続きを書きました。(天下無双)
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00:00:1……
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「──ん?」
二人は顔を見合わせたまま、やけに長いサービス終了までの時間を微妙な雰囲気で持て余す。
「あ、あれ? おかしいな、ちょ、ちょっと待ってください、えぇ、本当に待って……一世一代のこ、告白をして颯爽と逃げるつもりだったのに。え、あれ……?」
「……これは一体どういうことだ?」
まったく予想だにしないサプライズに動揺するアポロトーシスとは対照的に、モモンガは不思議なことに"いつもの自分よりも非常に冷静に"事態を受け止め、いくつものパターンを思案していた。
まずはGMコール。しかし、そもそもシステムコマンドが開かない。システム一覧のコンソールページも、首筋のDMMO用ナノマシンを使った強制終了コマンドも、チャットコマンドも何もかもが反応しない。
この時点でこれは非常事態であるとモモンガの脳は警鐘を鳴らし、動揺を広げていたアポロトーシスには申し訳なく思いつつ、巻き込まれたこの事態を告げた。
「つまりこれは何らかのバグ、ってこと……でしょうか」
「はぁ、やっぱり最後までクソ運営じゃないか……アポロさん、ここからは多分GM待ちです。おそらく全体シャウトでアナウンスがあると思いますが、おおかたサーバーダウンが延期したんでしょうし、ゆっくりここで待ちましょう。……でも俺、4時起きなんだけどな、はぁ……」
「──う、ぅ、うぅ、っ……!」
「「っ……!?」」
二人は戦慄した。
ここにはモモンガとアポロトーシスしかいない。他の声が聞こえるはずもなく、それはつまり怪奇現象や幻聴の類いで、しかしそれは同時に二人へ聞こえていたことから、現実だと強制的に認識させられる。
声の聞こえた方へくるりと向くと、玉座の傍らでNPCとして感情なく微笑んでいたはずのアルベドが、玉座の傍らで顔を手で覆って激情のままに泣き崩れていたのだ。
しかし、時折切なげな顔で両手を祈るように組み、その大きな胸を下から少しだけ持ち上げてこちらを熱っぽく見ることもあり、その動作で腕に押しのけられたアルベドの豊満な乳房は絶えず柔らかく形を変え、上気した赤い頬と瞳に溜まり溢れてゆく涙の筋は妖艶に彼女の表情を彩っていた。
「どエッッッ」
「倫理コード!」
「ッッチチち、違います! 運営さんこれは違くて、アルベドがえっちなのが悪いというか! ああそれより訂正ていせ……いっ?」
二人の間でもはやルーティンと化していた、恐ろしく早い倫理コードスレスレ発言を見逃さなかった男モモンガはアポロトーシスを素早く諫め、そして諫められた彼女もまた条件反射で運営に向けた中空への投げキッスと訂正の旨を発言し……何も反応も返さないシステムアナウンスの違和感に投げキッス状態で硬直した。
モデル時代の経験を活用した写りの良さの研究からくる媚び媚びでキュートなポーズのまま固まった等身大の藁人形というのは少し滑稽な姿であったが、二人はもはやそれどころではなかった。
「うぅ、うっ……御身のおことば、ひぐっ、ひとえに素晴らしく……」
メイドのプレアデスたちも跪いた状態で器用に姉妹たちで相互に顔を拭いてやりながら、なぜかさめざめと泣いている。
「なんで泣いてるのかはともかく……モモンガさん」
「はい、アポロさん……少し、俺も理解に時間がかかるかもしれません。二人でできることを探しましょう」
冷静さを保つモモンガに引っ張られる形でアポロトーシスも冷静さを取り戻しつつある中、二人は何かがおかしいこの空間の
ファクターその1、NPCが動いた。
そして、表情が固定のプリセットから変わることのないユグドラシルではありえない、目の前のアルベドやNPCたちの繊細な表情に仕草。
ファクターその2、自らの身体の変化。
モモンガは息をすることすら忘れて無限の思索を巡らせても息苦しくなく、まったく酸素が欠乏した様子がないことに気付き。
アポロトーシスは生まれて初めて二本の足でしっかり上半身を支えて床上に直立している感覚に戸惑っていた。
「ね、ねぇモモンガさん……」
「はい、アポロさん……俺、息をしてなくても、」
「──っ、立ってます! 私、この場に立ってるんですよ!」
「………………っ、は、ぇぇえっ!?」
今までのどれよりも強い衝撃がモモンガを襲い、"なぜかすぐさま沈静化した"。
緑色の光を発し、精神抑制を受ける……まるで、アンデッドの『精神作用の無効化』という耐性型の種族特性のように。
とはいえ、残り火として燻る衝撃をじわりと反芻する。
アポロさんが立っている。
その事実はアバターである麦藁人の特徴からして当たり前のことだったが、それを言い放った人物によって衝撃を受けたのだ。
アポロトーシスは下半身不随である。その事実は当時の大侵攻打ち上げオフ会に来たギルドメンバーや、彼女と親しかった一部のギルドメンバーなどからは公然の秘密として知られていたことだ。
オフ会にて車椅子に乗って現れた絶世の美少女。ハチミツと陽光を溶かし込んだ黄金の髪、長く重たい上向きの睫毛、化粧は不随の関係上うまくいかないからノーメイクだと公言し女性陣に羨ましがられたシミひとつない白磁の肌、そして病弱で寒がりだという彼女に亡き母が贈ったというよく手入れされた赤い編みストールが似合う深窓の令嬢。
遠いギリシャの神話にある、かつてピュグマリオン王が彫刻した理想の妻ガラテアならばもしやこういった容貌が匹敵するのだろうとタブラ・スマラグディナが称したアポロトーシスのリアルの姿は、当時のモモンガこと鈴木悟の目にも鮮烈に焼き付いていたのだ。
そして、彼女が乗っていたアーコロジー外特有の不便な手押しの車椅子。オフ会場であった"外"でも合成食品ではない食べ物が食べられるということでお金を出し合い奮発したファミレスにて、ドリンクバーで飲み物を取ることにさえ苦労していたその姿を悟は覚えていた。
「は……?」
モモンガはもう一度アポロトーシスの現状を考え、精神抑制が発動して動揺が収まる。
確かに衝撃的だ。さらに言えば本人の衝撃たるや筆舌に尽くし難いだろうとやけに俯瞰的で冷静な思考が頭をよぎる。
「確認事項は多々あります。アポロさんが立っていられる理由、NPCが突然動き出した原因……そして、ここは本当に『ユグドラシル』なのか……」
「……そうですね。よく考えればおかしいことだらけです。ここではなぜか……匂いがする。それによく見たらモモンガさんの口も動いていますし」
「え、マジですか?」
あんぐりと口を開けて驚くと顎が外れるほどに、否、実際に顎が外れるまで口が開くのを感じた。
相手が顔のない麦藁人のアポロトーシスであったために自覚が遅れていたが、モモンガも喋っていて些細な違和感はあったのだ。
そして、そのような事態はユグドラシルのプレイヤーにとって大いに驚嘆に値する。
本来電脳法によってダイブVRを現実と間違うことのないようDMMOの機能は多くを制限されており、表情の固定もコスト削減という別の思惑もありつつ電脳法に則った結果であるからだ。
モモンガは思い立って杖でコツコツと床を叩いてみれば、杖の石突から絨毯に守られた大理石のくぐもった音がする。もちろん、そのように複雑なプログラムは設定していない。せいぜいがカーペット効果音Aを作動させる程度のスクリプトしかヘロヘロも組んでいないはずだった。プログラムは軽くてなんぼ、胃に重いスパゲッティなコードは懲り懲りなんですとは彼の言だった。
そして、現状把握に努めているさなか、それは起きた。
「……モモンガ様、アポロトーシス様」
アルベドがその涙をメイドのユリ・アルファから手渡された最上級のシルクのハンカチで拭いてからゆらりと立つと、顔を伏せたままぷるぷると震えていたのだ。
「「……!」」
今のところなぜ泣いていたのかというアルベドの心境をまるで推測できないため何が起こるか分からない処理前の爆弾のような印象のNPCたちからこちらへアクションを起こされた二人は、いつ何が起きても良いように、無意識にユグドラシルでのPvPのような緊張感を胸にモモンガは杖を握りしめ、アポロトーシスは麦藁人の上位種族である
「……し……」
「し?」
モモンガはおうむ返しをしてしまうが、その後、瞬時に顔を上げたアルベドが、恍惚とした顔で祈るように手を組んで二人にずいと顔を寄せて大きな口を開いて叫んだ。
「至高の御方々の想い、確かに聞き届けさせて頂きました。そう、ナザリックよ永遠なれと……えぇ、えぇ、その通りにございます!」
アルベドはまくしたてるように、すずいとモモンガに顔と顔がくっつくほどに近付いていく。忙しなくぴこぴこと揺れる腰の翼は、明らかに狂喜に満ちていた。
そしてモモンガにとって、NPCながら製作者のタブラがモモンガのタイプを研究し尽くした上で嫁キャラとして作ったと公言した彼女の至近距離には精神抑制が働くほど動揺し、抑制後にやっと絞り出すようにしてアルベドに注意の言葉を述べた。
「ち、近いぞ……アルベド」
「! 申し訳ございません、モモンガ様。つい気ばかりが逸ってしまい……」
そう言って冷静になったアルベドが元の位置に戻ろうとした矢先の出来事だった。
「ふむ──アインズ・ウール・ゴウン、ばんざ〜い!」
「はァ!? ちょちょちょ、ちょっとアポロさん!?」
突如としてブレーキがぶっ壊れた自動車のごとくリア狂*1アクセルを全開で踏み込んで、いきなりのバンザイコールを始めたアポロトーシスにモモンガは連続で精神抑制を喰らっていた。
(く、なんだ、この感情が強制的に落ち着くような奇妙な感覚……いや、それよりもこの胡乱な藁人形を今すぐ止めなくては!)
「──アインズ・ウール・ゴウン、万歳っ!」
「「「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」」」」
「はァ!?」
──完全なる狂騒でも始まったのか。
先程まで動揺すらしていなかったように控えていたセバスすら突然ぶっ壊れたかのように諸手を挙げて万歳をすると、プレアデスたちも跪いた体勢から一斉に立ち上がり万歳を始めたことで、モモンガの困惑は最大値に達する。
精神抑制は常に緑光を発し、たとえ押さえつけられても一度膨れ上がった相当の困惑は止まらない。
「アインズ・ウール・ゴウンに、モモンガ様に、アポロトーシス様に、そして至高の御方々に、万歳!」
「「「「「「万歳っ!」」」」」」
万歳ムーブメントは最後にアルベドが音頭を取ることで本格的にこの玉座の間に伝播しきり、アポロトーシスの万歳コールに合わせてNPCがレスポンス万歳を返す狂ったノリが数分間に渡って続いた。
(ど、どういうつもりなんですか、アポロさん〜っ!)
(……いえ、今はこれを楽しみましょう♡ いずれ分かりますよ。あと、多少は誤魔化せますし)
(何を誤魔化したか知りませんけど、凄いリスクをぶっちぎった自覚あります!? あとでどういう意図か聞かせてもらいますよ!)
(え〜、乙女の秘密を暴くなんてえっちですね♡)
(この状態でなんでこっちがやや不利側みたいになってるんだ……。この狂人、やっぱりいまだに掴めね〜……!)
小声で玉座にて囁き合う二人は、数年連れ添った無二の相棒であっても彼女のリア狂ムーブの意図をまっとうに計りかねる常識的社会人な鈴木悟ことモモンガと、初恋を吐露したまま何事もなくモモンガとの交流がさらっと続いた羞恥を勢いでぜんぶ誤魔化そうとアルベドの感情の機微を敏感に察知し最高速度で乗りこなしたアポロトーシスとで、大きな意識のギャップが生まれていた。
「あ、アインズ・ウール・ゴウン、万歳……?」
それでも日本人の悲しい性か。
最終的にはモモンガも控えめながら万歳コールに参加し、この狂騒に満ちた空間になんとか溶け込もうとおのずと努力してしまうのであった。
NPCに意識が宿る、ましてやおぼろげながら転移前の記憶があるなんて思わないですから仕方ないですが、そら(労いの言葉をかけてギルドの永遠を叫んだりしたら)そう(NPCは至高の御方バンザイ路線になる)よ。
つまるところ今回の後半部分はぷれぷれぷれあです時空となっておりますので、想像上の等身を下げてSDキャラでお読みいただくとちょうどよいかもしれません。