ユニバース・グレイル 試作版   作:gfd

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第十八話 メカサーの姫と白鳥の船

 店先で待っていた二人と合流した後、俺たちはさらに散策を進めた。

 市場調査の一環と言えばいいのか、全体を見て回ることで雰囲気を理解すれば今後の役に立つ……という理由だったが、単純な道楽と暇潰しも否定できない。

 ……合理的なシビラにそう言うと嫌な顔をされそうなので、建前としては市場調査だけども。

 

 そんなわけで、行きでは訪れなかった店舗を冷やかした結果。

 

「うーん……やっぱ、色々ヤベーのも取り扱ってんな」

 

 割と深刻そうにコレンが言ったので、俺たちは顔を見合わせた。

 

「そこまでか? 一見してヤバそうなものはなさそうだったけど」

 

「そりゃそんなモン取り扱ってたら一発ご禁制だからな。こう、誤魔化せる具合にグレーゾーンな代物を扱ってんだよ、ココ」

 

「……なるほど、それはコレンにしかわかりませんね」

 

 俺とシビラだけで買い物したら、知らないうちに引っかかってそうだ。

 

「ま、アタシらも横流しした側だからとやかくは言えねーけどな」

 

「帝国のハイエンドか……となると、さっきの店もグレーな部品を取り扱ってたのか?」

 

 ベルタモービル。店員は非常に親切そうに見えたが……。

 

「ありゃベルタっつうデケエ製造系企業所属のディーラーショップだぜ? 表立ってそんなことしたらすぐ潰れちまうさ。精々買い取って流すくらいじゃねーかな?」

 

「ふぅん……って言っても、それこそとやかく言えないか。それで助かってるのは俺たちだし」

 

 やってはならない一線を越えなければ、多少のズルは気にならない。ましてこんな環境だ、清廉潔白で売っていくには厳しいものがあるのだろう。

 俺の言葉に二人も頷く。清濁併せ飲める人間ばかりで助かるぜ。

 

 それにしても、と俺はコレンに目を向けた。

 

「コレンはそんなことまでよく知ってるな。連盟の整備士ってのはみんなそうなのか?」

 

「ン……ヤ、アタシはちょっと特殊だからなぁ……」

 

 ポリポリ、と照れくさそうに頬を掻いてから、コレンは微笑む。

 

「アタシ、整備士の寄り合い所帯で育ったからさ。ガサツな男ばっかでやりくりにも苦労してたから、ちょっと育った頃からアタシが色々手伝ってたんだ。多分、他のヤツに比べりゃ色々知ってるのはそのせいだろーな」

 

「へえ……育ての親を手伝って、か。なんかいいな、そういうの」

 

「別に良かねーよ、あんなバカども。どっちが世話してるかわかったモンじゃねーし」

 

 そう言いながらも鼻をこする姿には、確かな親愛の情が感じられた。

 ……うん、やっぱりそういうの好きだよ、俺は。

 

「……その生暖かい目はやめろ。ハズイっつの」

 

「あはは、悪い悪い、っと、シビラさん?」

 

 ふと隣を見れば、彼女が顎に手を当てて考え込んでいた。

 俺が声をかけても反応せず……それでもコレンと一緒に呼びかけると、す、と顔をあげる。

 

「何か?」

 

「何か考えてたっぽいからさ。気になることでもあった?」

 

「……そういうわけではないのですが……ああ、いえ、そうですね」

 

 珍しく言葉を濁しながらも、シビラはふと空を見上げる。

 その姿は、まるで一枚の絵画を思わせるほどで……心臓が跳ねる。

 

「少々昔のことを思い出していました」

 

「昔……」

 

「惑星サフィラでの、帝国襲来以前のことです。特に深い意味はありませんので、お気遣いなく」

 

 そうすっぱりと言い切った彼女は、本当に気にしていないように見えた。

 だが、それが嘘でなくとも真でないことはすぐにわかる。

 

 俺とコレンは目を見合わせ、今後はそういう話題は控えよう、と決めたのだった。

 

 ──デバイスに『完成したので受け取りに来い』と、そんなぶっきらぼうなメッセージが表示されたのは、一日の半ばが過ぎた頃であった。

 

 

 /

 

 

 整備区。

 その名の通り整備士たちが働くエリアであり、惑星間居住環境船(コロニー・シップ)全体の維持管理も任された重要な区画。

 だが同時に、俺たち一般市民の生活を支える船艇整備などを請け負っている場所であり……。

 

 つまるところ、宇宙に存在するコロニーにとって、非常に重要な技術者たちの集いなのだ。

 

 ……と、いうわけなのだが。

 

「おーっす! 受け取りに来たぜーおっちゃーん!」

 

 整備区に顔を出して早々、受付でコレンが大声で挨拶する。

 するとゾロゾロと……めちゃくちゃゾロゾロと大柄な整備士たちが奥のガレージから湧いてきた。いや、言い方悪いけどマジで湧いてくるんだよ。仕事どうしたんだよってくらいに続々と。

 

「おー! コレンの嬢ちゃんじゃねえか! 昨日ぶりだな!」

 

「オイオイオイコレンの嬢ちゃんってのは失礼じゃねえか? こういう時はバーニー嬢だろ!!」

 

「はっ、テメエはその呼び方で満足してな! あっコレンちゃん今高いお菓子あるんだけどどうかな?」

 

「抜け駆けしてんじゃあねえぞボケェッ! テメエまだ仕事あんだろうがッ!」

 

「今休憩中なんだよなぁ!? お前こそ昨日からボケっとしやがってよぉ、カミさんも泣くぞぉ!?」

 

「それは禁句だろうがコレンちゃんの前で!!!」

 

 

「……相も変わらずやかましい」

 

「醜い争いだ……」

 

 

 俺とシビラがシンプルにドン引きしている中、この喧騒の中心であるコレンはと言うと。

 

「おっちゃんたち喧嘩すんなっての! アタシは船を受け取りに来ただけだぜー?」

 

「そ、そんな……昨日みたいにさ、色々お話ししようぜェ……」

 

「悪いけど、今は時間ねーの! 次来た時に相手してやっからさ!」

 

「お、おお! そんときゃ俺たち自慢のカスタム船を見せてやるぜ! な!?」

 

「「「おうよ!!」」」

 

 ……どうしてこんな……なんというか、言葉を隠さず言えば、若い女の子におっさんたちが群がる構図になってしまったかと言うと。

 

 整備士(メカニック)は技術職だ。オイルに塗れて機械と向き合う……エーテル能力のおかげで男女の能力差が薄いこの世界にあっても、そんな仕事をする女性は少なく、必然的に男性が多くなる。

 その上、このコロニーは活気が少なく黒い噂が色々ある──つまり治安に不安が残る。そんなところで働きたい、と考える女性整備士は当然おらず、その結果、このコロニーの整備区には男しかいなくなってしまった。

 

 

 要するに彼らは極度の女日照り………………そんな状況の中で、コレンが現れたのだ。

 

 

 同じ整備士なのでむさ苦しさに理解があり。

 職に対する熱意を共有でき。

 自分たちの強面っぷりにも怯えない、小動物的可憐さを持つコレンが。

 

 

 ここまで言えば、彼らがどれだけ盛り上がったかは語るまでもないだろう。

 昨日はもっとヤバかった。口にすると思い出してまた疲れそうなので詳しくは言わないけど、マジでちょっとしたゾンビの集団だったぞあれは。

 

 ただ今日は一日経って落ち着いたのと、コレンの統制が効いたのだろう。

 彼女が一声諌めた瞬間、全員が落ち着きを取り戻していた。

 

「おほん……で、要件は船の引取でいいのかい?」

 

「ああ。でも、一回ガレージに入らせてもらっていいか? おっちゃんたちの腕を疑うわけじゃねーけど、納得行く出来か確認してえんだ」

 

「はっ、言いやがるぜ。だが一端のメカニックなら自分で確認するのは当然、上がってけ」

 

「おう! おーいイツキ、シビラ! 早く来いよー!」

 

 コレンに呼ばれ、無数の視線が突き刺さる。うーん、すっごい威圧感だ。

 だが、ここでビビったらダサいにも程がある。俺は息を吐いてから、胸を張って歩き出す。

 まだ平静を保っている整備士の先導で、俺たちはガレージに入った。

 

「……あの嬢ちゃんもいいよなぁ」

 

「そうかぁ? 俺等を蛆虫みてえに見てたぞ」

 

「バッカ、それがいいんじゃねえか。あんな美人に叱られたらより気合が入るってもんよ」

 

「はぁ、そんなもんかねえ。俺ぁコレンちゃんがいいなぁ、あんな子と一緒に仕事してえよ……」

 

「そりゃ……まあ……そうだな……あんな子と仕事できりゃ最高だろうな……」

 

「……思ったんだが、あの子と仕事しつつ、あの嬢ちゃんが上司なら……どうだ? 最高じゃねえか?」

 

「天才かよお前……そんな環境なら新しくコロニー建造できそうだぜ……」

 

「天地創造か……燃えるじゃねえの」

 

 後ろから聞こえる壮絶にアホな会話は聞こえないふりをして。

 隣を歩くコレンに耳を寄せて呟く。

 

「よくあれを捌けるよな、コレン」

 

「ン? あーまぁ、うちのバカどももあんなカンジだからな……慣れてるっつーかなんつーか」

 

「……苦労してるんだな」

 

 思わず同情してしまうと、コレンはカラカラと笑った。

 

「あれで技術は本物だからな! 割と話してておもしれーんだぜ?」

 

 だとしてもちょっと俺には真似できないかな、うん。コミュ力はやっぱりコレンが一番だ。

 そんなことを話していると、俺たちを案内していた整備士が申し訳無さそうな顔をした。

 

「阿呆どもが済まない。後で言って聞かせる」

 

「おっちゃんはおっちゃんではしゃいでなかったか?」

 

「……俺も含めて自制するさ。悪いなコレンちゃん」

 

 彼は整備士たちの中でもリーダー格らしく、そのため俺たちの案内を買って出たのだそうだ。自分以外だと若干不安だかららしい……それが何に対する不安なのかは言うまでもないだろう。

 

 ともかく、四人でしばらく通路を歩いた後、一つのガレージにたどり着いた。

 

「あんたたちの船を収めてる個別ガレージはここだ。最近は民間の仕事が少なくてな、その分気合を入れさせてもらった」

 

 整備士が懐から鍵を取り出し、そこに差し込む。するとシャッターが登り始め────そこに、俺たちの船があった。

 

 シンプルな白に青のラインが走るカラーリング。

 形状は輸送機をさらに大型化したようで、傍目にもそれなり以上に大きい。カタログで実際に見ていたが、実物を前にすると圧巻だ。

 

 圧倒される俺の横で、シビラは腕を組み、コレンは目を輝かせている。

 三人十色の反応を前に、整備士は自慢げに笑うのだった。

 

「ベルタ系列カスタム機、機体名『シグナス号』。アンタらの注文通りの品だ。受け取ってくれ」

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