ユニバース・グレイル 試作版 作:gfd
「強化系統……か」
エーテル能力にはさまざまな系統がある……と、先ほどコレン自身が言っていた。
念動、感知、強化、同化。
一般的には以上四系統に分類され、その中でも強化系統は”エーテルによる身体や感覚機能の強化”を可能とするものらしい。
俺の属する感知がエーテルのゆらぎを感覚的に捉える系統であることを鑑みれば、エーテルを直接的に利用する系統であるとも言えるだろう。
……エーテルを遠隔操作する念動といい、そっちの方が超能力らしくて羨ましいな、まったく。
まあ、それはともかく。
「俺の耳を塞いで能力を遮断したのも強化系統なのか? 若干強化って印象から外れてる気がするけど」
「体内エーテルの循環で感知を誤魔化したンだよ。アタシみたく能力が弱いとな、色々小技が身につくのサ」
にひひ、と笑う彼女だが、それこそ誤魔化しであることが伝わってくる。
……同時に、それに触れられたくないと思っていることも。
「そっか。それ、俺にも真似できないかな?」
だから俺は、素知らぬ顔でそう呟いた。
人間、誰にだって踏み込まれたくない秘密はあるものだ。
まして俺とコレンは出会ったばかり。ただでさえ彼女の優しさに甘えてばかりなのに、無遠慮に振る舞えるわけがない。
……能力を知った彼女なら、俺の真意はお見通しかもしれない。
でも────だからこそ、そういった配慮は必要だと思うのだ。
今後どうなるにせよ、後味の悪い別れ方はしたくないから。
「感知系統は知り合いにいねーからなァ……ま、なんか使えそうなのあったら教えてやるよ」
「ん、ありがとう。俺も自分で考えてみるよ」
それに俺自身、試してみたいこともできた。
彼女には決して試せないことが。
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次の日もコレンの教示は続く。
俺に余裕ができたからか、初日に比べると滞在時間こそ少なくなったものの、それでもコレンは仕事の合間を縫って訪れてくれた。
「ありがたいけど、大丈夫なのか? また昨日みたいなことになったら……」
厳しいなら素直に自分を優先してほしい、本当に。
「問題ねーよ。アイツ
「それはそれで問題な気がするぞ」
「いーや? その場合あっちが悪いって言えるからな、いくら帝国でもアタシのことは処罰しねーだろうさ」
ただの小競り合い、喧嘩って範囲に収まるように頑張ってんだぜ……とため息を吐く姿には、見てわかるほどの嫌気がこもっていた。
たまに里帰りに来た社会人の先輩たちも似たような顔をしていた気がする。社会人は楽じゃない、ということだろうか。
ともかく気になるのは、“いくら帝国でも”という前置きである。
まるで明確な証拠がない場合、コレンのことを優先的に処罰するような言い草だ。
「帝国は……一体、どんな国なんだ?」
「度を越した実力主義。パイロットはみーんなエーテル能力者のエリートだからな、アタシみてーなただの整備士は侮られるし、こーいう時に不利になるのさ」
「それは、またなんともブラックだな」
ある意味、帝国という悪の代名詞を名乗るに相応しいとも言える。
「ブラックぅ? おもしれー表現だな……けど悪いことばっかでもねーんだ。ちゃんと結果出してりゃお上“は”柔軟だしな」
「わざわざ強調したな、わかるけど」
「そりゃーな? アイツみたく戦闘力でしかモノを図れねークソ野郎も多いんだわこれが……実際階級が上になるとつえーのも多いらしいのがまたなァ……」
やれやれ、と言わんばかりに肩を竦めるコレンに苦笑する。かなり溜まってるな、こりゃ。
俺自身、彼女には迷惑をかけっぱなしなので存分に吐き出してくれて構わない。構わないが、こうして色々聴いていると浮かんでくる疑問がひとつ。
「なんだってそんな所に所属してるんだ? コスモス連盟、ってのもあるんだろ? それに軍属以外にも民間所属って手段もあるんじゃないのか?」
コスモス連盟とは敵対していると聞いているし、そうそう鞍替えはできないのかもしれない。それに現代より文明は進んでいるようだが、あちらほど転職が容易ではなくとも不思議ではない。未来世界のディストピア、なんてありがちだしな。
それでも訊いておくべきと感じた。“かもしれない”を放置したまま自己完結するとろくなことにならない。
果たして返答は────大きな大きなため息である。
「アタシだって好きで所属してんじゃねーよ。元々はコスモス連盟のコロニー付きだったんだぜ」
コレン曰く、コスモス連盟は星系各地に“コロニー”と呼ばれる宇宙ステーションを配置しているらしい。
数年前まで、コレンはそのコロニーのひとつに所属し、維持管理を行う整備士の一人だったのだとか。
「だってのに、急にアタシがいたコロニーに帝国が侵略してきてな。そのままあれよあれよと軍属の
「えっ、大丈夫だったのか!?」
「この通りピンピンしてるっての! つーか急に身を乗り出すな戻れ! 心配してくれんのはありがてーケド!」
ストン、と肩を押されて腰を下ろす。
コレンは気恥ずかしげに頬を掻いてから、嘆息した。
「……連盟と帝国の小競り合いは今に始まったことじゃねえ。今回はアタシが割りを食う番だった、そんだけだよ」
「……」
「ま、さっきも言った通りそんなに悪い待遇じゃねーんだぜ? ちゃーんと仕事すれば金払いも良いしな!」
その言葉に嘘はない。
帝国の気風に辟易することもあれど、割り切って日々を過ごしている彼女の姿勢がそこに現れていて────
「コレンはすごいな」
────だからきっと、彼女に対する尊敬と一緒に、言いようのない苛立ちを覚えた俺の方がガキなのだ。