スケープロード〜案山子姫と死の支配者〜   作:まむかい

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ウィッカーマン:ケルト北欧民族の人身御供儀式の一説。18世紀に描かれた想像画が有名な、麦藁で編んだ巨人のかごに人や動物を詰めて焼き殺すことで祭事とする特に古代ガリア地方の俗習を指す。最近ではエルデの王になるゲームでフィールド上の中ボスとして登場していたり、聖杯戦争系ソーシャルゲームで杖を持っている方の青い槍兵が使う宝具だったりする。
本作品では麦藁人の上位種族の名称として登場するので、事前知識はこんな感じです。要約すると昔の儀式で、でけー藁人形に人間詰めて生贄ファイアーといった感じです。
それでは本編どうぞ!


案山子姫の異世界緒戦

 第六階層、大森林。

 ブルー・プラネット肝煎りの空と自然の調和を再現したナザリック最大の階層であると同時に、大侵攻の際にもこの場ですべての侵入者たちを撃退することができたほどのトラップダンジョンであり、入れば命はないと豪語できる、至るところに罠方陣の巡らされた死出の樹海でもあった。

 そして、アポロトーシスのNPCが管理する転移聖域である黄金平原についての実際の敷地もここに併存しており、外部からは小麦畑の広がる安全な村にしか見えない場所に黄金城は鎮座している。領域守護者にしておしゃべりな太陽『サニージョイ』が軽快に口を開いたら、そこは既に罠の術中にあると言っていいだろう。

 そうなればかつて38チームもの100レベル冒険者たちが締めて200人超、1500余人からなる連合軍の実に13%に上る脱落者を生んだ最凶の破壊工作(耕作)地帯、黄金城がサニージョイの紡ぐ太陽の詩と共に現れるのだ。

 通常、戦闘要員の損耗率が20%を超えた時点で通常の軍隊は組織戦闘力を大きく失う。彼らが個人として最後まで戦い抜くプレイヤーでなく組織的な軍隊であったならば、もはや敗走を考えるレベルの損害を与えたと言えばその脅威が一部でも伝わるだろうか。

 

 そうでなくとも、全滅した38のチームについては脅威のほどは充分に知らしめられたのだろう、アインズ・ウール・ゴウンの情報をまとめた非公式Wikiには「小麦畑に入ったら逃げろ」という警告が()()()()のページに載っているほどであった。

 なぜ第一階層だったかと言えば、大侵攻の折に第一階層の転移罠を踏んだせいで黄金平原へ強制的に飛んで来た者たちばかりだったので、もし首尾良く逃げられても初見の樹海に飛び込む羽目になり、侵入者の視点からはどの階層に居るのかも不明だったため第一階層から飛ばされたという情報だけが走り、黄金平原が第六階層に存在しているという情報が確定するまで掴んだプレイヤーはサービス終了までいなかったのである。

 

 ――と。

 そんな第六階層の一角にあるのが今回の目的地、円形闘技場(コロッセウム)だ。

 そのものズバリ古代の闘技場を模した建造物であり、土塊(つちくれ)のゴーレムたちが観客席を埋める第六階層まで辿り着いた猛者を迎撃するために整えられた舞台でもある。

 第五階層・第七階層ともに必ずここに出るように設計されており、転移すれば最後、ここで戦わずして他の階層へ進む/戻ることはできない。

 このように非常に物騒な施設ではあるが、第六階層にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持ってやって来たNPCやギルドメンバーであれば話は別。

 

「モモンガ様、アポロトーシス様!」

 

 ていっ、という掛け声とともに身軽なジャンプで闘技場の上から下まで綺麗に着地をしたのは幼い褐色の闇妖精(ダークエルフ)の少女だ。

 人懐っこい笑みを浮かべ、アウラが二人に駆け寄り堂に入った元気な礼をひとつ。彼女の着る少年のような仕立ての白い背広は同じく着用している赤いインナーによく映えていた。

 

「アウラ・ベラ・フィオーラ、御身の前に参上いたしました! えへへ、来てくださったんですね!」

「もちろんですよ、アウラ♡ ……ひとつ聞きますが、第六階層に変わりはありませんか?」

「……? いえ、特に変わったところは見つけていません! ですが調査をするならばすぐにでも出発できますよ!」

「いや、今はいい。アウラよ、マーレはいるか?」

「はい! いますよ、あそこです!」

 

「はぁ、わ、た、高い……それに御方々に見られてる……!」

 

 アウラの指し示す闘技場の上階には、少女服の裾と大きな杖を握ってもじもじとしている、アウラと瓜二つの少年がいる。

 彼こそモモンガがマーレと呼んだ、アウラの双子の弟であった。

 

「うぅ……ま、マーレ・ベロ・フィオーレ、御身の前に……!」

「もう、マーレ! あんたが見下ろしながらソレ言ってどうすんのよ!」

「だ、だってここ、降りる時に見えちゃうかもしれないし……」

「そんなの上でも下でも一緒でしょうが! 御方々に見苦しい姿を見せる前に降りてきなさーいっ!」

「うん、わかったよぉ……!」

 

 アウラの叱責にこくこくと頷いたあと、マーレはスカートを抑えた控えめなジャンプで上階から一気に飛び降りた。

 抑えているものの、スカートは風でパタパタとゆらぎ、褐色に染まる扇情的な少年の太腿を付け根のすぐ近くまで一瞬ずつだけあらわにしていた。

 

「あら、やっぱりぶくぶく茶釜さんはいい仕事をしてますね♡」

「発言も視線も倫理コードスレスレですよ」

「あはは、倫理コード(邪魔な防護柵)はもういないじゃないですか♡」

(この人に限ってはあったほうがブレーキが利いてて良かったのかもしれないな、R18制限(倫理コード)……)

 

 モモンガは隣の藁人形が状況によっては女性版ペロロンチーノとすら言えるオープンスケベであり、ついでにギルド内で勝手に発足していたAOG自由同盟(特殊性癖同好会)の一員であったことを思い出し、骨だけの手で目を覆って天を仰いだ。マーレはモモンガ様に見えないように必死に隠そうとし、アポロトーシスは恥じらい路線も好みであるため、モモンガのファインプレーに小さくガッツポーズを取っていた。

 

 アウラと違い着地の瞬間に土埃が少し舞い、ケホケホと咳払いをしながら服の土汚れを落としたマーレは、二人の至高の御方を見上げるようにして、改めておずおずと挨拶をした。

 

「マーレ・ベロ・フィオーレ、お、御身の前に……会えて嬉しいです、モモンガ様、アポロトーシス様」

「あ! しかもエゴまでいるじゃない、久しぶりねー! フル装備ってことは……御方々の護衛ってとこ?」

「ソんなところデす。お護りというには、少々力不足ではありマすが」

「でもあんたが居ればどんな脅威からも御方々を逃がすまでの時間稼ぎなんてへっちゃらでしょ? 謙虚なのは良いけど、過ぎるとあなたをあてがったことに対して不敬にあたるんじゃない?」

「はは、そんなつもリはありまショウか! 必ずどのヨうな脅威からでモお護りしてみせマすとも!」

「うんうん、その調子っ!」

 

 いぇい、とスマイリーエゴとアウラはハイタッチを交わし、互いに笑顔(エゴは対応した仮面に切り替え)を向け合っていた。スマイリーエゴはその後にマーレとも頷きあい、無言のコミュニケーションを交わしていく。

 そんな三人の姿にモモンガは在りし日のぶくぶく茶釜とペロロンチーノ、そしてアポロトーシスの姿を重ねていた。

 

「……それより本題、ですよね? モモンガさん」

「ああ、早速だがアウラにマーレ、お前たちに頼みたいことがある」

 

 モモンガは闘技場の管理者でもある二人に話を通し、杖の性能確認を行う旨を伝えた。

 ギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンから召喚された根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)は使役されるまで敵対意志を見せなかったが、モモンガが声を掛けるだけで、その体に滾る炎をさらに燃え盛らせた。

 

「まずはアウラ、マーレ、そしてエゴの三人で戦ってもらう」

 

「いいんですか!?」

「うえぇっ!? ほ、ホントですかぁ……?」

「マーレ!」

「わ、わかってるよぉ……」

「支度はデきておりマす。いつでもドうゾ、モモンガ様」

 

「それでは根源の火精霊よ、あれらを攻撃せよ!」

『……!』

 

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの性能について、そして階層守護者たちNPCについて把握している能力の再確認を終えたモモンガは、次にアポロトーシスへ杖を向けた。

 

「アポロさん、あなたは炎弱点ですけれど……」

「問題があるように見えます?」

「いえ、全然。心配よりも、そうですね……不安が勝ってます」

「あらあら、不安とはなんのことでしょう♡」

「おおかたアポロさんの想像通りですよ……さぁ、根源の火精霊よ! 我が同胞、アポロトーシスを攻撃せよ!」

 

 フレンドリーファイアの確認のため。

 アポロトーシスはそう言っていたが、モモンガは一抹の不安を隠せないでいた。

 

『――――!』

「ああ、熱ツ、ヅっ……私の身体が枯れ草のように成す術もなく燃えるなんて、こんな、こんな仕打ち――」

 

 根源の火精霊がもたらす災害級の炎の嵐にバチバチと勢いよく燃え上がり、乾いた木材の燃える、モモンガが小学生時代に一度だけ行ったキャンプを思い出すような独特の香りと燻煙が闘技場を包んでゆく。

 その炎の中心で身体中をまさぐるように身悶える麦藁人(ストローマン)の姿を見てモモンガは、

 

「こんなの――最っ高の体験になりますよねっ♡」

 

 やっぱりこうなるよなぁ、とため息を吐いていた。

 そりゃそうだろう、フレンドリーファイアなど名目でしかないとは思っていたが、ホントにやるとは命知らずだと嘆息する。彼女なら根源の火精霊の通常攻撃程度でHPが無くなることはないと信じて行った実験だったが、こちらの心配など吹き飛ぶ喜びようである。

 

「アハハハハハハハハハッ!!! こんなトロ火じゃ足りないですよねぇ。さぁ、もっと火力を上げてください♡ うふふっ、さぁ……早く(hurry)! 早く(hurry)! 早く(hurry)! 」

 

 その火力にパキパキと麦藁が剥がれ、すぐに再生してはまた剥がれてゆく。新生を繰り返す案山子の姫は、自身を覆う麦藁をどんどん継ぎ足しながら、無制限にも見えるほどに再生してゆく。

 しかし、それにも限界はある。麦藁人の種族スキルである『上位自然同化』を発動するため地面に足を突き刺したことで大きく効果を増した自然治癒力に加えて、同じく種族スキルである森祭司(ドルイド)系列の魔法による回復量ボーナスを併用してもなお両者のダメージレースは弱点中の弱点属性を扱う根源の火精霊に軍配が上がり、現在のアポロトーシスのベース種族となっている供犠藁人形(ウィッカーマン)の中身である生贄の肉体が姿を徐々にあらわにしていく。

 

 たなびく金の髪、シミひとつない白磁の肢体。しかし、心臓を貫くように刺さった無数の五寸釘はもはや球状に見えるほど突き刺さっており、身体からは根源の火精霊のものではない体内からの発火がその身を焼いているのがただ異様であった。

 

 その姿は胸の釘以外はすべてリアルのアポロトーシスそのものである。それというのもDMMORPGに疎かった彼女が供犠藁人形(ウィッカーマン)のクラス取得時にポップアップした生贄の肉体のキャラクリエイトを面倒くさがり、ダイブ型ナノマシンの基本機能である『電脳世界での自分のアバターモデル化』を利用したからだ。

 本来なら身バレもへったくれもない乱暴な使い方だが、なにせそうあれかしと作られたNPCたちに負けるどころか、面識なくこれこそが現人神であると言われれば誰でも信じてしまうのであろう美貌を、そして現在は身体に燻り発火する自傷効果の炎も相まって荒ぶる神の如き威容まで兼ね備えるアポロトーシスの姿を見て、誰が本人とそっくり同じだと思うだろうか。

 

 麦藁の鎧(余剰HP)を失い生贄の肉体が見えた供犠藁人形(ウィッカーマン)は、被ダメージ量が急激に増加する。

 本来モンスターとして登場する供犠藁人形(ウィッカーマン)ならば、この状態まで持っていけば後は位階を落とした低コストな炎魔法やリキャストの短い火炎系の単発スキルのひとつでも使えば倒せるのだが――

 

「――殺し尽くすような極限の火をちょうだい! もっとも〜っと痛みが欲しいの! 地獄にいたほうがマシなくらいの、焼けた針を身体中へ三千本刺しにしたような、赤い茨で出来たドレスを作ってよ! くふ……くふふふふふふ♡ そうしてあなたの身体が燃え尽きるまで炎を出し尽くして、噴いて焦がして渇いちゃえ! ──アッハハハハハハハハハッ!!!!♡」

 

『――! ―――、―――――ッ!!!』

 

 燃える麦藁の中から捧げられた生贄(スケープゴート)としての正体を現したアポロトーシスのあまりの変わりように、本来攻撃側であるはずの根源の火精霊のほうがむしろ恐れを為していた。

 

 彼女の職業にはHP低減時の背水効果と狂化効果を併せ持つ『狂戦士(バーサーカー)』の最高レベル(Lv15)が取得されている。おそらく、その影響もあるのだろう。

 彼女は今、HP残量に応じた恐怖効果をデバフとして周囲に振りまきながら自身は背水効果により攻撃ダメージに倍率型のバフを得て、狂化により被ダメージ大幅増加のデバフを受けている。

 この効果のシナジーによりアポロトーシスは効率よく背水効果の最大値までの到達を早められ、結果的にモリモリとHPが削れていくようにビルドが構成されている。

 

 死を恐れない破滅主義にして、その上で痛みを無視して牙を研ぎ、刹那の反撃を可能とする桁外れの胆力。そして何よりもその無茶なプレイングを可能とするための、麦藁人特有の尖りきったHPの高さと再生能力を利用する、カウンターという攻撃手段ただひとつのために無駄のなく洗練された(果てしなく呆れた)構成のロマン(ドリーム)ビルド。

 そのどれもが欠けていては真似が出来ない戦法だった。

 

 そして、弱点である炎攻撃を受けた今の状態のアポロトーシスは現在、モモンガの思いつく限り最高に()()な状態へ導かれているであろうことは想像に難くない。

 

「アポロさんの怖いところが、別に現実化したからこんな状態になったわけじゃないってところだよなぁ」

 

 そう、アポロトーシスはユグドラシル時代からそうであった。

 電脳法によって遮断された痛覚をロールプレイし、実際に痛みを感じることのできる異常な想像力と精神性を持っているのだ。

 

 つまり、この人って元々そういう人なんです、という奴だ。

 誰に言ったとてこの事実は、ついぞギルドメンバーではないPvP相手に対してはまったく信じられることがなかったものであった。

 

 "痛み"をロールプレイできる人間などいない。

 死に近い体験をした者ほど本来は痛みや恐怖を避けるものだ。だが、狂人の(強靭な)精神を持ち、痛みへの共感能力と想像力に長けたアポロトーシスにはそれができる。できてしまった。

 生まれたその時からあらゆる苦痛を、不幸を、不平を笑い飛ばして力に変えて、どこまでも進んでいってしまうような人間なのだ。

 だから世界は彼女から最初に脚を奪った

 それができる生まれながらの被虐者(マゾヒスト)であったからこそ、アポロトーシスは『破滅型タンク』という彼女だけが成し得たロールをこなすことができていた。

 

「アポロトーシス様、かっこいい~! 弱点属性の攻撃を真正面から受け止めてるよ!」

「ほんとだ……わぁ、熱くないのかな……?」

「もチろん熱いに決まっていマす。ですが我が主は、そうデすね……少し、特殊な方ナのです」

(少しで済むかな、あの人のアレは……)

 

 サービス終了の一日前から有給を取ってナザリック攻略組を待ったことで24時間以上も発散できていない彼女がそろそろ爆発寸前(欲求不満)であったことは、モモンガも承知しているところであった。

 彼女にとってあの炎は浴場(ソープ)も同然であるのだろうと分かりきっていた結論を出したところで丁度よく、アポロトーシスのHP残量が残り少ないことを示すように麦藁の鎧はこんがりと焼け落ち、その肢体の端々からパチパチと火花のスパークすら散っていた。

 闘技場には再生し続けた大質量の藁が焼け落ちた木屑の香りが充満し、彼女の周囲の土などに至っては既に炭化が始まっているほどであった。

 通常ならば半死半生もいいところだろう死に体の見た目だが、モモンガは彼女を信頼していた。

 

 破滅型タンクにして往年のナザリック大侵攻におけるキルスコア第一位、そして年間PvP勝率上位1%常連を誇るアポロトーシスの真骨頂は()()()()であると。

 

 ──マーレが目をハッと見開いて、慌てて杖を横がけにして自分の両目を必死に隠す。アウラも肩をビクリとさせたのち、御方の手前であるため気にしていない風を装いながらも、どうしてもほんのり赤く頬を染めてしまっていた。

 

 モモンガは終始アポロトーシスを全面的に信頼した真面目な顔付き(顔はないけれど)で見守っていたため気付いていなかったが、彼らの反応は間違っていない。

 彼女の今の姿は極上の美少女の妖艶な肢体がほとんどあらわになった姿。下に着けていたのは着用者の動きを阻害しない上質な白金布の神器級(ゴッズ)レオタード。肌に密着した薄布一枚、着るのに相当な覚悟が必要であろうギリギリのラインを攻めた、普通の感覚ならば歩くたびに後ろ姿が気になって仕方ないであろうそれが彼女の恥部を辛うじて隠しているだけだったのだから。

 

「うふふ……地獄(至極)のサービス、ありがとうございます♡ それでは、そろそろこちらからのプレゼントをどうぞ♡」

 

上位背水付与(グレーター・ラストスタンド)/上位単体標的指定(グレーター・シングルターゲティング)/魔法最強化(マキシマイズマジック)人身御供(サクリファイス)……回復対象、モモンガ・アウラ・マーレ・スマイリーエゴ……犠牲HP、現在値から40%減』

 

『──致命反撃(フェイタルカウンター)/五重五寸供犠(スケープ・オブ・クインタプル)

「くふ、くふふふふ♡ それでは、復讐の金釘(てつ)は熱いうちに打ちましょうか♡」

 

『――――ッ!!!!』

 

 アポロトーシスの心臓に刺さっていた全ての五寸釘が念動力により宙を舞い、くるくるくるくると回転しながら黄金(こがね)色に染まって光り、恨み(失ったHP)の数だけ無限に思えるほどに増えていく。

 

 致命反撃(フェイタルカウンター)

 状態異常などの基本的なデバフ系定数ダメージ以外で減少したあらゆる体力量の2倍のダメージを対象に与えるスキルである。

 基本的には低HPを維持するリスクの方がよっぽど高いためクールタイムも少なく気軽に連発できる程度の、報復系職業にとってのマシンガン系スキルである。

 

 本来は他のダメージ系スキルと並べても突出した強みはリスク分が上乗せされてやや高めの倍率程度しかない凡庸なスキルなのだが――

 

 それがもし背水効果で高い倍率そのものが乗算処理で強化され、上位レベルの標的指定によりその無数の命中判定とクリティカル判定をほぼ完全な必中とし、自身の最大HPに応じた割合を犠牲に周囲を回復するという効果の、報復スキルとの併用を前提とするがゆえに通常のデバフ系定数ダメージに例外的に含まれない麦藁人系の初期取得スキル『人身御供(サクリファイス)』でさらなるHPの低減を自身で行った上、攻撃性能に長けているとはお世辞にも言えない麦藁人の唯一の長所である他の種族の追随を許さない高HPとかけ合わせ──

 

 ここまで敵に撃たせて撃たせて撃たせて撃たせて撃たせて丹念に時間とHPを注ぎ込んで作り上げ、五重に陣の敷かれたそれが──本来はチームを想定した構成であり、対複数戦でさえ発動さえすれば何者も壊滅状態に追い込むそれを──たったひとりの相手に対して発動するとしたら?

 

 答えは非常に簡単(シンプル)だ。

 

 使用者のステータスに依存しない無属性規定数量ダメージという、こういった報復系スキルの他にはレイドボスの極大範囲攻撃ルーチンなどの一部の例外にしか存在しない希少な攻撃属性を帯びた五寸釘が、その犠牲を強いた分のツケを相手が払い終えるまで、容赦なく相手に降り注ぐというわけだ。

 

『――』

 

 最終局面、コンマ1秒のクライマックスだった。

 99.9%勝利するはずだった盤面は一瞬でひっくり返り、たった0.1%のHPを残したアポロトーシスが最後に残る。

 

 ──この清々しいまでの逆転劇が彼女、アポロトーシスをユグドラシルプレイ動画を中心としたゲーム系インフルエンサーとして押し上げた、史上唯一にして究極の劇場型戦闘技術(魅せプレイ)であった。

 

 根源の火精霊は最後の断末魔を残す間もなく、復讐に満ちた五寸釘の嵐雨によって跡形もなく消し飛んだ。

 標的指定により、精霊の背後や足下にあった闘技場の壁や床には傷一つ付けることなく、衝撃波により舞い上がった土埃のみを残して決着は付いたのだった。

 

「――ふぅ。あの炎、なかなか効きましたね……たまにはこうして焼いて貰おうかな♡」

「そんな日焼けサロンに行ったみたいな感覚で伸びをしていい場面じゃないはずなんですけどね……」

「やハり、我が主は凄まじイです」

「焼けちゃった部分は、ぼ、ボクが再生します! 『上位樹林回復(グレーター・フォレストヒーリング)』」

 

 マーレの魔法の杖が輝き、地面から生えた様々な樹木の枝や蔓が絡みつくようにしてアポロトーシスを取り巻き癒してゆく。

 ……はたから見ると、触手に四肢を絡め取られたレオタード姿の可憐な女性にしか見えないのがいかがわしさを増しているが。

 

「! あっ♡ あぅっ♡ こ…っちもっ……! 意外と気持ちい、いかもしれませっ、! んっ♡ っっっ♡ ……! はぁっ♡ ん……ぅっ、ちょっと、モモンガさん、ももんが、さ、ん、ァっ、イッ♡」

 

「──っ、アウラとマーレの教育に悪いでしょうがぁッ!」

 

 森祭司(ドルイド)のスキルにより急速に再生しながら喘ぐ藁人形(アポロトーシス)に、モモンガはついにピシャリと吠えたのであった。

 




麦藁人の外殻を元に戻してるだけなのでR-18じゃありません! ありませんってば!
……なんなら聖王国編の映画もPG12だったので、実はオーバーロード二次創作は聖棍棒を越えるまではPG12と言えるかもしれません。
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