スケープロード〜案山子姫と死の支配者〜   作:まむかい

1 / 7
(オバロ原作では)初投稿です。別作品の息抜きに。
時系列は大侵攻、ナザリック転移前のアレでの出来事です。
前置きはここまで。本編どうぞ!


黄金城の女主人

 涼風の吹き抜ける豊かな土地に、黄金(こがね)色の小麦が実る。キラキラと陽光を吸って輝き(こうべ)を垂れざわざわと風に揺れる甘美なそれは、見るものを食の深奥へと誘うような最高の品質であることが見て取れた。

 その雄大な麦畑のあぜ道には今、この場に相応しき農耕の制服であろうオーバーオールに麦わら帽子でもない、農家とは似ても似つかぬ豪奢な装備に身を包んだ冒険者たちの一党(パーティ)がいた。

 

「な……何だ、ここは?」

 

 彼らはいずれも神器級(ゴッズ)遺産級(レリック)といった強力無比な装備で身を固めており、この農場に乗り込むよりも、今から伝説の竜でも倒しに行くかのような気合いの入りようだった。

 その上で、彼らは虚をつかれた風情でもって辺りをキョロキョロと見回し、不安げに手に持った剣や盾を構え直していたのだ。

 

 そこに突然、彼らの近くの”何か”から大きな声が響いてくる。

 

『よ〜こそ、ココにいらっしゃいました!』

「っ!?」

 

 とっさに構えた一党。すぐさま索敵に優れた野伏(レンジャー)が近くの敵を探知すると、いくらかの雑魚モンスターの反応を小麦畑のあちこちに確認し……最後に上空で反応があったことを伝え、全員が空を仰ぎ見る。

 

『転移トラップに驚いておいででしょう? ですがご安心ください、我が主人はあなた方の来訪を心待ちにしておりました!』

 

 そこにいたのは、まさに"太陽"そのものであった。

 

 太陽精霊(サン・エレメンタル)。のっぺりした笑顔が遠い過去の絵画のような、しかし巨大な炎の塊だ。レンジャーが看破したレベルこそ彼ら一党より低いものの、マップ上に作成できるモンスターとしては最大級の喋る太陽が、彼らを大いに歓迎していた。

 

『ココは我らが"黄金城"! 切り離された転移聖域に存在する麦藁人(ストローマン)の聖地にして、このナザリック大墳墓の食糧生産拠点! 侵入者よ、見渡しなさい、この大平原を! そして知るのです……あちらに見えるは黄金城、そこにおわすは太陽すら従える女主人、その名も────』

 

 地響きと共に、先ほどまで影も形もなかったはずの建造物が彼らの体に影を落とす。

 それは太陽の光を受けてなおも輝く黄金の城。

 和洋折衷を取り込んで人類の隆盛をまさしく混沌めいて(かたど)った、人間の欲を建造物に成形したような金塊の城塞だった。

 

 その天守閣にてしゃなりと佇み見下ろすその女は、見る者すべてを惹きつけてやまない、麗かな笑みの少女。

 少女は髪も瞳も小麦畑と同じ黄金色であり、光を受けて輝くさまは陽光を溶かし込んだ蜂蜜のよう。

 黄金の持つ生来のやましさ・卑しさをすべて神々しさに変える美貌、そして纏う衣装は白金のドレス。それは麦藁細工のような編み込みを使い、手間暇をかけて作られているのが遠目からでもわかる上質な出来栄えであった。

 

『その名も、』

 

 

 

『その名も――――!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『プレイヤー名が違います』

『プレイヤー名が違います。プレイヤー名が――――』

 

 一党は道化のようだった太陽から一転した無機質なメッセージに目を見開き。

 あ!という少女のよく通る甘い声が麦畑全体へと響いた。

 

「やべ、そこから先直してないんだった。最近HN(ハンドルネーム)変えたからちょっち齟齬が出てんね。まぁいいや、後でヘロヘロさんに直してもらうとして……伝言(メッセージ)伝言(メッセージ)っと……あ、フレンド欄から直メッセでいっか。あー、もしもしモモンガさん? アポロっちよりギルマスに報告~。こっちは三チーム釣れたみたいでっす」

 

 黄金の少女はその身に似合わぬ軽い調子でどこぞの仲間に連絡を取っているようだ。

 

『分かりました、そっちで惹きつけておいてください。転移系トラップは複数設置して座標も希望通り黄金城にしてあるんで、おかわりもまだまだありますよ』

「おかわりも良いんですか!? そいじゃあ死ぬ気で頑張りますね♡」

『本当に死んでレベル下げないでくださいよ? "アインズ・ウール・ゴウン"始まって以来の大舞台ですし、終わった後の打ち上げは全員参加ですからね』

「え、こんなお祭りで死ねないってアリ? 知ってるでしょモモンガさん、私ってばデスペナならある程度無視できるんだけど~?」

『気軽に死なない! ああもう、そういうとこですからね!』

「はぁーい♪」

 

『本当に分かってるんだか……んん、ゴホン―――では頼むぞ、我がアインズ・ウール・ゴウンが誇る"黄金城の女主人"よ』

「了解、大魔王(ラスボス)さん。今回の大侵攻は8階層を越えられるかな?」

『そうなった時はこっちで一緒に時間稼ぎお願いします』

「だからそれまで死ぬなってことかな? モモンガさんてばたいがい健気だねぇ」

『……あんまりからかわないでください、アポロさん』

「モモンガさんのこういうウブな反応、いい……!」

『か、ら、か、う、な!』

「はぁ~い。それじゃ、また後で~」

『はぁ、もう……健闘を祈ります。転移後の処理はあなたが頼りですから』

 

 最後に少しだけ気取ったやり取りをして通信を終えた少女は、ふぅと一息ついて黄金城の天守閣から敵勢を見やる。

 小麦畑の()に気付かない程度の、PvP慣れしていない3チームのパーティ。否、魔法陣が複数輝き人数は7チーム、50人規模へと膨れ上がる。

 

 だが、数は彼女にとってさしたる問題ではなかった。

 むしろ、楽しみが増えたと言える。

 

「頼りにしてるって……ふふ、モモンガさんてばあぁ見えて人たらしなんだから。でも……要は死にきらない程度ならいつまでも殴られてて構わないってことだよね? ふふん! 了解、りょうかい!」

 

 彼女は悪戯っぽさを含んだ絶世の笑みを溢し、その様子に招かれた賓客たちは彼女から一切目を離せない。誰ひとりの例外もなく、性別や種族を超えた一切が目を離すことすら許されなかったその光景は、いっそ異様ですらあった。

 

 ――――それもそのはず。

 

 彼女の特殊技術(スキル)は、既にこの黄金城の平原全域において発動しているからだ。

 小麦畑に紛れた罠方陣(トラップエリア)を見逃す程度じゃPvPはやっていけないぞ、と少女は天守閣にて独り言ちる。

 

「それじゃあ、この場は黄金城の主にしてヘイト管理系超再生タンク『アポロトーシス』さんに任せなさい! 公式サンドバッグこと麦藁人(ストローマン)の底力、ひよっこPK(プレイヤーキラー)たちに見せてあげましょうかねぇ!」

 

「『召喚・麦藁人』! 小麦を素材に乱立しな~!」

 

 アポロトーシスの掛け声と共に、小麦畑へ無数の案山子(かかし)が立ち並ぶ。

 それらはレベルこそ低いものの数が圧倒的に多く、そのすべてが後述する二つの特殊技術(スキル)を持っていた。

 

 『ターゲット集中』『カウンター』

 

 それは標的カーソル(ヘイト)を自身へと一時的ながら強制的に向けさせ、もし攻撃された場合は物理魔法ダメージを問わず、被ダメージ量を1.5倍にして攻撃者へと跳ね返すシンプルな構成のスキル群だった。

 森祭司(ドルイド)が最初期に使役できるようになる召喚モンスターの一角にして、その姿は典型的な一本足の案山子……カウンタースキルを持つモンスターにおいて最も有名であり、今しがた無数に召喚された麦藁人こそ……プレイヤー間にて『クソカカシ』の名をほしいままにする特級の害悪モンスターであった。

 

「さぁ、私の役目は足止め一本! この黄金城のてっぺんで『人身御供(サクリファイス)』かけて仁王立ちするだけの簡単なお仕事でっす────あぁ、痛覚共有がないのだけがこのユグドラシル、いいやDMMOの最大の欠点だよねぇ。いっそ痛覚に伴って快楽なんかも共有し」

『倫理コードに沿わない不適切な発言が認められました。発言を訂正および中止しない場合ただちにログアウト処理ののち……』

「あー、わかったってGM(クソ運営)! はい今のナシ! いいじゃんかって、これくらいの軽口はさ〜!」

 

「……クソカカシが150体を越えて……もう数え切れる限界を越えた!」

「ゲ、ヘイトが全方向に逸らされまくって攻撃が定まらねぇ!」

「いいわ、それなら範囲攻撃で」「っ! よせっ!」

「『魔法最強化(マキシマイズマジック)隕石落下(メテオフォール)』!」

 

 第十位階魔法『隕石落下(メテオフォール)』が小麦畑に墜落し、麦藁人の三割程度が焼失する。「やった!」と魔法詠唱者が喜ぶのもつかの間。

 初心者応援キャンペーンでレベルを上げた者は知る機会すらなかったであろう麦藁人のとある仕様を知る幾人かが、これから起こるすべてを予見し、せめてもの報復がてら、悪態とともに天守閣へ自身らの最大火力を飛ばしていった。

 

「「「この初心者狩り野郎めぇっ!!!」」」

「あーあー、聞こえなーい。それにさ……私たち麦藁人(ストローマン)にそんなに撃って(サービスして)くれるの?」

 

『麦藁人は隕石落下によって消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』『消滅した』

 

最終動作(ファイナルアクション)発動:カウンター』

 

『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』『カウンター』

 

『プレイヤー:アポロトーシスは死亡した』

 

最終動作(ファイナルアクション)発動:致命反撃(フェイタルカウンター)

『30秒後、入滅者(ニルヴァーナ)常時特殊技術(パッシブスキル)再誕(サンサーラ)』によりアポロトーシスが復活します』

 

「く、そ……」

「このDQN(害悪)プレイヤー、が……」

 

 ここで7つの一党は再起不能となり、ナザリック地下大墳墓から強制退去させられた。

 

太陽の恵み(サン・グレイス)

 

 活性化した太陽の精霊から放たれる波動により黄金城はすぐさま元の様相を取り戻し、天守閣にはもう一度黄金の少女の姿が現れる。

 

「せっかく取った『入滅者(ニルヴァーナ)』のデスペナ無視……存分に試せるのなんてこの先ないよネ!」

 

 ――――この戦いから数時間後、38のパーティを鏖殺して"黄金城の女主人"としてその名を知られることになる彼女の名はアポロトーシス。

 "自死(アポトーシス)"をもじったその名の通り、彼女はPvPにおいて嗜虐者(サディスト)ではなく、

 

「計7パーティからの容赦ない最大火力、ゾクゾクした~~~♡ HPバーの減りやっば♡ もう最っ高……やば、ちょっとイっちゃ」

『倫理コードに沿わない不適切な発言が認められました』

「訂正訂正! ごめんて運営、消さないで♡ ちゅっちゅ♡」

 

 こうして猫撫で声で運営に媚を売る姿とは似ても似つかない、報復型の殺戮者。

 あらゆる方法でにべもなく殺されては小麦畑のリソースを使ってほぼ無限に蘇る死の雨の請負人、ナザリックに君臨せし至高の41人の一柱にして麦藁人たちの王女、速攻超火力が跋扈・席巻するPvP環境においてカウンタービルドで覇を唱えた、唯一にして生粋の被虐者(マゾヒスト)なのであった。




短編っていいですねぇ。書き手側としては気がとても楽です。

評価や感想次第で続くかも?
どうぞよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。