タグにグラハム・エーカーを入れた1番の要因
「……はぁ」
時刻は放課後。アマツカ・ノゾミは廊下を歩きながらため息をついた。
「どうしたのノゾミ。ため息つくと幸せ逃げちゃうよ?」
「ちょっとね……」
「どうせソラザキ君のことでしょ?」
「ち、違うよぉ!」
隣を歩くコトネに半目で言われ否定するが、実際図星だった。
何故ノゾミが彼…ソラザキ・ミツキのことを気にするのかは、数ヶ月前に遡る。
ここ或美学園は中高一貫校だ。中等部から上がってきたノゾミに対してミツキは外部入学生で高等部に上がってすぐの頃は特に意識していなかった。
何度も言うが、ノゾミは生粋のお人好しである。困った人がいると見逃せず、真摯に手助けをしようとする。その誰にでも分け隔てない態度が生徒の、特に男子生徒から影で「聖母」などと言われるほどに人気なのだが、その中でノゾミは1つの悩みを抱えていた。
ノゾミは困っている人を見逃せない。誰であろうと重そうな荷物を持っていたら手伝い、道に迷っている人が居たら一緒に目的地まで案内する。そんな女の子だ。そんな子とお近づきになりたい男子はどうするか。
簡単に言うとワザとノゾミの目の前で困った演技をしたりする輩が続出した。
それにノゾミは悩んだ。困っているなら助けたい。…が、あからさまに演技をされると流石に嫌悪感があるし、だからといって故意的だと決めつけるのもいかがなものかと断ることも出来ない。
それのせいもあって昔よりも女子生徒のガードが固くなったのだが、その中で彼に出会った。
「……えっと、教科書ないなら俺が貸そうか?」
当時外部入学生のミツキは中高一貫特有の既に出来上がったコミュニティに馴染めずいた。一応ユウトという友達は出来たものの、男友達1人でやって行けるほど学校生活は甘くない。果ては流れでクラス委員長とかいう役職までやらされている始末。まぁそれを決めていた時にGPDのことを考えてて話を聞いていなかった彼にも非はあるのだが、とりあえず名前と顔を覚えてもらうために色々と親切にして回っていた。
ノゾミとはクラス委員と副委員。面識はあったが特に話すようなこともなく過ごしていた中でミツキが行ったことはノゾミの印象に深く残った。
ノゾミに頼もうとする男子の困り事は全てミツキが解決しているところを見て、ノゾミは不躾ながら彼も下心があるのでは?と内心疑ってしまいそうになったのだが、ミツキの行動をずっと見ているうちにそうでは無いと気がついた。
「アマツカさん、プリント持ってきてくれてありがとう。配るのは俺がやっとくから休んでていいよ?」
「え、でも、この後職員室に出席簿を取りに行かないと…」
「いいよいいよ。さっき黒板消してくれたでしょ?俺が持ってくから友達とおしゃべりでもしてなって」
ミツキは他の人が面倒くさがるような仕事や片付けを率先してやっていた。それにノゾミのことまで気を遣ってくれる。
そして、ノゾミ的に1番評価が高いことをミツキは行っていた。
高校生になり、男女共に思春期真っ只中。その中でやはり、女子として気になることがある。男子の視線だ。
仕方ない事だとはわかっているが、ノゾミは男子にじろじろと身体を見られるのが少し嫌だった。話していてもチラチラと視線が下に散る。女の子という生き物は視線にとても敏感なのだ。フレンドリーなコトネなどは「気にするだけ無駄。むしろ見せつけていけ」と男らしいことを言っていたが、やはりちょっとノゾミには嫌だった。
しかし、ミツキだけは違った。話す時必ず目を合わせてくれる。どんな時に話しかけてもノゾミの顔を見て話す。
そうして過ごしているうちに、自然とミツキを目で追うようになった。そこで発覚した結構なガンプラ狂いな一面も露見して彼女の世話好き魂に火がつくのはそれからまもなくのことだったが。
「もう、なんで2人とも委…そ、ソラザキくんにだけそんな乗り気なのよ…」
「そりゃもう、お似合いだからだよ」
「うんうん、最近私、2人が話してるとこ見るだけで体力回復する能力に目覚めた」
「どんな特殊能力!?」
恋愛好きのもう1人の友人、ミキが手を組んで「尊い…」と天に昇りそうになっているのを尻目に、ノゾミは熱くなった顔を誤魔化すようにして捲し立てた。
「別に、今日眠そうにしてたから気になっただけだよ」
「ふーん?よく見てるんだね?」
「だから違うってば。授業中ウトウトしてたら先生に目をつけられるでしょ?わたしはソラザキくんの成績を心配してるのっ」
ノゾミは「嫁かよ」とボソッと呟いたコトネにチョップを食らわせながらさっきよりもなんだか薄くなっているミキのほっぺを引っ張って現世に戻す。
そっぽを向いて歩き出しながらノゾミは心の中のミツキを思い浮かべて「心配してるだけっ」と結論付けた。そうしているうちに昨日彼とした会話を思い出す。
兄の横で何となく見たガンダム作品。他を見たことがないので比較は出来ないが良いなと思った気持ちがミツキと一緒だった。
彼の喜んだ顔を思い出したノゾミの口角が人知れず上がっていたことを、斜め後ろを歩く友人達は見ることが出来なかった。
「会いたかったぞ!ガンダムに乗る者よっ!」
なんだコイツ。
モリタ模型店に予定通り到着し、中に入ったらエンカウントした野生のグラハムを見た2人の心中は一致した。
モリタが昨日言っていた「降りてる」という言葉の意味がやっとわかったとユウトは真顔で目の前のグラハム完全に憑依した男の子を眺める。
(こりゃ本人が降りてるわ、うん。だって声そっくりだもん)
ユウトがそう評すように、この鶏頭はどこぞ魔法学園の兄貴やツンデレ妹の兄貴やっていそうないい声をしていた。だから余計聴覚と視覚で得た情報が一致しない。身に付けている制服も或美学園のものだ。2人は余計混乱した。同学年にグラハムがいるとかイカれた情報はいくらガンダム好きの2人と言えど流石に聞いたことが無い。
とりあえずユウトは未だ固まっているミツキの肩を叩くと踵を返した。そのまま店の外まで歩き去ろうとするユウトの制服の裾をミツキがガッツリ掴んで止める。
「おけ。任した親友」
「ちょっと待てや。俺に彼の相手をしろと?」
「喜べよ待ちに待ったチーメン候補だぞ。フラッグファイターのエースじゃねぇかこれ以上ないってくらいの優良物件だ」
「わーい生グラハムとか俺緊張しちゃうなー。ユウトはコミュ力高いんだし俺とグラハムの架け橋になってくれるのか親友ってもんじゃない?」
静かに睨み合う2人の前にその男子生徒が歩いてきた。
「おっと済まない。ガンダムが来たと言うので少し興奮してしまった。ひとまず自己紹介をしよう。……えーっと、これちょっと脱ぎずらいんだよな…」
んっんっと咳払いをしてグラハムを消した男のかは、黒髪の、いかにも普通と言った顔に微笑みを作る。そのままスっと会釈をして来た。
「えっと、アイノ・コウスケです。よろしく」
「「……二重人格?」」
「あはは、モリタさんにも言われたなそれ。厳密に言うと違うよ」
頬をかいて乾いた笑いを出すコウスケと言う生徒の顔をまじまじと見たユウトはぽんと手を叩いた。
「…アイノってもしかして隣のクラスの?」
「うん。まぁあんまり目立たない見た目だから覚えてくれてる事にびっくり。えっと、カミヤ・ユウト君とソラザキ・ミツキ君だね。よろしく」
未ださっきのグラハムとのギャップについていけてないまま2人は握手に応じた。ミツキはとりあえず気になっていたことを聞いてみる。
「アイノくん。えと、さっきのは?…あと、その被り物、どうしたの?」
「コレはさっき演劇部の助っ人出てたからそのまま。…それと、アレなんだけどね。僕、気分が高ぶるとグラハムになっちゃうんだ」
「グラハムになっちゃう」
真顔で繰り返したミツキを尻目にコウスケは続ける。
「そう、ある日フラッグのキットの箱を手に取ったらね。そこからGPDをする時勝手に変化しちゃうんだ」
「なるほど」
ミツキは、もう深く聞かないことにした。この世にはまだまだ知らないことがいっぱいあるんだなぁと悟った顔で遠い目をする。
視線と表情が旅に出たミツキに代わり、ユウトが続ける。
「アイノはこいつ…ミツキのチームに入るつもりなのか?」
「興味はあるよ。僕自身GPDを始めたばっかりでまだ右も左も分からないけど、変形機ならなんか使えるんだ」
「なるほどグラハムの加護のお陰か」
「そういうこと」
なるほど、グラハムってすげぇなと若干悟りに入りかけるユウトの代わりに今度はミツキが戻ってきた。
「えっ、じゃあ入ってくれるの?」
「うん。……って言いたいところだけど。それを決める前に1回、戦ってみない?入れたくば、この僕を倒してみろ、的な」
好戦的な笑みを浮かべるコウスケにミツキもつられて笑みを浮かべる。ミツキも男の子。こういう展開は大好物だ。
「うんっ、じゃあ俺が勝ったらチームに加入してもらう」
「それで構わないよ………いや、それでも構わん」
「わ、降りてきた。……って言うわけでモリタさん。お願いします」
「はいよー」
実はずっといたモリタさんにユウトが声をかけると笑いを堪えながら返事を返してくる。リアルグラハムが降臨したり引っ込んだりしてるのだ、劇中の彼を知っている人ほど面白いだろう。
ミツキとコウスケは同時に筐体を起動させてガンプラを取り出した。
「やっぱりフラッグを使うんだ」
「当然だ。私はフラッグファイターだからな。君のガンダムもいいガンダムだ。…好意を抱くよ」
「ぶふっ」
ついに劇中の名台詞が出てミツキが耐えれきれなかった。余談だが、コウスケはガンダム00を視聴していない。
「ち、ちなみに好意って…」
「そのままの意味だ。興味以上の対象だということさ」
「ちょっ、ふっ……ふぅっ」
もう一度言うが、彼はまだ劇中のグラハムを見たことは無い。
このままじゃ笑い殺されると表情を引きしめた。ミツキは操縦桿を握り締め、発信シークエンスを開始した。
「ソラザキミツキ。ガンダムAGE-1ノーマル、行きますッ!」
初めてのチームメンバーを引き入れる戦いが今、始まる。
「ちょっとミツキ、アイツに1回ビームサーベル渡してみてくれ。あのセリフ生で聴きたいんだけど」
「まじ黙れ」
どっち派?
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ガンダム系が好きです