転生したらヒルチャールだった件   作:良いスライム

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アカツキの死闘

 スライムたちの目の前に立ちふさがると、スライムたちはその動きを止めた。大きい奴が2匹。小さいのが2、3匹か。

 先ほどの攻撃は奴らにとっても予想外の出来事だったらしい。言葉こそ発しないが、警戒しているかのように、こちらの出方をじっとうかがっている。

 

「助けに来てくれたんだね!君なら必ず来るって僕は信じてたよ!」

 

 ドゥリンは嬉しそうに声を上げると俺の顔の周りを飛び回る。

 俺は顔の横にいたドゥリンをむんずと掴むとデコピンを加えた。「痛ぁい!」とドゥリンは自身の頭を押さえる。

 

「勘違いするな。別に助けに来たわけじゃねぇ…おい爺さん、取引だ。テメェをここから逃がしてやる。代わりに俺に協力しろ。見ての通り素寒貧でな」

「ま、魔物が喋った…!?」

 

 ドゥリンとは違って、俺は別にボランティアをしにわざわざ出てきたわけではない。

 あのまま逃げても良かったが、冷静に考えてみれば、逃げたところで待っているのは当てのないサバイバル生活だ。寒さにかじかむことはないだろうが、人の目がある分危険性は増す。ならば、協力者を作り情報や物資を調達した方が効率的とも考えられる。

 ヒルチャールが言葉を話したことが余程驚いたのか、爺さんは尻もちをついたまま顔を引きつらせている。その様子を見かねたドゥリンが声を上げた。

 

「そんな!ヒドイよ、アギト!」

「お前は黙ってろ!爺さん、3秒やるよ。さっさと決めな」

 

 腰の辺りに岩の籠を作って中にドゥリンを放り込むと、俺は再び眼前のスライムたちに目を向ける。どうも奴らもそろそろしびれが切れてきたようだ。じりじりとこちらに向かって距離を詰めて来る。

 爺さんは狼狽えた様子で俺にあれこれと質問し始めた。

 

「ま、待ってくれ!お前たちはいったい何者なんじゃ!?」

 

 3。スライムたちは自らの頭に棘の付いた氷の兜を作り出すと、こちらに向けて殺気を放ち始めた。ドゥリンが「助けてあげよう」だの「人でなし」だのごちゃごちゃ言っているので、籠を揺らして黙らせる。

 

「わしはしがない農夫なんじゃ!差し出せるものなど…ましてやオーナーが!」

 

 2。スライムたちが攻撃前に行う、溜めの姿勢に入った。

 小さいのはともかく、大きい奴らをまとめて炎で吹き飛ばすのは無理そうだな。これ以上時間をかけると追手も来ちまいそうだ。横に躱して炎で牽制しつつ逃走。このルートで行こう。

 

「息子は西風騎士団だ!きっと助けに来て…」

 

 1。スライムたちが一斉に飛び跳ねる!俺たちの姿を黒い影がいくつも覆った。

 

「分かった!お前の言う事を聞く!だから…ッ!」

 

 0。既に飛び上がったスライムたちは一斉に自由落下を始め、獲物を押しつぶした。

 

 はずだった。

 

「…フン、閉店ギリギリだが大目に見てやるよ」

 

 それは、剣と言うにはあまりにも大きかった。一枚の岩壁をそのまま剥がしたかのように分厚く、刃は潰れ、持ち手は岩をくり抜いた凹みのみ。

 しかし、その異常なほど分厚い剣は、確かに全てのスライムたちの攻撃を受け止めていた。

 

「オラァッ!!」

 

 袈裟に構えた大剣を乱雑に振るう。刀身からは炎が噴き出し、スライムたちはその熱気と圧倒的な暴力によって抵抗する間もなく、その身を四散させた。

 

 岩を生み出す力を使って即興で作ってみたが、中々悪くない。

 俺は剣を地面に突き刺すと爺さんの方を向いた。

 

「チッ、ノビてやがる」

 

 見ると爺さんは白目をむいたまま気絶していた。担ぐのは面倒だが、ひとまず身を潜めるとしよう。さてどこにしたものか…

 

 死

 

 爺さんを担ごうとしたその時、俺は瞬間的に後ろに飛びのいた。

 一瞬前まで自分がいた場所には、黒い大剣が叩きつけられており、大剣の主であろう男は即座に剣を構え直して、土煙を切り裂きながらこちらに肉薄する。

 速い。このスピードでは剣を構え直すのが間に合わない。俺は剣を逆手に持ち変えると、男が剣を振りかぶるのに合わせて剣をカチあげた。

 

「ぜあっ!」

「オラァッ!」

 

 ガギン!と大きな音を立てて、俺の剣と男の剣がぶつかり合う。鍔迫り合いの状態で、ようやく男の容姿が判った。

 質が良さそうな黒いコートを身に纏った男は、燃えるような赤い髪と瞳をしていた。歳の頃は20代くらいだろうか。端正な顔立ちをしているが、今は険しい表情で俺をにらんでいる。

 

「貴様、トゥナーに何をした」

「トゥナー?誰だソイツは」

「…ッ!」

 

 男の目が驚愕に見開かれる。

 

「言語を解す魔物…。貴様、アビス教団だな?とうとうここまで来たか。僕の目の前でこのアカツキワイナリーを汚せると思うなよ」

「アビス教団?テメェさっきから何言ってやがる」

「問答無用!」

 

 男は剣を振り払うと、後ろに下がり大剣を振りかぶって構え、力を集中させる。真っ黒な大剣は見る間にその身を赤く染め、炎を噴き出し始めた。

 こいつも炎を操る力をもっているのか。少し離れたここからでも伝わる凄まじい熱気。あれをまともに受けたらマズイぞ。

 

「判決を、下す!」

 

 大剣が振り払われるのと同時に、紅蓮の鳥が解き放たれる。烈焔の力が込められたそれは、大翼をはためかせ、怨敵を焼き尽くさんと猛突する。

 避けることはもはや不可能、ならば!

 

「オォォッッ!!」

「何ッ!?」

 

 巌のごとき大剣と、炎の鳥の嘴が拮抗する。いや、突進の勢いは殺し切れていない。土を削りながら俺の身体は押されていた。あわよくば両断してやろうかとも思ったが、そう上手くはいかないらしい。

 競り合っている間にも、灼熱の炎によって俺の身体はジリジリと焦げ始めている。もはや一刻の猶予はない。

 

「ぐ……この…ッ!」

 

 満身の力を込めて、力任せに剣を上に押し上げる。

 重い。まるで本物の火の鳥でも相手取っているかのごとき重量に、身体が思わずのけ反る。だが、まだだ、まだ終われない。

 

「うおぉぉぉッ!!」

 

 大剣の峰から炎が噴出する。俺は勢いのまま剣を上に跳ね上げ、飛び上がった。

 

「ブッ飛べ――!」

 

 紅蓮の鳥は甲高い鳴き声を上げながら、真昼の雲を突き破り、遥か彼方の空へと消えていった。

 

 そして俺は空中で身体を反転させ、炎を巻き上げながら男に向かって突っ込む。

 

「潰れろッッ!」

「グハ…ッ!」

 

 猛然としたスピードで襲い掛かる流星に男はなすすべもなく吹き飛ばされた。

 俺は地面にできたクレーターにて立ち上がると、膝を付く男に対して剣を向ける。

 

「やっぱり鳥ってやつは空を飛びたいらしい。人間(テメェ)はどうだよ」

「貴様…ッ!」

 

 男は立ち上がると、殺気を隠そうとしないまま剣を構えてこちらを睨みつけている。かなりのダメージを負っているはずだが気丈なものだ。

 俺の身体から黒い煙がブスブスと上がり、痛みと熱が全身を焼き焦がす。どうやら俺自身も先ほどの攻撃で、直撃は免れたがかなりのダメージを負ってしまったようだ。

 だが、もはやそんなことはお互い関係ない。人と魔物、剣を向けた敵同士。どちらかが倒れるまでこの戦いは終わらない。

 

「ハッ、お互いヤル気は十分なようだな。いいぜ!せいぜい倒れるまで踊ろうか!」

「戯言を!」

 

 炎の噴出を最大にして前に飛び出す。男も同様に赤い炎を黒剣に纏わせて突進する。互いに狙うのは頭蓋だ。勝負は一撃で決まる。

 互いの刃が交差しかけたその時だった。

 

「オーナー!お待ちください!」

 

 黒剣の動きが、止まる。しめた、このままブチ込む!

 

 

 

 

「…テメェ、どういうつもりだ」

(もう止めてよ!正気に戻って、アギト!)

 

 体がピクリとも動かない。どうやら先ほどの戦いで籠が壊れていたようだ。頭の中でドゥリンの声がやかましく騒ぎ立てる。

 男と俺は首筋で剣を静止させたまま、互いににらみ合う。膠着状態のまま、男が俺に問いかけた。

 

「一つ聞こう。貴様の目的はなんだ?」

 

 男の目からはもはや闘志の炎は消えていた。俺は少し思案すると、ため息を一つついて答えた。

 

「…茶でも淹れてくれ。このまま話すと長いんでな」

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