ミレニアムサイエンススクール主要施設、ミレニアムタワー周辺に位置するエンジニア部のガレージへ、ミレニアム中を整然とした回路のように走る快速のモノレールに乗ってやってきたベルは、首にミレニアム生徒会であるセミナーの認め印が載った入場許可証をぶら下げていた。
切れ長の瞳とかぼちゃ色の穴空き帽子が印象的な異邦の生徒は、しかしキヴォトス三大校のひとつであるミレニアム自治区ではアビドスに比べてあまりに多い人口により相対的に目立たない。
最新技術のプロモーションなどで他校の生徒がやってくることに寛容である気風やアビドスよりも遥かに優れた状態で保たれている治安などの諸々の要因により、エンジニア部までの道のりでスケバンに絡まれるなどの被害なく無事にガレージのインターフォンを鳴らすことができたことについて、ベルは少しだけ驚いていた。
エンジニア部へのアポイントメントは取っておいたため、入場許可証をかざしてガレージへとお邪魔すると、所属するマイスターの一人であろう白を基調としたサブマシンガンを携行した紫色の髪の少女が、スパナを片手にベルに近づいて、互いに挨拶を交わした。
「君が釣鐘ベル、でいいのかな。私は白石ウタハ、ウタハでいいよ。用件は伺っているからどうぞゆっくり。それと、そうだな……マイスターの集う部活動、エンジニア部へようこそ」
◆
「つまり、この予算で銃を見繕って欲しいということだね」
「不足があったなら教えて。その場で指名手配犯でも捕まえてくるよ」
「いや、それには及ばないさ。私もちょうど手が空いているし、額の方も申し分ない。なんならカラーデザインやペイントに多少の改造も追加で請け負おう」
「皮肉ってわけじゃないけど、随分と安く技術を売るんだね」
「そうかい? 適正価格でやらせてもらっているつもりだが。あぁ、キヴォトスの外なら火器周りの懐事情は変わるだろうけれど」
「そっか、これが適正価格……」
キヴォトスでは銃が安い。魔界もかくやと言ったレベルで乱射事件がところ構わず日常的に発生する場所であることは承知しているが、それは火器の異常な安さと、互いに丈夫な体のお陰で引き金の軽いことがそれらを助けているのではないかとベルは推測していた。
「……うん。それじゃ、見積もりを頼んで良いかな」
「了解だ、お客様。せっかくこの新鋭のマイスターの元へ来てくれたんだ。私なりのカスタムをした最高の銃をプレゼントしてみせようじゃないか」
一年生にしてマイスターの称号を得た才媛である白石ウタハはエンジニア部の新人として、目前の客をもてなしていた。
その客とはアビドス高等学校の釣鐘ベルという、オレンジの穴空き帽子を被った金髪碧眼の少女であった。同じ一年生だというが、背の高く肝の据わった様子の彼女は大人びていると普段なら評価されることがあるウタハをして遥かに年上のように感じていた。
彼女は寡聞にして聞かない学校の制服を着た、これまた聞かない名前の生徒だったが、ウタハにとっては試作品を提供できるよい機会だったので鷹揚に対応を請け負ったのだ。
「まずは射撃の腕を見せてもらえるかい? アーケードゲーム感覚で出来るシミュレーターがあるから、君にどんな銃が合っているか試していこう」
「個人的にはリボルバーが手に馴染むんだけど……まぁ、この機会に別の銃を探してみようかな」
射撃演習VRシミュレーターにて、汎用作業ロボットを模したエネミーをベルは様々な銃器で撃ってゆく。ハンドガンから始まり、果ては本来ヘリに備え付けのミニガンまで。
ベルは緩慢な動きのエネミーに対して少しばかりの退屈さを感じながら、多少パターンが不規則なだけの的当てを機械的に繰り返す。かつて邪悪学園を震撼させた"魔弾の射手"にとって、この程度は造作もないことだった。
「ふむ、素晴らしいスコアだ! それに
(そして……弾丸が飛び出す瞬間に感じる、他とは違った僅かな恐怖感。普通の弾丸ならそのような違和感は覚えないのだけれど、彼女の弾丸だけがそういった特性を帯びるようになる……少し非科学的だけど、そう思ったほうが自然だね)
(だとすると、彼女の弾丸の特性を最も活かせるのは……)
ウタハは思考の海に一瞬だけ浸り、脳内で銃器のパーツを組み合わせていく。
ベルの命中率と集弾性を更に高めるべく、ベースは基礎力の高いバランス型のフレームに。恐怖を呼び起こす特異な性質を活かすなら、マガジンのサイズは大きめが良い。使用する弾頭は貫通力と射程に長けた大口径でも彼女の反動制御力なら見合ったものになるだろう。
「うん、そうだね……よし、いいアイデアが浮かんできた。早速取り掛かるとしよう」
「何日くらいで完成するの?」
「マイスターを見くびらないで欲しいな。パーツはあるから、二時間ほどでプロトタイプは組み上がるだろう。日帰りで持って帰ってもらえると思うよ」
「え、早いな。てっきり郵送か後日の訪問になると思ってたんだけど」
ベルは若干驚きつつも、新たな銃の完成を待つことに同意し、魔法のように銃を組み立てるウタハと世間話をしながらゆっくりとエンジニア部で過ごした。
「ちなみに他の販路の進出とかは考えてない?」
「考えてはいるけど、どうにもね。最近はあのカイザーコーポレーションが兵器開発に興味津々で、どの販路もカイザーの安い量産型が幅を利かせてるから」
「カイザー……ふーん」
うちのローン請負会社と同じ系列だろう。ベルは脳内の要注意企業リストにカイザーの名を書き込んだ。
それからきっかり二時間後。
「ひとまず完成だ。ベル、これを持ってみてくれ」
ウタハが差し出したのは、全体が流線型に丸みを帯びた近未来的な風体のサブマシンガンだった。
銃身は50cmほどの短機関銃で、マガジンは銃の上部へコンパクトに収納されているメインマガジンと、いわゆるバナナマガジンと呼ばれるサブマガジンが同時に取り付けられるようになっていた。独自の機構によってメインマガジンの弾切れと共にシームレスにサブマガジンから弾薬が供給されるようになっており、撃ち尽くした場合のリロードもサブマガジンを交換するだけの場合と一マガジンを纏めたベルトをメインマガジンに装填する場合の二つに分けられており、二つのリロードをこなす際にも時間のロスを極力減らし、簡単かつ素早いリロードが可能となっている。
また、スコープは標準的なドットサイトにすることで、射撃姿勢以外で邪魔にならないよう調整されている。
射撃はフルオートのみだが、シミュレータースコアが申し分のないベルにとってセミオートとフルオートに違いなどないだろうとウタハが判断した。そして、理外の動体視力と身体制御能力を併せ持つベルにとって、その判断は正解であり、浮いた予算は校舎に備蓄するための余剰の弾薬に回すことができた。
さらに特筆すべきはその弾薬で、拳銃弾に近い使用感ながら貫通力の高い5.7×28mmライフル弾が採用されており、マガジン装填数の確保と高い威力の両立という良いとこ取りの課題を無理なく実現させている。
「それと、ウチの試作の追加装備も持っていってくれ。Bluetoothにこの銃を接続・登録して紐づけられる、フルナビゲートGPS機能付きのホルスターが余っていてね。合成音声も私が担当した力作なんだけど、誰も買ってくれなくて……銃を紛失した時に便利だと思ったんだが」
「たぶん、キヴォトスで銃を落っことす人間はいないから売れないんじゃないかな……」
「なるほど、それもそうだ」
「ともあれ貰えるものは貰うとして、追加装備も頼んでいい? もっと状況対応能力を高めておきたいから」
ベルの言葉にウタハは深い納得をしつつ、彼女の要望通りに追加装備を紹介する。
有効射程を伸ばすロングバレル、静音性に優れたサプレッサー、マズルフラッシュを閃光弾レベルで光らせる炸裂弾と超遮光サングラスのセットなど……様々な発明品の紹介を受けたベルは、最終的に3つの追加装備を購入した。
それぞれ接近戦用のバヨネット、屋外戦や市街地戦での火力支援用バイポッド、それに校舎や車両など屋内で安定した射撃を行える防衛用折り畳みシールド付きトライポッドだ。
すべて脱着が容易であり、専用のホルダーを利用してベルトにまとめておけるようになっている。追加装備も含めて使用感を試したあと、二人の話題は銃の名前やペイントに関する事柄に移っていった。
「名前は……そうだな、君が好きに付けてくれて構わない。まだペイントが終わっていないから、その名前にちなんでデザインしよう」
「名前、名前ね……うん、いい銃なのは見て取れる。ミレニアムらしく近代的で、それと、なぜか付いた変な機能もあるけどそれもまた個性で……よし、決めた」
ベルはこれから相棒となる銃の名前を告げ、ウタハは鷹揚に頷いた。
「それじゃあこの”フルナビゲートB90”は君のものだ。うん、いい名前だね」
「ペイントは砂地と市街地に紛れるようにお願い。使い道はその辺りが多いから」
「あぁ、君のいるアビドスは砂漠地帯なんだったか。OK、要望を踏まえてデザインしてみよう。今度は乾かす工程も含めてまた二時間ほど掛かるから、それまでは……ん?」
ウタハはエンジニア部の自動ドアが開き、ベルに続いて新たな客人が現れていたのを見つけた。
視線の先にいたのは同級生の中でも有名な、エンジニア部の中でも話題の人物だった。
いわく、エンジニア部のシミュレータースコアがオーバーフローを起こした。
いわく、サブマシンガンの腕は超一流。
いわく、ミレニアムで最も凶暴な生徒。
「あ? よそもんも居るじゃねえか。それ自体は別に珍しかねぇが、調整してんのはSMGか?」
「まずい、そういえば今日は彼女が来る日だったんだ」
「け、先客がいるなら仕方ねぇ。あたしの銃のメンテは後でいいからシミュレーター借りるぞ……あ? なんだこのスコア」
そして全校生徒いわく、興味を持たれる前に目をそらせ。
小柄な体格に赤い髪、龍柄のスカジャンにダブル
彼女はつい先日までまったく更新されていなかった銃器シミュレーターの記録が軒並み、”BEL”という三文字のみのニックネームが更新しているのに気が付いた。
「ほぉ、なかなかやるヤツも居たもんだ。あたしの一人勝ちだとつまんねぇからな……って、おいおい。サブマシンガンまでこの成績か?」
「――――あ」
ウタハはしまった、という顔でちらりとベルの方向を見てしまった。それをネルは見逃さない。
「なるほど、ついさっきセミナーの奴らが騒いでたのはこれか。突然スコア上位が軒並み入れ替わったってのは聞いてたが、どうせ故障か最近発足したヴェリタスのヤツらの悪戯かと……おい、そこのハロウィンみたいな帽子被ってるお前」
「……?」
「お前だよ、大体わかんだろうが!?」
ネルは顔を赤くして怒声を吐く。
ウタハは半ば諦め、ベルの肩をポンと叩いた。
「すまないベル、ウチの問題児……いや、麒麟児に付き合ってもらうことになりそうだ」
「ミレニアムも意外と血の気が多いんだね」
「彼女だけ、と言いたいところだが。否定する材料も特にないかもしれない。なにせ、シミュレーターのスコアアタック、そして対人戦闘シミュレーションはこのミレニアムで屈指の人気コンテンツだからね」
ウタハは得意げに話し、シミュレーターを起動した。
ストック終わりです。
評判よければ連載に変わるかも?
高評価、感想、ここすきなどなど応援よろしくお願いします!