フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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『ヤンデレ』タグを追加しました。


集結 紅魔四天王!(後)

 

 

「えーかしこみかしこみもうす。マイロードにおかれましては如何お過ごしでしょうか? 今日も元気に引き篭もっておられますか? 私は元気です。あーあなかしこ」

 

「……かしこみって何のことだろ?」

「菓子込みって意味。つまり今日のおやつはとびっきり豪華になるってコトだよ」

「そうなんだ!? ルーミアったら物知り〜!」

「天才かー? 天才なのかー?」

「ふふん」

 

 背後で何やら好き勝手に言っているのを私は適当に聞き流しつつ、遥か遠くに居るであろう我が主人へと頭を垂れ、小さな願いと平和への祈りを捧げる。

 

 マイロードが私を思い出してくれて、ついでにめっちゃ優しい平和的な女の子になってますように。お願いしますお願いしますお願いしまままま! 

 

 

「ニッヒ様ったら毎度すごい集中力だ……!」

「よっぽど切実なお願いなんだろうね」

 

 曲がりなりにも『大天使フランちゃん教』の教祖を務めている身。日の出と日没に行う祈祷は毎日欠かさない。マイロードがやって来た時に忠誠心を忘れなかった事を証明するアリバイ作りとも言う。

 

 その為だけに新しく『祈りの間』を増築し、紅魔四天王のみんなに祭壇に向けて形だけでも手を合わせてもらっているのだ。ここまでやれば立派な新興宗教だろう。

 届け私の信仰心……! 

 

 ちなみにこの『祈りの間』だが、祀られているのはマイロードだけではない。あと別に二柱ほど祀っている。勿論許可は得ていない。

 神社だって一つの社で三柱ほど神様が居るのが普通だしね。どうせならそれに倣っちゃえの精神。御利益は沢山あって困るものではないのだ。

 

 まず何と言ってもサナエンジェル! 私が生まれて間もない頃からイマジナリーの存在として私を救ってくれた心の支えである。

 主な御利益は奇跡と諦めない心。私が勝手に決めた。

 当然彼女は未だ生誕していないものと思われるが、まあ信仰に早いも遅いも無いだろう。それに幻想郷にやって来た折には仲良くして欲しいもん。

 

 そして次なんだけど、特に信仰したいと思う神様も居なかったため、適当……もとい厳正なる審査の下、豊穣力に定評のある秋穣子さんを信仰させてもらう事に決定した。

 暴力を司るマイロードや奇跡を司るサナエンジェルと比べるとちょっぴり格落ちな気がしないでも無いが、なんならこの中では唯一真っ当な神様である。存分に信仰して美味しい野菜を作る手助けをしてもらおう。

 お姉さんの方? そっちは別に……。信仰しても何か御利益がある訳でもないし……。

 

 そんな三柱への祈りが毎日のルーティンである。

 そして次は稽古の時間。

 

 

「これにて朝の祈祷は終わり! 今日も偉大なるマイロードへの想いを胸に頑張ろうねっ! それと今日はルーミアの特訓デーだから準備運動を忘れないように!」

「えー……。やだなー面倒臭いなー」

「なら私たちは休みだ! ルーミアがんばー!」

「ねえねえ、今日はチルノにちょっかい出して遊ばない? きっと楽しいよ!」

「うんいいよ! ニッヒちゃん行ってくるね!」

「お昼ご飯までには帰っておいでー」

 

 ワイワイぎゃてぎゃてと騒ぎながら出掛けていった二人を見送り、改めてルーミアに向き直る。案の定、つまらなそうな顔をしていた。

 

 

「さーてそれじゃあ早速、魔力操作の基礎練習からね。さん、はいっ!」

「もうそういうのはいいんじゃないかな。魔力なんて寝ながらでも扱えるし」

「基礎練は何にも優る特訓なんだよ! あとこれは魔法オンチな私の為の特訓でもあります」

「そうじゃなくて、特訓そのものの必要性を問うてるんだけど。ニッヒと私はもう十分強いよ」

 

 そっぽを向きながらそんな事を言う。面倒臭い事から逃げ出したい為の方便であるのは明らかだ。

 

 

「こら! そんな調子じゃニッヒちゃんの右腕という栄えあるポジションが、成長著しい響子に奪取されてしまうかもしれないよ。ルーミアはそれでもいいの!?」

「まあ別に」

「いいや良くないね! 絶対良くない!」

「そうなのか……」

 

 紅魔四天王にしてNo.2な感じのルーミアだが、この通り他二人と比べてアクティブ面に乏しい所がある。根が勤勉な響子や、自分の欲求にがむしゃらなラルバちゃんとは決定的に生き方が違うのだ。

 

 例えるなら向上心の無いマイロード。つまりただの陰気者である。宵闇の妖怪としてはそれでいいのかもしれないが、今を輝くニッヒちゃんの相棒としては如何なものか。

 

 まあしかし、ああいった感じで口では色々言っても何だかんだでとことん付き合ってくれるのがルーミアの良い所だ。私もそんな彼女の事を心から信頼してたりする。

 

 というか、結構強くなってるっぽいんだよねルーミア。

 腐っても吸血鬼な私と腕相撲をしても意外と瞬殺とはいかないし、白狼天狗の方々ともタイマンなら普通にやり合える程度の、一面ボスらしからぬ領域にある。

 これこそ訓練の成果なんじゃないかとそれとなく聞いてみたけど、本人曰く「美味しいご飯と適度な運動。それだけ」とのこと。S級妖怪の貫禄だぁ……。

 

 

「確かに私たちは強くなったかもしれない! でもまだまだ先は見えないんだから、行き止まりまでガンガン突き進まないと勿体無いよ」

「普通の人間やら妖怪は自分の身の丈にあった所で歩みを止めるもんじゃないかな。限界を突き詰めるのは求道者とかそんなんだ」

「なら尚更だね。私のご主人様は筋金入りの求道者で、なおかつ最強なんだ。なら私たちは準最強くらいには強くならないと!」

「……」

 

 熱く語る私に対してルーミアは何かを言いかけて、結局言葉を飲み込んだ。代わりに此方を小馬鹿にするような表情を浮かべる。

 これは俗に言うところのメスガキ仕草というやつだろうか。こちとら世界最悪のメスガキを長年相手にしてきたのだ、簡単には負けないもんね。

 

 

「ニッヒが稀代のお馬鹿さんである事は自他共に認める事だと思うんだけどさ」

「いや、なにそれ知らん……」

「響子とラルバが戦力になるって本気で考えてるならマジでやばいと思うよ。馬鹿の中の馬鹿──差し詰めトップオブ馬鹿ってところかな」

「なにおう!? そういうルーミアだってバカじゃん! やーいバーカバーカ!」

「……」

「そ、そんな哀しい目で私を見るのはやめようよ。その視線は私に効く。やめてクレメンス」

 

 ルーミアって普段から能天気な表情ばかりしてるから、何か特別な感情を抱いてる時は結構分かり易い。今のはそう、養豚場の豚を見る目というやつだ。

 背筋をゾクゾクさせ変な気分に浸らせてくれるアレに晒され続ければ、私は恐らく人として大切な何かを失ってしまうだろう予感があった。危ない危ない。

 

 取り敢えず、ここからは本気の話だと伝える為に軽く咳払いする。

 

 

「ルーミアの言う事はもっとも。正直私も難しいものがあると感じているのは否定しないよ。というかそこらへんちゃんと考えてたんだ」

「アイツらを連れてきたのは私だもの。それで遠慮してるつもりなら、ちょっと困る」

「私が貴女に遠慮なんてすると思う?」

「……それもそうか」

 

 にへらと笑うと彼女もまた笑い返す。

 

 

「戦闘の得意な子が来なかったのがちょっぴり残念なのは、確かにそう。でも響子もラルバちゃんも長所に溢れた良い子だよ。現に助かっている事だって沢山ある!」

「そーなのか?」

「そうなのです! 例えば響子はいつも掃除を手伝ってくれるし、ラルバちゃんは周辺の妖精を抑えてくれてるんだよ。毎日遊んでるだけじゃない」

「全部遊びの延長線上だと思うけどね」

「それにあの二人ももう少しすれば特殊な役目を任せられるようになる。なにも強いだけが美徳じゃないよ。何事も適材適所が肝要なのさ!」

 

 一般的な妖怪の水準にすら達しないだろう二人ではあるけれど、それでもあの子たちなりに一生懸命に頑張っている。未来に向けて頑張る事は何よりも尊い事だと私は思うのです! 応援してあげたい! 

 いや、ラルバちゃんは微妙か。でも妖精にしては頑張ってる! 偉い! 

 

 それに私は、私を頼ってくれた人たちを簡単に見捨てる気なんて毛頭無い。

 

 困難を跳ね除ける最低限の力や生活を得るまでの間、雨だって、日差しだって、厄災だって、全部私が傘代わりになって受け止めてあげるんだ。

 そう考えれば訓練だって無駄じゃないよね。

 

 まあ以上全てマイロードの意に反さない限りっていう但し書きは付くんだけども。

 

 

「私ね、独りじゃ頑張れる自信がないんだ。誰かの為に頑張ってないと、私はダメになっちゃう。ルーミアが居なかったら、きっとここまでやれてないよ。そう、ニッヒちゃんは孤独に弱い生き物なのです!」

「それで見境なく仲間を、ってこと?」

「そういうこと!」

「随分と難儀な生き方だね」

「でも私はそんな私が一番好きなんだ」

「そーなのかー」

 

 実はそこそこレアな完全版「そーなのかー」を頂いてしまった。

 これが使われるタイミングは私の話を心底どうでもいいと思っている時か、もしくは心底納得している時である。今回は後者だと思いたいね。

 

 

「ニッヒの欲は自己中心的だね。そして果てしない」

「そっか」

「でも、嫌いじゃないよ。欲望から湧き出る闇って大抵しつこい粘度をしているけれど、ニッヒのそれは喉越しサラサラ。馬鹿だから癖が少ないんだろうね」

「また馬鹿って言った!」

「なんにせよ、中途半端が一番やらしいってことよね。暗いから闇、明るいから光って、それずっと昔から言われてることだから」

「ほーん」

 

 

 ルーミアは時々、こういう何か訳アリな感じの言葉を吐き出す事がある。でも大抵が深い意味を持たない。相手を惑わせようとしているか、何も考えずに言葉を発しているかのどちらかだ。

 故に適当に聞き流すのが正解である。あまりにも態度があからさま過ぎると怒られちゃうけどね。

 

 まあどういう意味であるにしろ、私の事を好いてくれていると言うなら嬉しい限りだ。

 

 あとなんか私が野望を諦めるような話になってるけど、幻想郷征服や梁山泊化ルートは放棄していないよ。まだ大きな希望は残っている。

 

 

「ていうかルーミア忘れてない?」

「なにを?」

「例のビラの事だよ。アレを見て腕自慢の妖怪がウチに来てくれるのも時間の問題でしょ。きっとめちゃんこ強くて優しい妖怪がいっぱい訪ねて来る筈だよ!」

「それはお得意の予言?」

「いいや、百二十パーセントの勘」

「どっちにしろ当てにならないなぁ」

「ふっふっふ、私の予感は結構当たるのさ。良い方向にも、悪い方向にもね!」

「胸張って言う事じゃないでしょ。……これだからニッヒは。おっぱいしか取り柄がないんだから」

「へ、ヘイトスピーチ……!」

 

 異議を申し立てる暇もなく、ケラケラと笑いながら部屋から出て行ってしまった。

 結局何を話したかったんだろうか。メスガキルーミアに一方的に煽られただけだったような気がする。

 

 いや、そうか。上手く話をはぐらかす事で訓練をすっぽかそうとしたんだ。私を煙に巻こうなんて、そうはいかないんだからねっ! 

 私は慌ててルーミアの背中を追いかけるのであった。

 

 

 

「結局、ご主人様に捨てられた孤独感は、()だけじゃ埋まらなかったんだね。残念」

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 夕暮れ時。ぶつかり稽古によってルーミアが宙に舞う事三十回。そろそろ切り上げようかと、ドロドロのルーミアを引きずって紅魔庵に戻っていたところ。

 

 ラルバちゃんが慌てた様子で飛んできた。よっぽど急いでたのかアゲハな羽から鱗粉が大量に飛び散っている。

 

 

「ニッヒ様〜! 大変です〜!」

「ん、どしたの。チルノに返り討ちにでも遭った? わかるわかる、結構強いよねあの子」

「そうじゃなくて、例のビラを見てウチに入りたいって人が……人? と、とにかくいっぱい来てるの!」

「なんだってぇ!?」

 

 まさに青天の霹靂。新メンバー加入を諦めていた訳じゃないけど、朝にルーミアとあんな話をした事もあって、その驚きは半端じゃなかった。

 なんでも紅魔館支部への加入を希望する者が大挙して押し寄せているらしい。今は私が戻るまでの間、響子がその対応をしているんだとか。

 

 もしや私の切実な願いをウチの神様たちが聞き届けてくれたのだろうか。

 ありがとうございますサナエンジェル……穣子様……。マイロードは多分関係ない。

 

 さてさて、そんなに沢山やって来たなら四天王とは呼べなくなっちゃうね。十傑集とか十二神将とか、はたまたXIII機関とか。色々考えなきゃ! 

 私はウキウキワクワク早歩きで紅魔庵へと向かうのであった。

 

 

 

 

「最近化け猫になりましたチェンです! なんでもやります! なので群れのみんなにご飯を恵んでください! お願いしますっ!」

 

「そこまでするのか……八雲紫……」

「へ?」

「ナ、ナンデモナイヨ」

 

 私は目の前に広がる光景に絶句していた。

 

 眼前にはほぼ裸のような状態で跪く猫耳の少女が居て、その背後では沢山の猫ちゃん達が屯している。

 総じて栄養状態が悪く、飢餓により明日も危ういような子もいる始末。猫好きが見れば卒倒するような地獄絵図であった。

 

 そして私の中には一つの結論が渦巻いていた。

 

 

 スパイだこれ!!! 

 

 

 私は一瞬でチェンと名乗る化け猫娘の正体を看破してしまった。

 彼女は隙間妖怪の式神の式神こと橙ちゃんだろう。恐らくニッヒちゃんの存在を危険視した八雲藍、引いては八雲紫の送り込んだ諜報員である。そうに違いない。

 

 それを悟らせないために幼女の服をひん剥き、傷だらけ泥だらけで可哀想な子猫ムードを演出し、しかもそれに更なる信憑性を持たせる為エキストラの猫を本当に飢えさせるなんて。とんでもない畜生である。

 恐ろしい女だ八雲紫……! 隙間妖怪には人の心というものが無いのか……!? 

 

 取り敢えず響子とラルバちゃんに頼んで夕飯でねこまんまを用意してもらい、天狗の皆様から頂戴した上等な布で彼女らを保護した。

 そしてご飯をゆっくり食べてもらいながら、一応の身の上話を聞いてみる。

 

 なんでも一介の野良猫から化け猫に進化しノブレス・オブリージュの精神で猫たちを守ろうとしたまでは良かったのだが、外の世界から流れてくる捨て猫で群れの数が急速に増えてしまい、それに加えて飢饉が直撃し食糧を得られなくなってしまったと。

 それでもなんとかやり繰りしていたのだが、他妖怪との縄張り争いに敗れて路頭に迷う羽目になったらしい。そして大勢の仲間を失った挙句、此処に流れ着いたという経緯なんだって。

 

 非常によくできた話だ。八雲紫には管理者だけじゃなくてシナリオライターとしての才能まであるらしい。賢者を辞めて小説家にでもなればいいのに。

 

 響子は丸々信じ込んだようで、大声を出して泣き喚き猫たちをドン引きさせていた。私も油断して鼓膜を持っていかれてしまった。

 そしてラルバちゃんは「ふーん」って感じに冷めた目で場を眺めていた。生物の生き死にに関しては結構シビアなのかもしれない。

 

 それにしても橙ちゃんの演技は完璧だった。肩を震わせて涙まで流してるし、まるで本当の事みたいだぁ。事前知識が無ければ私もあっさり騙されていたかもしれないね。

 八雲一家は劇団でもやってるのかな。

 

 

「ようこそ紅魔館支部へ。ここでは偉大なる吸血鬼姉妹を崇め、その身を捧げる事で誰にだって救いが与えられるのです。勿論種族も関係ない」

「ね、猫のみんなはそういうの分からないかもしれないけど、そのぶん私が頑張ります! だから……!」

「大丈夫、受け入れるよ。私の下に来てくれたからには後悔させないからね」

「ありがとうっありがとうございます……!」

 

 悪徳新興宗教の教祖みたいなことを言いつつも、正直なところ内心ではイヤイヤである。

 

 しかしこのまま橙ちゃんを鬼畜主人の下へ帰せば、任務失敗によりどんな責苦を与えられるか分かったもんじゃない。なので獅子身中の虫だと分かった上で、上手いこと付き合っていかなきゃいけないね。

 私とて元DV被害者の一人。橙ちゃんの気持ちは分かるってばよ……。

 

 なんにせよ最後の最後で超弩級の地雷を引き当ててしまった。四天王ガチャ大爆死、即リセマラ案件! しかも猫の多頭飼い付き! 

 

 もしやフォーオブアカインドガチャで私を引き当ててしまった時のマイロードの気持ちもこんな感じだったんだろうか。そんなの知りとうなかった。

 

 

「ねえニッヒ。予感がなんだって?」

「はい。おっぱいしか取り柄のないニッヒちゃんです」

「自覚があるならいいよ」

 

 地面に転がってるルーミアからの煽りにも反論できない。レスバ以前の問題である。

 

 私は強い腹痛を感じながら、しかし自分含めたみんなの未来のために思考を巡らせるのであった。

 





五人揃って紅魔四天王であり、肥前のクマーこと龍造寺さんとこの四天王方式を採用するものとする。

・四天王呼び方一覧
ルーミア→ニッヒ(心の底から舐め腐っている)
響子→ニッヒちゃん!(おともだち!わんわんお!)
ラルバ→ニッヒ様(自分を煽て上手だと思ってる)
橙→ニッヒさん(群れとして序列を弁えてる。いい子)
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