みんなも紅魔郷リメイクをプレイしてマイロードと握手!
静寂が支配する霧の湖に私の拒絶が響き渡る。
本家大元とは似つかない突然の大声。まず一番に反応したのは私でも紫さんでもなく、周囲の聴衆だった。
終始口を挟まず拱手傍観に努めていた藍さんが殺気立って袖から手を抜き出す。
彼女ほどの使い手ともなれば、手を翳すだけで相手を即座に破滅へと追い込む妖術を駆使する事も容易い。拳銃を突き付けるに等しい行動。
と同時に幽香さんが傘先を大地に突き刺し、周辺一帯を陥没させて威嚇。
他のみんなも「決裂だ! 乱闘だ!」と騒ぎ立てながら、各々妖力を漲らせこちらに突撃しようとしている。戦意は上々、大妖怪の威にも臆していない。
しかしそれらは私と紫さんの制止によって一気に沈静化する事になる。
まだ『その時』ではない事を互いに感じ取っていたからだ。私のエアプ漫画家ムーブが今回の会談における一つのターニングポイントになったのは確かだが、それで決着ではない。
「私の式神が失礼しました。何分術者が未熟ゆえ、感情の制御が不安定なものでして」
「いや、私の方こそ気分が昂って……。大声を出しちゃってごめんなさい。藍さんもごめんね、ドスケベフォックスの件といい重ね重ね許してクレメンス!」
「紫様っ! そいつ殺しましょう!」
「落ち着きなさい」
真摯な謝罪への返答は手厳しいものだった。やっぱり初対面のアレコレが悪かったんだろう。
文さんや椛さんで立証済みではあるが、やはり悪質吸血鬼タックルは強力な分だけ相手からの心証へのダメージも大きい事を再確認できた。とんだ諸刃の剣である。
一応初披露の相手である小悪魔後輩とは結構仲良くやれていたと思うんだけども、アレはあの子が特殊だったからなのかなぁ。凄い変わり者だもんね。
と、紫さんの咳払いに応じて気を引き締め直す。話を戻さないとね。
それにしても、紅魔館の皆様の名前が出た事でテンションが爆上がりしたニッヒちゃんや、色めき立つ周りのみんなとは違って、彼女は冷静だった。
興味深げに目を細め、私を見据えるだけ。
「もしかしてなんですけど、私が提案を蹴ることを予測してたりとか?」
「いいえ。それを考慮しなかった訳ではないけれど、どちらかといえば乗ってくる可能性の方が大きいとは考えていました。あくまで私が現時点で保有する情報と照らし合わせた予測にはなるけれど」
「あらら、分析失敗ですね!」
「フランドールに対する狂信的なまでの想いを前提として、これまで貴女がやってきた事や、幻想郷を征服せんとする野望を鑑みるとそこまで不自然ではないわ」
紫さんの目線で考えれば、私の幻想入り後のムーブは紅魔館受け入れの下準備にしか見えない、ということか。
しかし現時点での紅魔館ではそんな動きが一切無いし、私の事も忘れ去られている。故に私の一方的な片思い的行動だと推測したと。
確かにそれだけの判断材料が集まっているのなら、私が提案に乗り気になると考えるのも不思議ではないね。
「貴女を取り巻く状況は私が思っているほど単純では無いのか……もしくは、合理性を持たない感情的な刹那主義者であるか。そうね、まずは拒絶の理由を伺っても?」
「勿論ですとも!」
優雅に微笑む様はなんとも絵になるのだが、薄っすら開いている瞳から感じる視線でやや不気味さが勝つ。心の奥底を見透かそうとするような恐ろしい目だ。まるで覚妖怪を相手にしている気分である。
そもそも彼女はどこまで私に関する情報を保持しているのか、それが全くの不明だ。
口振りからして紅魔館メンバーの誰かから手に入れたモノなのだろうが、当然その対象によって得られる情報の質も量も変わってくる。判断ができない。
というか現在の紅魔館における私の扱いが謎過ぎる……! でもニッヒちゃん完全に忘れられてるもんなぁ。多分碌なもんじゃないだろうね。悲しいね。
気になる事が湯水のように次から次に溢れ出してくるが、一旦それらは捨て置く事にしよう。まずは紫さんに私の考えを伝えるのが先決だ。
「理由は大きく三つ! そしてまず一つ目ね」
私は体勢を若干前のめりにして、紫さんへの圧を強める。彼女からすれば微風のように感じる程度のものかもしれないが、その姿勢を示すのが大切なのだ。
だって最初の理由は私怨だから。
「私の身柄と名前を使うとかどーたら言ってるけど、私は八雲紫の道具じゃない。フランドール・スカーレットの道具なの。驕りが過ぎるよ、賢者様」
「……失礼いたしました。だけどそれはあくまで言葉の綾であって、別に貴女を完全な支配下に置くための布石でない事は理解していただきたいですわ」
「関係ないね。どういう形であれ、私は誰の指示も聞かないと決めてるの。だって私に命令できるのはこの世でたった一人、マイロードだけなんだもん」
その点、天狗上層部と管狐の典ちゃんは賢かったね。私と対等な盟約を結ぼうとするのではなく希薄な関係性に留め、自然な流れで日々の略奪が成立するよう整えたんだから。従属なんて求められた日には即ニヒリティだ。
偶然と無用のメンツが織りなした奇跡の産物である。それにあの場面で陪臣である典ちゃんを寄越してきたのも良い判断だ。直参であろう龍さんや文さんだったらこうはいかなかっただろう。
何にせよ、紫さんは知らないうちに私の地雷を踏み抜いてしまった訳だ。
「で、次の理由なんだけど……これがちょっぴり恥ずかしい話なんだよね」
「といいますと?」
「私を利用してレミリア閣下とマイロードを呼び寄せる計画。これってつまり、私があの御二方に何らかの影響力を持っていないと前提から成立しないと思うんですよ」
「然り。スカーレット姉妹の三女が幻想郷に居る、これ以上の誘引材料はないのでは?」
「三女? 私が?」
真顔でとんでもないワードをぶっ込まないで欲しい。寒暖差で風邪を引いてしまう。
さては紫さんもワザップに騙されて詐欺罪と器物損壊罪で訴えちゃうタイプの情弱さんだな。恐らく美鈴さんか小悪魔後輩のおべっかを真に受けたのだろう。
「それは悪質なガセですね。私はただの使い捨ての分身! なんと畏れ多い!」
「いいえ確かな情報ですわ。詳細な実態に多少の差異はあれど、貴女はそれに相当するだけの立ち位置を紅魔館で確保している。随分と大事にされていたのね」
「大事……???」
どこの世界線に位置する紅魔館の話をしているのだろうか。もしかして月面で自爆した際、無自覚に異世界転生しちゃったのかな。そんな荒唐無稽な考えが浮かぶほど、当事者たる私にとってあり得ない話だった。
もしや私が殉職した事で二階級特進により姉妹の三女擬きまで格上げされた、みたいな扱いだったりして。一応ニッヒちゃんって当主代理の代理だったし。
「た、確かに私は優秀で得難き従者ですけど、あの二人が私の為にわざわざ腰を上げるなんて事は絶対にあり得ない! 名前を出して誘き寄せようとしても鼻で笑われてしまう可能性大! 私が泣いちゃう!」
「……信じていただけないのなら仕方がないわね。心情的に強い抵抗があるのは理解しましたわ」
「あとそれ、間違ってもマイロードに言わないでね!? 絶対に不興を買うから!」
念のため釘も刺しておく。最悪の場合、私と紫さんが揃ってマイロードに狙われる事になりかねない。
まったく、紫さんのせいで調子が狂っちゃったね。今日はシリアス寄りのニッヒちゃんだったのに。
まあ何はともあれ、ここからが拒絶の核心である。
「次が最後にして最大の理由。……紫さん、私は貴女のことを本当に素晴らしい妖怪だと思ってます。窓口として摩多羅隠岐奈ではなく貴女を選択したのはそういう事」
「お褒めに預かり光栄ですわ。ただ……本音を言うと隠岐奈と比べられるのは何というか」
「比較対象が悪かったねごめんなさい」
やっぱり同僚の中でもそういう扱いなのかと秘神の立場を薄ら理解しつつ、話を進める。
「幻想郷という世界を存続させる上で八雲紫の存在は不可欠。貴女無くして幻想郷は語れない」
「それは過分な評価ですわ。私程度の妖怪など掃いて捨てるほど幻想郷には溢れている。この世界を幻想郷たらしめているのは博麗の巫女です」
「それこそ代わりを用意できる程度の存在に過ぎないんじゃないですか? それにハッキリ言って今の巫女に私や幽香さんを押し留める程の威勢は無い」
「永遠の中にだって多少の変化はある。次代、次々代は分からないわよ?」
「巫女には次がある。でも貴女に次は居ない」
「八雲紫が滅びた後も幻想が果てなく続いていく事こそ、私の願い。私が居なくなったとしても私の跡を継ぐ者が必ず現れる。そこに居る藍のようにね」
「紫様……! そのようなことは」
「仮の話よ」
やはり八雲紫は幻想郷を深く愛している。私の謎知識に存在する彼女を語る上で絶対に外せない要素。ここまでの問答でそれが誤りでない事は分かった。
故に、私と貴女は相容れない。
八雲紫にとって幻想郷が一番大切であるように、私にはマイロードが絶対だからだ。
「その尊い永遠も、レミリア閣下とマイロードの前には塵芥に等しい。自分を曲げてまで守るものじゃない。貴女の理念と幻想郷をイコールとは見ないでしょう」
「そうでしょうね」
「ハッキリ言わせてもらうけど、あの御二方は誰かの風下に立つどころか横並びすら許さないと思います。生涯不敗にして最強だもの。月人にだって負けなかった」
言葉を区切る。月とは浅からぬ因縁のある紫さんの前で、敢えて月面戦争について言及したのだ。何かしらの反応があるだろうと思っていた。
しかし彼女は表情を微塵も動かす事なく、ただ当然の事として涼やかに受け止め、その代わりに私を眺めていた。どこまでも不気味な妖怪だ。
「幻想郷にやって来た時は未曾有の大騒動になります。間違いなく、支配の為に紫さんを含む全勢力に対して宣戦を布告し、殺しに来る。相当な量の血が流れますよ」
「かもしれないわね」
「私も当然、マイロードの命令に従う事になりますので……。あの方が望むなら人間を沢山殺して食糧にしますし、紫さんを殺す事になるかもしれない。幻想郷そのものへの攻撃だって一切躊躇はしません」
「なら何故、私にその話を? 申し出も拒絶せずに協力する振りだけして、主人達を幻想郷に呼び込んでしまえば手っ取り早いのに。幻想郷支配は貴女の目標でしょう」
「私もまた幻想郷を愛しているからですよ。全てを失った私に、その代わりとして一時の自由と仲間を与えてくれた場所。そんな楽園が身内の騒動で、しかも私が発端で崩壊してしまうなんて勘弁なので。だから嫌なんです」
目を閉じれば、これまでの情景が鮮明に思い浮かぶ。本当に素晴らしい世界だと思う。
日本の原風景を保った美しい自然。多種多様な信念を持った人間や妖怪、妖精達。今後訪れるであろう面白おかしい未来。キャンキャンうるさい天狗達。
できる事なら守りたい。そう思わせるには十分過ぎる期間を、私は此処で過ごしてきた。
「戦争を回避できる目があるとすれば、私の幻想郷征服が成就した場合ですね。献上品として差し出された土地ならば、レミリア閣下は無体な事をしない。先に申した通り、私は紫さんを不可欠な存在だと思っているので排除もしない。これぞWin-Winの関係というものですよ!」
「それは……なんとまあ」
紫さんは困った様子で苦笑いを浮かべる。非常に利己的な答えである事は自覚している。
紅魔館の幻想入りによって幻想郷が壊れてしまうのだとしても、それは運命だと受け止めよう。しかし、それが私のせいになるのは非常に抵抗があるのだ。
ついでに私は謎知識によって『吸血鬼異変』と呼ばれる大騒動が起きる事を知っているからね。今の時点でわざわざ私を出汁にする必要はないんじゃ無いかと思ったの。
レミリア閣下の自発的な行動に身を委ねた方が、原作との歪みも少なくて済みそうだ。多分あっち側でも運命を見て適切な時期に来てくれるだろうし。
仮に紫さんの計画を実行するにしても史実通り原作開始から十年くらい前。少なくとも博麗霊夢が生まれた後がいい。これは未来を知る私ならではの判断だけどね。
さて、私から語るべき事は以上だ。
今回の会談を如何収めるかの決定権は最初から紫さんに委ねている。全ては彼女の選択次第。
まあその前に、後ろに控えている式神さんの忍耐が途切れるのが先かもしれないけど。
少しの沈黙を経て、声を発する。
「想いは伝わりました。しかし誤りは正さなければなりません。貴女の主張には大きな穴がある」
「そうですかね?」
「貴女の語った出来事は全て、幻想郷の戦力がレミリアとフランドール、そして
「──この私が吸血鬼の小娘姉妹に負けるとでも? 随分と舐められたものですわ」
会談が始まってからずっと平坦な口調を保っていた紫さんが、ほんの僅かに声音を変える。それだけでも周囲に齎す影響は絶大だ。
扇子の骨組みが強い音を鳴らす。鉛のようにじっとりとした重い妖気だった。
マイロードの敵対者に逃れられぬ死のイメージを叩き付けるような殺気ではなく、レミリア閣下の万物を慄かせ膝かせる厳かな威圧感でもなく。
何にも当て嵌まらない未知を相手にする心細さ。理解の外への曖昧な恐怖とでも言うべきものだ。
落ち着けニッヒ。大丈夫、強い相手を前にした際のルーティンを思い出せば何も問題はない。
そう、マイロードの方が強くて怖いに決まっている! マイロードという指針が存在する限り、ニッヒちゃんのメンタルがブレイクする事などあり得ない!
強気に言い返すべく口を開き──機先を制するように言葉を叩き込まれ、思わず黙ってしまう。
「吸血鬼ニッヒ。貴女は幻想郷の仕組みを大雑把ではあれど理解できている。賞賛に値するわ。しかしそれに反して、相手の力を過小評価する嫌いがあるわね。いや、正確にはフランドール以上の敵を前にすると判断が狂うといったところかしら」
「……何が言いたいんですか」
「今回の提案は慈悲ですわ。貴女を幻想郷に住む一人の妖怪として尊重し、敢えて交渉という形を取ってあげたの。でも頷かないというのなら、貴女を飛び越えてレミリアと直接交渉するのがいいかもしれないわね。勿論、貴女の名前を使って」
「結局私を呼び水にするのはハナから決まっていたわけだ。賢者様も人が悪いね」
「隙間妖怪ですもの。ヒトデナシですわ」
これは上手い、一本取られたね。
確かに、紫さんに紅魔館を完封できるだけの自信が本当にあるのなら、私を通さず無断でレミリア閣下にニッヒという名前を出すのが定石。
それで本当に来てくれるかどうかは別として、彼女の言う紅魔館誘致策は成就した筈。
紫さんの言葉が真実であるとした場合、それをせずわざわざ私に話を持ってきてくれたのは、確かに慈悲という他ないのだろう。
もしくは全てがブラフで、紅魔館を幻想郷の被害無しに抑えるのが難しいから私を騙くらかして懐柔し仲介役、もしくは人質にしようって魂胆なのかな?
それに私だってただの雑魚じゃない。その気になればスカーレットニヒリティで幻想郷を道連れにできるのだ。という事は、本当のターゲットは私?
うむむ、賢将を自認する私でも話がややこしくなり過ぎて付いていけなくなってきたぞぅ。
「どうして、なぜそこまで紅魔館に拘るの?」
「今後の幻想郷には彼女らが必要だと判断したまでですが……その詳しい理由については黙秘させてもらいます。貴女と同じく、私にも知られたくないモノが胸の内にありますから。乙女の秘密ですわ」
「ぐぬぬ!」
「ただこれだけは断言しておきましょう。私にとって最大の望みとは、貴女や紅魔館の面々を幻想郷の仕組みで囲う事。たったそれだけなのです。脅威の排除ではない」
「……紫さんって人からよく胡散臭いって言われない? 言われるよね?」
「あら褒め言葉」
今更お茶目に舌を出しても騙されないぞ。八雲紫はとんでもなく恐ろしい妖怪だ。この数十分の会話でそれを嫌というほど思い知った。そりゃ色んな人から嫌われる訳だ。
私が今まで出会ってきた人達はみんな性格がハッキリしていたので、ここまでのらりくらりされると戸惑ってしまう。優しいなら優しい、冷酷なら冷酷でハッキリしてクレメンス。
さて、これでボールは再び私の手に戻ってきた。紫さんが提示した道は二つ。
彼女の傀儡として紅魔館の誘致に協力するか、私の手が入らぬまま紅魔館との交渉を放置するか。
なおいずれにしても幻想郷は燃え、紅魔館は倒壊し、私は折檻されるものとする。
紫さんは私の言葉を待ち続けている。
何と答えても彼女のやる事は変わらないのだから、まさに余裕綽々って感じ。さらに後ろでは藍さんが勝ち誇った顔をしていた。可愛いね。
なんというか、悦に浸っているところ申し訳ないのだけれど、私の答えはどれでもない。
「よし、じゃあ
「……はい?」
「私が勝てば幻想郷のトップは晴れて私のもの! 紅魔館の呼び込み方は全部私の指示に従ってもらう! もし私が負ければ、その時は虜囚の身として可能な限り出来ることをやったげようじゃないの。あんまり無理なことを言うと自爆するけど」
サプライズカラカサ理論である。
私は自分の思惑通りに事が運んで勝ち誇っている奴にノーを突き付けるのが大好き! このまま紫さんの思うがままに進むのは面白くないので、いきなりとんでもない答えを突き付けて相手をビビらせましょうの精神!
さらに付け加えると、今回の会談がどんな内容になるにしろ紫さんへ平和的に喧嘩を売る予定ではあったのでちょうどいい。
ラスボスを前にして日和るような真似はしない。それはレミフラ姉妹様の言う吸血鬼の流儀に反するからだ。
「……先にも申した上げた通り私は貴女を無視することもできる訳だけど、その決闘とやらを受ける事に何かメリットがあるなら教えてくださいな」
「そんなの決まってるじゃん。貴女を始めとした幻想郷の守護者達の強さを私に教え込むことができれば、私は心置きなくレミリア閣下に戦争回避を提言できる。それに万が一が起きても紅魔館の三本柱のうち一つを予めへし折っておけるよ。しかもいつ爆発するかも分からない一番危険でヤバい奴!」
実際のところ、私は三本柱に数えられるほど強くはないだろう。明確に勝てるって断言できるのは小悪魔後輩だけだもん。それに一番危険な奴っていうのも私じゃなくてマイロードに決まっているし。
でも紫さんが私に過分な評価をしてくれているなら、存分に利用させてもらう。
「私を飛び越えてマイロードと戦おうなんて、そうはいかないよ! まずは従者たる私の屍を越えてもらおうか! もっとも全てを知った気になってスカしているような自惚れ屋さんになんか負けないけどね!」
「ふふふ……酷い言われようですわ。まあ事実なのでしょうがないけど」
「ついでに紫さんが紅魔館の戦力を見誤っていると大変だからね。まずは尖兵たる私を通じて本当に完封出来得るだけの力があるかを見定めるといいよ。ちなみに私はスカーレット三姉妹の中でも最弱ッ!」
「先ほど三女ではないと言ってなかったかしら?」
ツッコミは悉く無視して言いたい事だけを言い切ってやった。スッキリ!
やっぱりグチャグチャした腹の探り合いはニッヒちゃんの土俵じゃないんだよね。そもそも腹芸じゃ賢者である紫さんに敵うはずもない。
やはり暴力。暴力が全て解決する!
乙女と乙女は拳を交えてこそ分かり合う事ができるのだ。ソースは紅魔館の皆様と幽香さん。
「断れば?」
「今ここで全身全霊のスカーレットニヒリティを披露する事になる。少なくとも幻想郷の半分と式神さんは私と一緒に白玉楼行きかな!」
「野蛮人め……! 紫様、一言命じてさえいただければ、奴が術を発動する前に仕留めてみせます」
「それじゃあ意味がないのよ、藍」
「よろしい。幻想郷の存亡を引き合いに出されると私も動かざるを得ないわね。……それに風見幽香を下した貴女の戦闘能力を一度この目で直接確かめておきたかったところですわ。幽香や藍と戦った際は運悪く紅魔館を訪問していた最中だったので」
「そういう所が自惚れって言ってるんだよ紫さん」
「はて?」
「確かめるべきは私じゃない、私"達"の力ね。ニッヒちゃんだけを見てると火傷するぜい!」
「……」
ちらりと、私の背後へと目が向けられた。恐らく彼女の視線には私と幽香さんしか入っていなかったのだろう。そういえば、とでも言いたげに四天王のみんなを見遣る。
しかしあまり興味は唆られなかったようで、すぐに私へと向き直ってしまった。どうやら話に乗ってくれるようだ。優しいのか、はたまた驕りか。
「ではその決闘はいつ頃に? 今すぐ始めるのも、やぶさかではないわよ?」
「まあまあそう急ぐ事はないよ。私達にも準備が必要だし、そっちも仲間が藍さんだけじゃ寂しいじゃん。そうだなぁ……うん、一週間後なんてどう?」
「なるほど、吸血鬼が最も力を発揮できる時間帯ね」
私は何も答えず、無言で微笑むのみ。
二人揃って空を見上げる。紫さんは暦から月齢を割り出し、その時を言い当てた。
中秋の名月。フルムーンの魔力によって、夜に生きる者達の力が最大限発揮できる日である。
背後からは「一週間っ!? 短くない!?」や「もっと引き伸ばしてよ!」だの「七日なのかー」と言った悲鳴混じりの声が聞こえてくるが、今は対話に集中しなければならない。よって無視!
「紫さんにとっては、あくまで対本家紅魔館を念頭に置いた戦いだからね。ちゃんと本物を相手取るつもりでメンバーを揃えてくる事。結果がどうであろうが、互いに本気じゃないとこの戦いに意味は生まれない」
「本気のメンバーねぇ。少し難しい注文だけど、善処しましょう。ただし決戦当日までの盤外戦術は控えてちょうだいね? 戦り合うのはその日限定よ」
「盤外戦術ですか。例えばどういうのが嫌なんです?」
「人里や博麗神社に
「あー……じゃあ無しにしましょっか」
取り決めはこんなものでいいだろう。あんまりルールで雁字搦めにしても、それは只の競技であって本当の戦闘にはなり得ない。本気の八雲紫が来てくれなきゃ困る。
と、紫さんはスキマを開くと先に藍さんを帰還させる。話が纏まった以上、長居は無用と考えたか。もしくは早速メンバー集めに動き始めてたりして。
さて私も諸々の準備を始めようかと腰を浮かせると、ふと紫さんに呼び止められる。スキマから上半身だけ出して、境界の淵にもたれている。
「貴女、随分と『先』を見ているのね」
「えーっと……ニッヒちゃんの視力は吸血鬼の中だと下の下ですけど」
「今回だけじゃない。此処に辿り着いてから今に至るまで、幻想郷について詳し過ぎる。秘神である隠岐奈に関する知識にも欠落がない。古参の妖怪である風見幽香をも特定分野の知識では凌駕しているのも不自然」
「ニ、ニッヒちゃんは昔から勤勉家なのですよ。自己研鑽をマイロードから命じられてますので」
「ふぅん」
「私達、もしかすると似た者同士なのかもね?」
「げっ」
「それではまた一週間後。貴女達の残酷な
妖しげな笑みを残して、今度こそ境界の先へと消えていく。残されたのは私だけだ。
結局最初から最後まで意味深尽くしな会談だった。やはり東方の賢い人達は迂遠な話し方をしないと死んでしまう病を罹っているに違いない。
ていうか似た者同士って何のことだろ。紫さんと私の共通点なんて傘愛好家である事と金髪でおっぱいが大きい事しか思い付かないけどなぁ。まったくもって謎である。
何にせよ、あんな不気味な妖怪と同類扱いなんて勘弁してクレメンスって感じだ。
アイツの言う事は話半分に聞いた方がいい。そんな忠告を私の中のイマジナリー
ゆかりんは白々しいお喋りが大好きなものとする。
また今回ごちゃごちゃと話していましたが、要約すると両者とも「吸血鬼異変と東方紅魔郷を発生させたい」だけであるものとする。
ここから第三部もクライマックスになっていくらしいです。お楽しみに♡
評価、感想、ここすきをいただけると励みになります。