ユニバース・グレイル 試作版   作:gfd

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第十九話 ここから

 シグナス。確か白鳥という意味だったか。

 船名は選んだ宇宙船の基礎設計から引き継ぐものなので、俺たちが決めたわけではないが……なかなか趣味がいいじゃないか。

 

「アンタらの注文通り、このスケールの多くを居住性に割いている。あとは輸送性能だな。よっぽど無理をさせなきゃ長く運べるはずだ」

 

「操作系は? ハンドルタイプなのは確認したけど、各種オプションは大丈夫か?」

 

「もちろんだ。初心者でも扱いやすいハンドルタイプ、そして各種自動航行モードも備え付けだ。そこらの船ならぶっちぎれるぜ。……代わりに一切の戦闘機能を廃したが、本当によかったのか?」

 

「問題ありません」

 

「ならいいが……」

 

 各々が整備士に尋ねながら、船のスペックを確認していく。

 今のところ不備は見当たらない。質問にも淀みなく答えているし……うん、これなら問題なさそうだ。

 

「いやー良い船だなおっちゃん! 流石だぜ!」

 

「その言葉は阿呆どもにも掛けてやりな。全員、コレンちゃんに良いとこ見せたくて張り切ってたんだ」

 

「おーよ! 後でちゃんとお礼言っとくぜ!」

 

 何より、俺たちの整備士が嬉しそうにしている。それだけで信頼感は凄まじい。

 

「うん……良いな、これは」

 

 俺たちの船。

 俺たちの仕事道具。

 そして、俺たちの城。

 

 すべてを兼ねたシグナス号を見て、俺は漠然とそう感じた。

 ……そう、漠然と。達成感でもなく、さりとて不安でもない、漠然とした喜びを。

 

「…………」

 

 それを自覚して思わず口をつぐんだ俺を見て、コレンが首を傾げる。

 

「どしたよイツキ。なんか問題でもあったか?」

 

「いや、問題はない。これは良い船だ。……ああ、とても良い船だ」

 

 船体に触れる。

 金属の冷気が肌を刺し……俺はため息を吐いた。

 

「コレン、シビラ。この後時間をくれないか」

 

「? いーけど」「構いませんが」

 

「……ありがとう」

 

 少し見直すべきかもしれない。

 

 その後、一通り船の確認を済ませてから組み立て代を支払い、さらに宇宙港への搬送を予約。

 コレンとの別れを惜しむ整備士たちに見送られながら、俺たちは整備区を後にするのだった。

 

 

 /

 

 

 居住区、今朝チェックアウトしたホテルにて。

 

「さて、それじゃあ改めて確認するぞ」

 

 俺たちは再び、今後についての会議を行っていた。

 といっても、それほど重要なものではない。それこそ今後の確認程度だ──と、二人には伝えてある。

 

「俺たちの目的は連盟で成り上がること。連盟で成り上がるためには企業登録をしなければならない。さらにそのために必要なのは仕事……つまり、襲殻狩りだ」

 

「ええ」「そーだな」

 

「俺たちは襲殻狩りに必要な船を手に入れた。よって、明日から襲殻狩りを────」

 

 コレンを見る。期待を込めて俺を見ている。

 シビラを見る。責務を果たせと俺を見ている。

 そんな二人を見ながら、俺は言葉を続けた。

 

 それが二人を裏切るものであるかもしれないとわかっていても。

 

「────()()()。襲殻狩りは、今日から最低でも三日後とする」

 

「えっ」「……」

 

 虚をつかれたように声をもらすコレンに対し、シビラは目を細めるだけ。ひどく穏やかで、恐ろしい。

 ふう、と息を整えて、俺がこの結論に至った理由を説明する。

 

「まず、その理由だけど……コレン、俺たちがここに付いて何日だ?」

 

「え、えーっと……二日目?」

 

「そう、二日目だ。二日で俺たちはスタート位置に付くことができた」

 

 それ自体は良いことだ。コレンの頑張りによるものが大きく、そこにケチを付ける気はない。

 だが、あまりにも早すぎる。

 

「早すぎる、とは? 体力、気力、ともに問題はないと思いますが」

 

「確かにそうかもしれないな。けど多分、足りてないものがある」

 

 物質的なものじゃない。

 そう、それは影として追いかけてくるような──受け入れない限り、果てもなく走り続けるような。

 

()()だ。現状の自覚、認識、把握、なんでもいい。とにかく、現状に心が追いついていない」

 

「自覚……?」

 

 コレンは首を傾げている。その反応も当然だ、これは難しい。よっぽどじゃないと表に出てこないのだ。

 

「浮き足立っている、と言えばいいのか。調子がいいのは何よりだけど、多分、このまま進むとすっ転ぶぞ」

 

 日本でも何度か経験がある。物事が上手く進んでいる時に限って、何かを見落としてしまうのだ。

 それがどのような形になるのかはわからないが、愉快なことにはならないだろう。

 

「……足を取られる」

 

 そう呟くシビラに、先程に威圧感はない。単なるデタラメではないと理解してもらえたらしい。

 

「今すぐ動かないとマズいならともかく、火急の用事は済ませたんだ。ここで一度、心身を落ち着かせるってのも悪くないと思う」

 

「ン……ま、そうだな。焦って始めたところで早々に認められるワケじゃねーしな……」

 

 ポリポリと頬を掻きながら、コレンも納得したように頷いた。

 

「納得してもらえたなら、話を先に進めよう。みんなには、この三日間で足周りを固めて欲しい」

 

「足回りねぇ」

 

「コレンはそうだな……三日間で船の把握を進めてくれ。何が起こっても対処できる、ってのは贅沢かもしれないが、船を任せる以上、できる限りそれに近づけてほしい」

 

「そりゃトーゼンだが……なーるほど、これが自覚か」

 

 参ったな、と額に手を当ててコレンはうめく。

 

「悪ぃ、確かに浮かれてたみてーだ。情けねえ……」

 

「そう思えるなら頼もしいよ。で、次はシビラさんだけど……貴女には休息を取ってほしい」

 

「休息を?」

 

 全身から“何故”という不服さが漂ってきて、少しだけ笑ってしまった。

 

「前々から察してはいたけど、君、サフィラにいた頃から酷い環境だったんだろ。そこからこの急転っぷりだ、疲れていないわけがない」

 

 所々で垣間見えた彼女の苦労。帝国が攻めてきてからずっとそうだったなら、安心して床にも着けなかったはず。心身の疲労も相当なものだろう。

 なので、この時間を活かしてシビラには休んでもらいたいのだ。

 

「貴女は襲殻狩りの要なんだ。これは君を気遣ってるだけじゃなくて、俺たち全員の今後を考えての判断だ。それをわかってほしい」

 

「……なるほど、確かに筋は通っている」

 

「もちろんずっと休んでろってわけじゃない。シビラさんが必要だと感じたことは遠慮なくやってくれ」

 

 渋々ながら頷いたシビラを見て、やはり、と確信を深める。

 

 どうもシビラは合理主義に加えて、個人ではなく全体に重きを置いているらしい。あるいは自分すらも度外視するほどに……。

 だから素直に貴女の身体が心配だ、と伝えるよりは、全体に話を波及させた方が納得させやすいのだ。

 ……適当に丸め込もうとすると見抜いてくるのは想像に難くないので、こうして筋道を整える必要があるのだけれど。

 

「それで、貴方はこの三日間で何を?」

 

「ん、ああ……俺は、そうだな」

 

 俺がやるべきこと。

 今後に備えて培っておくべきもの。

 それは当然、

 

「俺は能力の勉強をしてくるよ。ちょっと……管制塔に行ってくる」

 

 俺と同じ感知系統、そのエリートの巣窟。

 その精髄を学び取る時だ。

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