ぐちゃぐちゃでギタギタなお見苦しい姿でこんにちは。今日も元気にフランドール様の従者、兼鉄砲玉をやっております、
今の私を端的に言い表すのなら、恐らく世界一可愛いボロ雑巾というワードが一番的確だろう。ちなみに数分前までは世界一可愛いミンチちゃんだった。吸血鬼の再生能力には頭の下がる思いだ。
「身体は問題なく完治しそうで一安心だけど、流石に今日のは堪えたなぁ。あれでまだ手加減してるんだったら手に負えないよ。くわばらくわばら」
思わずぼやきが漏れる。
この惨劇がマイロードの手によって為された人体破壊活動の行き着く先なのは、もはや言うまでもないだろう。過去一で容赦のない折檻だったのは確実か。
この折檻によって受けたパンチ、実に二百六十と七発──。受けたキック、百と五十二発──。受けた弾幕、四十と六発──。さらに頭部半分を失うも、身体屈する事なく。その誇り高き後ろ姿、あるいは、その不良品人生に一切の"逃げ傷"無し!
正直言うと背中は傷だらけだけど、私は剣士でも大海賊でもないからノーカンである。
さて何故このような折檻を受ける羽目になったのか。それには深い訳がある。
単刀直入に言うと、図書館出入りの詳細なルールをめぐって私とマイロードで揉めたのだ。
マイロードは図書館の外に出る事を禁じたわけだが、私はその図書館の定義の拡大を主張した。要するに、図書館外の廊下まで活動できるようにしたかったのだ。
図書館は紅魔館の端っこに位置しており、繋ぐ廊下は一本のみ。つまり図書館に行く用事が無ければ使う必要のない廊下であると言える。ならそれってほぼ図書館の一部って事でいいんじゃないかとゴリ押した。
結果から言えば、マイロードは譲歩してくれた。なんでも「条件自体はどうでもよかったが、お前が私に要求を突き付けてきたのが気に入らない」とのことだった。今日も暴君っぷりが極まってて惚れ惚れするね。
廊下一本とミンチだと、一見釣り合っていないように思える。しかし、たかが廊下と侮るなかれ。図書館前の廊下には窓がある。私がマイロードにギタギタにされながらも食い下がった理由がこれだ。
とにかく外の空気を吸いたくて仕方がない。お腹いっぱい深呼吸がしたい。そんな素朴で切実な願い。自分で言ってて悲しくなってくるね。
生まれてからというもの、埃とカビの臭いがする澱んだ空気の中で暮らしてきたのが私という哀れな存在。故に自然の澄んだ空気への憧れは一入である。
というか、あんな環境下で今日まで狂わずにいられたのが奇跡だ。アレに適応できるのは余程の根暗か、元から狂っている奴だけだろう。ちなみに特定の誰かを指して言ってる訳じゃないので悪しからず。
◆
身体があらかた完治したのを確認できたので、ようやく本日の修行を始めることができる。マイロードのお世話は一通り終わってるし、当の本人は今頃棺桶の中で爆睡中だろう。ここからは自己研鑽の時間だ。
私は図書館を通過して、早速廊下へ繰り出した。ひとまず勉強は後回し。
そして日光に当たらぬよう紫の傘を差して、慎重に身を隠しながら窓を開け放ち、新鮮な空気を堪能した。悪魔の住む館なだけあって若干の血生臭さはあるものの、シャバの空気の美味さには代えられないのだ。
と、門の側に見覚えのある姿が見える。
「めいりーん!!!」
「のわっ!?」
門の方から誰かの驚く声が聞こえた。ついでに私も、自分の喉からこんなに大きな声が出るとは思ってなかったので驚いてしまった。流石は吸血鬼ボイス、頑張れば山彦の真似事もできそうだ。今からでもジョブチェンジできないかな。
ああ、私も寺の門前で箒を振り回しながら念仏をぎゃてぎゃて唱えるだけの人生を送りたかった。響子に嫉妬しちゃいそうだ。
と、程なくして美鈴さんがやって来てくれた。門からはかなり距離があったのに、一足飛びで窓枠をくぐっての登場である。スタイリッシュだぁ。
「えっと、呼ばれたので参上しました。おはようございます妹様」
「お仕事中にごめんね美鈴。フランね、外に出られないから大声で呼ぶしかなくて……」
「お気になさらず。ほら、何か御用があれば遠慮なく呼んでくださいって言ったのは私ですし。それに今日のところは暇してましたので」
「暇だったの?」
「……これもレミリアお嬢様には内緒にしててくださいね」
美鈴さんは困ったように、人差し指を唇に当てて微笑む。何をやっても絵になるのは狡いような気がする。私もこういうイケメンムーブができるようになれば、マイロードから殴られる頻度が減るのだろうか。よし、また一つ学びを得た。
図書館で本を読むことも大切だけど、交流を通じて他者の強みや生き様を理解していくのも立派な自己研鑽である。例えば野球なんかも普通に練習するより、怪しい博士や彼女とのイベントを重ねていく方が上手くなるのが未来の常識だしね。
マイロードもそのあたりを理解できればもっとアグレッシブになるんじゃないかと思う。理解できないから引き篭もっているとも言う。
「それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
「うん。その……色々あるんだけど」
「?」
「この前あげたプリン、どうだったかなって」
美鈴さんと再会できたらまず一番に聞こうと思っていた。マイロードは美味しそうに食べてくれたけど、まあ地下暮らしというか、存在自体がレアケースな方だからイマイチ参考にならないと思っている。というか色々と大雑把だから馬鹿舌なイメージ。
その点、健康体かつ常識的な美鈴さんなら、世間一般寄りな感性での所感を教えてもらえるのではないかと期待した。別に褒められたいとか、チヤホヤされたいとか、そういうものではないのだ。決して。
「ああ、あの『ぷりん』なる菓子! それはもう、大変美味しゅうございました!」
「ほ、ホント!?」
「私も長く生きてきましたが、あのような甘味は初めての体験でした」
「そっか! あのね、プリンもあれが完成じゃないの。フラン、もっともっと美味しく作れるようになるから!」
「妹様は本当に料理がお上手なんですね」
味を思い出しているのだろうか。ほんのちょっと目尻を下げながら、嬉しそうに語っている。
この様子なら追加でプリンを差し入れても問題なさそうだ。まあ、どうせまたマイロードから命令されて作ることになるだろうから、そのついでにね。貢ぎ物とかそういうんじゃない。
「また作るから、その時は食べてくれる? 感想とかも聞きたいし……」
「それは……とても嬉しい話ですけども、レミリアお嬢様から怒られちゃうかもしれないですね」
「お姉様が?」
「ご主人様を差し置いてあんなに美味しい物を頂いてては、流石にお叱りを受けるかもしれません。妹様が直々に作られた菓子ならば尚更」
そういうものなのか。意外と器が小さいのかな。
正直言うと、私の知識の中のレミリア閣下はイメージが定まらないというか、恐ろしく謎な人物なのである。情報が多すぎるのもそうだし、その全てが極端なのだ。主にアイドル系、カリスマ系、芸人系に分かれてる気がする。
流石に「こんなに月も紅いから本気で殺すわよ。楽しい夜になりそうね」なんて事を紅い月背景にカリスマを迸らせながら言ってる姉君と「タンポポにがーい」なんて事をお子ちゃま感全開でベロ出しながら言ってる姉君が同一人物だとは思えない。きっと幾つか
スカーレット姉妹の仲が実際どうなっているのかも含めて、そろそろレミリア閣下を探ってみようか。ただ、あんな暴君を地下に放置してるくらいだから器量については期待しすぎない方がいいのかもしれない。
まあそのあたりはおいおい。
「じゃあお姉様の分も作ればいいわね! だから美鈴も遠慮せず食べて!」
「ありがとうございます。畏れ多いですが、妹様からのご厚意に甘えますね」
「うん! それとね、美鈴にお願いしたい事があって」
「そ、そうですか。私にできる事であれば何なりと」
「フランに武術を教えてほしいの!」
「……なるほど」
私の考案した『フランちゃん育成計画』について、まずは劣悪な生活環境を整えてマイロードの変化を促すのが第一目標。それ即ち、引き篭もりからの脱却である。
なのでまずは室内でもできる適度な運動から始めて、徐々にステップアップしていくのが良いと思った。小さな事から積み重ねていくのが肝要だ。
その為に武術──というより、健康的な身体の動かし方を学んでみようと思ったのだ。ついでに、私が護身術を習得すればマイロードからの暴力に怯えなくても済むんじゃないかっていう魂胆もある。
ふっふっふ。私に成長の機会を与えてしまったのはマイロードらしからぬミスだった。もしかしたら修行を重ねるうちに私の方がマイロードより強くなってしまったりして。
そう考えると野望は止まらない。いずれは下剋上もあり得てしまうのか?
ついでに修行を通じて美鈴さんともっと仲良くなれると更に良し。
フランドールに対する周囲からの好感度をあらかじめ上げておけば、マイロードも地上デビューしやすかろう。そしてなし崩しで『フランちゃん』に寄っていくであろう。そうであろう。
さあ可能性の獣は解き放たれた。棺桶の中で震えて眠るがいい、マイロード!
「……申し訳ございませんが、妹様に武術をお教えする事はできません」
「ふぇ」
美鈴さんからの強い拒絶とともに、私の野望は幕を下ろすのであった。
東方界隈の集団幻覚そのニ
一人称「フラン」なフランちゃん
なお分身ちゃんが仮に幽谷響子になれたとしてもクッソ苦労するものとする
おそらく次回は美鈴視点から