを続けていけば気分は自ずと前向きになるものだ。社畜の私が言うのだから間違いない。

 

 最近は心の安定を取り戻し、強迫観念に駆られての騒音も少なくなったので良い傾向だろう。メンタルカウンセラーのニッヒちゃん! 

 

 

「ニッヒちゃん! 今日は何をするの!?」

「私と一緒に掃き掃除をしながらエコーロケーションの練習さ! 響子は筋がいいから、この調子で上達すれば多分今日中にでも霧の湖の半分を感知できるようになるよ!」

「そうかなぁ!? よーし頑張っちゃうぞー!」

「その意気だよ! 目指せ最強いぇいいぇい!!!」

 

「うー……頭がガンガンする……」

「あっ、ルーミアおはよう」

「おはよーございます!!!」

 

 寝室からのそりと現れたルーミアが恨みがましそうに私達を睨んでいる。夜行性陰キャのルーミアに早朝から私達のノリは厳しかったか。それでも朝ごはんの前にはちゃんと起きてくるのは流石である。未だ爆睡してるラルバちゃんも相当だけども。

 

 さておき、響子との特訓である。

 

 マイロードは暴君であっても愚かではなかった。私の得手不得手を的確に把握し、持ち味の活かし方をしっかり考えてくれていた。そのおかげで私の残虐卑劣なファイトスタイルが確立されたのだ。

 

 それに倣い、私も響子の得意を伸ばしてあげる事にした。声の大きさ──ではなく、音を反射させる変わった能力に光明を見出したのである。

 

 仕組みは簡単で、私から発する吸血鬼の超音波を反射と同時に彼女に記憶させ、いつでも反響できるようにさせる。声はあくまで響子の喉から発せられるものだからね。出し方さえ覚えてしまえば再現が可能なんじゃないかと思ってのラーニング。

 狙いとしては、この技術を応用させる事で私の霧と合わせて、音による二重の感知網をこの地一帯に築き上げる事。ソナーみたいな役割だね。

 

 戦いは何事も先手必勝。完璧な索敵によって敵を丸裸にして、響子とルーミアで目と耳を潰し、私の悪質吸血鬼タックルで奇襲をかける! 

 

 最強だ……。この体制が完成した時、私達は文字通り無敵の存在と化すだろう。

 

 ちなみにラルバちゃんの事は忘れていない。忘れてないったら忘れてないのだ。

 そうだね、鼻が良さそうな相手と戦う時は臭い事に定評のある触角頼りで出張ってもらう感じでどうだろうか。五感潰しカルテットでいこう。

 視のルーミア、聴の響子、臭のラルバ、暴のニッヒ! よしこれだ! 

 

 

「ふふ……うふふ……」

 

「みんなおはよー。……ニッヒ様がしたり顔でにやにやしてるけど、なんか良い事でもあったの?」

「アレはいつもの奇行。気にしなくていいよ」

 

 そこまで考えて、ふと私は思考をリセットした。

 

 だめだ。このままだと私がバカルテットに含まれてしまう事になる。賢くて聡明なニッヒちゃんは、そんな括りに収まっていい妖怪ではないのである。

 あと流石にマイロードへの風評被害がね……。

 

 やはり最低でもあと一人、なんとしても我がチームに加入させなければならない。

 しかし探せど探せどリグルちゃんとミスティアちゃんは見つからなかった。情報すら皆無だったので、もしかするとまだ幻想郷にやって来ていないのかもしれない。名前からして私と同じ西洋出身の可能性もあるし。

 

 そして当初からの目的であったチルノだが、ラルバちゃんと妖精属性が被ってしまいちょっぴりバランスが悪い。なので保留となっている。そもそも私達とは現在進行形でバチバチな関係だしね。

 

 私が作った求人に心惹かれて何処からか優秀な子が来てくれるのが一番なんだが、とんと反応がないのである。

 書き方が悪かったのかとも思ったけど、私の知識を参照するにアレがホワイトを主張する最もありきたりな文法なんだそうだ。なら間違いないか……。

 

 

 そんなこんなで仲間集めに苦悩していたニッヒちゃんであったが、意外や意外、最後のピースは予想だにしない方向から飛んできたのである。





幻想郷緊張度が僅かに増したので藍様マークが入ります。なお緊張度がMAXになると八雲紫が大人数を動員して手段選ばず消しに来るものとする。
→コンテニュー不可のノーアイテム弾幕アマノジャク

作中でも度々言及されていましたが、ゆかりんとマイロードは似通った趣向を持っています。式神(分身)に自分では生み出せない物や思考を期待する部分なんかはまさにそれですね。
同様に藍様とニッヒちゃんも似た所がありますね。面倒見が良くて……ドMなところとか。
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