花岡ミヤビをプロデュース   作:#NkY

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なんだか難しそうってもんじゃない

「……なんですか、あの子は」

「なんなんですかね、あのひとは」

「『Campus mode!!』ぽくしないでください」

 

 H.I.Fセレクション第2回、ユニット部門の帰り道。横を歩く花岡さんが俺に聞いてくる。信じられないものを見た、といった感じで。

 

「花岡さん。アイドルというのは、人生すべてが武器になる」

「初星ならよく聞く言葉ですよ、それ。それがどうかしたんですか?」

「推測の域でしかありませんが。花海咲季さんはきっと、()()を体現しているアイドルだと思います。でないと、本格的にアイドルをやりだしたのが数か月前でしかない彼女が、あんなことをできるわけがない――」

 

 あの空間は、咲季さんを含め4人しかいない小さな『箱』であることには変わりなかった。しかし、息を吸うほんの一瞬だけで、ついさっきまで花岡さんのものであった空間を、すべて自分のものに塗り替えてしまうようなオーラを発することができるのは……本当、都合がよすぎる。意味がわからない。

 認めたくない。が、実際、身をもって思い知ったのだ、認めざるを得ない。

 

 才能の足りない俺たちは、そんなものをすべてひっくり返しうる、そういうものを探してここに来ていたはずなのに――いざその正体がわかってしまえば、才能なんかよりも到底手に入れがたいモノであった、なんて。

 

 なんて、なんて――。

 

「ままならない、ね」

「!?」

 

 花岡さんとはまるで質の違う、蚊のように細い声が耳をかすめた。

 

「篠澤さん……!?」

「はろー、ミヤビ。それとミヤビのプロデューサー」

 

 篠澤広さん。以前花岡さんがサブトレーナーを担当した、補習を受けていた生徒のひとり。目を引くような美しい亜麻色の長髪と、透き通った琥珀色の眼。病的ともいえるような線の細さも相まって、まるで異世界から来たような神秘性を携えたルックスを持つ。ここまで聞けばアイドルの原石としては特級品だと思うかもしれないが……その実態は、アイドルを目指す人間らしからぬ、度を超えた体力不足を誇る生徒である。

 ……実際、すでに軽く息切れしていて、ふらふらと立っているのだからちょっと怖い。

 

「突然話しかけないでくださいよ篠澤さん! ミヤビの心臓が半分停止したじゃないですか……」

「ごめん。いたからつい、話しかけちゃった」

 

 篠澤さんは花岡さんの肩を支えにするようによりかかった。確かにライブ参戦は体力を使うが、そんなになるほどではないはずだが……まあ、これが篠澤広という人間である。

 

「……篠澤さんも、セレクションを観にきていたのですか?」

「うん。来てた。佑芽のいるユニットが優勝候補って聞いたから。わたしと佑芽、とっても仲良しだから、応援」

「なるほど。それで……篠澤さんは、何か感じたのですか?」

 

 花岡さんに尋ねられた篠澤さんは、遠くの夕陽を眺めて。

 

「――佑芽、遠くに行っちゃったな、って」

 

 さみしさと、くやしさが混じったような声色で、ぼそりとつぶやいた。

 

「そう、ですね。ミヤビも……そう、思いました」

「ミヤビは佑芽の面倒もみてたんだっけ」

「はい。篠澤さんはまだまだ全然、ライブができる光景を思い浮かべることはできないですけど――」

「ふふっ、辛辣」

 

 容赦のなさすぎる花岡さんの口撃に、なぜか嬉しそうに頬を赤らめる篠澤さん。一体全体、二人はどんな関係性なんだろうか……。

 

「――佑芽さんは、ある時を境に一気に上達して。ミヤビを軽々と追い抜いて……あんな、ところまで」

「くやしい?」

「……悔しくないわけがないですよ。でも、佑芽さんは、すごいから」

「すごいから、それでいいの?」

「……よくは、ないですね。そんなのはダメです。でも……」

 

 花岡さんはしばらく押し黙る。目を閉じて、息を吸って――俺の方をちらりと見て。ふっと、こわばった顔が緩んで、再度篠澤さんの方を見た。

 

「ううん、何でもないです。この見る目のない馬鹿プロデューサーが『トップアイドルの才能がある』って言い続ける限り、ミヤビはミヤビを諦められないですね」

 

 背負わせてしまっている、だろうか。

 いや、大丈夫だ。そのくらい、背負ってくれないと。背負い続けてくれないと。俺が選び、人生を賭けて拾い上げた、トップアイドルの原石なのだから。

 それに、すごく――いい眼をしている。意志の光を宿した、とてもいい眼。

 

 そんな特上の眼を向けられた篠澤さんは、何か面白いことでも言ってやろうという前兆とでも言えるような、不気味極まりない女神のほほ笑みを浮かべた。

 ぞわり。背筋になにか嫌なものが走った。

 

「そうなんだ」

 

 そして、予感は当たる。

 

「……ふふっ。ミヤビはプロデューサーのことがすきなんだね」

「はああああああああああああああああああ!?!?!??!??!?!?!?!」

 

 どがじゃむぐりぐりゅびゅぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼごぎゃあああああああん!!!!!!!!!!

 

「花岡さん。アイドルが器物破損はよくないですよ。アイドルでなくても器物破損はよくありませんが」

「ずいぶん機械的に物事を処理しますねプロデューサー!!!! 自動応答AIですかあなたは!!!!!」

「でも器物破損はよくありませんので」

「それはそうですけれども!!!!!」

 

 花岡さんの器物破損により、辺り一面のレンガで舗装された地面はものの見事にえぐり散らかされ、近くにあった街灯はぐにゃりとへし折られて原形をまったく留めなくなっていた。

 

「わ。佑芽といい勝負……」

 

 そして、導火線に火をつけた犯人は口をぽかんとあけて、セレクションで同率一位通過を果たした怪物アイドルの名前を口にした。いや、まあ、なんとなくイメージはできるが。

 

 それにしても。

 はあ……あとで、直しておかなきゃな、これ……。しょせんは花岡さんクラスの破壊規模ではあるから、そんなに大変ではないのだが。

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