フランドールは彼女なのか?   作:とるびす

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後書きにちょっぴりお知らせがあります。


逆襲のチルノ ~ Faily Wars

 

 

 梅雨の入り口に差し掛かる晩春。降雨の頻度が高まり咲き誇る花々はその種類を変える。

 吸血鬼が忌み嫌うであろうこの季節も、ニッヒちゃんにとっては大変趣深い時期である。

 

 私が水タイプである事が関係しているのか、ジメジメとした湿度も身体を焼くような激しい豪雨も、私の気分をアゲアゲにしてくれるカンフル剤にすぎない。雨を見るとどうしても身体がうずうずしちゃうの。

 

 水溜まりで痛みに悶えつつはしゃいでたら四天王のみんなにドン引きされたのは内緒ね。仕方ないじゃん、自然と触れ合う機会のなかった元引き篭もりなんだから。

 

 とまあ、そんなニッヒちゃんにとっての苦楽が入り混じる季節ではあるのだが、仲間のみんなにとっては苦難全振りの季節になるらしい。

 原因は勿論、幽香さんである。

 

 宙を舞い雨雲の向こうへと消えていく響子、泥だらけの地面をこれでもかと引き摺られる橙ちゃん、レーザー直火焼きで炭になるルーミア、いつものように逃げ出そうとして周りの植物にボコボコにされるラルバちゃん。

 

 みんな心身ともに滅多打ちである。そしてグロッキーになっていく面々に反して、幽香さんは水を得た植物の如く活発になっている。

 梅雨で元気になるのは何も私だけではないようだ。

 

 

「痛みに怖気付くな。拳を恐れて目を瞑ったところで何の解決にもならないわ。躱すのではなく、敵に深手を負わせる事を第一に考えろ。殴られる間に二発殴り返せ」

「私、レーザーで焼かれたんだけど」

「黙れ。お前達全員、ニッヒを見習いなさい。この子は殴られることに微塵の抵抗も無いわ」

「まあ何事も慣れだよね! 千発を超えたあたりからかな? 痛みと一緒に生きてる事への実感と喜びを感じ始めてからが本番だよっ!」

「やだ! あんなのになりたくない!」

 

 遂にラルバちゃんがべそをかき始めたので一旦休憩を取る事になった。私はまだまだ余裕があったのだが、ラルバちゃんの何気ない一言によりマインドがブレイクしたので一緒に休憩を取らせてもらった。

 ごめんね、ちょっと泣く。

 

 もしかすると私が痛みに興奮する変態さんみたいな印象を与えてしまったかもしれないが、それは大きな間違いだ。全ては気構えの話である。

 

 これはそう、マイロードによって繰り返される苛烈な責苦に適応するためニッヒちゃんに備わった悲しき異能なのだ。現実逃避とも言うね。

 つまり何が言いたいのかというと、全部マイロードが悪い! ぬぬぬ許すまじマイロード! 

 

 

 

 

「ん?」

 

 少しだけ空気の揺らぎに変化があった。

 それに合わせて私が常に展開している霧の感知網に幾つもの反応が現れる。同じくソナーでの探知を担当している響子に視線を向けたところ、彼女もそれに気付いたようで、こくりと頷いた。

 

 侵入者だ。しかも数が多い。

 両の手では数えきれないどころか、桁が一つか二つ違ってきそうな規模である。

 

 すわ何事かと反応が密集する方向──魔法の森に面した湖岸を見遣る。

 鬱蒼とした木々の隙間、通称『吃驚カツアゲロード』から姿を現したのは、とんでもない数の妖精だった。

 

 多分異変の時に自機の皆様が見る光景なんだろうなぁ、なんて事を呑気に考えているうちに、妖精達はずらずらと列を成して湖の対岸へと陣取っていく。

 

 

「すごい数の妖精が集まってきている!」

「え、なにあれ。ラルバの知り合い?」

「みんなわたしの友だちだけどあんな大勢で集まる用事なんてあったかな? なにやら興奮してるようだし」

「なんの用事か聞いてきてよ」

「やだよおっかないもん」

 

 どうもラルバちゃんの差し金という訳でもないらしい。ただ穏やかな目的ではなさそうだ。

 するとモーゼのように妖精の波が奥の方から割れていき、主謀者が姿を表す。

 

 それはかつて霧の湖の覇権を賭けて争った因縁の相手、最強の氷精チルノであった。幽香さんとの戦いでスカーレットニヒリティを発動したあたりから姿を見せなかったから心配してたんだけど、無事だったみたい。

 自信満々な顔をして腕を組んでいる。

 

 何より最も目を引いたのが、その風貌。なんと肌が小麦色に焼けていた。

 これが俗に言うアローラ版チルノ、人呼んで『日焼けしたチルノ』というやつか。おかしいな、お披露目は何十年後の筈なんだけども。

 

 さらにその背後から取り巻きのように現れたのは名称不明の大妖精。不安げな表情を浮かべている。多分無理して着いて来てる感じだね。

 

 

「どうしようかな……。何の目的かは知らないけど、取り敢えず挨拶代わりのスカーレットニヒリティでもぶち込んでみようか? 今なら一網打尽にできるよね」

「と、取り敢えず話くらいは聞いてあげませんか。ほら一寸の虫にも五分の魂とも言いますし」

「橙は優しいなぁ」

 

 余談だけども、幻想郷において妖精という存在は非常に軽んじられている。生態が無限湧きの害獣みたいなものだからね、仕方ないね。かの稗田阿求御大も大層嫌っておられるらしい。

 なので橙ちゃんのように会話してあげる子や、魔理沙さんのように遊びに付き合ってあげる人はかなり珍しいのである。二人とも優しいしね。

 

 なお以上の事は決して口に出さない。だってラルバちゃんが泣いちゃうもん。

 

 ひとまず響子に能力を拡声器として代用し、湖を挟んでの対話を試みてみよう。

 

 

「はぁいお久しぶり。最近めっきり姿を見せないから心配してたんだけど、元気みたいで安心したよー」

「あたいはいつだって元気いっぱいだ! いまだってはち切れんばかりに元気だ!」

「おお……すっごい元気」

 

 響子の能力抜きでもこっちまで届く大きな声。わざわざ言葉にしなくても元気なのが嫌と言うほど伝わってくる。というか異常な生命力だ。

 

 よく見ると他の妖精達も普段に比べてやけに気が立っているというか、テンションが頗る高い。むかし地獄へと出向した時に見かけたクラウンピース配下の妖精くらいハッスルしてるんじゃないかな。

 

 そんなルナティック仕様と化した妖精が大挙して押し寄せる理由なんて絶対碌なもんじゃないね。

 

 

「で、今日はどういったご用件──」

「幻想郷サイキョーの座を賭けて、チョーゼツ強くなったあたいと戦ってもらう!」

「……どゆこと?」

「ブン屋の新聞に毎日デカデカと書かれてるだろ! 有名ってことは、つまり最強ってことだ!」

「お、おお」

「あとあたいの湖を変な爆弾でメチャクチャにしやがった仕返しでもあるな! 絶対ゆるさないぞ!」

「なるほどそういう事。……後ろの団体さんは?」

「妖精の誇りを賭けた一大決戦を見届けにきた命知らずどもさ! あたいはその代表だ!」

 

 とっても奇妙な話だ。いやまあ、最初から最後まで奇妙でおバカな話だけども、私が特に不思議に思ったのは、チルノの変貌を除けば取り巻きの妖精達の挙動である。

 

 妖精の殆どが集団での行動を好む為に、敵と戦う時は大抵複数人で事に当たる。

 でも頭が弱いから一定数を超えたり、自我の強いタイプが混ざると結束はすぐに瓦解する。この規模での集団行動は異常であり、本来不可能だ。

 

 そもそも、その一応のリーダーらしいチルノは妖精の中でも異質な孤高の存在。妖精を率いるどころか、誰かと協力するなんて事はまずあり得ないのだ。

 例外として大妖精と一緒に行動する事はあっても、コンビ止まりである。トリオ、カルテットは不可能。バカルテット? あれはワザップだったね。

 

 チルノの肌が焼けている事といい、何か私の知らない異常が起きているのか。

 いやまあ犯人には凄く心当たりがあるんだけどもね。むしろ『奴』とマイロードの未来での関係性を鑑みると、私に接触して来ないのが不思議な程に。

 

 真相を確かめたいところだが、興奮しているチルノに質問を投げかけたところでマトモな回答は得られないだろう。よって話を進めるに限る。

 

 

「自分だけじゃ私に敵わないから仲間集めに奔走してたってワケね。だがしかし! どれだけ数を集めたとて、このニッヒちゃんを超える事はできぬぅ!」

「なに言ってんの? 目的はそこでフヨフヨしてる黒いヤツ! リーダーであるそいつを倒して、湖と妖精のほこりを取り戻すんだ! あたいにブザマに負けた下っ端のあんたなんて、ハナから眼中にないわ!」

「ゑ」

 

「チルノちゃん。リーダーは黒い人じゃなくて、いま話してる人だよ。同じ金髪だけど多分」

「え、そうなの? あんなザコなのに?」

 

 人が秘密にしている黒歴史をそんな大声で拡散しないで欲しい。前回チルノをぶっ飛ばしたルーミアがボスだと勘違いされているのも大ダメージだ。

 

 仲間達の「マジで負けたの?」と言いたげな視線を無視しつつ、これは良い機会だと考える事にした。

 今後ウチと事を構えるのを躊躇する程度には嫌な目にあってもらおう。じゃないとキリが無いしね。

 

 

「その挑戦、紅魔館支部は受けて立つ! 正々堂々と戦ってやろうじゃないの」

「へん、そんな余裕でいられるのも今のうちだ! 前みたいにあっという間に片付けて、あたいの恐ろしさを分からせてやるぜー!」

「おっと待った」

 

 ぐるぐると腕を回しながら此方へ近付いてくるチルノを手で制す。話はまだ終わっていない。

 そちらが自機仕様になったのなら、用意される障害もそれに見合ったものにしなければ。

 

 

「ごめんだけど、私はもはや幻想郷に名だたる勢力の頭……いわば六面ラスボス枠。前の時とは立場が違うのさ。まずは一面から突破してもらわないと」

「6……? 1……?」

「要するに、私と戦いたければまずは四天王を突破しなきゃならないってこと。王は頂で座して待つのみよ!」

「なに言ってるかよくわかんねーけど、お前の手下を四人ブッ飛ばせばいいんだな! そんなの楽勝、常勝、秦河勝! さあ出てきな!」

 

 チルノから許可を取ったので、此方も心置きなく蛮勇無謀な妖精を叩き潰す事ができる。

 それではまず一人目、いってみよう。

 

 私が目線で合図を送り先鋒を打診したところ、彼女は喜んで引き受けてくれた。

 妖精相手で満足できるのかと心配だったけども、とびっきりの笑顔で腕まくりしているので元々からなんらかの形で参戦する気だったらしい。弱い者虐め大好きだもんね。

 

 そろそろ暴発して妖精達に突っ込んでいきかねないといった判断もあって、ガス抜きも合わせ映えある先鋒を彼女に任せる事にした。

 まあなんだかんだでインパクトは申し分ないし、ちょうどいいかなって。

 

 さあ紅魔館支部トップバッターは四天王でも部下でもない謎のゲスト、風見幽香! 初っ端からラスボス系魔王様の登場である。

 一面ボスは出オチの一般通行人枠。これが東方の常識なんだってさ。

 

 

 当のチルノは首を傾げていたが、その背後に控えている妖精達の顔は明らかに焦っていた。特に大妖精なんて親友の身を案じて真っ青になっている。

 妖精の間でも風見幽香の悪名は轟いているらしい。今まで何匹の妖精を虐め殺してきたんだろうね。多分聞いてもパンの枚数がどうとか、百から先は覚えていない的な事しか言わないだろうから聞かないけども。

 

 何はともあれ、こうしてチルノにとって人生最悪となるであろう地獄の連戦が幕を開けたのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ぢ、ぢぐしょー……!」

「まだ立つのね。中々見どころのある妖精だこと」

 

 妖精との戦いほど不毛なものはない。何度倒しても復活して、やる気ある限り性懲りも無くリベンジを仕掛けてくるんだもの。それは私の生き方と似通う部分もあるけれど、いざやられる側になると堪ったもんじゃない。

 

 しかも今のチルノは日焼け状態。やる気もテンションもマックスで、生半可な対応では勝ちを諦めさせることもできないだろう。

 

 だからニッヒちゃんは頭の中でイマジナリーマイロードと相談しつつ考えました。その結果導き出された答え。それは、妖精との戦いとは即ち心を折る戦いであるという事。

 もう二度と私に逆らいたくないと思わせる。それが唯一の勝ち筋なんだと思った。

 

 そこで考案したのが、比那名居天子やマホメドアライJr.も真っ青な地獄の五人組み手である。

 これで心が折れないのならそれは狂人か、とんでもないドMだろう。

 

 ガッツに溢れた強メンタル妖精のチルノは生半可な逆境ではへこたれない。現に彼女は半刻にも及ぶ幽香さんの責苦に屈する事はなかった。顔をボコボコに腫らしながらもしつこく食らい付く凄まじい闘志。

 やはり自機に選ばれるような子はモノが違うという事なのだろう。いやまあ、他は幼女の咲夜さんと鈴仙さん、文さんしか会ったことないけども。

 

 だがしかし、それも想定内。

 存分にチルノを虐めて満足した幽香さんが交代を告げると、次に飛び出したのは橙ちゃん。得意の回転飛行でチルノを弾幕ごと弾き飛ばす荒技を見せてくれた。やはり回転……回転は全てを解決する……! 

 

 

「橙も、ほどほど痛め付けたら交代でいいからねー。響子がやる気満々だし」

「ふんすふんす!」

「分かりました。すこし待っててください!」

 

「ちょ、ちょっぴり鼻っ柱を挫かれたけど、今度はそうはいかないぞ! あたいはまだまだ元気だ!」

「鼻っ柱じゃなくて出鼻じゃない?」

「うっさいわね! 国語の先生を気取るな!」

 

 幽香さんから受けたダメージもあるのだろうが、種族の差か或いは鍛錬の差か、チルノは橙ちゃんのフィジカルに圧倒され一方的な蹂躙を受けていた。

 

 そして足腰が震えて満足に立てなくなった頃に響子へと交代。なおもファイティングポーズを取るチルノへと無情の大声攻撃を浴びせ掛ける。内部への直接攻撃である。

 なんか響子の戦闘スタイルが日に日に残虐寄りになってる気がするんだけども、これってもしかして私のせいだったりするんだろうか。いやそんな、まさかね。

 

 

「幽香の訓練じゃないからみんな生き生きとしてるね。やっぱり根は戦闘大好きなんだよ、きっと」

「そういうルーミアはどうなのさ」

「ノーサンキュー」

 

 ちなみに前回チルノと戦っているルーミアはメンバー外となっているため、決戦場から少し離れた場所にて私とオセロで遊びながら適度に観戦している。

 本人も別に積極的に戦いに赴きたがるような性格ではないので文句は無かった。むしろ休めてラッキーと言ったところだろう。それでいいのか私の右腕。

 

 ちなみにその傍では、戦いを終えた橙ちゃんが幽香さんから戦闘法についてのダメ出しを受けて心底嫌そうな顔をしている。ただそれでも突っぱねたり拒否したりしないのは、説明が理に適っているからだろう。橙ちゃんは頭が良いからね。

 

 と、チルノが泡を吹いて倒れたのを機に選手交代となるようだ。四天王最後の乙女はラルバちゃん。奇しくも同じ種族同士の戦いとなる。

 

 

「いいラルバ。同族だからって手加減したらダメだよ!」

「手加減? なんで?」

「お、おお……。まあいっか! がんばれ!」

 

「しゃあっ、やるぞチルノ! 最強の妖精の座はわたしがいただいたぁ!」

「く、くそぉ……! たとえボロボロでも、あたいがラルバなんかに負けるもんかぁ……!」

 

 どうやら満身創痍となっているチルノ相手でも手心を加える気は毛頭ないらしい。まあ痛くなければ覚えないからね、仕方ないね。さすラル! 

 小心者のくせにこういう所はちゃっかりしているラルバちゃん。その生き様はどこか小悪魔後輩を彷彿とさせる。これを褒め言葉とすべきか、貶し言葉とすべきか。

 

 そういえば随分と静かになったと思ってギャラリーの妖精達へと目を向けるみると、飽きてしまったのか既に半分くらいが帰っていた。残ったのは謎の力でガンギマッてる異常個体と、純粋にチルノが心配な子だけみたい。

 良くも悪くも純粋な種族だからね……。子供ゆえの残酷さというやつだ。

 

 と、少し目を離した隙に戦いとは到底呼べない一方的な争いは終わっていたらしく、倒れ伏したチルノを前にラルバちゃんが勝鬨を上げる。

 

 

「ニッヒ様、終わったよ〜。トドメはわたしが刺してしまってもいいの?」

「いや、ここまで頑張ったご褒美に最後は私が相手をしてあげよう。手ぶらで帰すのは無作法というもの」

「やさし〜! ……あれ、優しい?」

 

 戦いを続けるか否かの選択権はチルノにある。彼女が敗北さえ認めればそれでいいのだから相当甘ちゃんなやり方だとは思うけどね。実際マイロード相手だとこんなもんじゃ済まないだろうし。

 

 しかし幻想郷きっての負けず嫌いであるチルノにその選択肢は無かったらしい。凄烈な意志を宿した瞳で、倒れ伏しながらも此方を睨んでいる。

 やる気満々、元気いっぱいって感じだね。

 

 ではトドメを……と、一歩踏み出した瞬間である。一発の弾幕が私のすぐ横を掠めて通り抜けていく。大妖精が放ったものだという事はすぐに分かった。

 気付けばお通夜状態であった妖精軍団が騒がしくなっている。遂に抑えが効かなくなったか。

 

 

「みんな! チルノちゃんを助けよう!」

「やつらはチルノとの戦いでいっぱい体力を削られてる! 今なら確実にやれるよ!」

「多勢に無勢だッ! いっけぇ!!!」

 

 誰かが声高らかに叫ぶと同時に、それに後押しされて妖精達が堰を切った激流のように湖を突っ切り此方へと押し寄せてくる。

 

 何をいけると判断したのかは分からないけど、仲間を救うために敵と戦おうとするその精神は誉れ高い。

 ニッヒちゃんはそういうのに弱いんだ。思わず涙腺が緩んじゃう。

 みんな偉いね、可愛いね。でも敵対したから潰すね……。スカーレットニヒリティ発動の準備を開始。

 

 あんな大勢が密集してるなら手っ取り早くぶち込まないと損だよね。STGで言うのボムの使い所である。

 

 

「手を出すなーっ!!!」

「っ!? チ、チルノちゃん……?」

「これはあたいの戦いだ!!!」

 

 奥義発動まで数秒というところで、チルノの怒声が響き渡る。ハイテンションになっていた妖精達は、冷や水をぶっかけられたように静まり返った。

 

 感情の昂まりに応じて周囲の温度が低下。湖が瞬く間に凍り付き、形成された氷山が妖精軍団と私達の間を遮った。あの子達には手を出させたくないらしい。

 

 やはり曲がりなりにも彼女は立派なリーダーだ。というか私の目指しているリーダー像そのままである。先を越されたようでちょっとショック。

 

 

「あんた、ちったぁ怯えなさいよ。目の前にいるのは幻想郷サイキョーの妖精だぞ……!」

「うんそれは素直に凄い事だと思ってるよ。でも私のご主人様は幻想郷どころか世界最強……否、宇宙最強! だからちょっとインパクトがね」

「ぐぅぅ〜負け犬のくせにふざけやがって〜! あんたなんて、羅馬尼亜牛と一緒に冷凍保存してやるわ!」

「ちょっと待って。戦う前に一つ聞きたいんだけど、いいかな?」

「やだね! 戦いながら話せ!」

「じゃあそうしよっか」

 

 チルノを中心に強烈なブリザードが吹き荒れる。その勢いたるや紅魔館支部最軽量のラルバちゃんが飛んでいってしまうほどである。たった一人の妖精が生み出す現象としては影響力が大き過ぎる。

 将来的には二つの作品で主人公に抜擢される規格外の妖精だ。やはり有象無象とはモノが違う。

 

 でも吸血鬼と殺り合うには、ちと足りない。

 

 

「私ね、最初は貴女のことを子分にしようと考えていたの。貴女ほど強くて面白い妖精は中々いないからね。今からでも全然受け入れるけど……」

「そんなのやなこった! あたいは誰の下にもつかないわ。立つ場所は常にチョーテン!」

「だよねぇ。じゃあ私達はやっぱり潰し合い続けるしかない訳だ。私も貴女も霧の湖からは離れられないんだもん。仕方がない、仕方がないねぇ」

 

 異形の翼を羽ばたかせる事で魔力の風を生み出し、ブリザードへと溶け込ませる。魔法を構成する術式を一部狂わせる事で制御を奪う破壊の力。

 

 やっている事は『スターボウサイクロン』と殆ど同じだが、あれは強力な分だけ術式の維持に相当のリソースを取られるからね。パチュリーさんには通じなかったし。

 なのでより簡易的かつコンパクトな技を別に用意しようと常々考えていたのだ。

 

 チルノの目には展開した自慢のブリザードが僅かな身動ぎで霧散してしまったように見えるだろう。マイロードの能力はどれも視覚効果抜群だ。

 

 

「でもこの通り彼我の戦力差は歴然だよ? 不思議パワーで強化されている今の貴女ですら、どうひっくり返っても私には勝てない。それでも戦う?」

「そんなのやってみなきゃ……!」

「こんな風に、その程度の冷気なら簡単に消滅できちゃうの。身体が冷気そのもので出来ている貴女も同じく、あっという間にバラバラにできてしまうかも?」

「な、なんだとお!?」

「私もこっちで強くなり過ぎた……。前回のようなまぐれは二度と起きないんだよ」

「うるさい! これならどうだぁ!」

 

 チルノが時間をかけて生成したのは、私を丸々覆い隠すほどに巨大な氷塊。ブリザードが通じなかったから即座に質量攻撃へと切り替えたか。やっぱりチルノってバカだけど地頭はそこまで悪くないよね。バカだけど。

 

 豪快なフォームで投げつけられた氷塊は、私に到達する寸前で粉々に砕け散った。彼女と同じく即興で氷塊の壁を生成し相殺したのだ。

 パワーも技量も、こちらが数段上である事をこれでもかと誇示していく。

 

 思い出せ、史上最高の恐怖を。

 敵の心をズタズタに引き裂くサディスティックの化身、マイロードの立ち振る舞いを。

 

 相手に一切の言い訳を許さず、徹底的に敗北を叩き込む為のプロセス。傲慢、驕り、悪意を以って行われる無慈悲な蹂躙こそが破壊神の真骨頂だ。

 正直私とはあまりシナジーが無い性質なんだけど、腐ってもマイロードの分身体だからね。あの方の影として存在する為なら自分を曲げる事だってできる。

 

 

「今も、そしてこれからも貴女の土俵でやってあげるよ。得意な技、自慢の技、最強の奥義……全部使っておいで。私はその全てを、貴女と同じ方法で正面から捻じ伏せる。そのおバカな頭でも忘れられない敗北を、屈辱として刻みつけてあげる」

「……!」

 

 決まった。ハチャメチャに格好良く決まってしまった。これはもはやジェネリックマイロードと言っても過言ではないだろう。

 私の出せる威圧を遺憾なく最大限に発揮した形になる。泣く子も黙る大妖怪としての貫禄! 

 

 これでチルノの不撓不屈とも呼べる精神をへし折る事ができたら大層な自信になるのだけども。

 やはりこの妖精は折れない。輝きが霞むどころか、どんどんと眩しくなっていくばかりだ。

 

 

「ここまで言われても勝つ気なんだ」

「あったりめーよ! 負けるつもりで戦うバカなんていないだろ!」

「んー……このままだと死んでしまうのだとしても? 自然だって死ぬときは死ぬ。辛いと思うよ、とても」

「そうかい! でもどんなにつらくても舐められっぱなしはイヤだ。幻想郷の偉いやつ強いやつ、みんな見返してやるって妖精のみんなと決めたんだ!」

 

 非常に困ってしまった。チルノの頑なな意志に対してというよりも、私の中で生じているチグハグな心境に対してだ。

 

 というのも、チルノの生き様に共感してしまっている自分がいるのである。もし私がこの子の立場だったとしても、同じような言動をしていただろう。あんなにバカっぽくはないけど。ないよね? 

 あと横暴なマイロードムーブに疲れたっていうのもある。故にチグハグなのだ。

 

 ……もういっそのこと、すっぱり諦めようか。

 

 そも妖精を屈服させて言うことを聞かせようとする事自体が間違いだったのだ。

 事実、後にも先にも妖精を支配下へ組み込む事に成功しているのはレミリア閣下とヘカーティアさんといった規格外な二人だけだからね。相当難易度が高いのだろう。

 むしろ色々難はあれど言う事を聞いてくれているラルバちゃんが異常なだけだ。

 

 今後も発生するであろうチルノとのいざこざは、霧の湖に住む住民税とか固定資産税みたいなものだと思って受け入れるしかないね。

 

 

「認めるよ、妖精の心の強さを見縊っていた。どうも真の意味で貴女を負かすのは無理みたいだ」

「なんだ降参か? あたいの勝ち?」

「いや別に私も負けてないし。今日のところは勝負を預けておいて、今後ともよろしくって感じで終わらない? 和を以て貴しと為すってやつだね」

「やだね! 訳の分からないことを言ってあたいから逃げようったってそうは──」

「今後ともよろしく吸血鬼タックル!!!」

「ぐはあぁぁぁあ!?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 その後、氷塊に叩きつけられ失神したチルノを大妖精に引き渡し、今回の騒動は終結した。

 

 またその際に「霧の湖から追い出すつもりは無いから安心して欲しい」「いつでも挑戦は受け付けるけど、今回みたいにちゃんとルールを守って楽しく決闘(デュエル)しようね」といった事を言伝しておいた。

 

 一応沈静化してくれる事を願っての言葉なんだけども、多分聞いてくれないよね。チルノだもん。

 

 いっそのこと妖精の相手は全て幽香さんにお願いしてしまおうか。あんな元気が良くて無鉄砲な可愛い妖精は大好物だろうし。流石に怒られるかな? 

 

 最悪『チルノちゃん係』を当番制で回していく事も考えるニッヒちゃんなのであった。

 

 

 

 

 

 紅魔館支部にとって日常の延長線にあるようなこの騒動。これそのものは笑い話で終わる程度なんだけども、未来を知る私は、それだけでは終わらない……否、終わってはならない事を知っている。

 

 この楽園を牛耳る管理者。賢者を名乗る幻想郷最上位の存在と本格的に向き合わなければならないフェーズ。それが近付きつつある事を予感していた。

 

 





なおゆうかりん係はニッヒちゃん固定であるものとする。
また我々視点ではすっとぼけにしか見えないニッヒちゃんですが、ガワは腐ってもフランドールなので初見だと普通にクッソ怖いものとする。

あと数話したところで、とある展開に合わせて挿絵が追加される予定です。お楽しみに♡
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