ユニバース・グレイル 試作版 作:gfd
シグナス。確か白鳥という意味だったか。
船名は選んだ宇宙船の基礎設計から引き継ぐものなので、俺たちが決めたわけではないが……なかなか趣味がいいじゃないか。
「アンタらの注文通り、このスケールの多くを居住性に割いている。あとは輸送性能だな。よっぽど無理をさせなきゃ長く運べるはずだ」
「操作系は? ハンドルタイプなのは確認したけど、各種オプションは大丈夫か?」
「もちろんだ。初心者でも扱いやすいハンドルタイプ、そして各種自動航行モードも備え付けだ。そこらの船ならぶっちぎれるぜ。……代わりに一切の戦闘機能を廃したが、本当によかったのか?」
「問題ありません」
「ならいいが……」
各々が整備士に尋ねながら、船のスペックを確認していく。
今のところ不備は見当たらない。質問にも淀みなく答えているし……うん、これなら問題なさそうだ。
「いやー良い船だなおっちゃん! 流石だぜ!」
「その言葉は阿呆どもにも掛けてやりな。全員、コレンちゃんに良いとこ見せたくて張り切ってたんだ」
「おーよ! 後でちゃんとお礼言っとくぜ!」
何より、俺たちの整備士が嬉しそうにしている。それだけで信頼感は凄まじい。
「うん……良いな、これは」
俺たちの船。
俺たちの仕事道具。
そして、俺たちの城。
すべてを兼ねたシグナス号を見て、俺は漠然とそう感じた。
……そう、漠然と。達成感でもなく、さりとて不安でもない、漠然とした喜びを。
「…………」
それを自覚して思わず口をつぐんだ俺を見て、コレンが首を傾げる。
「どしたよイツキ。なんか問題でもあったか?」
「いや、問題はない。これは良い船だ。……ああ、とても良い船だ」
船体に触れる。
金属の冷気が肌を刺し……俺はため息を吐いた。
「コレン、シビラ。この後時間をくれないか」
「? いーけど」「構いませんが」
「……ありがとう」
少し見直すべきかもしれない。
その後、一通り船の確認を済ませてから組み立て代を支払い、さらに宇宙港への搬送を予約。
コレンとの別れを惜しむ整備士たちに見送られながら、俺たちは整備区を後にするのだった。
/
居住区、今朝チェックアウトしたホテルにて。
「さて、それじゃあ改めて確認するぞ」
俺たちは再び、今後についての会議を行っていた。
といっても、それほど重要なものではない。それこそ今後の確認程度だ──と、二人には伝えてある。
「俺たちの目的は連盟で成り上がること。連盟で成り上がるためには企業登録をしなければならない。さらにそのために必要なのは仕事……つまり、襲殻狩りだ」
「ええ」「そーだな」
「俺たちは襲殻狩りに必要な船を手に入れた。よって、明日から襲殻狩りを────」
コレンを見る。期待を込めて俺を見ている。
シビラを見る。責務を果たせと俺を見ている。
そんな二人を見ながら、俺は言葉を続けた。
それが二人を裏切るものであるかもしれないとわかっていても。
「────
「えっ」「……」
虚をつかれたように声をもらすコレンに対し、シビラは目を細めるだけ。ひどく穏やかで、恐ろしい。
ふう、と息を整えて、俺がこの結論に至った理由を説明する。
「まず、その理由だけど……コレン、俺たちがここに付いて何日だ?」
「え、えーっと……二日目?」
「そう、二日目だ。二日で俺たちはスタート位置に付くことができた」
それ自体は良いことだ。コレンの頑張りによるものが大きく、そこにケチを付ける気はない。
だが、あまりにも早すぎる。
「早すぎる、とは? 体力、気力、ともに問題はないと思いますが」
「確かにそうかもしれないな。けど多分、足りてないものがある」
物質的なものじゃない。
そう、それは影として追いかけてくるような──受け入れない限り、果てもなく走り続けるような。
「
「自覚……?」
コレンは首を傾げている。その反応も当然だ、これは難しい。よっぽどじゃないと表に出てこないのだ。
「浮き足立っている、と言えばいいのか。調子がいいのは何よりだけど、多分、このまま進むとすっ転ぶぞ」
日本でも何度か経験がある。物事が上手く進んでいる時に限って、何かを見落としてしまうのだ。
それがどのような形になるのかはわからないが、愉快なことにはならないだろう。
「……足を取られる」
そう呟くシビラに、先程に威圧感はない。単なるデタラメではないと理解してもらえたらしい。
「今すぐ動かないとマズいならともかく、火急の用事は済ませたんだ。ここで一度、心身を落ち着かせるってのも悪くないと思う」
「ン……ま、そうだな。焦って始めたところで早々に認められるワケじゃねーしな……」
ポリポリと頬を掻きながら、コレンも納得したように頷いた。
「納得してもらえたなら、話を先に進めよう。みんなには、この三日間で足周りを固めて欲しい」
「足回りねぇ」
「コレンはそうだな……三日間で船の把握を進めてくれ。何が起こっても対処できる、ってのは贅沢かもしれないが、船を任せる以上、できる限りそれに近づけてほしい」
「そりゃトーゼンだが……なーるほど、これが自覚か」
参ったな、と額に手を当ててコレンはうめく。
「悪ぃ、確かに浮かれてたみてーだ。情けねえ……」
「そう思えるなら頼もしいよ。で、次はシビラさんだけど……貴女には休息を取ってほしい」
「休息を?」
全身から“何故”という不服さが漂ってきて、少しだけ笑ってしまった。
「前々から察してはいたけど、君、サフィラにいた頃から酷い環境だったんだろ。そこからこの急転っぷりだ、疲れていないわけがない」
所々で垣間見えた彼女の苦労。帝国が攻めてきてからずっとそうだったなら、安心して床にも着けなかったはず。心身の疲労も相当なものだろう。
なので、この時間を活かしてシビラには休んでもらいたいのだ。
「貴女は襲殻狩りの要なんだ。これは君を気遣ってるだけじゃなくて、俺たち全員の今後を考えての判断だ。それをわかってほしい」
「……なるほど、確かに筋は通っている」
「もちろんずっと休んでろってわけじゃない。シビラさんが必要だと感じたことは遠慮なくやってくれ」
渋々ながら頷いたシビラを見て、やはり、と確信を深める。
どうもシビラは合理主義に加えて、個人ではなく全体に重きを置いているらしい。あるいは自分すらも度外視するほどに……。
だから素直に貴女の身体が心配だ、と伝えるよりは、全体に話を波及させた方が納得させやすいのだ。
……適当に丸め込もうとすると見抜いてくるのは想像に難くないので、こうして筋道を整える必要があるのだけれど。
「それで、貴方はこの三日間で何を?」
「ん、ああ……俺は、そうだな」
俺がやるべきこと。
今後に備えて培っておくべきもの。
それは当然、
「俺は能力の勉強をしてくるよ。ちょっと……管制塔に行ってくる」
俺と同じ感知系統、そのエリートの巣窟。
その精髄を学び取る時だ。