リメイクマイロードが絶賛大活躍でニッヒちゃんも鼻が高いものとする。
色々と波乱が生じた八雲紫との会談であるが、ニッヒちゃん的評価では大成功の部類に入る素晴らしい出来だったように思う。
会談を終えた今だからこその確信だけど、一歩間違えれば紫さんのペースに乗せられズルズルと提案を飲まされていたことだろう。
なんたって彼女と私とでは頭の作りが違うからね。話の途中で「あっ、この人を言い負かすのは無理だ」と悟り、決戦に舵を切った私の判断は正しかった。正しいに違いない。正しいと良いなぁ!
さて何はともあれ、こうして無事に当初の目論見に近い形で八雲紫との決戦に漕ぎ着けた訳だが、問題はここからである。
紅魔庵の狭い居間にて、生存戦略を固めるべく六人が膝を突き合わせる。
「というわけで! 幻想郷の覇権と紅魔館支部の今後を賭けた最終決戦の準備を始めよう!」
「ニッヒさん。まずは決戦の日時を一週間後じゃなくて、十年後に変更してもらいませんか? ハッキリ言って勝てる気が……」
「賛成賛成! 一週間じゃ何にもできないよ!」
四天王の中では現実的なものの見方ができる橙ちゃんと響子から鋭い指摘が入った。そういえば会談中も後ろで騒いでたね。
彼女らの言う事は至極まともだ。元弱小妖怪だからこそ、眼前の妖怪が自分達とは隔絶された存在である事を薄ら感じ取っていたのだろう。
と、幽香さんが言葉を挟む。
「悪いけど十年でも足りないわよ。八雲紫とその式神に勝ちたいのならあと千年は歳を重ねて、人間共を徹底的に痛め付けて恐れを得なきゃね」
「そ、そんなに!?」
「いまいち実感が湧かないよねー。具体的にあの二人はどのくらいの強さなの?」
「癪だけど私が二人居ると考えても相違ないんじゃないかしら。しかもニッヒの要求に乗っかってくるなら、下手すればあと二、三人は同じくらいのヤツが増えるかもね」
「幽香様が五人!? ウソだよね!?」
「ニッヒちゃんのバカーーー!!!」
こうやって具体的な数字を出してもらえると、今回の戦いがどれだけ無謀の極みにあるかを分かりやすく示せるね。さす幽香さん。
あの
取り敢えず軽い恐慌状態に陥っているみんなを落ち着けておこう。
ラルバちゃんに至っては荷物を纏めて逃げようとしてたしね。むしろ安心するまである。
「仮にだよ? 紫さんが手加減して私達と戦ったとしよう。それに勝っても後出しで言い訳を許してしまうし、負けたら更に惨めな事になるよ。そんなのを許したら紅魔館支部の沽券に関わる!」
「な、なるほど。でもなんだか意外ですね。ニッヒさんっていつも『勝てば良かろうなのだァァ!』みたいな事ばかり言ってるのに」
「まあ負けたら元も子もないからね! でも今回は相手が相手だし、殺し合う訳でもない。紫さんが体裁に拘る妖怪だからこそ本気で戦り合う事の意味が強くなるの」
「なにより! こういう土俵際ギリギリ崖っぷちの状態が一番興奮するんだよねぇ!」
「それが本音では……?」
ちょっと主人公っぽい事を言ってみんな鼓舞しただけなのにドン引きされてしまった。ニッヒちゃんにそういう属性が皆無である事の証左である。
まあ最後のは冗談として、勝敗がどうであれこの結果を以って幻想郷活動のリザルトが決定し、紅魔館に通知される訳だからね。情けない結果は許されない。
なのでここはマイロードに倣う。
相手に一切の逃げ道を許さない残酷で徹底的なやり方で、完膚なきまでの勝利を目指す!
ついでに負けた場合でも余裕を保ったままやられちゃうのと、互いに死力を尽くした上で負けるのとでは印象が違うからね。故に結果がどうなろうと、紫さんにはしっかり本気で来てもらわないと困るのだ。
と、ルーミアが若干身を乗り出す。
「ニッヒが本気なのは分かったけど、それなら戦いまでの時間はもっと長くて良かったんじゃないの? 七日なんてあっという間だもん」
「あんまりにも長い準備期間を要求して紫さんのノリ気を損ねるのもどうかと思ったの。それに、あの人に時間を与え過ぎると本家紅魔館の方に何か仕掛けられるかもしれないし」
「それはそうかもね」
「『一週間』っていうのは、紫さんが妥協できそうかつ、私達が最低限の準備を整えられるギリギリのラインだと思う。それと色々都合の良い日でもある」
「都合? ああそういえば満月だったっけ。確かに満月なら私達、特にニッヒと
「まあまあ、そこは当日のお楽しみって事で」
何だ何だと首を傾げる一同に対し、私はムフフと不敵な笑みを浮かべるのみだ。
まあ実際は私の見立てが外れていたら恥ずかしいので、当日まで黙っておくだけなんだけどね。でも何となく的中してる気がするの。何となくね。
一週間後の事なんて不確定もいいところ。しかしこれだけ実力が隔絶している戦いなのだから、積極的に不確定要素を盛り込んでいかなければならない。
私達の勝機は誰にも予測できない上振れにしかないのだから。
「そこまで自信満々に言うなら勿論勝機はあるんでしょ? それこそ幽香の時みたいに」
「当然! 高く見積もって一万回に一回は勝てるくらいの確率かな!」
「駄目じゃん」
「ひゃ、百回に一回くらいは多分相討ちに持っていけるから……!」
「それを負けって言うんだよニッヒ」
いつになく冷たいルーミアに慄いてしまうが、幽香さん戦を引き合いに出してくれたのはグッドだ。あの勝利は四天王みんなの助力があって成し遂げられた。本来の勝率はもっと低かったのだ。
今回も同じで、先に述べた確率はあくまで現状の私達だけで戦った場合の話。ここから様々な要素を加えて、勝ちの目を現実的なものへ引っ張っていく。
「という訳で、私にも色々考えがあるけど限界がある! そこで少しでも勝率が増えそうな案を募集します! みんなも考えてクレメンス!」
「はいはーい! もっと仲間を集めるのはどうかな!? それもうんと強くて優しい人!」
「うんうん。良い案だね響子!」
古今東西、決戦の勝敗を分けるのは仲間の数と質である。下手すればその両方でも紫さんに負けてしまいそうな現状において、響子の案は非常に魅力的だ。
しかし急拵えの集団は途端に烏合の衆と化してしまう脆さを孕んでいる。それを解決する手腕によって大将の器が問われるのだろう。ニッヒちゃんには……そんなものナイヨ……。
「今から集められるのなんてラルバちゃんの呼び掛けに応じてくれた妖精が関の山! 強者は何人か心当たりがあるけど私とは多分志が合わない! つまり無理だね」
「気休めに何人か友だちを呼んでこよーか? チルノとか三妖精とか」
「流石に……無理じゃないかな」
「だよねー」
彼女らを招集しても戦力として見るには難しいし、統制が効く筈もない。紫さんに「ただのカカシですな」と嘲笑されるのがオチだ。
強い人でなおかつ在野だと藤原妹紅さん、二ッ岩マミゾウさん、姫虫百々世さんあたりが思い付くが、私では制御不可能である。灰汁の強さが全員マイロードレベルだもん。奇しくもExボスだし。
続いて橙ちゃんが手を挙げる。
「前みたいに広報で仲間を募ってみたらどうかな? もしかしたらニッヒさんが創る幻想郷に惹かれてやって来る人がいるかもしれないし、反体制の人達を纏めることができれば……」
「そっか、チェンがそうだったもんねー。ちなみにニッヒちゃんは幻想郷のリーダーになった時の公約とかって考えてあるの?」
「私が幻想郷の支配者になったら、まずは宗教を『大天使フランちゃん教』に統一! 博麗神社の祭神は当然マイロードです! そして一日に三回ほどマイロードのおわす方向に深くお辞儀してもらいます!」
「ダメそう」
「更に敵を増やしそう」
散々な言われようである。でも幻想郷私有化ルートを突き進むなら、このくらい仰々しくしないと我らがご主人様姉妹は納得しないような気がするんだ。
ニッヒちゃんの経験則を基にすれば、マイロード相手にはいくら媚を売っても損という事はない。
それに幻想郷みんなの信仰心を合わせれば、もしかするとマイロードが『フランちゃん』になってくれたり……しませんかね……? 教えてサナエンジェル。
「仲間を一週間で増やすのは無理かもしれないね。まあ私はここに居る全員でなら十分戦えると思うよ!」
「無茶言わないでよ……」
「そーいえばずっと気になってたんだけど、幽香様はどうするの? 正式なメンバーじゃないけど、参加してくれるのかな?」
「あ」
「みんなが言いにくいことを……コイツ」
「でもそこはハッキリさせとかないとダメじゃない? 幽香様ナシじゃ絶対勝てないでしょ」
思った事を何のしがらみ無く言ってのけるのは、ラルバちゃんの確かな美徳である。農園や花畑のお世話係繋がりで幽香さんと絡みが多いのもあってこその気楽な疑問なんだろうけどね。
そして当事者たる幽香さんはというと、眉間に皺を寄せながら不満を露わにしていた。じっとりと暴力的な妖力まで漏れ出している始末。室内ではやめてクレメンス。
「貴女達、まさかとは思うけどこれまでの話を私抜きで進めていたつもりなの?」
「そういう訳じゃないけど……幽香ってニッヒさんの部下って感じがしないし」
「夕方になるとどっか行っちゃうし!」
「法被も着てくれないしねー」
「あとすぐ殴ってくる!」
四天王から次々と寄せられる不満に対し、幽香さんは何も答えなかった。ついでに私も異論はなかった。大方その通りであると認識していたからだ。
と、幽香さんは日傘を壁に立て掛けたかと思えば私へと歩み寄り、無理やり法被を剥ぎ取った。そしてあまりの乱暴な扱いに一瞬でボロボロになったそれを、躊躇いなく羽織るのであった。
正直に言うと、赤いベストと紅い法被の組み合わせはあまり適切ではない。そもそもサイズが小さ過ぎてギチギチになっている! 法被への虐待だ! でもそれにツッコむ勇気が私には無かった。
「これで文句は無いわね?」
「そ、それはもう大歓迎です!」
「分かっていると思うけど、私は誰の下にもつかない。当然、ニッヒの言うご主人様に頭を下げるつもりも毛頭ないわ。あくまで食客としての参加よ。あと八雲紫の首は私に取らせること」
「あんまり詳しくないんですが、食客って自分から無理矢理なれるものでしたっけ?」
「そういうものよ」
「そうなのか……」
十中八九そうではないのだが、ここは敢えて言いくるめられておく事にした。
私に地雷となるラインがあるように、幽香さんだって孤高の妖怪たる矜持と天秤に掛けての決断だろうしね。打倒八雲紫の為とはいえ、その心遣いには感謝するばかりだ。
そもそも幽香さんを欠いた状態での決戦などハナから想定していない。なんたって彼女の有無で万が一の勝利が億、兆とハイパーインフレを起こすのだから。
こうして長らく宙ぶらりんとなっていた幽香さんの立場が定まった事でみんな大盛り上がり! 普通に頼もしいもんね。前作ボスが仲間になってくれる少年漫画展開ほど熱いものはない。
だが中にはそんな空気に流されず、水を差すような冷笑をぶつける者もいた。
「ふふっ」
「ルーミア? どしたの?」
「みんな……私含めて、一番聞かなきゃいけない話題から逃げてるんじゃないかと思って」
「?」
「この戦いが終わったら、ニッヒのご主人様が幻想郷にやって来るんでしょ? そしたらニッヒは当然、元の場所に帰る訳で」
「紅魔館支部は、これで終わり?」
思いがけない言葉に声が詰まってしまった。見ると他のみんなも水を打ったように静まり返り、こちらをじっと見ていた。それが本当なのかと問い掛けられている。
そして私の無言の反応を見て、大体の答えを得たようだった。とはいえこのまま何も言わずに流すのは違うだろうと、私にだって分かっている。
「……正確に言うとね。負けたらその時点で解散、勝てば幻想郷の受け入れ体制を整えた後に本家紅魔館へ即吸収って形になると思う。早いか遅いかの違いでしかないって言われたらそうだけど」
「そう考えると何だか寂しいね……」
「『まいろーど』にお願いしたら何か別の形で残してもらえたりしない?」
「試してみてもいいけど、お勧めはできないかなー。マイロードの下で私の子分を続けるのは心身共に結構キツいと思うよ? やるならレミリア閣下に直談判して私の同僚か上司になる方がいいかもね!」
「それはなんかやだなぁ」
私のような陪臣の部下からレミリア閣下の直属にジョブチェンジできるなら、それはとんでもない栄進! 大変名誉な事なのである!
まあ支部と違って有給が無いけどね。お給料が無いのはどっちも一緒だけど。
なので彼女達にとって一番幸せな結末は、私の下に来る前の暮らしに戻る事だと思う。橙ちゃんがかつての縄張りを取り返したように、今のみんななら幻想郷でもそこそこ強豪の妖怪としてやっていけると思う。
なんなら私が方々に口利きしても良いね。響子は命蓮寺が出来たらすぐ聖様の下へ送り出そう。
「本当ならもっと長く一緒に居られる筈だったんだけどね……。投げっぱなしみたいになっちゃってごめんなさい」
「なんだか今すぐ解散するみたいな流れになってるけど、八雲紫に勝てば暫くはこのまま続いていくんでしょ。なら頑張らなきゃね」
「……そう! その通り! ルーミアにしては良いこと言うじゃないの! それに、仮に解散しちゃっても一生の別れになる訳じゃないしね!」
柄にもなくルーミアがみんなの士気を高めるような事を口にしている。明日は雪でも降るのかな。
だがそのおかげで私達の団結力は高まった! これが狙いだったのだとしたら中々の策士である。まあルーミアに限ってそれは無いけども。
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、私たちのほうに!
中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん!
「私たち紅魔館支部の結束は永遠だ! 決戦がどんな結果で終わろうとも、繋がりは絶えず続いていく。これこそ何者でも無かった私達の確かな力! その強さを紅魔館支部の総仕上げとして、幻想郷に見せ付けてやろうじゃないさ!」
『おー!!!』
「若いって良いわね」
古いような新しいような、円陣を組み手を重ね合わせて気合いを入れる。ちびっ子集団なのもあって絵面は完全に運動会である。幽香さんは引率の先生ね。
さあ決戦に向けた準備に本腰を入れよう。私と幽香さんは密かに目で示し合わせるのであった。
この一週間で私を含めた全員の能力を、ギリギリ全開まで一気に引き上げるつもりだ。
紫さん陣営に勝つには多分それしかない。ならば、その為には何が必要か!
そうだね、ドーピングだね。
ニッヒちゃんと付き合う上で一番楽な関係は部下になること。同僚や上司としての関係だと大変苦労する事になるものとする。
またゆうかりんは法被が貰えて(奪えて)嬉しいものとする。
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