フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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サブタイと諏訪子様は特に関係ありません。


毎日ハレの日、ケの毎日

 

「チェンってさー、休みの時どこに行ってるの?」

「……えっと」

「遅く帰ってきたと思ったら毎度ヤケに疲れてるような気がするし、ちゃんと休んでるのか気になったんだよね。もしかして面白い遊び場でも見つけたの?」

「ひ、秘密! それに大した事はしてないから」

「余計気になるじゃん! 今度こっそり後を尾けちゃおっかなー」

「やめてってば!」

 

 ニッヒの意向により毎日の湯浴みが義務付けられている紅魔館支部。故に入浴後に着替えや髪を乾かす中で発生する空白の時間は、一種の息抜きとして機能している。

 風呂上がりのガールズトークが四天王の恒例行事となるのに、然程の時は要さなかった。

 

 なおその間はニッヒが風呂掃除に没頭している最中だったり、鬼教官風見幽香が居ない時間帯である為、その開放感からか年相応かつ下っ端らしい低俗でぶっちゃけた話をする事もある。

 

 

「ラルバはお子ちゃまだね。こういう時に外出を誤魔化す理由は昔からひとつだけなんだよ」

「むぅ……ルーミアに言われるとなんかムカつくなぁ。で、その理由って何さ」

「逢瀬に決まってるでしょ」

「うそっ!? チェンって男が出来たの!?」

「色を知る年齢(とし)なのかー」

 

 全員揃って実情は皆無であるのだが、そんな事は当人達にとって重要ではない。ただ揶揄う事ができればそれでいいのだ。

 現に()()()も過剰に反応する事なく「コイツらは何言ってんだか」とでも言いたげな表情だった。

 

 なお我らがリーダーニッヒが恋愛に関してからっきしなのは言うまでもない。

 それに何か語らせても例の「まいろーど」か「めいりん」なる謎の人物の話ばかりで面倒臭いので、こういう話題からは自然と省かれている。不憫。

 

 

「別に怪しい事とか危ない事をしてないなら何でもいいじゃん! 誰にだって孤独になりたい時はあると思うし、チェンもきっとそういう多感な時期なんだよ! ここはそっとしておいてあげるのが優しさだよ!」

「響子まで私に喧嘩売るんだ?」

「え、なんで!?」

 

「まあ本当は橙のプライベートなんてどーでもいいんだけどね。茶化してみただけ」

「ルーミアに同じく!」

「よし、明日の訓練は三人まとめてブッ飛ばす!」

「いいよ気が済むまで掛かってきな。発情期の子猫なんて一蹴しちゃうから」

「まだ言うか!」

 

 仲間同士のガチギレ喧嘩は御法度とされているが、訓練の最中であれば多少の狼藉も許されるという『風見幽香論法』を利用した鬱憤のぶつけ合いは穏健派の中堅妖怪である四天王達にも大人気だ。*1

 

 そんなこんなで明日での全面報復を宣言するチェンに対し、変わらず挑発を投げ掛けるルーミアであったが、ふと声を漏らすと続けて首を振る。

 

 

「ダメだ、そういえば明日の訓練は休みだってニッヒが言ってた」

「えっ何で? ここ最近は毎日やってたのに」

「幽香が居ないんだってさ。そこで明日は休みにしちゃって、代わりに大事な事をみんなで話し合うつもりらしいよ。一体なんだろうね」

「そこは聞いておいてよ」

「だってニッヒの言う大事って大抵どうでもいい意味不明な事ばかりでしょ? それに聞いてもサプライズとか何とか言って勿体ぶってきそうで」

「そ、それは……。でも時々本当に大事を話す事もあるし、ハナから疑うのはダメだと思う」

 

 唸りつつ苦しげに擁護する。

 ニッヒの荒々しくも賢しい戦い方や生き方に魅せられたチェンは、彼女をリーダーとして尊敬している。……してはいるものの、ルーミアの言う事も頭から否定はできなかった。

 なんというか、一々大袈裟なのである。ただ本当に一大事である時もあるので尚更タチが悪い。

 

 頼りになるんだかならないんだか、正直よく分からない妖怪リーダーであった。

 

 

「大事な話かぁ……また何処かと戦争するのかな?」

「妖怪の山か、それとも遂に人里で大規模な略奪(チェスト)をするつもりかもよ」

「いやいや、どーせ明日の晩御飯は何にするかみたいな話に決まってる」

「……ちょっとやばいかも」

「ラルバ? どうしたの」

 

 様子のおかしいラルバに全員が注目する。

 

 

「わたしのイタズラがバレたかもしれない……! 明日犯人探しを始めたらどうしよ……」

「ラルバは相変わらずだなぁ。なにしたのさ」

「神棚の中身……ちょっとだけすり替えた」

「はぁ!? なにやってんの!?」

「それは流石に不味くない?」

 

 想像斜め上の内容にチェンと響子は震え上がった。ルーミアでさえ呆れ返っている。

 妖精が筋金入りの馬鹿なのは周知の事実だが、まさかここまでとは思わなかった。ニッヒの異常な信心深さを知る者であれば、あの信仰に瑕を付けようなどとは普通思わない筈だ。

 

 しかし(ラルバ)は普通ではなかった。

 異常な思想と癖を持った異端の妖精なのである。

 

 ニッヒが優しいのは当たり前。感情の起伏は頗る激しいものの、それが負の方向に振り切ったところは誰も見た事がない。幽香との戦闘時すらそこは変わらなかった。

 

 だが普段優しい人が本気で怒る時ほど怖いものはないのだ。子供達にとっての常識である。

 というか、本気で怒ると何をしでかすか分からない怖さがニッヒにはあった。

 

 

「絶対怒られるよ! 最悪スカーレットニヒリティが炸裂するまである!」

「ひぇえ! わたしがあんなの喰らったら羽の欠片も残らないよぉ!」

「流石にそこまではしない……と思うけど。まあ誰の神棚に手を出したかによるんじゃない?」

 

 祈りの間に祀られているのは『まいろーど』『さなえんじぇる』『秋穣子』の三柱。これら全てに手を出していたのなら折檻は免れないだろう。

 

 しかし世渡り上手のエタニティラルバ。最低限そのあたりの分別はわきまえていた。

 

 

「そりゃ勿論、謎神様の方! 流石のわたしでも『まいろーど』と『さなえんじぇる』には手を出さないよ!」

「穣子様だけなら……セーフかな?」

「まあ多分セーフでしょ。穣子様なら」

 

 酷い言われようだが事実なのでしょうがない。

 

 想定されるニッヒの反応として、仮に『まいろーど』に手を出していたなら烈火の如く怒っていただろう。その存在がニッヒにとって唯一無二で大切な事は全員が知っている。恐らく『さなえんじぇる』でもアウト。

 予想がつかないのは穣子だけ。というか何故信仰してるのか、四天王どころかニッヒまで分かっていなさそうな謎の神様である。まあセーフで良い気がした。

 

 ただラルバを除く三人は幽香戦以後そこそこ前向きに神棚を拝んでいるので、看過はできない。

 よって被害が穣子のみとは言えニッヒの代わりにしっかり叱っておく事で決着。二度と同じ事を繰り返さないよう釘を刺し、今回の件は仲間内で収めることになる。

 

 取り敢えず四天王が御三家に名称変更されるような事態は無さそうで、一行は胸を撫で下ろしながら神棚の状態を密かに戻しておくのであった。

 

 

「ていうか何でこんな馬鹿な事をしたのさ。イタズラするにしても安全を全く考慮しないのは保身大好きなラルバらしくないと思うんだけど」

「お祈りの時間もラルバだけ適当だしねー。もしかして神様が嫌いだったり?」

「いやぁなんでだろうね? 人が一生懸命祈っている姿を見ると心がゾワゾワするっていうか。『アッチ側』に立つんはわたしや! みたいな想いが湧き上がってくるの」

「妖精が何言ってんだか」

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 今日は紅魔館支部全体での休養日。幽香さんとの訓練は無いし、妖怪の山に踏み込む事もしない。最低限の家事と領内警備、畑の管理だけを行う日である。

 

 理由は大きく二つあって、まず一つにこれまで怒涛の来訪を繰り返していた幽香さんの不在がある。

 何でも妖怪の山に住んでるブン屋──恐らく文さんの下へ()()()()に出掛けるんだって。

 

 原因は恐らく昨日の『夕刊文々。新聞』に載っていた内容のせいだろうね。確か幽香さんが紅魔館支部に屈服していいように使われているって書かれてたんだっけ。

 

 内容の殆どが私への悪評で構成されていたものの、その余計な一文がゴジラを呼び寄せてしまった。

 天狗の皆様は何故生き急ぐのか、これが分からない。椛さんも文さんも多分マゾ気質なんだろうね。ニッヒちゃんにはちょっと理解できないや。

 

 さて話を戻して、今日が休養日であるもう一つの理由なんだけども、とある事をみんなで話し合いたかったんだよね。私ひとりで決めてしまっても良かったんだけど、どうせならみんなの意見を反映させたかったのだ。

 

 という訳で、何故か緊張した面持ちをしているみんなを居間に集め、今回の議題を伝える。

 

 

「今日はみんなで紅魔館支部の制服を考えよう!!!」

 

 天狗の皆様から頂戴した上等な生地を机いっぱいに広げながらそう宣言する。

 

 気になるみんなの反応だが、ルーミアが何故かドヤ顔を浮かべ、橙ちゃんは悩ましげに額を抑えた。響子は興味深げに目を輝かせ、ラルバちゃんはホッと胸を撫で下ろす。

 響子以外の反応がちょっと解せないが、まあいつもの四天王である。

 

 と、いつものように橙ちゃんが手を上げて、聞き役を率先して買って出てくれた。

 

 

「制服というと、天狗みたいに服装を統一するって事ですか?」

「そう! あんなガチガチに揃える必要はないけど、同じ組織に属している事が第三者から見ても分かりやすいようにしたいなと思って」

「なるほど……」

「それに橙なんて天狗から奪った服をずっと着てるでしょ? 響子の服もボロボロだし。だから今回を機にある程度綺麗なのを渡してあげたいの」

「あ、ありがとうございます!」

「ニッヒちゃん太っ腹ー!」

 

 忘れがちだけど橙ちゃんはウチに素っ裸でやって来たからね。渡せる物が白狼天狗から剥ぎ取った天狗装束だけだったのでそれを着てもらっているのが現状なのである。

 響子も山犬時代のボロ着のままだから、そろそろオシャレしてもらわないと! 

 

 ちなみに私とラルバちゃんの服はなんか魔力的なもので構成されている身体の一部なので、そこまで気にする必要はなかったりする。

 ルーミア? とても猟奇的な臭いがするよね。いくら洗っても取れやしない。

 

 

「本家紅魔館だと従者は門番除いてメイド服で統一してたんだけど、支部はもっと気楽な感じでも良いかなと思うんだ。よってみんなの意見を聞こう!」

「希望を言ったところで実現するの?」

「ふっふっふ、ニッヒちゃんの裁縫技術を舐めてはいけませんよ。そう、こんな日がやって来るかと思って着々とスキルを磨いてきたのさ!」

 

 最初はマフラーを編むにしても所々がほつれていて粗も目立つ低クオリティな物しか作れなかったが、今となっては衣類の作成にまで手を伸ばしている。

 やはり私の可能性は無限大! なんだって出来てしまう有能従者なのだと再認識できたね! 

 

 

「制服といえば天狗の他には河童の作業着とか、山童の迷彩服が該当するかな。それと賢者なる方々はみんな前掛けを着用しているらしいよ。ああいうのも何処の勢力に属しているのかが一目で分かる立派なトレードマーク!」

「あんまり想像がつかないなぁ。ニッヒ様はどういうのが良いと思うの?」

「うーん……曲がりなりにも吸血鬼が中心の組織だから、マントなんてどうかな!?」

 

「「「「……」」」」

 

「あっ、ダメかぁ。そっか了解」

 

 この沈黙が肯定でない事は明白であった。どうやらファッションセンス云々に関しては役立たずのようなので、ニッヒちゃんはクールに去るぜ。

 

 マントは良い案だと思ったんだけどね。西洋大妖怪の象徴だし、ロイヤルだし、組織で統一するとなんかウルトラ兄弟みたいでプレミア感が出てくる。

 

 悲しきかな、天才のセンスが評価されるのはいつだって後世になってからなのである。才能有る故の悲劇というやつだ。

 取り敢えず岡崎教授と宇佐見菫子さんは泣いていいよ。ニッヒちゃんも泣くから。天弓千亦? あの神様は月で私と紅魔館の皆様に牙を剥いたから除外。

 

 そんな感じで、いじける私を除外した四人は何やら真剣に話し込んでいる。毎度のことだけど小学生の討論会みたいで微笑ましい気分になるね。

 マイロード譲りの地獄耳デビルイヤーで内容を盗み聞きしてみたところ、ビジュアルを重視する響子とラルバちゃん、機能性を重視するルーミアと橙ちゃんで意見が分かれているようだった。各々の考え方の違いが如実に現れていて面白い。

 

 そして議論に議論を重ねた結果、多数決で採用されたのは響子の案だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……少し目を離した間に何やら素敵な事になっているわね。本当に見ていて飽きないわ」

「あら幽香さん、おかえりなさい」

「ええただいま」

 

 逢魔時の手前頃である。

 赤色の液体を顔にべっとりと付けたまま妖怪の山から戻ってきた幽香さんに手拭いを渡す。

 鉄の香り漂う謎の液体が誰のモノなのかは敢えて聞かない事にしよう。だって怖いんだもん。

 

 それはさておき、幽香さんの反応である。

 私やみんなの服装を興味深げに眺めている。目を引くデザインにした甲斐があったというものだ。

 

 

「それは半纏(はんてん)……いや、法被(はっぴ)かしら? ハレの日でもないのに、妙だこと」

「でも楽しそうな一団だっていうのは一目で印象付けられるかなって! こんなに真っ赤なんだから嫌でも目立つでしょ? 私達は幻想郷に輝く紅き星!」

「紅は獰猛な獣を呼び寄せる。せいぜい血に飢えた猛牛が寄ってこないといいわね」

「あはは、もう手遅れだったりして」

「……」

「……」

 

 思った事をそのまま言ってしまい結果的に煽りになっちゃうのは、ニッヒちゃんの昔からの悪い癖である。隣から飛んでくる殺気を冷や汗ダラダラで無視しつつ反省。 

 でも猛牛みたいな生態をしてる幽香さんサイドにも幾らか問題があると思うの。

 

 とまあ話が逸れたちゃったけども、紅い法被という選択は非常に理に適っていると思う。

 誰が着ても子供補正が働いて見栄え良い。それに普段使いにも優れているし、動きを全く邪魔しないから機動性も確保できる。完璧だ。

 

 結局橙ちゃんや響子にはちゃんとした衣服をプレゼントできなかったので、別に改めて作る事にしよう。やっぱり原作風の装いがいいよね。

 

 ちなみに響子が法被を発案した理由なんだけども、曰く「みんなと過ごす毎日がお祭りみたいに賑やかで楽しいから!」とのこと。この山彦……可愛すぎか……? 

 それを聞いた私含むみんなが響子の頭と頬っぺたを撫で回したのは仕方のない話だろう。

 

 まあそんな日々是好日(にちにちこれこうじつ)の想いが込められた提案をされて、却下するような人でなしは流石にいなかった。薄情者のルーミアでさえ賛成に回ったほどである。

 

 実際響子の思惑を抜きにしても法被は好評だったようで、全員がウキウキで袖を通していたのが印象的だった。作り手として報われた気分だよね。

 みんなが喜んでくれて良かった。

 

 そして、そんなほのぼのとした温かい気持ちに水を差す花妖怪が一人。

 

 

「でもなんかねぇ」

「はい?」

「貴女達って若い癖してなんだか妙に趣味嗜好が古臭くないかしら。田舎者みたいよ」

「なんと! わちきが時代遅れと申すか!!!」

「……?」

「あっ今のは言ってみたかっただけ」

「そう。いきなり頭がブッ壊れたのかと思ったわ。トチ狂ってるのは元からだけど」

 

 唐突に悪意マシマシな視線を向けられたと思ったらこれである。油断も隙もありゃしない。

 これには流石のわちきも傷付いたね。

 

 ただ言われっぱなしなのも癪なので、いつか復讐で田舎っぺ風の農作業服(オーバーオール)と麦わら帽子を贈ってやろうと決意するニッヒちゃんであった。それを着てゆうかりんファームでも経営するといいや。

 

*1
なお紅魔館支部リーダーはこの謎論法の有効性に対しての明確なコメントを差し控えている。





??「私の分はないのね……」


・本気を出して負けてしまうと後が無い。なので本気を出さない事で格付けを曖昧にし、互いの強さに想像の余地を残す(アリスマーガトロイド論法)
・仲間同士による諍いは原則厳禁だが訓練の最中であれば暴力の適用は例外的に許可される為、そこで存分に鬱憤を晴らすと抑圧された分だけ気持ちが良い(風見幽香論法)

チェンと橙は表記揺れではないものとする。
またニッヒちゃんの美的センスは壊滅しているものとする。例:茄子色の傘を気に入る、地獄のお土産で大量のガラクタを買ってくる等。


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