ユニバース・グレイル 試作版 作:gfd
「
「ええ。思い当たる節は、いくつか」
二人曰く、襲殻とは人の思念で汚染されたエーテルの結晶らしい。
詳しい原理もあるそうだが、今は重要ではないので省く。要点だけ述べれば、人が多く集まる場所では襲殻が生まれやすいのだそうだ。
「人が集まりゃ思念も集まる。コロニー近域じゃア毎日襲殻の幼体が生まれて、その対処を民間に委任してるハズ……アタシらが狙うのはそこだ」
「襲殻の対処はシビラ……なら、俺の役割は襲殻の探査、か」
「そーだ。イツキの能力なら、目じゃ見つけられない小さな襲殻でも発見できる。大物を狙って探すことだって出来ちまう……そしてこのシゴトは出来高制だ」
働けば働いた分だけ稼げる、というわけか。
しかし懸念点もある。
「だけど、そんなにオイシイなら同業者も多くいるんじゃないのか? その中にはエーテル能力者もいるだろうし……お互い襲殻の奪い合いで思うように稼げない、ってこともあり得ると思うんだが」
そう問いかければ、コレンはちっちと指を振る。
「フツーのエーテル能力者は襲殻狩りなんてしねーのさ。どんな系統であれ、もっと安定してる職業がある。わざわざ危険を侵して短期で一気に稼ごう、なんてモノズキはそういねーぜ」
「そんな物好きだからこそ、俺たちにアドバンテージがある……」
「そゆこと。それにもしエーテル能力者がいても問題ねーよ。オマエらなら大抵の能力者を出し抜ける」
生身でなんとかなるからこそ、それでは補えない宇宙船に資金を注ぎ込むことで結果的に効率よく稼げる……聞く限り筋は通っているな。
シビラも納得したらしく、頷いていた。そんな俺達を見たコレンは、安心したように息を吐き、しかし申し訳無さそうに口をへの字に曲げる。
「ただ……さっきも言った通り、この方法はオマエら頼りになっちまう。荒事なのは間違いねーし、万一の可能性もある。この方法を取らなくても、二人ならもっと良い職場があるかも……」
「私がいる以上、万一はありません。……以前のように、不覚は取らない」
もにょもにょと自信なさげにボヤいたコレンに対して、シビラが言った。
確固たる自負とかすかな悔恨を滲ませながら、堂々と。
「最大効率で成り上がる以上、多少のリスクは承知の上だ。俺もシビラさんもそこは同じ……なら後は、出来る限りリスクを減らして立ち回るだけだよ」
彼女に続いて俺が告げると、コレンはきゅっと口を結び、帽子を深くかぶる。
そこには小さな感謝と、それでも消えない後ろめたさがあり……。
「言っとくけど、コレンにも存分に働いてもらうぞ」
「え」
「船の整備、ちゃんとやってもらわないとな。俺達が実働する分、船には負担をかけるんだし……コレンがしっかりしてないと安心して働けないんだ。だから頼むよ、腕利きの整備士さん」
我ながらわざとらしくウィンクすると、コレンは一瞬頬を赤く染めてから、おう、と呟くのだった。
……できることがない、というのは苦しいものだ。ましてエーテル能力という形で表面化するこの世界であれば、その息苦しさは相当だろう。どうもコレンは能力にコンプレックスを持っているようだし。
コレンにはコレンの仕事がある。能力では補えない、彼女自身が積み上げてきたものに──彼女自身に価値がある。
それが伝わればいいのだが。
顔を赤くして俯くコレンと、それを見ながら眉を八の字にする俺。
そんな俺達を交互に見て、シビラは嘆息した。
「二人とも、それは後になさい。今やるべきは違うでしょう」
「お、おう」「……そうだな」
「方針は定まった。であれば次にやることは明白」
俺達に喝を入れた後、シビラは椅子から立ち上がる。
「商業区で船を購入しましょう。すぐに仕事を始められるように」
そう言って颯爽と歩き出したシビラ──の背中に向けて、コレンが慌てたように声を張り上げた。
「ちょ、ちょっと待て!」
「何か?」
「確かに船は重要だけど! まず買うべきはそれじゃねえ!」
声を受けて振り返ったシビラは眉をひそめ……。
「まず買うべきは! ──全員分の、服!!」
ビッ、と薄汚れた服を指差されて、硬直した。
……まあ、単純に考えて昨日からずっとだからな。そろそろ着替えないとヤバい、色々。
/
そんなわけで商業区に赴いた俺達は、宇宙船の前に服を買うことになった。
仕事着のコレンはもちろん、俺は質素な捕虜服(着替えた学ランは置いてきた)、シビラは機動性を重視して所々が千切られたドレス。
清潔さは別としても、全員街をうろつくには不適切な格好だ。服を何着か買ったところで宇宙船のクオリティには影響しないため、晴れて本日最初のタスクとなったのである。
商業区の服屋に入り、男女で分かれて服を見ていく。
「……思ったより普通の服だな」
宇宙というから近代的な服装がスタンダードなのかと思ったが、現代とあまり変わりない。これも盟主が異世界人だからなのだろうか。……そういえばあの管理局の女も秘書風のファッションだったな。
商業区自体ショッピングモールのような外観だし、俺としては使いやすくて助かる限りだ。
しかし現代日本と大きく異なる点がひとつ。
それは、大々的に宇宙服が売られていることだ。
さまざまなデザインの宇宙服はどれも近未来的で、眺めているだけでワクワクしてしまう。
が、好きに買うわけにはいかない。コレンからの注文があるのだ。
「えーと、確か……」
『必要なのは普段着と私服、あとは宇宙服だな。船外活動するシビラ、パイロットのイツキはE型の宇宙服を選べよー』
どうもそれぞれのタイプで性能が異なるらしく、俺達にはE型が合っている、とのこと。
店の人間に聞くような内容をコレンが知っているのは何故だろう? と思いつつ、宇宙服エリアを巡り……そして発見したE型を前に。
「これ、は……これは……」
思わず言葉が出なくなった。
あの、これは、えっと……パイロットスーツ、ですよね。
身体にピッチリ張り付いて、ラインが浮き出るタイプの。
「……は、恥ずかしい……!!」
これを着るのは流石に現代日本人としての羞恥心が悲鳴を上げている!
ぱくぱくと陸で溺れる魚のようにパイロットスーツを見る俺に向けて、店員が苦笑しながら話かけてきた。
「……やっぱりちょっと嫌ですか? これ」
「あ、いや、えーと……」
「コロニーアルファ、盟主のいるコロニーから輸入したんですけどね」
盟主、貴方なのか。このパイスーは貴方の趣味なのか。
話を聞く限りだとすごい人なんだと尊敬すら覚えていたのに、なんかちょっと見たくないものが見えているような、そんな気がしてならないぞ!
「一応このデザインにも理由がありまして。エーテルは人の思念と感応する性質があるのですが、E型は人間の思念を外部に伝えやすい素材と構造で出来ております。そのためエーテル能力者の方であれば、E型を着用することで能力が引き上げられるのです。そのため、このように薄手になってしまい……」
「な、なるほど」
盟主の趣味はともかく、原理は理解した。
コレンがE型とわざわざ指定したのはそのためか。彼女もエーテル能力者だから、そのへんは詳しいのだろう。
「……な、なら、これの黒いカラーリングってありますかね……」
「ええ、ございますよ。あ、お客さまがエーテル能力者ということであれば、是非おすすめしたい商品があるのですが……」
「……じゃあ、それも見せてください」
そんなわけで店員さんに色々見せてもらいつつ、俺は結局黒いパイロットスーツを購入したのだった。
買い物を終え、私服に着替えた後、店員さんに見送られながら店を出る。
随分時間がかかってしまった。もう二人は買い物を終えたかな、と周りを見渡すも、コレン達はいない。
まだ買い物中だろうか──と思った瞬間、後ろから姦しい声が聞こえてきた。
「シビラおまえっ、マジでそのまま行く気か!?」
「ええ。利便性に問題はないでしょう?」
「確かにソレは問題ないけどっ、別のところにデケえ問題が──あっ、イツキ!」
どうも俺と同じ時間に買い物を終えたらしい。ナイスタイミングだぜ。
妙に騒がしいのが気になるが、本当に危険ならもっと深刻そうだし問題ないだろう。
「お、二人も買い物終わっ──────…………」
振り向けば。
そこにシビラがいた。
「ッッッ!!!!? な、なん、なんっ!!!?」
「……どうしました?」
バッと勢いよく目を隠す俺、訝しげにこちらを見るシビラ、あちゃーとばかりに頭を抱えるコレン。
なんともカオスな状況だが、俺の方はそれどころではない。あのスーツは身体のラインが出る代物で、つまりあの曲線は、つまりあの豊満なラインは彼女自身の────!
改めて覚悟していたなら耐えられた。
でも不意打ちはダメだ。ダメだ。ダメすぎる!
というかなんで今E型を着てるんだ! あれ宇宙服じゃないのかよ!?
「なー言っただろシビラ! その格好はシゲキが強すぎるって! アタシでもちょっとヤベえんだからさ! つーかシビラは恥ずかしくねーの!?」
「羞恥心であれば特には。見られて何が損害があるわけでもありませんし……」
シビラは首を傾げながら、言葉を続ける。
「このE型スーツはエーテルの補正を行う上、充分な機動性があり、緊急事態への対応能力も高い。どんな状況にも対応できる、ならばこれを着用し続けても構わないのでしょう?」
「そーゆーとこ! そーゆー合理的過ぎるとこ改めようぜ!! な!!!?」
必死にコレンが説得しようとするも、彼女はどこ吹く風である。
そんなふうに騒いでいるから当然周りの目も集まる。そしてシビラに惹きつけられて──────ああ、まったく。
何やってるんだ俺は。
気持ち悪いと、頭が冷えた。
シビラにツカツカと歩み寄る。
「シビラ、これを着てくれ」
店員にE型とともにオススメされた服──ケープを取り出し、彼女に被せた。
「周りにとっても目に毒だからな。悪目立ちは避けた方がいいだろう?」
「……そのようですね」
周りを見て嘆息し、シビラはケープを羽織り直す。
後ろで親指を立てるコレンを笑みを返して、俺は身を翻した。
「それじゃ、宇宙船を買いに行こうか」
狼狽えた己への嫌悪。
それを包み隠すように。