風見幽香と関わりのある(かもしれない)金髪
→くるみ、エリー、夢月、幻月、アリス(ロリ)、魔理沙、メディスン
→これはキミ……大変なことになるぞ……
魔力の底が見えない。
地の果てまで続く樹海に圧倒されるような桁違いのスケール感。これが一人の妖怪に許されていい領域なのかと弱気を愚痴りたくなる。
あまりにも強大すぎて、いま私があの風見幽香と戦っているという事実に現実感が伴わない。
でも考える事をやめてはならない。どれだけ圧倒されようが、どれだけ気圧されようが、立ち向かう意思だけは捨ててはならない。それらを捨ててしまった瞬間、待ち受けるのは逃れようのない絶対的な死だ。
吹き抜ける『死』を鼻先紙一重で躱しつつ、自分を鼓舞する為に敢えて魔王を睨み付ける。そして強い眼光で睨み返されて、私はちょっぴり後悔するのだった。
「ちょこまかと鬱陶しいわね。威勢よく挑んできた割には随分と弱気なんじゃない? 楽しみにきたんでしょう、私との戦闘を。殺し合いを」
「私はねぇ! 戦う事が好きなんじゃない! 勝つ事が好きなんだよォォ!」
「そのためなら手段や過程は問わないか。……昨日の不意打ちといい、貴女という妖怪の本質が見えてきたわね。恵まれた身体に似合わない矮小な精神だこと」
何やら罵倒されているが、そんな安い挑発には乗らないもんね。
これまで対戦してきた
全ては勝敗という結果に優先される。毎度お馴染み、勝てば良かろうなのだの精神だ。
マイロードだって、それが私の明確な強みだと褒めてくれてるしね! ついでに見下されてたけど。
こと戦闘においては完全無欠と思われた幽香さんだが、ひとつ、看過できない弱点を抱えていた。原作知識を掘り返して何か戦いの助けになるものはないかと考えた時、ふと使えそうな情報が浮かび上がったのだ。
鍵は東方花映塚にて自機として風見幽香が参戦した際の性能である。彼女は
ニッヒちゃんはこれに活路を見出した。そしてその直感が正しかった事を現在進行形で証明している。
決してスピードに難があるという訳ではない。
動こうと思えば持ち前の魔力をブースターとして活用するだろうし、その拳速には凄まじいものがある。原作における鈍足設定も「一歩も動く必要なく敵を滅する」という幽香さんのスタンスが反映されたものだろうという予測すらある。
でも最上位には及ばない。これが重要だった。
幽香さんのスピードは、マイロードやレミリア閣下と比べてしまうと雲泥の差だった。ならば吸血鬼としてのスペックを十全に活かす事ができれば、少なくともスピードだけなら優位が取れると判断した!
「パワーがそっちならスピードは私だ! 一生掛かっても追いつけないよ!」
「……」
魔力を両脚に集約させ、一秒たりとも止まる事なく走り続ける。そして加速の限界に達したところで幽香さんの間合いへと侵入し、強烈な一撃を叩き込んだ後、即離脱する。模範的なヒットアンドアウェイである。
ダメージは今のところ皆無だが、私が一方的に攻撃を仕掛けられている現状は非常に好ましい。
無論、されるがままの幽香さんでは無い。私のスピードに一瞬で適応し、カウンターの要領で拳を叩き込んでくる。時には広範囲を傘で薙ぎ払ってもくる。
伊達に最強と謳われている妖怪ではない。彼女の戦闘センスは本物だ。
でもニッヒちゃんは超絶優秀な従者! センスだって超一流! 致命の一撃が飛んでくる度に脳髄をのたうつ不快感に従い、的確な回避行動を取る事で命を繋いでいる。
生まれた時から妙に冴え渡っているヤマカンが、事ここに至って更なる開花を見せた。
「面倒ね。これならどう?」
「ひょわぁっ!?」
何の変哲もない、傘を大きく横に払うだけの酷く単純な動作。しかし風見幽香の手に掛かれば、その全てが必殺級の奥義となり得る。
私はその直前、空気の引き裂かれる音が届くよりも早く身体を宙に投げ出し体躯を泥に沈めた。
瞬間、水平に放たれた暴力の嵐が直線上に存在する限りの悉くを薙ぎ払い、消滅させる。私のナイトキャップ少し上を致命の風が吹き抜けていった。
遥か遠く妖怪の山の地表が爆散する音を背後で受け止めながら、私は地面を這いずりなおも動きを止めなかった。瞬く間に生え伸びていく植物が私を絡め取らんと殺到するからだ。息つく暇がない!
「本当に素早いわねぇ。花たちも目を回しているわ」
「どんなもんだい! これが吸血鬼の力だよ!」
「でも結局、そうやって私との正面戦闘を避けてるって事は、真っ当な戦いに自信が無いって自ら言っているようなものでしょうに。くだらない」
幽香さんが大きく息を吐くと、予備動作無しに極太レーザーが放たれる。将来においてマスタースパークのインスピレーション元となるかもしれない爆裂魔法だ。
私の行動を先読みし、悉くを塗り潰す超広域攻撃。痺れを切らして遂にブッパしてきたか。
これは躱せない。ガードしても生存不可能だと判断し、私も魔法を発動した。
お久しぶりの『スターボウサイクロン』により魔力レーザーの術式を攪乱させる事で、軌道を歪ませる。
折れ曲がったレーザーが私の足を掠め、霧の湖を削り取っていく。攻撃の一つ一つで地形が大きく変わってしまうのが恐ろしくて仕方ない……! ちなみに我らが紅魔庵は既に倒壊済みである。南無。
「う、お……!?」
と、何かに足を取られ前のめりに倒れてしまった。不覚だった、見ると足首に蔦のような植物が巻き付いている。頭が冷えていく。
レーザーは私の足を止める為の布石だった。ただ一撃、拳を私の脳天に叩き込む為だけに大技を捨て石にしたのだ。こういう豪快な戦い方ができるのも幽香さんの強みだろう。
泥土を這い蹲る私へと、嬉々として拳が振り下ろされる。瞬間、私の脳裏にマイロードとの虐待の日々な走馬灯が流れていく! が、それは急遽中断された。
私の影が蠢き、足をキツく縛っている植物を断ち切ってくれたのだ。触手のようで何やら不気味だけど、今は私にとって頼もしい味方だ。
「これは……?」
「ルーミア、ナイスっ!」
影に潜むルーミアが援護してくれたのだ。解き放たれた私は地べたを回転して拳を回避。勝負を振り出しへと引き戻す。私だけが一方的に泥だらけだけどね。
クレーターを形成した地盤から腕を引き抜いた幽香さんは、眉を顰めてこちらを見遣る。
「自分の影に手下を潜ませていたのね。それも一匹じゃない──四匹ってところかしら。周りをうろちょろしてた昨日の奴らと人数が一致するわ」
「私一人じゃ厳しそうだったから出し惜しみ無し、紅魔館支部の総力戦でやらせてもらうよ。互いの存亡を賭けた戦いなんだから、卑怯とは言わないでね」
「ふふ、構わないわ。好きなだけ群れるといい。でも、雑魚のパワーを幾ら結集したとて、この私を超えることなんてできないわよ?」
人数までバレているのは予想外だ。自分達の存在を認識された事で影の中に居るみんなも戦々恐々としているが、大丈夫だと言い聞かせる。手出しはさせない。
ルーミアのリボンは何かの御札であるという謎設定。これは最強の大妖怪であった闇の化身ルーミアを封じ込める為のモノだという。ニッヒちゃんの知識の中に当然のように存在している眉唾な情報だ。
正直ワザップっぽいなぁとは思っていたんだけど、その予想は正しかった。
昨日、ルーミアは唐突に自らの手で頭のリボンを外して見せた。そして何も起こらなかった。
ルーミアはルーミアだったのだ。
私の知識にあるような裏ボス形態とか悍ましい外見変化みたいなのは全くなく、妖力の総量もそこまで変わらない。マイペースな行動もいつもの通り。安定のワザップである。
しかし唯一の変化として、闇を操る能力が劇的な成長を遂げたのだ。
色々と気になる部分はあるが、今は幽香さんに勝利する事が最優先。一度疑問を頭の奥隅に追いやり、改めて作戦を練り直した。そして今に至る。
ルーミアの身体能力は前と変わらない。故に幽香さんとの戦いで前衛を張る事はできないけれど、それでも新たに使えるようになった魔法は非常に便利で、集団戦に適していた。
それが先に披露した『闇に質量を持たせる魔法』と『影を自由に行き来する魔法』である。
特に後者は自分以外の物体も出し入れ可能と、悪巧みの幅が何倍にも膨れ上がる汎用性の鬼なのだ。一家に一台ルーミアの時代が来るねこれは!
「橙は炎を主体とした妖術、ラルバちゃんはありったけの鱗粉をばら撒いて援護して! 響子は私の指示があるまで待機! ルーミアは影の維持に全力を!」
闇のおかげで五身一体と化した私たちの力は通常の比ではない。不死身のニッヒちゃんを前面に押し出し、妨害に秀でた四天王が要所でサポートする。
みんなで力を合わせれば風見幽香に対抗できる。即死の間合いに踏み込む事ができる!
影の中から聞こえるみんなの威勢のいい声に後押しされ、間合いを詰めていく。
それに呼応して影から大量の炎弾と鱗粉が発射された。太陽を背にする事で射程距離を伸ばした甲斐もあって、幽香さんは鬱陶しそうに傘を開閉してそれらを払う。
「嫌がらせとしては一級品だけど、私にダメージが通らないんじゃ何も意味が無いわ。もしかして貴女達、私に嫌がらせを続けて此処から追い出すつもり?」
「ふっふっふ! 私に加虐趣味なんてものはないけど、これまで散々虐められてきた豊富な経験がある。故にどういう虐めが心に来るか、とことん知り尽くしているのさ!」
「私を虐めようとする奴が現れるなんて夢にも思わなかったわ。本当に……唆らせてくれる」
「ひぇっ……」
相変わらずとんでもなく良い笑顔だが、余裕でいられるのも今のうちだ。
終始嫌がらせに拘るような言動は全てブラフである。私達は幽香さんを倒しに来たのだ。嫌がらせで彼女を此処から追い出しても何の解決にならない。
私達の活路はこの戦いを制して汚名を雪ぐ以外に無いのだから。
これまでの攻防で幽香さんの間合い、そして搦め手は完全に把握した。あとは──。
「てりゃああっ!!!」
「あら」
一気に接近しマイロード仕込みの右ストレートを幽香さんの左頬へ叩き込む。当然ダメージは無く、反撃の回し蹴りで私の胴が真っ二つに裂けた。
激痛と共に喉奥から込み上げる鉛味をぐっと飲み込む。大丈夫だ、意識はある。まだ動ける!
「喰らえぃ目潰しっ……!」
「ッ……この! 巫山戯た真似を!」
握り締めていた拳を開き、ラルバちゃんの鱗粉を顔付近にぶち撒ける事で流石の幽香さんも思わぬ刺激に目を閉じて身を屈める。その僅かな時間にルーミアの闇が私の胴体を繋ぎ合わせ、橙ちゃんの妖術で後方へと下がった。
と、幽香さんの持つ傘先に莫大な魔力が集約されていく。目への攻撃で視界が一時的に奪われているから、敢えて狙いを付けずに周囲一帯を丸ごと吹き飛ばすつもりなのか。今の攻撃がよっぽど癪に触ったらしい。
それはさせじと声を張り上げる。
「私はこっちだよおバカさん!」
ほぼ反射だったのだろう。声の発生源へとレーザーを叩き込む、と同時に幽香さんの顔が歪んだ。撃たされたことに気が付いたのだろう。わざわざ視界を塞いだのに声を出して居場所を知らせるメリットが無い。
響子の能力は本来の用途に拘れば非常に平和的で無害なのだが、これに一捻り加えると状況次第では頗る凶悪なものへと変貌する。
声の反射を操り、全く別の場所から音を発生させる技術。混戦になればなるほど効力を発揮するそれは、遂に戦闘技術として華開いたのである。
みんなの合力で秘策を発動する為の決定的な猶予と、攻撃を確実に当てられるだけの隙が生まれた。ここで私は満を辞して勝負に出るのだ。
「全てを破壊する究極の力、味わってみなよっ!」
フランドール・スカーレットの
莫大な魔力と己の能力をリンゴサイズに凝縮し投擲する破壊魔法、それが元来の形。正直、そんな無茶苦茶な術式を運用するのは私には無理だと思う。
そもそもの熟練度が足りないし、魔力の性質と術式も噛み合わない。恐らく弾幕を作成した途端に自爆する羽目になるだろう。マイロードは天才なのだ。
だがこの話のミソは、自爆なら可能だという点である。
幸いにも経験がある。とても辛い記憶だが、あの時マイロードの手によって私に作用した『スカーレットニヒリティ』の感覚は鮮明に覚えている。それをそのまま転用すれば、私の身一つでも再現可能だろう。
ニッヒちゃんは分身魔法によって生まれた存在であるゆえに、身体の全てが魔力で構成されている。自分そのものを本来のリンゴ弾幕に見立てて破壊エネルギーを炸裂させるのが自爆のロジックである。
つまり、これを上手いこと身体全体ではなく部位に留める事ができれば。腕の魔力にのみ術式を作用させ、打撃と同時に自爆させる事ができれば。
マイロードの『ありとあらゆる物を破壊する能力』──あらゆる防御や抵抗を無にする枠外の力。これを限定的にでも行使する事で、風見幽香の強靭な肉体を穿つ事が能うかもしれない。
それが私達の最後の希望。もし通用しなければ、絶対に勝つ事はできないだろう。
「『スカーレットニヒリティ!』」
緋色に輝く右腕を翳し、咄嗟にガードした幽香さんの腕の上から奥義を叩き込んだ。
瞬間、眼前を真紅の閃光が埋め尽くす。脳裏によぎる嫌な思い出を払い飛ばし、自ら腕を切り離す事で離脱。爆風に乗る事で衝撃のピークを前に爆心地から遠ざかった。
しかしそれでも威力は絶大だった。
凄まじい衝撃が身体中を駆け巡り、そして前後左右分からないまま流れに飲まれ、地面を何度も引き摺られた。自分でやっておいてなんだけど、悍ましい魔法だ。マイロードは一体どんな化け物を想定してこの魔法を作ったのか、理解に苦しむね。
と、ダメージに悶えつつ周囲を見渡すと恐ろしい光景が目に飛び込んできた。
霧の湖が原型を留めていない。湖岸は崩壊し、ポッカリと空いた穴へと水が流れ込む事で湖の面積が二倍程度大きくなったような気がする。周囲の木々も薙ぎ払われ、残骸があちこちで折り重なり倒れている。
正直ドン引きである。ニッヒ式スカーレットニヒリティは身体を構成する魔力を丸々消費する関係上、使う部位が多ければ多いほど威力が増す。
そして今回、私は右腕しか使用していない。総魔力量の六分の一程度かな。それで、これである。
というか、腕でこの有様なら身体全てで自爆した月はどうなってしまったんだろう。もしかすると月の都、滅んでちゃったりするのかな。申し訳ないという気持ちとザマァみろって気持ち、心が二つあるぅ!
そして昔に危惧していた事が再び現実味を帯びてくる。
もしや将来、世界は破壊神と化したマイロードの手によって崩壊するのではなかろうか。頼むから大人しく優しい子に育ってクレメンス……。
──さて、現実逃避の時間は終わり。そろそろ目の前の絶望にちゃんと向き合う事にしようね。
粉塵のその先に浮かぶ影を見据える。
「大した魔法ね、私を完全防御に追い込むなんて。いつ以来の事かしら」
「そんなぁ……」
「こんな奥の手を隠し持っていたのなら、私に挑もうという無謀な考えを抱いても仕方がないのかもしれないわね。気持ちが大きくなってしまったのも理解できる」
幽香さんは普通に生きていた。それどころか目立った外傷が両腕にしか見られない。千切れかけた腕の合間から、殺気を帯びた眼光が覗く。
倒れることすらなく、何十メートルも後退した場所で確かに直立していたのだ。
焼き焦げたブラウスの袖を破り捨てながら、焦土と化した大地を踏み締め、悠々とこちらに歩みを進めている。此方を見下すような笑みは決して絶やさない。
魔王だ、紛う事なき魔王だ。
スカーレットニヒリティによって消費された部位は再生できない。丸一日魔力の回復を待つ必要がある。
つまり、ここからは幽香さんと隻腕で戦わなきゃならないという事。気が滅入るなぁ。
最悪、影の中に待機しているみんなを逃す事を優先しようかと考えていた。そんな時だった。
僅かな違和感が徐々に増大し、やがて確信に変わる。
「あら……?」
幽香さんが膝を付いた。足元が覚束ないようで、小刻みに震えている。
当の本人も何が起きているのか、状況の把握が遅れているように見えた。
信じられないという風に自分の足を睨み付け、そして無理やり立ち上がる。強者としての意地か。
安堵が胸にどっと押し寄せる。そうだ、アレを喰らって無事でいられる筈なんてない!
ダメージは確実に通っていた! 夥しい出血と、血肉の焼け焦げた臭いがその証拠だ。幽香さんの痩せ我慢に危うく騙されるところだった。
絶望を耐え抜いた事で、奇跡と希望が産声を上げた。爆死だと決め付けていた四天王ガチャ、ついでにご主人様ガチャが最高の形で噛み合った結果である。これを奇跡と言わずして何と言う。
これこそ我が信仰によって齎された御加護のおかげなのかもしれないね! サンキューサナエンジェル! フォーエバーサナエンジェル! 穣子様も一応ありがと。
「驚かせないでよ、しっかり効いてるじゃん!」
「……っ」
致命傷には程遠いが、ガード越しにでも通用した事実は万金に値する。次はガードも貫くほどに強力な一撃を急所にぶち当ててやるのだ。
そうすればきっと、あの魔王を倒せる。
マイロード……本当にありがとうございます。
これまで私に与えてくれた全てが、今を生き抜く為の糧になっているのです。貴女はいつだって私を助けてくれている。
いつか改めて、お礼を言わせてください。
その為にもどうか、どうかこの死線を越えていけるだけの力を! クレメンス!
チルノ 「▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂」
わかさぎ姫「▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂」
天狗の皆様「▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂」
なお当然のように太陽の下で戦っているものとする。よって背中は既に真っ黒コゲであるものとする。
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