花岡ミヤビをプロデュース   作:#NkY

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分析、および来客

 諦めない、と宣言をするのは簡単だ。

 行動に移すのもちょっとは難しくなるが、まだ簡単な方だ。

 ただ、それを『諦めないで良かった』に結びつけるのは――至難の業だ。俺たち未熟者にとっては、特に。

 

「……どうすればいいんだ」

 

 寮の自室で1人、俺は頭を抱えていた。

 

 第2回H.I.Fセレクションのビデオを観る。なぜ、花岡ミヤビは、藤田ことね、月村手毬に大差を付けられてしまったのか……その原因を分析し、今後の本戦に向けてどのようなアプローチをするべきかを考えるためだ。

 

 原因を把握するのはとても容易かった。アイドルについてさほど詳しくない人でも分かるくらいには簡単なくらいだった。

 

 圧倒的力量不足。それに尽きる。

 

 第1回のとき本調子でなく、パフォーマンスがやや尻すぼみに終わってしまった月村さんは、それを見事克服してみせた。学園トップクラスの驚異的な歌唱力を最後まで発揮し、会場の全てを支配してみせた。『月村手毬は終わった』などと一部で噂されていたが、このステージによってものの見事に黙らせてみせた。

 一方、経験不足による空回りを起こしていた藤田さんは……もう、手が付けられないほどの熱狂を起こしていた。彼女の魅力に盲目的にされたファンが、藤田さんのパフォーマンスを更に押し上げていた。

 それに恐ろしいことに、彼女にはまだまだ成長の余地があるように思える。だいぶマシにはなったが、依然として歌唱力には問題を残したままだ。

 つまり……藤田ことねは、まだ、強くなる。

 

 それでは、我が担当である花岡ミヤビはどうだったのか。歌もダンスも表現力も平均以上。細かい文句を付けようと意地悪な気持ちにならないかぎり、目立った指摘事項のない出来。もちろん、ファンの声援も大きかったし、それを上手く力に変えることもできていた。それに加えて、サブトレーナー作戦で得た、新たな表現の仕方も効果的に作用していた、と思う。

 総合的に見ても、第1回のセレクションよりも良いパフォーマンスができていた。実際、彼女のパフォーマンスに目立った欠点はなかったのだ。

 

 ――が、しかし。それでも、9割の人間は月村手毬と藤田ことねの方が優れている、と言うだろう。それくらいには彼我の差が存在していた。

 

 2人の共通点、それは……『1点特化型である』ということだ。月村さんは歌、藤田さんはダンスに天性の才能を宿している。他の能力に多少の難はあれど、圧倒的な能力が聴衆に与えるインパクトで欠点を無理やり覆い隠してしまえている。

 花岡さんは目立った欠点はないが、特別秀でている能力もない。残念ながら『なんか普通に上手かったね』で終わってしまうのだ。

 それに、キャラ付けも中々難しい。器物破損系アイドルとして売り出す訳にもいかないし、今から急に○○系アイドルとして売り出します! なんてやったら破滅しかない。

 もちろん、比較的無個性でありながらトップアイドルに上り詰めた人がいない訳ではないが、大抵器用万能だったり、生まれながらにしてアイドルみたいな人間だったりする。花岡さんは、残念ながらその類ではない。

 

 能力でも負けている、インパクトでも負けている、成長余地でもおそらく負けている。

 絶望しかない。そんな状況。

 

 しかし、ここで藤田さんか月村さんにH.I.Fを獲られてみろ。2人は更に勢いづいて、もう絶対に手が届かない場所に行ってしまうぞ。

 かなり絶望的な状況に置かれているが、今夏のH.I.Fが2人を上回る最大にして最後のチャンスである。俺はそう踏んでいる。

 

 だから、少なくとも俺は諦めたくはないのだ。『藤田ことねに勝ちたい』とH.I.F出場を志願してきた担当アイドルのためにも。犬束静紅(プロデュースの天才)に一泡吹かせるためにも。

 ――絶対に。

 

 ピンポン。呼び鈴が鳴る。宅配も出前も頼んでいないはずだが……不審に思いながら、インターホンのカメラをつける。

 そこには見た事のある顔が2つあった。花海佑芽さん、葛城リーリヤさん。花岡さんが補習でサブトレーナーを担当したことがある2人だ。どうやらあの後、個別に仲良くなったらしい。

 

『ミヤビーイーツですっ!!』

『こ、こんばんは……あっ、許可は取ってあります』

 

 ミヤビーイーツとは何なんだ。

 それはさておき、見たところ佑芽さんに葛城さんが振り回されているような感じがした。あの元気を制御するのは大変そうだ……。

 

 ドアを開けるやいなや。

 

「ミヤビちゃんのプロデューサーさん! ミヤビちゃんから差し入れですっ!」

 

 佑芽さんが弁当箱を差し出してきた。シンプルだが質の良さそうな綺麗な布で包まれている。

 ……だからミヤビーイーツか。

 

「ありがとうございます。ですが、どうして花岡さんが差し入れを?」

「ミヤビちゃんから相談されたんです。プロデューサーさん、元気がないって。そういう時は胃袋を掴むしかない! ってあたしがアドバイスしたら、差し入れを作ろうって!」

 

 若干、恋愛脳に偏っている気がしなくもないが……どうやら佑芽さんの差し金だったらしい。

 

「直接渡せばいいじゃん、って言ったんですけど、ミヤビちゃんは『絶対嫌ですっ! 勘違いされたら死ぬしかないじゃないですか!!』って意地張っちゃって。もう、ミヤビちゃんったら恥ずかしがり屋さんなんですからぁ♡」

 

 直接渡しに来ないのが何とも花岡さんらしい。そして、第三者であるはずなのに頬を赤らめて勝手に1人で舞い上がっている佑芽さんは何かものすごい勘違いをしている。

  

「……えっと、わたしからも個人的にクッキーをお裾分けしますね。あの時、お世話になったので」

「お礼なら花岡さんに渡すべきでは?」

「だいぶ前……補習が終わった次の日に渡しましたよ。それに、花岡さんをサブトレーナーとして派遣してくれたのは、プロデューサーさんですから」

 

 対照的に、控えめかつおしとやかに、可愛らしいパステルカラーの小さな包みを渡してくる葛城さん。とても良い子である。もし彼女のような子であったなら、きっと精神的に落ち着いてプロデュースできたであろう。残念ながら我が担当アイドルはそうではないのだが……。

 

「ありがとうございます。……こちらは手作りですか?」

「はい。趣味なんです」

「なるほど。大切にいただきますね」

 

 この後食べたのだが、実際、甘さ加減が絶妙だった。例のSSDの件があったので若干身構えはしたが、彼女はちゃんと料理上手だった。

 

「ところで、元気がない理由って何ですか? あたしで良ければ聞きますよ!」

「大丈夫ですよ。俺の担当でもない2人に気を遣わせるわけには」

「でも、わたしは花岡さんのおかげで一回り成長できた感じがするんです。差し出がましいかもしれませんが、花岡さんのプロデューサーにも恩を返したいんです」

「あたしもです! あたし、ミヤビちゃんトレーナーの猛特訓のおかげで、H.I.Fのセレクションに出れるくらいになったんですよ!!」

「え?」

 

 あの時、全く歌えなかったあの子が、この短期間で……? たしかに才能溢れる子だとは思っていたが、俺の想定以上のポテンシャルだ。

 

「そうだ。今度のH.I.Fセレクション、ぜひ見に来てください! ユニット部門で出ますから! あたしのステージを見て、何か掴めたら嬉しいですっ!」

「ユニット……ですか?」

「はい! きっと、みんな驚くと思いますよ?」

 

 佑芽さんは含んだ笑みを浮かべた。メンバーを知っているのか、隣の葛城さんも笑っている。

 

「……あ、わたしじゃないですよ? わたしはまだまだ実力不足で……でも、わたしの親友もユニット部門に出るので、そっちも応援して貰えると嬉しいです。紫雲清夏ちゃん、っていうんですけど」

 

 紫雲清夏さん。たしか……。

 

「花海咲季さんのユニット相手ですか」

「えええええええっ!?!?!?!?」

 

 佑芽さんの絶叫が周囲の物をガタガタと揺らした。葛城さんが思わず身体を縮こまらせて目をギュッと閉じるのもうなずける。

 

「リーリヤちゃん! 清夏ちゃんってお姉ちゃんと組んでるのォ!?!?」

「そ、そうだけど……むしろ、佑芽ちゃんは初耳なの?」

「はじめて聞いたよぉーーーーー!!!!!!」

「……う、佑芽ちゃん。近所迷惑……」

 

 そして、あらかた騒ぎ終わったあと、佑芽さんは。

 

「リーリヤちゃんは憎きお姉ちゃんとユニットを組んでる親友を持ってるってわけだね。つまり……あたしの『敵』だぁっ!!」

「えええぇぇぇ……?????」

 

 ひとりでわけのわからない理屈を展開して2人の友情に亀裂を入れ……てはないと思うが、葛城さんを果てしなき困惑の渦に巻き込んだのだった。

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