H.I.Fセレクション第2回のユニット部門。その翌日。いつもの『事務所』で、花岡さんと今後の予定についてのミーティングをすることにした。
……の、前に。
「花岡さん。花海咲季さんのパフォーマンスの衝撃で、昨日に聞きそびれたことがあるのですが……」
「『Fighting My Way』のことですか?」
「察しがいいですね。いくら花岡さんが実力者であるとはいえ、あの曲はぶっつけで出来るような難度の曲ではない。なぜあの時、花岡さんは
「それは……佑芽さんの影響ですね」
「佑芽さんが?」
「はい。あの子、
「……それだけで?」
「どーしてプロデューサーは勘がこう鋭いんですかね。嫌いですよ、そういうところ」
「もしかして、ファンになったのですか?」
「そ、そこまで入れ込んでませんっ!! べ、別に、個人的に好きな曲だから、ちょっとだけ遊び感覚で練習してたっていいでしょ……」
なるほど、合点がいった。……というか、なんであの先輩は俺すらも知らない情報を知っているんだ。
そもそもあの先輩は、まったくアイドルに対してやる気のなかった紫雲さんをやる気にさせたり、ユニットを組むのに乗り気でなかった2人を説得させたりしている。そして、外部進学組の1年生2人という陣容で、誰にも予想出来なかったであろう、H.I.Fユニット部門のセレクションで
自分のユニットを躍進させるのみならず、担当プロデューサーですら知り得ないような他のアイドルの情報もしっかりと把握済み。
憧れの先輩、ではあるが――ちょっと、ここまで来るともはや恐怖だ。というか、プロのプロデューサーはこんなんばっかりなのか……? あの犬飼静紅だって、今まで誰も見向きもしなかった
それに比べ、俺は。
……いや、まあ、俺にしてはよくやっている、とは思う。そもそも中等部No.4の実力者であった花岡ミヤビをスカウトできた時点で成功と言ってもいいだろう。だが、どうしても……。
「プロデューサー。怖い顔しないでください。怖い顔は、怖いです」
「……ん、ああ。ああ……ごめんなさい」
「ひょっとして疲れてます? 佑芽さんに頼んでSSD持って来させてあげましょうか?」
「それは勘弁願います!!!」
「……使えますね、この手」
「二度と使わないでください」
閑話休題。
「それでは、今後の予定について話しましょう。H.I.Fのセレクションが全て終わり、花岡さんは無事にソロ部門の本選に出場が決定しました」
「……でも、このままだとミヤビは確実に負ける。少なくとも、あの2人――月村手毬と、藤田ことねに」
「その通りです。ただ、セレクションと本選の間にはしばらくの時間的猶予がある。そして――実に、我々の都合よく、この猶予期間の間にすっぽりと収まるように……とあるオーディション大会が開かれます」
花岡さんの表情にやる気スイッチが入った。
「あ、それって……『
「正解です。『NEXT IDOL AUDITION』――縮めて、『N.I.A』。花岡さんなら、さすがに知っていましたね」
「ええ、もちろん。ミヤビは昨年も参加してましたからね」
「そのようですね。とはいえ、花岡さんといえども学外の高等部のアイドル相手では厳しかったみたいですが」
「それは、まあ……あの時は尚更、超格上ばっかりでしたし、はっきり言って無謀な挑戦でした。でも、今のミヤビは昔のミヤビとは違いますよ。なんてったって、物好きな変人がミヤビについてますから」
「……言葉の額面通り受け取るなら、それってデバフなのでは?」
「じゃあ契約解除ですね。今までありがとうございました」
「はい。俺は佑芽さんをスカウトしてきますね」
花岡ミヤビをプロデュース 〜完〜
「……………………プロデューサー」
「何でしょう」
「なんで話を軌道修正しようとしないんですか」
「至高のエンタメはあらゆる局面で大事になってきますからね」
「意味がわかりません」
「国民的アイドルが常に一緒に来てくれればいいのですが、世の中というものはなかなかそう上手くはいきませんし」
「たまにプロデューサーって頭おかしくなりますよね」
「……」
「……」
「……」
「……やっぱ疲れてますよね? SSD、あの子なら大喜びで持ってきてくれますよ?」
「いや大丈夫です疲れてません何なら元気が有り余りすぎてプロデュース業務がものすごく捗りそうです」
「ふーん……」
怪訝な目でこちらをじとーっと睨んでくる。どうやらあの時のことをまだ根に持っているらしい。
「とにかく。これから花岡さんには、アイドル力のレベルアップも兼ねてN.I.Aの制覇を目指して貰います」
「はい。……それで、戦略は? N.I.Aはファンの投票数が大事なオーディション大会なんですよね?」
N.I.Aのシステムは独特だ。アイドルの実力のみならず、ファンの投票数……即ちアイドルの人気がランキングに響いてくる。開催されるオーディションを勝ち、露出を増やすのももちろん大事だが、大きなオーディションはそもそも投票数が足りないと出場すら出来ない。
そのため、まずはオーディションに出場するに必要なファン投票数を集めることから始めなければならない。
一応花岡さんは、中等部時代No.4の実力者であったため、まったくの無名ではない。が……正直、中等部No.4という称号は極めて微妙であるし、昨年の初星学園中等部といえば――あの『Syngup!』だ。
そのため、現状の花岡さんのファン層は、両親の会社の社員やその家族の方のほかには、初星学園を気にかけてくれているOGの一部だったり、すごくニッチな中等部アイドルファンだったり……と、知る人ぞ知るアイドル、といった立場だ。
とはいえ、そういう立ち位置のアイドルのファンの熱量というものは大抵凄まじい。花岡さんにも、社員で結成された応援団という、俺よりも古参で超コアなファン達がついている。よほどの失態を演じなければ、簡単に他のアイドルに流出することはないだろう。
そこで、俺が取る戦略は。
「とても単純明快な作戦で行きます。たくさん、イベントやテレビに出ましょう」
「……それだけですか?」
「それだけです」
「…………ええ???」