はい、今回は砂漠の虎にいた3人組たちの話です。
「……ごめん、俺にはまだできそうにないや」
「そうだよね。……ごめんね、アキトにぃのレベルも考えずに」
──違う。俺の頑張りが足りてないだけなんだ
「自分にとっては好きなことだけど、アキトにぃにはそうじゃないことだって……あたし、わかってなかった」
──違う…謝るのは俺だ。荒んだ俺を元気づけようとしてくれたことはわかっているのに、それを伝えることもしなかった。
「……アキトにぃには、私の戦い方は向いていなかったよね」
──怪我をしても尚、振りかざし続け壊れた機体。ガンプラからするはずのない、爆散した敵機から香る硝煙の臭い。
──爆破した機体から立ち込める黒煙で見えなくなった空。
「ごめん、ミユ」
──嫌でも忘れられる筈のないあの日の後悔が、使えず仕舞いのスナイパーライフルと操縦桿を握る度、フラッシュバックする。
──あぁ、またあの嫌な日の夢か。
けどもう過ぎてしまったことだ。そう自分に言い聞かせながら、コドウ・アキトは再び目を閉じた。
『アキトにい、起きて!……アキトにいっ!』
「ん……」
布団に潜っている自分の体が誰かに揺さぶられていることに気がついた。
アキトは嫌々、まだ覚醒しきっていない頭で自分を揺さぶっている人物を確認する。
「あ、起きた!おはよ!アキトにぃ」
「……ミユ?」
「はい!ヒイラギ・ミユ、お寝坊さんなアキトにぃを起こしに、ただ今着任しました!」
びしっ、とアキトの前で敬礼する少女の名はヒイラギ・ミユ。亜麻色のボブカットとトレードマークであるキャスケット帽はいつも通り健在だ。
ミユはアキトの家のお隣さんにして幼なじみである。幼なじみに朝起こしてもらう。物語の中だと割とよくある展開だが、ここはリアルだ。寝起きのアキトでさえも彼女が今、自分の部屋にいるこの状況はおかしいと思うことができた。
「…あのさ、二、三ヶ所ツッコんでいい?…まずなんで俺の家にいるの?」
「え…?アキトにぃを起こしにきたって言ったらお母さんがいれてくれたよ?」
「どうやって俺の部屋の鍵開けたの?」
「合鍵で開けたの」
悪い事など何もない、と言わんばかりに平然と告げる彼女を見てアキトは頭を抱える。
次にしようと思っていた質問は保留とし、先ほどのミユの一言に聞き捨てならない単語が含まれていたためそれについて言及する。
「その合鍵、どこで手に入れたの?」
「……」
「ねぇ」
ミユはばつが悪そうに目を剃らす。意地でも言わないつもりのようだ。しかしプライバシーが侵害されているためか、逃がさないと言わんばかりに問い詰めてくるアキトに負け、ついに折れた。
「……アキトにぃのお義母さんが作ってくれました…」
「今なんかイントネーションおかしかったよね?あと今さらだけどおはよう」
「おはよ!…っていう時間じゃないかもだけど…」
「え?待って、今何時?」
「ん」
アキトに問われたミユは目覚まし時計を両手で抱えてアキトに見せる。時計の針は昼の2時を過ぎていた。
「……今日はもう何もできないな。俺は諦めてもう一眠りするから」
「こらー!また布団に潜らないでよ!今日はアキトにぃに頼みがあって来たんだから!」
「どうせまた面倒なことだからイヤ」
「なんでぇ~!用件くらい聞いてよ!」
「…おやすみ」
「ぐぬぬ…!こうなったら」
ミユがアキトの布団を無理やり剥がそうとしたそのとき。ぐぅ~、とアキトのお腹が鳴った。
その間なにも食べていなかった上でのミユとのやりとりによるカロリー消費。それによってアキトの空腹は限界を迎えていた。
「…お腹すいた」
「わたしが起こしても起きなかったのに…」
アキトは騒ぐミユをよそに、もそりと起き上がり朝食をとりに一階へと降りていった。
「よォ、邪魔してるぜェ」
「うわ、出た」
一階ではミユが連れてきたであろう、もう一人の幼なじみである黒髪に白メッシュを入れた少年、トガ・カナタが我が物顔で
「ンな顔するなよなァ。俺も巻き込まれた側だっての」
「…今度はどんな面倒事持ってきたの?」
長年の付き合いからわかるが、ミユが自分とカナタを巻き込んで何かをするときは面倒事になるのが大半だ。
「いやァ、今回はお前にとっても必要な案件になると思うけどな。まぁ、とりあえずよ──」
カナタは縁側からアキトの座るちゃぶ台に移動し、卓上に紙袋を置く。アキトは寝ぼけ眼を擦りながらもその袋の口を覗いた。
「おやつに持ってきたモンだけどよォ、朝飯代わりに食えや」
「たい焼き…ってか量多くない?」
「ミユのヤツが味のバリエーション全部頼みやがったんだよ。抹茶やクリームはまだしも、合わなそうなフレーバーもあったから注意しな」
「……朝飯がロシアンルーレットなたい焼きにされる俺の気持ち、考えた?」
しかしながらアキトは、自分の目の前にいるカナタが長年の付き合いから結果はともあれ楽しめればいいという享楽的な考えを持つ人間であることを知っている。
ミユはどの味も食べたいという考えで買ったことは想像に固くないが、目の前にいるこの狂人はただ面白そうだからという理由でまずそうなフレーバーのものまで買ったのだろう。
「だからお前はアホなんだ」
ガンダム作品のことはあまり知らないアキトだが、呆れながら某東方不敗のようなことを呟いた。
「アキトにい!この大会に一緒に出て!」
「やだ」
「早くない!?…ちゃんと見てよぉ!」
ユキはそう言って、アキトに一枚の紙を押し付けた。
アキトは食後のお茶を飲みながら、渋々その紙を受けとる。見るとなにかの宣伝用のチラシのようだ。色々と詳細が書いてあったが、読むのが面倒くさいアキトは視線をミユに移す。
「なにこれ」
「モリタ模型でやるGPDの大会!この大会の優勝商品がどうしてもほしいの!」
「優勝商品?なにが貰えるの?金?」
「生々しぃなぁ……。お金じゃなくて、家庭版
GBN。聞きなれない言葉にアキトは首を傾げる。
「あぁ、そっか。アキトにぃはGPDは好きだけどガンダム関連の情報はあんまり知らないもんね。GBNっていうのはGPDみたいにガンプラバトルがVR空間で楽しめるゲームなの。それも、ガンプラが壊れないバトルができるんだよ!」
GBN。GPDの正当後継ゲームとも呼べるものである。ミユの言ったとおり最大の違いはVR空間によるバトルを行うためガンプラが壊れないことであり、そここそが家庭番の筐体の入手難易度を高めている要因だ。
「ガンプラが壊れないGBNは高い修復技術もいらないから、GBNを機会に本格参入したい初心者も多いの。だから全然手に入らなくて…」
「別にあとでも買えるんじゃない?何も今すぐ手に入れなくても…」
「甘い!甘いよアキトにい!今食べたたい焼きくらい甘いよ!今やガンプラは男女問わず世界中で流行してるんだよ!?VRゲームの人気も相まって予約も一瞬で完売、今や通販やどこの店を探しても買えない状況なの!」
「へー」
「うわぁ…すっごいどうでもよさそうな顔…。でもお願い!三人チームが原則だからもうアキトにぃしか頼れる人がいないの!」
ううむ、と唸りながらミユに渡れたチラシを見るアキト。そこに書いてあった項目に目が留まり、ミユに見せた。
「俺、今専用のガンプラ作ってもらってる最中だから戦力になれるかどうか…モリタ模型店って大人の凄腕のプレイヤーも多いって聞くし」
「そんなぁ…もうアキトにいしか頼れる人いないのに…」
机に突っ伏して泣き言を上げるミユ。そんな彼女を見たアキトははぁ、とため息をついた後、付近に倒れているもう一人の人物に寄った。
「カナタ、いつまでくたばってるの」
憐れにも全てのハズレ味たい焼きを引いた男、カナタをつつくアキトそれに反応したようにカナタはバッと顔を上げ、起き上がる。
「…刻が…いや、三途の川が見えたぜェ…」
「毒でも盛られたの?よく味わえた?」
「ギニアス・サハリンってか?やかましいわ」
それよりも、とアキトは続ける。
「ねぇカナタ、アレって完成したの?」
アキトの口から出た話題に、カナタは先程とは違い真剣な顔持ちになる。
「…まだだな。格闘主体で作ってたってのにテメェが遠距離でも戦えるようにしたい、なんて言ったせいでなァ」
悪態をつきながら答えるカナタ。アキトはばつが悪そうな顔になるが、カナタは続ける。
「……だが、全部できてないわけじゃねェ。要望された武器は完成してる。素組の機体に持たせれば要望通りの戦いができる」
「素組の機体か。耐えられるかな、俺の操縦に」
「テメェの操縦は滅茶苦茶だからなァ。今までのスタイルで戦えば操縦についてこれずに関節が壊れるだろうぜ」
カナタの目から見てもガンプラバトルにおいてアキトは強い。だが、彼の得意とする格闘主体な操縦には柔軟かつ堅牢な関節をもつガンプラが必須なのだ。
「あのときマスターに練習相手を頼んだのはやりすぎだったか…」
「だから言っただろうがァ!今さら後悔した顔してもおせェんだよ!本気じゃないバクゥであそこまで魘されたんだ。ラゴゥだったらミンチより酷ェことになってただろうなァ」
二人のいきつけの場であるカフェ『
ひとまずの完成を迎えたアキト専用機をそこでテストを行った。その際アキトはカフェのマスターであるアンドウ・ハルトに勝負を挑んだのだがいとも簡単に負かされたあげく、機体を大破させてしまったのだ。
「ともかく、機体はどうやっても間に合わねェ。だが、素組の機体でも戦い方をかんがえればなんとかなるだろ。それに──」
カナタは机に伏しているミユに目線を向ける。
「電脳戦メインの俺はともかく、あのわんぱくはあれでも凄腕のスナイパー。戦力としては十分だろ」
カナタの目線を追うように、アキトもミユを見た。GPDにおけるスナイパーとしての彼女。それはアキトにとって自分をこの世界に引き込んだ原点であり、自分自身の目標でもあった。
──駄目になった自分に、こんなに楽しいことを教えてくれた。
──その恩返しが少しできそうなら。
──何より、あの時できなかったことを今度は見せられたなら。
「……もうあの
「あァ?」
独り言のように呟いたアキトを余所目に、困ったようにカナタは頭を掻く。
「テメェは時々何考えてるのかわからねェし、俺はニュータイプにはなれねェ。だからよ、どうするのか自分の言葉でハッキリ言えや」
「…あぁ、出るよ。その大会。カナタ、最低限でいいからその新武器を使える機体を用意して」
「無茶言いやがるぜ、お前の操縦に耐えられる機体ってのは最低限ですら力作にしなきゃならねェんだよ」
「でも、無理じゃないんだろ?無茶なら、いつものことじゃん」
チッ、と舌打ちをしながらカナタは口角をつりあげる。
「アキトにぃ…やってくれるの?」
「うん。
任せて。アキトがハッキリとそう自信を持って答えることはあまりない。
長年の付き合いからそれを知るミユには尚更それが心強く思えた。
「すぐにその新武器、使い慣れなきゃね。とりあえず、マスターのところで組み手バトルお願いしてくるか」
「またぶっ壊す気かテメェは!使いならすのにアンドウ隊の猛者共相手にしてたらいくつ作っても足りねェんだよ!」
ミユはアキトの語る無茶苦茶に呆れながらもそんなことを溢した。その後に、でもと付け加える。
「やっぱりアキトにいに頼ってよかった。
大会、がんばろうね!わたしたちの楽しいGBNライフのために!」
ミユは満面の笑みでそう言いながらアキトの手を包み込むようにして握る。右手を包む彼女の手の感触を感じながら、アキトはこの前砂漠の虎で見た1人の男子を思い出した。
あの青と白の機体……確かこの2人はウィンダムとか言っていたような気がする。あれを操縦する彼も、もしかしたら来るかもしれない。
「……ん?どうしたのアキトにぃ。ちょっと笑ってる」
「……ちょっとね。気になる人ができたから」
「………え?」
ウィンダム使いの彼との対戦を少し楽しみにしていたところが顔に出たのだろう。ミユの問いにそのまま答えると手を握ってる彼女の手がピシリと固まった。
どうしたのかと2人を見ると、ミユもカナタも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして呆然とアキトを見ている。
「……2人とも、どうしたの?」
「いっ、いい、いいいま、気になる人って……言った?」
「……お、お、お前っ、…マジか…」
「え、なにが?」
2人はそのままカタカタと震え始める。ミユに至っては目の縁に涙まで溜まっている始末だ。わけがわからないアキトの瞬きが加速化する。
「……だ、誰?その人は誰なのアキトにぃっ!?」
「え、……っと、話したことはないんだけどこの前「は、話したことないのに気になってるのっ!?」……ちょ、だから話を聞いてって」
「お、おまっ、コイツはどうすんだよォッ!?見損なったぞッ!?」
「カナタ?ちょっとそれ以上喋らないでくれる?…いいから、ちょ、ミユを抑えるの手伝ってってば」
「だ、誰なの?……一体誰なのアキトにぃっ!」
「あーもうっ!!」
アキトは取り乱した2人が誤解だと説明するのに、30分の時間を要した。
コドウ・アキト
ガンプラバトルバカ。
GPDの中で自分のとある過去の払拭と、常に闘争を求め続けている少年。
得意とする戦闘スタイルは格闘戦だが、遠距離射撃戦に強いこだわりを見せている。
ガンプラバトルは好きだがガンダムのことは知らないらしく、時折幼なじみたちの発するネタについていけないことが悩みのタネらしい。
ガンプラ製作能力は素組すら難しいレベル。
トガ・カナタ
ガンプラバカ。運悪すぎ。アナハイムの擬人化。
豪胆な振るまいと荒々しい話し方とは正反対に、作るガンプラは繊細で緻密。
幼なじみのアキトとミユに振り回されることに不満は漏らしつつも、ガンプラに関わることであれば大抵許す。
また宇宙世紀の某企業のように、アキトに依頼され彼の正反対の戦闘スタイルを実現できるガンプラを開発中とのこと。
ヒイラギ・ミユ
アキト、カナタより一歳下の中学三年生の少女。
大抵こいつのせい。可愛いからいいや。
GPDは浅く広くでPVPはアキト程はしないが、ミッションモードやNPC相手の射撃の腕は非常に高い。
カナタ仕込みのガンプラ製作技術もあり、モデラーとしての一面も持つ。
GBNをサービス開始と同時に本格参戦したいらしく、それを求めて今回の大会の話を持ってきた。
戦闘描写、どうですか?
-
文を読んで想像しやすい。
-
ガンプラの動きや戦法がかっこいい
-
ちょっとわかりにくかった……