ユニバース・グレイル 試作版 作:gfd
「で、次はイツキについての問題点だが……一応元連盟の所属としては、帰還手段が見つかったって話は聞いたことがねえ」
「……だろうね」
「連盟は確かにコスモス連盟の保護に躍起だぜ? けどそれも、同じ故郷を失った稀人として、せめて帰る場所を作りたいっていう“盟主”の発案だって話だ」
「つまり、そんだけの稀人を保護した国家規模の組織でも帰還手段は見つかってない、ってことになるな」
思案する。迂遠で遠大なのがいい、とは言ったものの、こうまでヒントがないと憂鬱になるな。表には出さないけど。
「ん……いや、違うか」
盟主。同じ稀人であり、帝国に抗する連盟を組織した人物。
それほどの傑物なら、俺が知らない情報の一つや二つを握っている可能性は高い。それが帰還に直結するヒントでなくとも、俺がここに来た理由くらいはわかるかもしれない。
「コレン、盟主にはどうやって会うんだ? というか、会ったことある?」
「盟主か……アタシはねーな。忙しいって聞いたことあるし、ヒラの整備士が拝謁できる立場じゃねーのさ。……ああでも、話だけなら聞いたことはあるぜ。年に数回、連盟所属の企業が集うパーティーの場で出てくるとかなんとか」
「そこに出席するにはどうすればいい?」
「連盟に企業登録して、パーティーに招待されるに相応しい実績を得る……だったかな? 悪ぃ、アタシも曖昧だ」
「いや、充分だ。ありがとうコレン。となると……」
頭の中で情報を整理する。
信頼のない俺たち。シビラという切り札。盟主。出席条件。拝謁。
「コレン、シビラさん。次の方針が決まった」
「おっ」「ふむ」
コレンからは熱のこもった、シビラからは査定するような目を向けられる。
共通するのは、そこに期待があることか。俺がどのような答えを出すのか、という。
それに負けないように気合を入れ直してから、俺は口を開いた。
「結論として……俺たちは企業として連盟に所属し、実績を積むことで信頼を得る。そして盟主が出席するパーティーに参加。それを目的達成のための足がかりとする」
「なるほど。そこに招待されている時点で信頼性は充分……私の要請が通る可能性はあり、貴方としては盟主に接触して手掛かりを得られれば上々、ということですか」
「その通り。ただしこれには長い時間がかかる」
なにせ実績を積み上げる、という限りない話だ。ゴールなどなく、地道な活動が必須になる。
一応こちらも能力が強いらしい俺、人類の範囲を逸脱したシビラ、そして整備士であり知恵袋であるコレンが揃ってはいるものの、それですべてを解決できるとは思っちゃいない。
「それに加えて、さっきイツキが指摘してくれた、シビラさんにとっての問題点……その二つ目をクリアできていない。そして俺の方も、本質的に解決に繋がるとは限らない」
もちろん現状のまま彷徨うよりは数十倍マシだろうが、それほどの時間をかけてもまったく成果が得られなかった……というのもあり得る。
「だから、並行して進めるためのサブプランを立てておきたい」
「サブプラン?」
「そうだな、こっちの世界にあるかはわからないけど……宝くじみたいな? 達成すれば一気に目標に近づける鬼の一手、それがサブプラン」
そう言うと、コレンは変な顔をする。
シビラもまた目を見開き、じっと俺を見つめた。
「サブプランって、そりゃオマエ……。
「もちろん現実味が薄いのはわかってる。でも、あって困るものじゃないだろう? それをメインに据えるならともかく、余力を充てるくらいはできるはずだ」
「……言われてみりゃ、確かにそーだな」
堅実に生活しながらも、空いた余裕で夢を見る。問題なのは全額ぶち込んだギャンブルで、ギャンブル自体は節度を弁えるなら悪いものじゃない。
なにも人生は一直線ではないのだ。脇道寄り道、大いに結構──とは施設OBの言だが、そう的外れではあるまい。
「といっても、全く関係ないサブプランを達成するってのはもっと現実的じゃない。余力を注ぐにも注ぎ方ってものがある。だからベストはメインの過程でこなせるもの、だな」
ゲームでいうサブクエストでも、その場で達成可能ならやってみる気もするだろう。だがわざわざ一度クリアした地方に再度訪れて……と言われると、面倒臭さが優ってしまう。
そうして放置してしまったら設定した意味がない。
「まあ、サブに関しちゃ今すぐ浮かぶものでもないし、いくつあっても構わない。なので暇な時にでも言ってくれ。……俺からは以上だ」
話をまとめて、ふう、と息を吐く。
俺としては今後の目標を過不足なく提示できたつもりだが……そんな俺の不安を察したのだろうか、ふんふんとメモを取っているコレンがニヤリと笑った。
「ま、初めての会議としちゃ及第点じゃねえの? ちょーっとおカタイところはあったけどな」
「そこは今後の精進に期待する、ということで……」
少し茶化すように笑いつつ……内心で覚悟する。
コレンは俺のわがままで連れてきたのだ。彼女が納得できるリーダーとして振る舞えるよう、頑張らなければ。
「…………」
そしてそれは、今も考え込んでいるシビラにとっても同じこと。
彼女はコレンよりも厳しく俺を評価するだろう。それに不服はないし、彼女の期待に答えたいと思う自分がいるのも間違いない。
ただやはり、緊張はするのも確かだ。固唾を飲んでシビラを見つめると……ふう、と彼女は息を吐いて、俺を見つめ返した。
「……心配せずとも、悪くない結論でしたよ。不甲斐ないようであれば私が指揮を取ることも考えましたが、その心配はないようで何よりです」
「……それなら良かったよ」
本当に、と気が抜ける。
だが話はそこで終わらなかった。
「サブプラン。ええ、納得できる考えです。夢と現実を分離しつつ、どちらも見据えるその思考は、おそらく私にはないモノです。……だからこそ」
シビラは一度言葉を切って、印象付けるように──続ける。
「私は、ひとつの案を提示します」
案。サブプランのことだろうか。
「……姫サマ、なんか思いついたのか?」
「──〈遺産〉。コレン、貴女は聞いたことがありますか?」
遺産? と首を傾げる俺の隣で、ハッとしたようにコレンは目を見開く。
「……オイオイ、まさか姫サマの口からそれが出てくるとはな。てっきり連盟だけのお伽話だと思ってたぜ」
「なるほど、やはりコレンも知っていると。この話は星系全体に広がっている……であればやはり、可能性はある」
どうも二人の間では通じているらしい。元々俺は稀人だし、現地民だけで通じるものがあってもおかしくないが……。
それはそれとして、目の前でやられると疎外感がすごいぞこれ。
「……シビラさん、コレン、その遺産っていうのは一体なんだ?」
思わず訊くと、二人は気付いたように俺を見る。シビラは無表情だが、コレンはなんだかバツが悪そうだ。
「……悪い、イツキが稀人ってコト忘れてたぜ。そーだな、〈遺産〉ってのは────「コレン」お?」
説明しようとしたコレンの声を遮って、シビラは片手を上げる。授業中に挙手するような、許可を求める仕草だった。
「どしたよ姫サマ」
「もし〈遺産〉の認識に関して私とコレンの間に相違があった場合、訂正するのも手間でしょう。その擦り合わせも兼ねて、サブプランも含めた説明も一度にできれば効率的に話が進むかと」
「……それもそーだな。じゃ、頼むわ姫サマ」
「感謝します」
こほん、と仕切り直すように咳をして、シビラはピンと指を立てる。
「───〈遺産〉とは、この宇宙に存在する“アーティファクト”……規格外のアイテムを指す総称です」