フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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挑戦 風見幽香!(中)

 

 

 誰かが息を呑む音がする。

 静寂を破り声を発する事ができない。

 

 隔てられた影の世界からニッヒと風見幽香の戦闘を見守るは、紅魔四天王。

 一瞬でも目を瞑ればその間に状況は二転三転し、下手すれば決着となってしまうかもしれない死闘。

 各々が的確なサポートを行う為に、食い入るようにして影の外を見つめる。

 

 そして緋色の閃光が均衡を打ち崩した時、遂に張り詰めた緊張は解かれたのだった。

 

 

「ニッヒさん……。本当に、すごいよ」

 

 途切れ途切れで決して大きな声では無かったが、その言葉は影の中に潜む面々の心奥に深く沁み渡る。

 みんな同じ意見だった。沈黙が確かな同意として、仲間内の中では成立していた。

 

 チェンはいつだって奪われる側の妖怪だった。

 自分に力が無いために他の妖怪に縄張りを奪われ、食料を奪われ、仲間だった猫たちの命まで奪われた。幻想郷の弱肉強食を最も理解していたのはチェンである。

 

 妙な広告を見て藁にも縋る思いで紅魔館支部にやってきたのは、幼くして諦めを知り、実力者の庇護下に入らなければ何も守れないことを悟ってしまったからだ。チェンは妖怪として一度死んだも同然だった。

 

 だからこそ、格上の暴力に屈する事なく自らの持てる力を振り絞り、野望と仲間を守るために抗い続けるニッヒの姿は気高く、そして美しく映った。

 あの風見幽香を相手に即座にリベンジを挑み、我が身を犠牲に膝をつかせた。

 自分を深く蝕んでいた弱肉強食、畜生の理に中指を立ててみせたのだ。

 

 その姿を見て、胸の高鳴りを抑えられよう筈もなく。

 

 

「チェン泣いてんの!?」

「だってぇ……」

「まあっ気持ちはわかるけどね! ニッヒ様がこんなに鬼強かったなんてわたしもビックリ! このまま逆らう奴らみんなブチ殺してもらおーよ!」

「ラルバったら調子の良いこと言っちゃって。さっきまで風見幽香のことサマ付けしてたくせに」

「あれそうだったっけ? わたしアタマ悪いからよくわかんなーい」

「妖精の頭は便利だなぁ」

 

 ラルバがどこまで本気なのかは置いといて、メンバー全員を高揚感が包んでいるのは確かである。自分達のリーダーの活躍に誇らしさすら覚えた。それは一つの安堵となり、チェンの涙という形で現れたのだ。

 

 見れば響子も涙ぐんでいる。彼女も風見幽香の暴力を恐れ、ニッヒの身を案じていた一人である。

 自信を持って送り出したルーミアですら胸を撫で下ろしているようだ。

 

 

「取り敢えずこれで第一関門は突破。あの技が通じなかったら逃げるしかないってニッヒと話してたしね、これで初めて花妖怪への挑戦権を得られた訳だ」

「ニッヒちゃんなら、きっと勝てるよね!?」

「私達がそれを信じずしてどうするのさ」

「……そうだね!」

 

 どこかハラハラした様子を見せていたルーミアも今は落ち着いている。

 普段はバカみたいな言動しか取らないくせに今日はやけにスカしたような態度が多めで、柄にもなく緊張していたのだろう。案外可愛いところもあるものだ。

 

 何にせよ全員の顔に笑顔が戻った事で明るい雰囲気と高揚感が生まれる。この一大決戦に至ってようやく紅魔館支部として心が一つになったような気すらした。

 

 四人の願いはただ一つ。

 どうか、私達のニッヒ(リーダー)に勝利を。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

「ねえ、お前はなんていうの?」

「はい?」

 

 暴風のような激しい攻防から一転、互いにピクリとも動かず、傷付いた双方を睨み合う小休止を兼ねた空白の時間。それに終止符を打ったのが、どこが親しげな感じが滲む幽香さんの言葉だった。

 その中身が理解できなくて、思わず首を傾げる。

 

 

「そっちだけ私を知っているのは狡いわ。お前の名前を教えなさい」

「……えっと、ニッヒですけど」

「可愛らしい名前ね。親に付けてもらったの?」

「親というか創造主というか……色々と複雑で可哀想な家庭の生まれなんですよ、私って」

「あらそうなの。聞いて悪かったわね」

「いえ、このニッヒちゃんって名前は私の誇りなので別にいいんですけど」

 

 微笑みと殺気が同居したままでの会話。

 

 こんなタイミングで話すような内容ではないのに、近所のお姉さんみたいな気軽さで、さも当然のように振る舞っている。彼女の真意が読めない。

 殺し合いを止めて和解を呼び掛けているのかとも思ったけど、それだと相も変わらず迸らせてる殺気に説明がつかない。アレがデフォだっていうなら仕方ないけど。

 

 

「太陽の下でよくやるものね。流水だって何回も頭から被っている。なのにいつまで経っても滅びる様子がない。一応の弱点なんでしょ? 吸血鬼の」

「むっ博識! 流石は天下の風見幽香、暴力だけじゃないインテリさんなんですね」

「知り合いに一匹いるだけよ」

「まあ私をそんじょそこらの吸血鬼と一緒にしない方がいいですよん。なんたって特別製だもの!」

「それは何となく分かる」

 

 一頻り笑い合った後、私は問い掛ける。

 

 

「で、どういうつもりなんです?」

「お気に召さない?」

「仲良くする分には別にいいんだけど……どうせ殺し合いは終わらないんでしょ? 私を殺すつもりでいる。なのに私のことを知ろうとして何の意味があるのかなって」

「……」

 

「最初はただの羽虫だと思っていた。淘汰されるだけの脆弱な妖怪。……でも徐々に考えを改めたわ。私に反抗するだけの大きな勇気を持った身の程知らずだと」

「ふんふん」

「そして遂にはこの私に土を付けてみせるなんてね。──認めよう、力を見誤っていた。お前は『好敵手』という甘美な領域に片足を踏み入れた」

「それはなんとまあ……か、過分なご評価で」

「この数世紀、終ぞ現れる事のなかった、私を悦ばせてくれる存在。好敵手の事を何も知らずに殺してしまうのは勿体無くて、寂しいじゃない」

「なるほど、納得」

 

 腕の調子を確かめるように日傘を振り回す幽香さんに呼応し、私も改めて魔力を身体中に巡らせた。仲間達も再開の気配を感じ取ったのか、緊張が高まっている。

 スカーレットニヒリティによって受けたダメージがどの程度なのかは分からないけれど、戦闘の継続に支障はなさそうだ。ただ腕を酷く損傷している以上、これまでのような威力のパンチはできないだろう。できないで欲しい。できないといいなぁ! 

 

 と、幽香さんは地面を強く蹴り上げ一足飛びに距離を詰めてくる。これまでとは全く違う非常にアクティブな攻勢だった。これまでのような遊びじゃない、本格的な戦闘にシフトしてきたのか。

 横っ飛びで拳を回避し、着地と同時に低い姿勢から蹴りを繰り出して脚を狙う。しかし寸前で跳躍によって躱された。スカーレットニヒリティを警戒しているのか。

 

 

「随分と必死こいて躱すじゃん! さては私の必殺技が怖いんだなあ!?」

「お前がそれ前提で立ち回るのは分かりきったこと。もう侮らないわ、好敵手に失礼だもの」

「いや全然油断してくれて大丈夫だよっ!」

 

 先ほどの爆心地を中心にして、一定の間合いを取りながら互いに旋回を続けた。

 

 私を恐らく対等の敵と見据えた現状、これまでのようなヒットアンドアウェイ戦法は難しいと判断し、ルーミアに合図を送って影の中に収納していた『掘削式レーヴァテイン』……もといシャベルを出してもらう。

 日傘のリーチ分をこれで埋め合わせるつもりだ。

 

 

「ここでシャベルか。土いじりでもするの?」

「乱暴なお花を引っこ抜くのに必要だもん」

「言うわね」

 

 日傘とシャベルが交錯する。

 

 殴って、圧して、斬り結ぶ。私達の間に在るモノが悉く消滅していく破壊の空間。

 少しでも気を緩めれば向かう先は、死のみ。間近に迫る濃厚な疲労感と限界が己をさらに奮起させる自覚があった。直感に従って眼前をひたすら滅多打ちにする。

 

 私の願いは通じていたようで、幽香さんの一撃が軽くなっている。もしも健在のままだったのなら隻腕の私にこんな立ち回りは不可能だっただろう。身体の末端にまで力が行き届いていないということは、つまり握力がかなり弱まっているという事。

 

 

「ずあぁぁあッ!!!」

「……!」

 

 全身全霊で振り抜いた一撃が日傘を幽香さんの手から引き剥がす。凄まじい衝撃で手が滅茶苦茶に痺れているが、手応え有りだ。これまで一方的な力に翻弄されるがままだった展開が、遂にひっくり返ろうとしている。

 効いている、スカーレットニヒリティは思った以上に効いているのだ! 

 

 自分でも不思議に思うほどの効果。もしや魔法そのものに何か細工がしてあったのかな? マイロードの術式を模倣しただけの私には理解不能だが、あの表面上の破壊規模をも上回る何かがあの奥義はあるのかもしれない。

 

 私の勢いを感じ取った四天王のみんなが影を介して支援の構えを見せ、それに合わせて突貫する事で二人の間合いをぶち壊す。勝負はここで決める! 

 紅魔館支部の総攻撃だ! 

 

 

「スカーレットニヒリ──!」

「ッ」

「なんちゃってえ!!! 悪質タックル!!!」

 

 技名を叫んだからといって、馬鹿正直にその技が飛んでくるとは限らない。なんたってスペルカードルールはまだまだ先の未来の話である。

 

 私の奥義に意識を割き過ぎた弊害か、低姿勢から繰り出されるゴキブリタックルに対応できず、衝撃によってぬかるんだ足元を掬われる形で幽香さんが転倒した。地面の水気を操ればこんな事もできちゃうのだ。

 

 倒れた幽香さんへと容赦なく影の中から属性様々な妖術が降り注いだ。

 ラルバちゃんの鱗粉が橙ちゃんの放つ炎弾に引火し、炎に包まれる。更にその上から響子が大音量で叫び鼓膜を破壊、ルーミアの触手までもが滅多打ちにする。

 

 一つ一つは大したことが無くても、それを表皮、目、鼻、剥き出しの器官へと一斉に叩き込まれては、如何に頑強な幽香さんと言えど平気とはいかないだろう。

 私はそれに乗じて幽香さんへと馬乗りになり、残った左腕でのスカーレットニヒリティを──! 

 

 瞬間、脳髄を駆け巡る不快な感覚に従い全力で飛び退く。通算四度目になる生死を分かつ選択肢だった。

 

 私の居た場所は既に魔力の奔流に飲まれていた。身体全体から無作為にレーザーを解き放つ。

 八方を煌々と埋め尽くす極太レーザー。瞬時に膨張した魔力の閃光が私を弾き飛ばし、深々と幻想郷の土壌を抉っていく。噴き上がる魔力の渦は数分間止まらなかった。

 蛸足のように交錯する光の柱は互いに結合と分離を繰り返して、辺りに極限の破壊を撒き散らす。

 

 これだけでも恐ろしいのに、更に震撼させる事実に私は気付いてしまった。

 このレーザーに付与されていたのは太陽の力。つまるところ威力百二十、草タイプの大技で有名なソーラービームというやつである。こんなのをマトモに喰らってしまえば水タイプの吸血鬼なんて塵も残らない。

 

 やはり彼女も本質的な部分ではマイロードやパチュリーさんのような『魔法使い』なんだろうか。

 

 

「今のは躱わせないと思ったんだけどねぇ」

「ニッヒちゃんは勘がいいからね。ビビッときたよ」

「ふーん。お前ってもしかして、博麗の巫女となにか関係があったりするんじゃない?」

「あんな人外と同じにされても困っちゃう」

 

 濛々と立ち込める土煙を突っ切って幽香さんが現れる。アレほどの大技の後なのにちっとも消耗していない。つまり連発可能ってことだ。化け物である。

 もしや彼女は無限の魔力を有しているのではないか? 仮にそれが真実だったとしても大して驚きはない。むしろ納得できるまであるね。

 

 しかし困った。あんなのを使われるんじゃあ無闇に接近戦なんて仕掛けられない。

 スカーレットニヒリティは至近距離での発動が絶対条件だ。それ以外では幽香さんを恐らく仕留めきれないし、距離を補うため無理に威力を引き上げると逃げ切れずに私達が巻き込まれてしまう。

 

 魔法発動と同時に腕を千切って投げ付ければ、マイロードのような一方的な遠距離攻撃になったりしないかな。もしこれが可能ならば世界が変わるんだけども。

 いや無理だ。よくよく考えたら今のニッヒちゃんは隻腕。どうやって投げ付けるんだいって話だった。ルーミア達に頼もうにも、その程度の投擲スピードじゃ幽香さんに見切られて終わりだし。そも切り離された部位を遠隔で爆破させるなんて芸当は私には難しいかもしれない。

 

 そんなどん詰まりの中、私はとある妙案を思い付く。やはりニッヒちゃんはとんでもなく有能で賢い従者であると、自画自賛したい気分である。

 肝は、緻密な魔力コントロール。私が一番苦手とする分野だが、やってやるしかあるまい。

 

 

「あら今度は弾幕で攻めるつもり? 通用するとは到底思えないけど、弾の撃ち合いなら大歓迎よ」

「弾幕戦はまだまだ先の話。なんならもっと面白いものを見せてあげちゃう」

「うん?」

「思い知れっ! これが叡智の力だぁ!!!」

 

 私がシャベルを宙へと投げ捨てると同時に、左腕が真っ赤に輝き始める。

 スカーレットニヒリティの予兆であると即座に見抜いたのだろう、幽香さんは解せない様子を見せながらも防御の構えを取った。

 そんな所で自爆をしても自分の命には届き得ない、そう考えているんだろうね。

 

 

 ──『相手の意表を突く小賢しい戦法ははっきり言って吸血鬼として失格もいいところだけど、それがお前の明確な強みでしょ? 暴力で屈服させるより、奇策を用いて相手を驚かせ勝利に結び付ける。そこに関してだけ言えば、紅魔館の誰よりも優れている』

 

 

 不意にマイロードからのありがたいお言葉が思い起こされる。私の強みはこれだ、これしかない。

 その方向性さえ見失わなければ、どんな相手にだって勝ちの目を見出す事ができる。

 

 

「『スカーレットニヒリティ flying』!!!」

 

「ッ……!?!!?」

 

 幽香さんが驚愕に目を見開く。その理由は明白で、自分の目の前に突然私の左腕が現れたからだろう。

 

 説明するだけなら簡単な仕組みだ。私は左肩から爪先に至るまでを三段ロケットに見立て、それをそのまま再現してみせたのだ。

 左肩にて小規模な自爆を起こして切り離し、次に二の腕を自爆させる事でブースターの役割を担わせる。そして相手への着弾と同時に残る部位と魔力の全てでスカーレットニヒリティをぶちかます! 側から見ればまんまロケットパンチだね。

 

 月面戦争前に住吉ロケットについて調べて、その時のノウハウを咄嗟に流用した形だ。

 これまでの学びは全て活かす。それがニッヒちゃんクオリティなのである。

 

 まあ実態はかなり綱渡り。

 術式の運用を時限式にしたり、各パーツごとに力を加減したりと、若干間抜けな絵面に比べて全ての工程が私にとっては至難だった。まあそれでもできちゃうのが私の優秀たる所以なんだけどね。ふふん。

 

 離脱を試みる幽香さんだったが、間に合う筈がない。回避すべく身体を右に傾けた瞬間に魔力が炸裂した。本日二度目となる緋色の閃光が霧の湖を包み込む。

 今度は爆心地から離れていたおかげで、前ほどの衝撃は受けずに済んだ。やっぱり遠距離攻撃は正義なんだなって思ったね。

 

 霧の湖が先程のクレーターと合わせて歪なナズニーマウスみたいな形に変貌してしまったのにはちょいとばかりの罪悪感があるが、魔王を倒す為だ。許してクレメンス。

 衝撃と光が収まり、やはり幽香さんが原型を保ったまま現れる。一発目よりも密着した状態で爆発を受けたのにこれも耐えてくるのかと、恐怖を禁じ得ない。

 

 しかし効果覿面ではあったようだ。

 左腕は焼き切れて消滅してしまっており、右腕はあらぬ方向へと捻じ曲がっている。しかも身体中には酷い裂傷と火傷。誰が見ても分かる大ダメージだ。

 

 勝った。そう確信した。

 私があの風見幽香に勝利するなんて、信じられない。これこそ夢心地ってやつなんだろうか、頭がフワフワする。でも身体中に蓄積された痛みと疲労が、この戦闘を現実だと伝えてくれている。

 

 まだ戦いは終わっていない。

 

 

「その腕じゃもう私の攻撃を防ぐ事はできないね。つまり次の必殺技で終いってこと!」

「……」

「貴女が私を侮らなかったように、私も最期まで油断はしない。それが礼儀だ! きっちりと最高火力で仕留めさせてもらうよ! 喰らえい『スカーレット──!」

 

 勝利の予見に従って右脚へと魔力を集約させる。そして魔法を発動、する寸前だった。

 私は見た。幽香さんの瞳に宿る凄絶な意志を。

 

 勝負を諦めない力強さ。いや、むしろ私と同じ勝利を疑わない自信。

 

 拙い。そう思った時にはもう手遅れだった。

 高揚感から一転。例の不快感と同時に、凄まじい激痛が胸に走る。

 

 私の胸から傘先が生え出ていた。ちょうど心臓がある部分を的確に貫かれた。

 

 

「う、そ……そんな……」

「吸血鬼は心臓に木の杭を打ち込まれると死ぬ、だったかしら。一応この傘も植物ではあるんだけども、どう? 効いた?」

 

 鈍くなる身体で何とか振り向くと、そこには冷たい目で私を見下ろすもう一人の幽香さん。

 

 何事かと一瞬考えて、情報が浮上する。

 私は見落としていた。()()()()()()()()()()使()()のだ。マイロードの分身体たる私がその事を失念してしまうとは、不覚の極みである。

 

 

「げほっ……ぐぅぅ……!」

「死ぬ? ねえ、死んじゃうの?」

 

 分身を構成していた術式は一時的なものだったようで、すぐに消えていった。恐らくだけど、弾き飛ばされた日傘に蓄えられていた魔力を遠隔で流用したんだろう。だから私も気付かなかった。

 

 胸の空洞から夥しい量の血液と魔力が零れ落ちていく。この感覚は、パチュリーさんの『ロイヤルフレア』を受けた時以来だ。つまり、死の瀬戸際に居る。

 魔力を身体中に行き渡らせる為の回路も破壊されてしまった。もはや自爆すら……。

 

 力を失った事で膝から崩れ落ちる。くの字に折れ曲がった身体を動かす事ができない。

 まずい、意識が消える。勝利が、遠のいていく。

 

 マイロードに価値を示す事もできず。仲間のみんなを守る事すらできず。

 私は終わるのか。

 

 だが『その時』はいつまで経っても訪れなかった。虚ろに目を開くと、鬱陶しげに此方を睨む幽香さんと、その間を遮る影があった。

 

 どれも小さくて、とても頼りない。

 

 

「夢も、今の生活も諦めたっていい! でも──!」

 

「私たちの目の前で、ニッヒちゃんを殺させたりなんかしない!」

 

 へっぴり腰のラルバちゃんに何かを諦めたようなルーミア。響子は声を震わせ、橙ちゃんは牙を剥いていた。

 

 その覚悟はダメだ。戦っちゃいけない。

 そんな私の制止が届く事はなく、決戦はなし崩しに最終局面へと向かっていく。





木遁分身は誰にも見破る事ができないものとする(うちは並感)
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