ユニバース・グレイル 試作版 作:gfd
その後は大忙しだった。
まずは航宙艇の売却だ。今後の資金でもあり、同時に便宜を図ってくれた管制塔員への対価となり得るもの。
コレン曰く、流石に数日は待ってくれる、とのことだったが、そういう負債は得てして早々に支払ってしまった方がいい。画面越しでは俺の能力も働かない以上、尚更だ。
そんなわけで宇宙港に停泊している航宙艇を整備区に搬送してもらい(もちろんこれにもお金がかかるので後払いにしてもらった。ありがたいが世知辛い)、コレンと専門の業者が艦を解体。
それをさらに商業区に流し、全額売却。後はそれを各所に振り込み、憂い事を解消した、というわけである。
「くひひ、思った通り良い値が付いたぜ。手塩にかけて整備した甲斐があったってモンだ」
「コレン、悪い顔をしておるのう……」
「…………」
そんなふうに悪代官ごっこをしたのも束の間、次のタスクが待ち受けていた。今日の宿探しである。
というのも、そろそろ全員の眠気が限界に達しようとしていたのだ。
俺達がサフィラを出発したのが惑星時間で夜。宇宙空間──コロニーラムダもサフィラ近域を航行しているためか、似た時刻表を採用しており、俺達が到着した頃にはとっくに夜更け。
そのため、まとまった資金を手に入れて一息ついた瞬間、それまでの平静ぶりが嘘のように睡魔に襲われたのだ。
多分、神経の緊張が緩んだのだろう。職業柄睡魔には強いらしいコレンでさえ目をこすっていたのを憶えている。……俺に至っては意識が朦朧としていたので、こっそり舌を噛んで抗っていた。おかげでちょっと舌が痛いぜ。
なお、シビラは平然としていた。
ただちょっと眉がひくひくしていたので、やっぱり堪えてはいたらしい。王女なのにどうしてそこまで耐性が、と思わなくもないが……。
それはともかく、コレンの先導のもと俺達は居住区に急いだ。
時間も遅く、取れる宿などあるのだろうか……という不安をよそに、案外あっさりと宿が取れた。どうも他コロニーからの訪問客用のホテルらしく、閑古鳥が鳴いていたらしい。
ありがたく、なんて言っちゃ悪いけど、贅沢にも一人一部屋ずつを取ろう──とした段階で、シビラがまさかの異議を唱えた。
「その分け方は無駄が多い。資金も有限である以上、男女で区分したほうが結果的に安く済むのでは?」
「ん、まあアタシはいいけど……シビラはいいのか? よく知らんアタシと相部屋で」
「構いません。帝国に侵略された後の環境に比べれば、何も問題はない」
そんな苦労体験を出されちゃ、俺達は苦笑いするだけで何も言えない。
そんなわけでシビラとコレンが二人部屋、俺が一人部屋という形で改めて宿を取り、そのまま就寝した……というわけである。
/
そして次の日。
すっきりと気持ちのいい朝を迎えた俺達は、ホテルのロビーで集合したのだった。
「おはよう、コレン、シビラさん。調子はどう?」
「問題ありません」「バッチリ全開だぜ」
頼もしい返事に頷いて、三人で一つのテーブルを囲むように座る。
周りに客はいない。豪奢な装飾がどこか寂しく感じるが、俺達にとっては好都合。周りの目を気にすることなく、今後について話し合える。
もっとも、誰に憚る話でもないのだが。
「さて……それじゃあ、改めて諸々について整理しよう。コレン、デバイスで“銀行”を開いてくれるか」
まず第一にやるべきは、昨日の戦果である。
コレンに目をやると、おう、と頷き、デバイスを開いた。
そこに表示されているのは、スマホと同じ様々なアプリケーションが並んだホーム画面。
こっそりと疑惑を深めつつ、慣れた手付きでコレンが画面をタップして……こちらに見せた。
「昨日の艦を売っぱらったおかげで、かなり潤沢に資金が入ったぜ。おおよそ金額にして、一〇〇〇万マドカ!」
ジャン! と得意げなコレン。
見ていてとても眼福だが、残念なことに彼女はひとつ、重大な事実を忘れている。
「うん……すごいのはわかるが、どれだけすごいのかはわからないな」
「同じく。我らは連盟での資産基準を理解していないのです」
俺達がめちゃくちゃ世間知らずということを。
それに気づいたコレンは一瞬目を丸くして、すぐに頬を赤くした。
「く、くっそ、自慢しがいのねーやつら! わかりやすく言えばっ、このコロニーで一般的な
「おお、わかりやすい。そりゃ自慢できる金額だ」
「わかればいいっ! 交渉頑張ったんだからな!!」
コレンが張り切ってくれたおかげで、帝国の最新鋭機が家一軒分の金銭に化けたというわけだ。確かに悪代官ごっこもしたくなる。
と、それはともかく。
コレンを褒めて落ち着かせた後、場の空気を切り替えるようにシビラが口を開いた。
「であれば、考えるべきはそれほどの大金を何に使うか、ですか」
「……そうだな。せっかくの大きなアドバンテージだ、無駄に消費するわけにはいかない」
ふう、と息を吐きながら、肯定する。
今後の安定を目指す──このコロニーに定住するというなら、その資金の使い道は決まってる。
だが、俺達の目指す場所はもっと先にあるのだ。
「俺達は企業として連盟に参加し、成り上がらなきゃならない。その先に俺達のゴールがある」
そのために必要なものを買わねばならない。そうなると、俺にとっては果てしない金額でも足りるかどうか……怪しいものだ。
コレンに目を向けると、彼女は頷いて俺達を見た。
「まず、前提として……連盟に企業として認められるには、必要なモンが三つある」
コレンは指を三本立て、指折り数えて説明する。
「一つ目、”宇宙船の所有”。それも最低限、企業に所属する一定人数が寝泊まり可能な規模でなきゃならねえ。平たく言えばテメエの城を持てってことだな」
「二つ目、”事業の実績”。任された仕事をこなしてますって証を示すためだ。これに関しちゃ管理局の査定次第だが、まあ真面目に仕事やってればいつか貰えるモンだから安心しろ」
そこで一度言葉を切って、コレンは鋭い目で俺達を見た。
「そして最後の三つ目、これが一番重要だがな……”コロニー市長からの推薦状”だ」
「推薦状……実績とはまた別なのか」
「詳しくはアタシも知らねーが、実績は”仕事に対する信用”、推薦状は”人間としての信頼”らしいぜ? ま、一筋縄じゃいかねーのは確かだな」
コレンはふうと一息ついて、さらに続けた。
「で、それを踏まえて一番に資金を割くべきだと考えるのは……宇宙船だ。なるべく資金を目一杯使った高性能なやつをな」
確かに、企業としての必須条件に含まれるし、今後の寝泊まりもそこで行えるとなれば、金があるうちに買わない理由はない。俺としては納得できる。
しかし、それを聞いたシビラが身を乗り出した。
「いくらかグレードを落としてでも資金は残した方がいいのでは? 私達が今後どんな行動で実績を積み上げるかも不確定な今、それだけ高性能なものを買ったとして持て余す可能性もあると思いますが」
「その可能性もまあ、否定はできねえが……アタシは問題ないと見てる」
その理由は、と目で問われたコレンは、それに応えるようにニッと笑った。
「
「……ふむ」「俺達が、か」
「考えてもみろ。感知系統のイツキ、念動系統のシビラ。上澄みも上澄みのエーテル能力者が二人も揃ってるんだ。下手なところに金かけるより、足りねえモンに全ツッパしてカラダで稼いだ方が早ぇ」
それだけの能力がオマエらにはある、とコレンは断言する。
俺としてはあまり実感はない。しかしその言葉の力強さに、自然と納得させられる。
「船が強けりゃ仕事も早く、多くこなせるようになる。原価は船の代金だけ、あとは働けば働くほど金が増える……」
流れるような謳い文句に、しかし逡巡を滲ませながら、彼女は俺達をちらりと見た。
本当にいいのか、と問うているのだ。
「……だけど、その分だけ二人の負担はデケえ。だから……」
「……その口ぶり。私達の能力であれば何が一番効率が良いのか、検討はついているようですね」
「なら、聞かせてくれ。俺はコレンの意見が聞きたいんだ」
すでにシビラの声からは、疑念の色は消えていた。
代わりに確信がそこにある。コレンの言であれば一考する価値はある、と。
俺もそうだ。彼女を信頼している。
そうじゃなきゃ、こんなところにいるものか。
彼女は俺達の言葉を受けて、怯んだように眉を細め……それでも負けん気を燃え上がらせるように……コレンは言った。
「