ディスガイア知識はなくてもOK、ブルアカ知識はあった方が楽しめます。
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「あのさ、マオ。もう一度言ってくれる?」
魔界。
文字通り、人に恐怖を与え戒める魔の者である悪魔たちの住む世界次元であり、無数に存在する可能性が混沌を成した小宇宙の総称だ。
人間界を脅かし、神の敵対者として在ろうとする彼らのことを人々は悪魔と呼んでいた。
だが、それも今は昔。種族として根付いた悪魔たちは天使への敵愾心と悪の心はそのままに、無数の魔界ごとに多様化を始めていた。
そんな魔界のうち、様々な魔界から耳目を集める悪魔の最高学府と名高いのが、ここ「魔立邪悪学園」である。
この学園では人間界における不良こそ優等生であり、善人ほど不良であるとされる。この倫理観のブレーキを無くした悪魔的学府を内包する研鑽と堕落の研究が盛んな大魔界こそ、魔立邪悪学園であった。
そして、この邪悪学園高等部の豪奢なロビーにて。二人の
二人のうち一人の名はマオ。白いツンツン髪に丸眼鏡、鋭い目つきがトレードマークの
そしてもう一人はベルベット、とそのペットである
ベルベットは白から染めたブロンドの髪、その髪のところどころに入った紅のメッシュ、両目の涙袋へ等間隔にある泣きぼくろ、今は怪訝そうにしかめられた切れ長で長く密度の高いまつ毛が二重のまぶたを彩る特徴的なアイスブルーの瞳、165cmと女性にしては長身のモデル体型の少女型悪魔である。
彼女はその蠱惑的もしくは悪魔的に美しい容貌とは別に、一目見て悪魔そのものといった特徴もあった。
天に向かって伸びる黒い双角はリボンを着けてお気に入りのテンガロンハットの中にしまい、コウモリのような悪魔の翼は腰の付け根から生えていて、尻尾はオーソドックスな先端がスペードもしくはハート型のつるりとした黒いそれが制服のスカートに空けてある穴から伸びていた。
そんなベルベットもマオと同等である邪悪指数180万を誇り、その上に銃の扱いにおいて右に出るものはおらず、悪魔を武器に変換し操る魔チェンジ学における博士号を若くして持つ、マオ同様に世代を代表する邪悪学園始まって以来の才媛であった。
「どうしたベルベット? 我と並ぶ頭脳を持つお前が質問など珍しい。一を聞いて十億を知る、それがお前だったはずだが」
「
「妙な薬などではない! アレは締め上げた優等生どもの魔力エキスを抽出した"ダレデモツヨクナレール"という試薬で……」
「クゥ〜ン……(特別意訳:また始まった……)」
犬型魔獣のパイルは青地に白の毛並みが美しい角付きの悪魔であり、今はいつもの口論を始めた
「ゴホン。ともかく、我の計画は聞きたいのだろう? 随分と殊勝な心がけじゃないかベルベット。それでは4000ページに渡る論文をたったの20ページに要約した、しかも我が手ずからしたためたこのレジュメを最初から、」
「そういうのはいいから、要点だけ話しなよ。どうせ私を巻き込むつもりなら、あんたに限ってはそうした方が話が早いじゃん」
いつもそうだし、というベルベットの素っ気ない返答にも関わらず、マオは前のめりに反応する。
「おおっ、いつになく協力的ではないか! ならば要望通りに掻い摘んで話そう。結論から言えば……お前には今から"留学"してもらう」
「……は?」
ベルベットは被っていたテンガロンハットを取り落としそうになり、慌てて抑えながら放心した。彼女の帽子はオレンジ色で、ジャック・オー・ランタンのように目と口にあたる部分がくり抜かれていた。これを目深に被ってくり抜かれた目から見て銃を構えると、ベルベットは潜伏しながらスコープを覗いた時のように完璧に集中できるのだ。
「我が開発した新型次元観測装置により、この魔界とは別の次元で特殊な世界が形成されているのを観測した。そこではやがて崇高に至るであろう膨大な神秘が内包された生徒が学園生活を送る……言うなれば転炉だ」
マオのそれは迂遠な説明であったが、ベルベットは理解すべき部分を即座に理解した。
つまりマオは学園のテクスチャを貼られた神秘の存在が生徒として青春を送る世界に、異物であるベルベットを"留学"という形で混ぜて反応を見てみたいのだろう。それの意図するところはまだ不明瞭だが、それは彼にとって
ベルベットの経験上、マオという幼馴染の少年がこうして興奮している時にはろくな事を考えていないし、何をどうしようと巻き込まれることは確定しているからだ。
「へえ、それで留学? 私、魔チェンジについての追加研究とかこないだ鹵獲した超合金ロボスーツの調整とか、一度も登校したことのないマオと違ってゼミで色々やることが残ってるんだけど?」
せめてもの論理的な反駁。しかしマオは意に介さなかった。
「そんなまだるっこしい言い訳なんぞ後でいい、些細な面倒事程度は我が片付ける。それも片手間でな! それよりも重要なのは多次元で複雑かつ薄氷が層のように重複したこの可能性の世界へ我らが介入し……ハァ、ハァ……今までにない至上の研究成果を……ハァ、ハァ!」
興奮が抑えられなくなってきたマオに頭が痛くなってきたベルベットは帽子を抑えてため息を吐いた。
そしてもうマオの中で確定事項となっている留学について、百年程度ならいい経験になるだろう*1と気持ちを切り替え、乱れた髪を手櫛で整えながらマオに質問した。
「はいはい、それで……必要事項といえば今から留学するその場所の名前と、私が行かなきゃいけない理由。そんで後は……あんたからの"お願い"くらいかな」
「"お願い"だと……っ!? クッ、我がお前に頭を下げろと……?」
「そう言ってるのはわかるでしょう、理事長のご子息? プライドの高いあんたから、どうしてもって頼んでくれたら聞いてやらんこともないかなーって」
「ぐ、ぐぎぎ……背に腹は、変えられんか……」
マオはベルベットから見ても類を見ないかなりの渋面を晒し、その上で検算が完了したのかしぶしぶ頷き、ベルベットを睨んだ。
「これは悪魔としての正式な契約として、我、マオからベルベットに、ぐ、"留学"を要請、する……!」
「はい、よくできました。契約ならお願いは聞いてあげるよ、これでも私は悪魔だからね。代償はあんたのプライドをちょっとだけ曲げられた珍しい場面の価値で手打ちにしてあげる」
「フ、フフフ……我に頭を下げさせるとはほとほと命知らずな女だ。しかし! お前をかの都市に送り込み、あの崇高の転炉の変化を実測できるのならば安い安い! さあ時空ゲートも準備完了だ、今すぐ転移に取りかかるのだベルベット!」
「あ、そうだ。一応聞くけどなんで私? 生屠が必要ならマオが留学すれば良いじゃん。フィールドワークも好きな方でしょ?」
素朴なベルベットの疑問に「愚問だな」と返したマオは、丸眼鏡をキラリと光らせながら大仰に両の手を開いた。
「そこでは
つまり、邪悪指数180万の頭脳が論理的に叩き出した答えが、ベルベットの留学なのだという。
それならば納得しても良い。女性であること、生屠であること、銃の扱いに長けていること、そして優秀な特派員であることのすべてが条件ならば、私の他に適任はそうそういないとベルベットは自負していた。
「そういうことなら。……んじゃま、私はこのままパイルと行くよ。賃貸魔界じゃあるまいし、ペットくらいは可でしょ?」
「ワフ!」
「それは勿論だとも。犬型獣人の存在も確認できた。ならばクーシーを送ればどういった変化が起こるのか同時に観測できる。実に効率的で良いじゃないか」
時空ゲートの管理人はすでに紫の次元の狭間の先に、青に染まった綺麗な空と立ち並ぶ建造物たちを映していた。
「それじゃ決定ってことで。悪は急げだ、さっそく始めよっか。留学期間は百年でいい?」
「その程度が妥当だな」
「おっけ〜」
ベルベットはまるで何でもないことのように、行きつけの喫茶店に繰り出すかのように步を進める。
マオに一時の別れを告げることすらなく、
「委細承知ってね。私なりに自由に過ごせば良いだけみたいだし。それと……聞きそびれてたけど、今から行く世界の名前って?」
時空ゲートの次元移動における奔流がベルベットを飲み込む直前の質問。マオはそれに力強く答えた。
「数千の神秘に溢れた学園が集まる未知の学園都市……"キヴォトス"だ」
「未知の学園都市キヴォトス……か。いいね、少し楽しみになってきた」
直後、時空ゲートがベルベットと彼女に付き添うパイルを完全に飲み込み転移を始める。
次元の狭間を移動しながら、ベルベットはこれから始まる新たな学園生活という格別の刺激に胸を躍らせながら、キヴォトスへと向かっていくのだった。
◆
砂漠をさまよい歩き疲れて、へたり込んだままスマートフォンに音声を吹き込む。砂嵐のせいで圏外と通信復帰の狭間をさまよう頼りない通信環境で、少女は必死に、しかし優しいメッセージを愛しい小さな後輩へ遺そうと足掻いていた。
『ごめんね、ホシノちゃん』
『またコンパスを忘れちゃった』
『手帳はあそこに置いてきたからね。ホシノちゃんもよく知ってる%#$*の、目立つ場所に』
充電が切れそうだ。最後になるかもしれないメッセージには、ありったけの感情を込めて。涙をこらえながら、努めて明るい声になるようにしながら。
「ホシノちゃん、私は──」
「いかにも今から死んじゃいますって言いたげなメッセージだね。まさか本当に死ぬつもり?」
「ひゃわあっ!?」
「幸先がいいね、第一生徒発見だ。──はじめまして、生徒さん。あんたはどうしてこんな砂漠のど真ん中に?」
「ぇ、え? ええと、は、はじめまして?」
学園都市キヴォトスの辺境、アビドス自治区に広がる大砂漠。
度重なる砂嵐によって大半が砂に埋もれたこの自治区の、いつもの通りの激しい砂嵐の中。
失意の中でもめげずに後輩へとメッセージを残そうとしていたアビドス高等学校の生徒会長である梔子ユメは、突如として目の前に現れた、形容しがたい不思議な雰囲気の生徒と、彼女のまたがる一匹の大きな犬?に驚きを隠せないでいた。
「困っているなら助けてあげる。代償は……ま、後で考えよっか」
ベルベットは小悪魔のような笑みをたたえ、少女にキヴォトスに到着してから初めての契約を持ちかけた。