水着回です。
東方Projectの記念すべき第一作目は何かと問われた時、紅魔郷と答える未来人の方は多いと思う。
マイロードこそ性格以外の全てにおいてNo.1だと信じているニッヒちゃんも、敢えてそう答えよう。
ただし、実態はそうではない。実はそれ以前に五作ほど作品が存在しているらしいのだ。俗に『旧作』と呼称されている物である。
時代の流れとともに幻想の果てへと葬られた設定がわんさか詰まっているレトロな世界だが、実のところ全てが無くなってしまった訳ではないらしい。
創造神曰く、紅魔郷以降も博麗神社周辺では魔理沙さんのお師匠様が彷徨っているとかなんとか。
そして何よりも旧作との繋がりを確固たるものにしたのが、続投を成し遂げたアリス・マーガトロイドさんと風見幽香さんの存在である。
さて、何故旧作キャラですらないパチモンのニッヒちゃんがこんな事をペラペラ語り始めたのかと言うと、この紅魔郷以前に存在した要素が今回私達の助けとなるからだ。
「みんな深く眠ってるね。よしよし」
「表情を見る限り、経過は順調そうね。悪夢が終わる頃には相応の強さに仕上がる筈よ」
「今頃夢の中で奮戦しているんだろうなぁ。頑張ってみんな……!」
小春日和な陽光の下、コスモスの絨毯を寝床にして熟睡する紅魔四天王の苦悶に満ちた表情を見守りながら、私はみんなの奮闘を願って祈りを捧げる。
勿論、ただ呑気にお昼寝しているのではない。彼女らは地獄の特訓を受けている最中だ。
幽香さんの生み出す花を調合した睡眠薬によって深い眠りに落とし、軽い仮死状態へ追い込むことで夢の世界へと旅立つ。そしてそこに存在する
これこそゆうかりん式ブートキャンプの総仕上げ。いわゆる擬似『東方幻想郷』なのだ!
「夢の世界で体感する時間速度は現実と大きく異なる。こちらでの一日はあっちでの一ヶ月に相当するなんて事もザラに起こるわ。個人差はあるでしょうけど、少なくとも数日は戦い続けている状態でしょうね」
「そしてあちらで待ち受けるは夢幻世界の猛者……。何回死んでも足りないんだろうなぁ」
「幸いコンティニューが効くから無茶は容易い。これ以上のレベリングに適した環境はないわよ」
幽香さんから聞く限り、いまルーミア達が対戦しているのは旧作で登場した方々なのだろう。
紅魔郷以前の情報はいまいち謎知識に引っ掛からないブラックボックスなのだが、各キャラの設定や難易度は相当なものだった筈だ。
それに何といっても幽香さんお墨付きの面々だからね。想像を絶するようなとんでもないパワーレベリングが行われているのだろう。
さらに補足すると、本来この睡眠学習のような特訓方法は人間だと非常に効果が薄いとされている。別に肉体が強化される訳ではないもんね。
しかし妖怪は身体よりも精神に存在の比重が寄っている生き物である。故にこうした精神修行も戦闘能力の向上に直結するのだ。
この試練を突破する事ができれば、みんなの妖怪としての力は驚異的な伸びを見せる事だろう。まさにドーピング! しかし劇薬であるが故に心身へと強い負担を掛けてしまう。これは一つの賭けだ。耐えなければならない。
「気長に待ちましょう。起床の条件は、薬の効果が消失する五日間を待つか、死亡せずに一時間耐え切る事で満たされる。きっと優秀な子から続々帰還してくる筈よ」
「あら意外。時間切れじゃなくて、早く戻ってくると思ってるんですね」
「雑魚にしては根性がある方だもの。でなければ怪我した貴女を庇う為に私へ向かってくるなんて無謀な事はできないわ」
「うん。本当に凄い子達なんですよっ!」
「そうね」
後方リーダー面でうんうんと頷く。何かと軽視されがちな紅魔四天王だけども、初めの頃に比べれば戦闘力は最早雲泥の差だ。彼女達の想いが生み出した確かな結果である。
それを他ならぬ幽香さんが認めてくれているのだから、私としては誇らしい限りだ。
ちなみに余談だが、幽香さんは夢の世界を特訓の場にする為に、予め夢の世界の支配者なる方に話を付けに行ったらしい。帰ってきた時やけにニコニコだったから、多分やり合ったんだろうなって。
ドレミーさん……強く生きてクレメンス……。
さてみんなが悪戦苦闘する中で、リーダーである私が手持ち無沙汰なのには理由がある。というのも、私ではこの睡眠学習という手段を取れないのだ。
まず一つに、ニッヒちゃんには眠気が存在しない。眠るのは身体が強烈なダメージを受けて機能停止寸前に陥っている場合が殆どである。故に薬が効かないかもしれないし、深く眠るのはあまりよろしく無いのではとストップが入った。
そして次に、私が肉体に依存している妖怪であるという点が挙げられる。先に述べた通り、この睡眠学習は精神を主体とした訓練であり、肉体強化には繋がらない。そんな中に精神と身体がチグハグな私を投入しても碌なことにならないんだって。
という訳で、私は別の鍛錬を積む事になる。みんなほど濃密な時間を過ごせるわけではないかもしれないけれど、私だけ置いてけぼりにならないよう頑張らないとね!
「私はひとまず地底や魔界で適当なスパーリング相手を捕まえて時間を潰してるわ。あそこらへんなら骨のある奴がまだ残ってそうだし」
「うーん……南無」
「ニッヒはどうする? 独りで鍛錬するのか、それとも私と一緒に来る? この子らの見守り役は猫達に任せていいと思うけど」
「嬉しいお誘いですけども、今回は見送らせてくださいな! ちょっとやってみたい事があって」
「あらそう。でもまあ、貴女に堅実な修行は似合わないわね。どんな突飛な事をやるつもりなのかは知らないけど成果を楽しみにしているわ」
「いやいや全然堅実な修行なので! あんまり期待せんといてください!」
私はそう言い捨てると、服を脱ぎ捨て湖へとダイブする。ちなみに、下にはフリル付きの水着を着用している安心設計である。
そして何処か生温かい視線を送る幽香さんへ別れを告げると、得意の近代的バサロ泳法を駆使して上流へと向かうのであった。
いざ、目的地は妖怪の山!
*◆*
白狼天狗の哨戒部署詰所にて、当直の犬走椛は大人数で押し掛けてきた河童の対応に追われていた。全員が怒り心頭といった様子で次々に声を荒げている。
妖怪の山の実質的な支配者は天狗である。他種族の領域への警邏は普通に行われる事であるし、山の安全保障を脅かす事態が発生した際には現地勢力と協力して事に当たるケースも多々存在する。
故に河童が助けを求めに来るのもそこまで珍しいことではないのだが……今回はいつもと少し毛色が違うように感じた。野生の勘だ。
「と、取り敢えず誰か代表して話してくれませんか? 私の耳は聞こえが良い方だとは思いますが、生憎十人同時に話を聞けるほど器用ではないので……」
「じゃあ私から話す!」
一歩前へずいと出てきたのは、集団のリーダー格であろう河城にとり。妖怪の山内部で何か騒がしい出来事が起きる時、その渦中に身を置いている事が多いトラブルメーカー気質の河童である。
そんな彼女が声を荒げるという事は、それを上回るトラブルが発生しているのだろう。彼女とそこそこ古い付き合いを維持する椛は、自らの身に降り掛かる面倒事を予見した。
「一体何があったんですか?」
「椛んとこが毎度殺り合ってる妖怪がいるでしょ。あの吸血鬼とかいうやつ!」
「それはもう。不倶戴天の敵ですね」
「そいつがさァ、九天の滝で何故か滝行をしてるんだよ。それも身体中から血液を撒き散らしながら」
「……?」
「おかげで下流は玄武の沢まで汚染されて、気分を悪くした同胞達で川沿いは死屍累々。挙句に自慢の精密機械は全部オシャカにされちまった。これはテロだよ、バイオテロ!」
凄まじい剣幕で捲し立てるにとりを目の前にして、椛は逆に冷静になった。怒りに燃える白狼天狗を茶化す烏天狗もこんな気分だったんだろうか、なんて考える余裕すらあった。
ただしその悠長とも言うべき余裕は、にとりから発せられる意味不明な説明から逃避した故の産物である事に留意すべきだろう。
──にとりの証言は殆ど正しい。違うのは下手人ニッヒの行動は河童に対するテロを意図したものではなく、どこまでも修行の為である点だ。
ニッヒはふと、己の人生を振り返る中で何度か急激な成長を遂げた瞬間を思い出した。
一度目はレミリア襲撃戦、二度目はパチュリー迎撃戦、そして最後に月面戦争である。最初は戦闘すら覚束ない脆弱な肉壁であった筈が、いつの間にやら作戦の中枢に参加できるまでに強くなった。
これらに共通するのは、大戦前に叩き込まれたフランドールによる虐待紛いの訓練と、美鈴の能力を利用した『瞑想』の存在である。
特に瞑想は、その都度ニッヒの身体に大きな変化を齎している。あの時間がニッヒという分身の成熟に大きな役割を持っていたのは間違いない。
そこで賢将を自認するニッヒは思い付いてしまったのだ。滝に打たれ大自然と一体化する事で、氣を吸収する事ができるのでないだろうか、と。
普通の吸血鬼ならば即死に値するであろう大瀑布もニッヒにとっては手頃な試練である。それに並行して水魔法の鍛錬も行う事ができると良い事尽くし!
こうして妖怪の山と一体化した(気になった)ニッヒは、頭上から降り注ぐ痛みの塊をあるがまま受け入れ、存在の昇華に励む。
また、ここで念仏でも唱えれば更に良い感じの修行になりそうな予感があったのだが、生憎仏教徒でないニッヒには唱えるものがない。『フランちゃん』の讃美歌でも作っておけば良かったと後悔した。
よってその場凌ぎで己が主人のテーマ曲でも口ずさみ、ひたすら没頭するのであった。
なお滝壺をプラカードを持って取り囲み「水質汚染反対!」と叫んでいる哀れな河童達の声は、極限の集中にあるニッヒの耳には届かなかった。不憫である。
そんな膠着が一日二日と続き、犬走椛と愉快な哨戒部隊達が現着してからも状況は変わらなかった。幾ら攻撃しても大瀑布によって齎される痛みの方が強過ぎて、ニッヒが意に介さないからである。
一応上層部へ対応の如何と増援の有無を問い合わせているが、協議中との回答ばかりで動きは皆無。現場の椛達は泣いた。
日に日に河童達からのクレームは増え続け、天狗の心労は積み重なるばかり。
ただ中には的屋と化した河童が正体不明の露店を開いたり、勝手に観覧料を徴収したりする河童も散見された。やはり商魂逞しい種族である。
こうして山の麓を騒がせた謎の緊張状態は、迎えに来たルーミアからの呼び掛けに応えたニッヒが修行の手応えを実感し退散するまでの三日間続くのであった。
「滝の真ん中で、しかもそんな変なモノを着て眠るなんて。ついにニッヒの変態っぷりも極まったね」
「あれはれっきとした修行ですぅ! 古来より伝わる日本の伝統的修行だよ! タキギョー! ゲイシャ! ニンジャ! ハラキリ!」
「そーなのかぁ」
「それに眠ってなんかないよ。ずっと目を閉じてリラックスしてただけだから」
「そういうもんなのか」
「私ったらどうも暗い場所に居ると時間感覚が狂っちゃうらしくてさー。地下室でマイロードと一緒に過ごしてた頃もそうだったっけなー」
「引き篭もりにありがちなやつだ」
日陰者のルーミアに言われるのは正直心外であったが、言い返せる材料も特になかったので黙っておく事にした。勝てないレスバを挑む趣味は無い。
それよりも、気付かない間に三日も経過していた事に驚いたし、ルーミアが最後の試練を一番に突破していた事にも驚いた。ニッヒ二重の吃驚である。
どうやら他のみんなはまだ悪夢の中にいるらしく、暇になって探しに来たとの事だった。
「よく私が妖怪の山に、しかも滝の下に居るって気付けたね?」
「湖に流れ込む川からニッヒの匂いがしたの。いっぱい血を流してたんでしょ?」
「みたいだねぇ。河童の皆様にはとんでもない迷惑かけちゃったなぁ……決戦が終わったら菓子折りでも持って行こう。そうしよう」
「ねぇニッヒ」
「ん? なぁに?」
思考の渦に沈もうとしていたところを、ルーミアの声が引き上げる。
見ると、若干不機嫌な様子で頬を膨らませている。意思が薄い彼女にしては珍しいと思った。
らしくもなく何か真剣な話があるのかと、ニッヒは視線を合わせた。
「もうあんな勿体ない事しないで」
「……何かしたっけ」
「ニッヒの血肉は私のモノ。勝手に河童共に分け与えるなんて酷いよ」
「分け与えたつもりも、貴女のモノになった覚えもないんだけどなぁ!?」
数多くの修羅場や決戦を前にしても、ルーミアはルーミアである。その変わらなさがニッヒにとってある種の癒しであり、また頭痛の種でもあった。
ひとまずマイロードと出会うまでに大人しくなってくれればなぁ、なんて事を思うニッヒであった。
夢幻世界のイカれたメンバーを紹介するものとする。
・オレンジ
マーチングバトンを武器?にしている謎の妖怪。原作ではふわふわしていた頃の霊夢に抹殺される。強さは多分チルノくらい。
・くるみ
夢幻館へと繋がる入り口を守る吸血鬼。レミフラよりは低位の悪魔だと思われるがやはり種族が種族なだけあって強さは中々のモノ。多分美鈴くらい強い。
・エリー
夢幻館の門番で大鎌を獲物とする。本体やボス曲よりも道中曲の方が有名らしい不憫な子。でも幽香一番の部下なだけあって普通に強い。恐らくパチュリー、咲夜レベル。
・夢月 幻月
かわいい悪魔姉妹。東方においては珍しいかもしれない妹より姉が狂っている例。妹はメイドのコスプレ、姉は天使風とふざけた装いだが阿保みたいに強い。最低でも月面戦争時のレミフラと同程度か。
次回、決戦開始です。
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