ユニバース・グレイル 試作版 作:gfd
コレンの処世術に慄いたり感嘆しつつも、ラムダに向けて航宙艇を奔らせる。
俺もシビラも最初は驚いたが、お互い実利的と言えばいいのか。利益になるならなんでも使え、と考えるのは共通しているためか、割とすんなり賄賂の一件を受け入れることはできた。
だいいち、賄賂しなくても内部の諸々はしょっ引かれるし手続きに凄い時間を持ってかれるらしいので、コレンのおかげでそれを免れた俺たちに彼女を叱る権利はないのだ。
「ただ一線は超えないように気をつけよう」
「そりゃもちろん。今後も何かするときは許可取るならよろしくな、イツキ」
「俺の倫理観、責任重大だな……」
まあ確かにそれが一番いいのだが、と首をすくめる。三人が納得した上で法律に違反してなけりゃ大丈夫だろう、きっと。
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コロニー・ラムダ。
総人口、規模ともにコロニーの中ではそれほど大きくない“都市級”に属し、惑星サフィラ近域を航行しているのもあって人の流通は少ないのだとか。
「そんなラムダの特徴といえば、
ラムダの宇宙港内部にドッキングされる最中、コレンが皮肉げにそう告げた。
「気遣い、ね」
「明言はしねーぜ? 建前が重要だからな……けど、だからこそアタシたちには都合がいい」
まあ、帝国から船艇盗んで逃げ出してきた、なんて後ろ暗いにもほどがあるからな。いくら帝国と連盟が敵対しているとはいえ、普通のコロニーでは受け入れも難しいのだろう。
「この気遣いはバカにならねえ。なにせ管制塔っていう感知系統のエリートの巣窟でも通用するんだ、大抵の相手はなんとかなる」
「……さっきの奴も感知系統だったのか」
「能力の練度は別として、イツキほど能力は強くねーと思うけどな……って、今はそれはいいんだよ」
トントン、と航宙艇の内部装甲を叩く。
「アタシらが帝国から来たってデケェ証拠はこの航宙艇だ。ならこれをぜーんぶバラして売って、今後の資金にしちまえばいい」
「ちょっと勿体ない気もするけどな」
なにせ帝国のハイエンド品である。その一端でも確保できれば役に立つかもしれないんだが。
「なーに、船はまた買えばいいんだよ。グレードはちっと下がるから、姫サマにゃちょっと不満になるかもしれんが」
「問題ありません。宇宙船の座り心地など、大して変わらないでしょう。……どうあっても故郷の椅子より悪くはならないはず」
技術レベルを考えたらそうかもしれんが、身も蓋もなさすぎるぜ。
そう俺達が苦笑するのを見て、シビラはふっと息を吐いてから……瞳を釣り上げた。
「……二人に向けて、私から言わねばならないことがあります」
「ン? 笑ったのが気に障ったなら謝るけど」
「いえ、そうではなく。……これから、コロニー内部では私を姫と呼ばぬように気を付けてほしいのです」
「そりゃ……あー、そーいうことね。了解」
俺も理解した、と頷きを返す。
確かに、この調子でシビラを姫様扱いしていたら不審がられそうだ。現時点でも限りなく怪しいが、さらに怪しまれる要素を増やすこともないだろう。
合理的なシビラらしい判断だった。だが……。
「……姫サ、ごほん。シビラ本人から言われるとは思わなかったぜ」
コレンの言う通り、俺達が打診するのではなく、シビラが自分から提案するとは意外だった。
シビラはサフィラの王女であることに誇りを持っているようだったのに。
問われたシビラは、ふん、と鼻を鳴らして腕を組んだ。
「血統から来る肩書き自体に意味はありません。私は私であるがゆえに、サフィラの王統たり得るのですから」
なんというか、とんでもない自負である。
俺は苦笑を深めるのだった。
──ともかく、そんなことを話しているうちにドッキングが終了する。
航宙艇のハッチを開き
俺達三人を観察するように眺める彼女の前に、コレンが一歩進み出る。
「あなたが市民コード、O-432213のコレン・バーニー様ですね?」
「ああ。こっちの二人は未登録だから、そんなに見てもなんも出てこねーぞ」
「少し視線が不躾でしたか? 申し訳ありません、何分職務でございまして」
ふふふ、と笑う女性は美しい。だがそれ以上に胡散臭い。
何が怪しいって、嘘くささが一切感じられないのが逆に胡散臭い。密かにエーテル能力の感度を引き上げた。
「私はコロニー・ラムダの中央管理局の者です。この度は第一管制塔から通達を受けまして……連盟未登録の滞在希望者がいる、と」
「……管理局員さんがわざわざ出てくるとは思わなかったぜ。もちろん後で伺うつもりではあったけどな」
コレンは少し緊張しているようだったが、それでも平静を保っている。予想外ではあるが、ピンチというわけではないらしい。
「ふふ、申し訳ありません。ですが連盟外惑星人類……」
シビラをじっと眦でとらえた後、女はチラリ、と俺を流し目で見た。
「まして稀人ともなれば、やはり我らが出向く方が早いと感じたものですから」
……厭な目だ。下心ありますって宣言してるようなものじゃないか。
コレンがさりげなく横に移る。俺を庇うようだった。
「ま、それもそーだな……けどアタシらにやましいところはないぜ? それはそっちも聞いてるだろ?」
「ええ、それはもちろん。こうして宇宙港に受け入れた以上は、それを覆すつもりはありません……今のところは、ですが」
くすり、と控えめに微笑む。いちいちそういう所作を挟む女である。
「ゆえに、私は皆様の市民コードを発行するべく参りました。ですのでそう警戒なさらず、こちらに着いてきてください」
聞いている限り、おかしな点はない。
ひたすらに怪しいということを除けば、だが。
俺はコレンの側に寄り、耳元で囁いた。
「……どう思う?」
「……態度はともかく、言ってることは間違ってねえ。つーか後でアタシらの足で向かうつもりだったから、逆に面倒が減ったとも言える」
「……なるほど。なら、普通に従った方が話が早いか」
無駄に反抗して警戒心を抱かせるより、その方が後々得だろう。
よし、と腹をくくった瞬間、トン、と背中に衝撃がひとつ。コレンとともに振り向けば、シビラが腕を組んで俺達を見ていた。
まるで、“私がいる、だから心配するな”と告げるように。
「……ふ」
そうだな。
俺達にはシビラが──軽く艦艇の装甲をぶち抜ける切り札がいる。
警戒は必要だが、そう不安がることもないだろう。
コレンもまた、笑いを堪えるように一度帽子を被り直し、そして女に向けて笑って見せた。
「ヨシ、それじゃあ案内してくれ! コイツらをさっさと連盟に登録しねーとな!」
「……先程とは随分な変わりようですね? こちらとしてはその方がありがたいのですけれど」
少し困惑した様子の女に先導されて、俺達は桟橋を後にしたのだった。