治癒魔法が制限された世界で   作:公私混同侍

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三人の冒険者

 

三人の男女が旅立ちの時を迎えていた。

騎士でありながら魔法を扱える魔装騎士コール・バークレイズ。素早い動きとしなやかな剣さばきに定評のある騎士マーシャ・ベンヒュッテル。そして元奴隷にしてコールの幼馴染の魔法使いソフィア・ラビュー。

古の都アイザールを背に隣村のツーバイを目指す。アイザールは古の都と呼ばれるにふさわしい風格を備えていた。石造りの城壁がそびえ立ち、山々の連なりに囲まれたその姿は、荘厳さを持ち合わせている。

軍事国家としての威厳を誇るかのように、城砦の頂きには獅子をあしらった緑と赤の旗がたなびく。

 

町の石畳の道は古くからの歴史を物語るように、戦の痕跡が刻まれていた。街道沿いに並ぶ建物は、重厚でありながらもどこか侘しさを漂わせる。

山が多く連なっていることで天気が変わりやすいのも、アイザールの特色強く押し出している。

 

町から一歩外に出れば危険が身近に迫る。魔法生物が闊歩しているからだ。魔法生物は人間が利便性の追求から産み出したものであり、三百年前に魔法生物の研究が禁止され外界に解き放たれた。

魔法生物自体に人間を襲う機能は備わっていなかった。しかし、魔法生物が外の環境に適応したことによって進化を遂げ、人間の生存領域を脅かすようになった。共存共栄を掲げる国々は魔法生物との棲み分けの道を模索し続けている。

 

古都アイザール出身の三人は魔法生物の危険性や特性を理解している。

今のところコール、マーシャ、ソフィアは魔法生物に警戒している様子はない。なぜなら三人の関係はギクシャクしていたからだ。

 

「私はコールと二人で旅をするつもりだったんだがな。ソフィアがコールの幼馴染だと聞かされてなければ、一緒に旅をすることなどなかったんだぞ」

 

「うぅ……」

 

「マーシャ、ソフィアを誘ったのは俺だ。魔法が使える仲間がいてくれた方が心強いと思って声をかけたんだ」

 

「魔法ならお前も使えるだろ。魔装騎士一人いれば魔法使いは尚更必要ない。そんなにサポートが必要なほどお前はひ弱だったのか?」

 

「俺の魔法は火を起こしたり、水を纏わせるぐらいの下級魔法に過ぎない。それに騎士だけの力じゃどうにもならない魔法生物もうじゃうじゃいるんだ。本職の魔法使いがいてくれた方が戦いやすくなる」

 

マーシャは舌打ちをした。

 

「ソフィアは私とコールの関係を知っていて、ついてくるというんだな?」

 

「も、もちろんです!二人の仲を邪魔するような真似はしませんから!」

 

コールは気まずそうにソフィアに頭を下げた。

草原に囲まれた街道には小動物のような魔法生物を見ることができる。魔法生物の多くは人の手によって産み出されたものが多く、人間を襲わないように遺伝子を操作されている。しかし、中には野生化し縄張りに入ってきた人間を襲うことも珍しくなくなった。逆に意識的に人間界に降りてきてペットとして飼育されたり、治安維持のために使役されたり、国防の一端を担うような魔物も少なからず存在する。

コールの目の前に兎の姿に似た魔物が擦り寄ってきた。

ソフィアが目をキラキラさせている。

 

「わぁ、この魔物ってビッティっていうペットとして人気の魔法生物ですよ。体がピンク色で手が羽になっていてピョンピョン跳ねる姿が愛らしいんです。耳は頭部に一つしかないのは敵が近づいたときにレーダーとして機能しているからなんですよ」

 

「コール、食べる身の少ないビッティよりあのコックルを生きたまま捌いて食料にしないか?保存食ばかりでは筋力が落ちてしまうからな」

 

マーシャの提案にソフィアが青ざめる。

 

「コックルって鶏の筋肉を魔法で強化した生物ですよね?足の爪は肉を抉るぐらいの威力があるって本に書いてありました。それに羽は鋼のように硬く、羽ばたくだけで鉄板を真っ二つにするんです。それを食べるっていうんですか?」

 

「まだアイザールを出発したばかりだぞ?食料の心配はいらないと思うが、マーシャがとうしてもっていうなら俺は手伝う」

 

コールはコックルの背後を取り剣を抜く。

 

「フン、食料にしないのなら頭から爪まで売り捌いてやる」

 

コールとマーシャはコックルを挟みうちにする。ソフィアは乗り気ではないようだ。

コックルは筋肉が多いため逃げ足が遅い。羽をバタバタさせ逃げ惑う。

 

「そこだッ!」

 

マーシャは掛け声と共に羽の間に剣先を滑り込ませた。すかさずコールが羽を切り落とす。

羽をもがれたコックルは諦めたのか抵抗しなくなった。

ソフィアは今にも泣きそうな表情で羽根を拾い上げる。

 

「マーシャ、羽根だけで良くないか?コックルの羽根って騎士が使う剣の材料になるから高く売れるんだよな?」

 

ソフィアがコールの意見に激しく頷く。

 

「そうですよ!それに羽だけなら魔法生物であれば再生します。無闇に殺す必要はないと思います!」

 

「これだから魔法使いは……」

 

「おい、マーシャ。それ以上は――」

 

「いいんです、コール様。ワタシのことは気にしないでください。今は先に進みましょう」

 

三人はツーバイ村を目指す。村までの道のりは平坦だ。危険性が高い魔法生物は出現しない地域とあって農民や商人、コールたちのような冒険者にも出会うことがあった。しかし、すれ違う人々は三人を奇異な目で見ている。それはマーシャが速歩きで二人と距離を置くように歩いていたからだ。マーシャの鎧が音を立てる度にコールとソフィアの間に不穏な空気が漂う。

コールがマーシャをなだめているうちにツーバイに到着した。

 

ツーバイはアイザールの重々しい雰囲気とは対照的に、広々とした田園風景がどこまでも続く。緑の絨毯のように畑が拡がり、穂が揺らめく様子はまるで地上に墜ちた星々が煌めいているようだ。農夫たちは額に汗を光らせながらも、満足そうな表情で作物を収穫していた。

 

ツーバイの空は澄み渡り、青さがどこまでも続いている。空には白い雲がぽっかりと浮かび、風が穏やかに吹き抜けていく。木々の葉がこすれ合う音と、どこかで聞こえる小川のせせらぎが、のどかな調べを奏でていた。

 

アイザールを覆う重々しい空間とは異なり、時間がゆっくりと流れているかのようだった。

コールが泊まる宿屋を探そうと近くにいた村人に声をかけようとした。するとソフィアが呼び止める。

 

「コール様、悲鳴のような声を聞きませんでしたか?」

 

「えっ?悲鳴だって?」

 

マーシャの顔つきが険しくなる。

 

「ああ、子供のような悲鳴だったな。魔法生物にでも襲われているかもしれん」

 

「ソフィア、声のところまで案内してくれ」

 

コールとマーシャはソフィアの後ろついていく。民家の前で魔法生物に襲われている少年がいた。足に無数の傷を負っている。

 

「コイツはツーバイリードじゃないか?首に鈴をつけてるってことは人間に飼われてるのか」

 

コールは足を止め生き物を観察している。

ツーバイリードは二足歩行をしたツーバイにしか生息しない魔法生物。犬のような外見をしており上下関係を重視する生き物だ。

 

「ソフィア、俺が鈴付きの間に入るからあの少年を頼む」

 

「は、はい!」

 

「ならば私があの鈴付きを飼い主の元へ亡骸として送り届けてやる」

 

コールは大声を張り上げ鈴付きを牽制する。鈴付きは声に驚き後退した。ソフィアは少年に駆け寄り足の状態を確認する。マーシャは無駄のない動きで足の止まった鈴付きの首に肘打ちをかました。

 

「キャウン!?」

 

犬のような奇声を上げた鈴付きは涎をソフィアに飛ばした。唾液はソフィアの左足に降りかかり白い煙が上がる。

 

「痛い……」

 

鈴付きは一目散にどこかへ走り去っていってしまった。コールは足を押さえるソフィアを心配そうに見つめるが、マーシャは鈴付きを追撃する構えだけ見せている。

 

「お姉さん、足大丈夫?」

 

「ワタシは大丈夫。キミこそ擦り傷だらけじゃない。他に痛いところはない?」

 

「うん!擦り傷ならすぐ治るから大丈夫だよ!でもお姉さんの傷って……」

 

ソフィアの左足は火傷で腫れ上がっていた。

 

「マーシャ、ソフィアを病院へ連れて行ってあげてくれないか?」

 

少年が不思議そうにソフィアを見ている。

 

「えっ?病院?その首にかけてる三角の形をした証って魔法使いの証なんでしょ?」

 

ソフィアは少年の問いに困ったような表情を浮かべて頷く。

 

「う、うん。よくわかったね」

 

「それなら――」

 

マーシャがソフィアに背中に乗るように促す。

 

「早くしろ。モタモタすると傷が残るぞ」

 

「は、はい!……ごめんなさい、マーシャ。足を引っ張ってしまって」

 

「謝罪など聞きたくもない。コールの提案だからお前を病院へ連れて行くだけだ。足が痛くて歩けないというのならお前をこの村に置いていく」

 

マーシャはソフィアを背中に乗せたまま軽快に走っていった。

 

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」

 

「礼ならあの二人にしてやってくれ。俺はほとんど何もしてない。それより家まで送り届けるぞ。まだ鈴付きがいるかもしれないからな。足はまだ痛むか?」

 

「ううん!一人で歩けるから大丈夫」

 

コールは少年を家まで送り届けた。少年がコールにお礼をしたいというので部屋の中にあがる。

少年は部屋の奥から何かを持ってきた。それは空色の小石だ。コールは目を丸くした。

 

「こ、これって……ヒールライト?」

 

「やっぱり知ってるんだね、お兄ちゃん」

 

「知ってるも何も治癒魔法が使える人間はヒールライトを所持した魔法使いと魔装騎士だけだ。この家に魔法が使えるヤツでも住んでるのか?」

 

「ぼくのおじいちゃんが魔法使いだったんだ。一ヶ月前にヒールライトを新しいのに変えたんだけど、おじいちゃん病気で死んじゃって……だからお兄ちゃんに持っていってほしいんだ」

 

「ヒールライトは傷を塞いだり傷跡を消すことはできても、病気は治せないからな。でもヒールライトの所有者が死んじまったら国に返さなきゃいけないんじゃなかったか?」

 

「それなら大丈夫だよ。おじいちゃんが死んだ時のために、ぼくが信用できる人になら譲り渡してもいいって紙に書いてたから」

 

「遺言書ってヤツか。お前のおじいちゃん、ちゃっかりしてるな」

 

「それにお兄ちゃんたち、魔法使いがいるのにヒールライトを誰も持ってないみたいだからちょっと可哀想に思えちゃって」

 

「ソフィアのことを気にかけてくれたんだな。それなら有り難く頂いていくとしよう。ついでに遺言書も預かるぞ」

 

少年は満面の笑みでコールにヒールライトを手渡した。コールはウエストポーチにヒールライトと遺言書をしまう。

少年に別れを告げると急いで病院に向かった。

 

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