ユニバース・グレイル 試作版 作:gfd
シビラの羞恥心欠如というアクシデントはあったものの、どうにかケープでケアしつつも商業区を歩く。
昨日はかなり急いでいたので見て回る時間がなかったが、今日は宇宙船の店へ進むかたわら、ゆっくり見て回ることができた。
服屋、食品、その他諸々。
中には宇宙船のジャンク屋といった、なかなか心踊る売店もあり……だがしかし、廃れた印象は拭えない。
人が少ないのだ、単純に。
シビラがE型をお披露目した時は相応に視線が集まったが、それ以外ではどこか閑散としている。
「……こんだけ立派な施設があるのに、不思議なもんだな」
歩きながらぼやくと、コレンがそっと俺の側に寄ってきた。
「……このコロニーには色々黒いウワサがあってな。だからこそアタシらもイケると思ったワケだけど、そのへんが影響してるのかもしれん」
「……なるほど」
そのきな臭さを利用してコロニーに入ったが、同時に警戒を怠ってはならない。
たとえシビラという武力が存在すると言っても、である。
「いやしかし、本当にショッピングモールと似てるな。設計者は異世界人かな?」
俺が頷いて話題を変えると、コレン、そしてシビラも不思議そうな顔をした。
「ショッピングモール?」
「俺の故郷の総合商業施設だよ。ちょうどこんな感じで、色んな店舗が一箇所に集まってるんだ」
日本ではそれほど行く機会はなかったが、大規模なものであれば見て回るだけでも楽しい、と聞いたことがある。
実際に今商業区を歩いているだけでも胸が弾むので、その噂は事実だったのだろう。
俺としては軽い話題のつもりだったのだが……コレンは何故か難しい顔をして沈黙した。
「……コレン?」
「イヤ、ちょっとな。確かコロニーの基礎設計を担当したのは盟主だって聞いたことがあるんだが……」
それは、なんというか。疑惑が深まるというか。
スマホといいショッピングモールといい、盟主は思ったよりも近しい人間なのかもしれない。
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「『ベルタモービル』へようこ……おや、先日は帝国のハイエンド機を売り飛ばしてくれたお客様じゃないか。何か問題でもあったのかい?」
入って早々、そんな声をかけられた。
さまざまなカタログと宇宙船のホログラムで溢れた店内は、やはり他の店とは雰囲気が違う。そこで働く店主の爽やかそうな風貌と相まって、ショッピングモール的な入りやすい外観とは似ても似つかない高級感が溢れていた。
「昨日はどーも。お互い良い取引ができて何よりだったぜ」
「言うねぇ、僕から金を巻き上げたくせに。ま、こっちも合意の上だから文句は言わないけどさ」
なにせ久しぶりのお客様だったし? と笑う店員が言うように、今の店には俺達以外に客はいない。記憶が曖昧だが昨日も他にいなかったはずなので、例に漏れず閑古鳥が鳴いているようだ。
「それで、今日はどんなご用で? 言っておくけどもう返品はできないからね」
「そんな非常識なことしねーよ。アタシは新しい取引がしたくてここに来たんだ」
「おや、それはそれは」
チョイチョイ、と手招きされたので、俺とシビラはコレンのそばによる。……なんか親子連れの鳥みたいだな、閑古鳥だけに。
「昨日の買取金を目一杯使った新しい宇宙船が欲しくてな。操作性能と居住性に特化したヤツ、ないか? ちなみに操縦士はこっちのイツキで、乗組員はアタシら三人だ」
「ふうん、男性、身長一七〇前後……そっちの刺激的な美少女は身長一六〇半ばかな? で、作業服の君が一五〇前後ね。君たちに合った船となると……うちはベルタ系列だから……このへんかな」
フォン、と俺達の前にカタログが表示される。
分類は『小型宇宙船』、価格帯はどれも九〇〇万から一〇〇〇万マドカ……予算上限に近い、注文通りの品だった。
「いろいろ種類があるんだな」
「ふむ、自分で部品を選ぶこともできると」
「高い買い物だからね、存分に悩んで決めるといい」
店員はカウンターに肘を突いて、こちらを傍観する構えに入る。いくらでも待つ、と言外に告げていた。
プロ意識の鏡だな。俺達も焦らず決めるとしよう。
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店員の言葉通り、大いに悩み──と言っても一時間ちょっとだが、俺達は船を決めた。
それぞれのイメージを突き合わせ、どこまで盛り込めるかを話し合い、何を妥協するか苦心する。言葉にすればそれだけだが、なかなか有意義なものになったと思う。
なにせ俺達の城なのだ。決めるならば細部まできっちりと、納得いくまで議論を重ねたい。
全員がそう思っての話し合いだ。必然的に熱が入り、理想を大いに語り合った。
「……で、本当にこれでいいんだね?」
そんなわけで話し合いを終えたわけだが、どうもこの店員、こうやって宇宙船購入者が悩みながら選ぶ姿がたまらなく好きらしい。
ホクホク顔でそう言った店員に、俺達は全員で頷いた。
「おうよ! 完成品は整備区経由で受け取ればいーか?」
「うん、こっちも手続きが終わったらすぐ輸送するよ。詳しいことは言えないけど、多分すぐ完成するんじゃないかな? なんたって人がいない、つまり仕事がないんだから!」
ハハハ、と笑う店員に苦笑いする。自虐は受け取る側もキツいんだぞ。
ともかく、この店での用事は済んだ。
コレンやシビラが礼を言いながら店を出て、俺もそうしようと背を向けた時──背後から声をかけられる。
「君、ちょっといいかい」
「? はい、何かありましたか?」
振り向くと、店員が複雑そうな顔をしてこちらを見ていた。
「いや、そういうわけじゃないんだけどね……君が三人のリーダーかい?」
「……一応はそうですが。よく気付きましたね」
交渉はほぼコレンに任せていたのに。
「あの整備士ちゃんがチラチラ君の意見を伺うように見てたからね。綺麗な子の方もそう。お互いがお互いに気遣ってるけど、細かな序列として君を上に置いてる……ように見えた」
自覚はなかったが、確かにそうかもしれない。
コレンは俺達から促さないと意見を発信しないところがある。それをこの時間で見抜いたのは素直にすごい。店員としてのスキルだろうか。
「うん、当たってるならよかった」
「……サラッと表情読まないでください。まあ、当たってますけど」
「あはは、癖でね。すまない。で、ここからが本題なんだが……君、あの二人と一緒に暮らすのは大丈夫なのかい?」
「……どういう意味です?」
ちょっと下世話な話になるんだが、と前置きして、店員は続けた。
「男女が一緒に暮らすんだから、何か間違いが起こる可能性もある……一応、その自覚はあるのかな、って聞いておきたくてね。こういうの、女の子の前じゃ言えないだろう」
……本当に下世話な話だが、意味は理解できる。
そしてお節介だと理解しつつも、俺を気遣ってくれるこの人は、きっと良い人なのだろう。
だからこそ、俺も真摯に答える。
「ええ、理解はしてます。当然気をつけるつもりでいます……まあ、何か起こるとも思えませんが」
肩をすくめる。それが楽観的な発言に聞こえたのか、店員は眉を細めた。
ありありと浮かぶ心配そうな色にくすりと微笑んで、俺は言う。
「俺には色事にうつつを抜かす余裕はありませんからね」
ただでさえ俺は一同の中で曖昧な役割なんだ。そんな余裕があるなら文字の勉強に割いた方がよっぽど役に立てる。
そうでなくとも、やることは山積みなのだから。
「そもそも理屈で考えるなら、俺より二人の方が腕っぷしは強いですからね。俺が血迷ったところで撃退されて終わりですよ」
「……それ、自分で言ってて悲しくならない?」
「実は少し」
恥じ入るように頭を掻けば、ようやく店員も納得したのか笑ってくれた。
「リーダーの君がそういうなら僕からは何も言えないけどね。でもせっかく船を持ったんだ、くだらないことで瓦解しないよう頑張ってくれよ」
「ええ、もちろん。アドバイス、ありがとうございました」
しっかりと頭を下げてから、俺は店を後にする。
さて、二人とさっさと合流しないと。
「……拗らせてるねえ、中々に」
久方ぶりの上客が去った後、店員はほうと息を吐いた。
「あの少年、自分が間違いを起こす可能性ばかり考えて、女の子がなにかするとは欠片も思ってないとは」
よっぽど自己評価が低いのか、それとも恋愛にトラウマでもあるのか。
議論の最中はリーダーとして過不足なくまとめていたのに不思議なものだ、と首をかしげてから、店員は微笑んだ。
「ま、下手に意識するよりはいいのかな? 僕としては、暖かく見守る他ないけどね」
いつの時代、どこの誰であっても、初々しい少年少女を見守るというのは愉快なものだ。
適度につっつき適度に導いてやるのが大人というものだろう。
店員はふんふんと気分よく鼻歌を歌いながら、部品を整備区に運ぶ手続きをするのだった。