世の中には、存在するだけで周囲の人間を『
たとえば、初星学園の生徒会長、
たとえば、プロデュース科の新星、
繰り返すが、彼女にプロデューサーとしての実績はまだほとんどない。
そして、そんな『規格外』が、たった今、もう1人爆誕した。
「今回のオーディションの合格者は1人。2番、藤田ことねさん」
藤田ことね。
中等部時代はずっと実技赤点だった彼女が、『あの』犬束静紅に見初められてからほんの半月で――授業料免除がかかった、超高倍率である特待生制度の学内オーディションを突破してしまった。
「……っ……!」
-☆-
初星学園、屋上。春の澄んだ南風が頬を撫でる。気持ちのいい晴天。透き通る青。
そして――淡いライトブラウンの髪をした、育ちの良さそうな女生徒が、ひとりで泣きじゃくっていた。
――彼女をスカウトするには、
「すみません。花岡ミヤビさんですか?」
「……な、何ですか、あなたは」
「俺はこういう者です」
名刺を差し出す。
「花岡ミヤビさん。あなたをプロデュースさせてください」
時が止まったかのように思えた。
彼女は目をぱちくりさせ、しばらく固まり――
「………………………………は???????」
困惑した。
作戦は成功だ。こんな不意打ちのスカウト、猫をかぶれるはずがあるまい。
そして、しばらくして、花岡さんは自分が置かれている状況を理解したようだった。
「……い、意味が、わかりませんっ!!」
彼女は目を赤くしたまま、俺をギリッと睨みつけた。アイドルがしてはいけない顔、という表現がしっくりくるくらい、怖い。
「意味がわからない、とは?」
「何で声をかける先がミヤビなんですか!?
「藤田さんには先約がいますからもう無理です。それに、俺は元から彼女をスカウトするつもりはありませんでした」
「へ、変なひと!」
「中等部No.4の実力者をスカウトしようとしているのですよ? 我ながら堅実な選択だと思うのですが」
「……そ、それにしたってタイミングが最悪です。劣等生だったはずのアイツに力の差をまざまざと見せつけられて、気落ちしてる時に声をかけるなんて。性格悪すぎる」
「あなたが言えたことじゃないでしょう」
「……最悪……!」
そっぽを向いてどこかに行こうとする花岡さん。
「花岡さん」
俺は普通のテンションで呼び止めた。花岡さんは髪を引かれたようにぴたりと止まり、こちらを向く。
さっきのセリフを、もう一度。
「あなたをプロデュースさせてください」
「…………」
花岡さんは俺のことをギリギリと睨みつけ、歯の奥を噛み締めた。壮絶な表情だ。ステージの上には、到底持っていけない。
こんなとんでもないスカウトを俺が敢行したのは、プロデューサー科という肩書が持つ信頼感を頼ってのことだ。
アイドル科の生徒は、基本的にはプロデューサー科の学生を信頼している。デビューした生徒には、大抵プロデューサー科の学生がついている、という堅固な実績を先輩方が積み上げてきてくださったからだ。
それに、プロデューサー科自体の倍率もとんでもなく高い。しかも、現役のアイドル事務所のプロデューサーが学び直しのために初星学園に入学してくるほどに、プロデューサー科のカリキュラムは業界最先鋭を行く。当然、アイドル科の生徒もその事実を知っている。
故に、花岡さんは悩んでいるのだ。腐っても俺はプロデューサー科の人間である。
そして、花岡さんはついさっきのオーディションで、今まで成績の悪かった生徒に敗北を喫したばかりだ。きっと、今のミヤビに、スカウトしてくるプロデューサーは俺の他に居やしない――なんて、考えているのだろう。感情的になりやすい花岡さんだからこそ、凹んだ時のダメージも大きいし、ネガティブになりやすい。
そこに差し伸べられた手だ。……取るに違いない。
そう。俺は彼女のその性格につけこんで、今回のスカウトに利用させてもらったのだ。そうでもしなければ、高飛車で傲慢で自信家なお嬢様である彼女はきっと、実績も話題性も威厳も何にもない、俺みたいな若造のスカウトには決してなびかないはずだ。
悩んで、悩んで、悩んで……意を決して、花岡さんが口を開く。
「……プロデューサー。そのスカウト、受けてあげます。でも……ミヤビは、プロデューサーのこと、大っっっっっっ嫌いですから!!!!!!」
これはずいぶん派手に嫌われた。
嫌われるだろう、とは思っていたし、なんなら既定路線ではあったのだが……少々、やりすぎたか……?
一応、書類を渡すと素直に受け取ってちゃんと書いてはくれたのだが。
とにかく、無事……ではないかもしれないが、俺は花岡ミヤビさんとプロデューサー契約を結ぶことに成功した。
こんなんだが、目論見どおりではある。
「くっ……とっとと成り上がって、こんなヤツなんか踏み台にして、犬束プロデューサーに認めて貰うんだから……!」
「口に出てますよ。思っていること」
「はッ!? ……や、ヤダナー、冗談に決まっているじゃありませんかぁ……ヤッパコイツムカツク……」
……目論見どおりである。たぶん。