いつのまにか童話をモチーフにした死にゲーの主人公になってた 作:通りすがりの馬鹿
『わざわざ戻って来たのか』
引きづられる様にして着いてすぐ。村全体に響く大きな声で奴は言った。そう、彼がこのチュートリアルのボスでダークノベルの持ち主だ。名前は……何だったっけな。
『お前が帰ってれば、私達も帰ったんだがな。どうする?今からでも帰るか?』
狩人はそんな状況でもニヤリと笑って煽っていた、赤ずきんは無言だ。
『はっ、私達がお前達を待って居たんだ。でないと、お前達に絶望を植え付けられないからなぁ!』
このゲームの特徴の一つとして、ルビが多い。厨二病かって思うぐらい読ませてくる。まぁ、そこも魅力の一つと言えば一つなんだろう。でも光の冊子でライトノベルはちょっとダサい気がする。もっとあっただろ。
『さぁ、坊主。力を貸してくれ。ライトノベルの所有者は私達に力を与えてくれる筈だ』
そう言われ、俺は黙る事しか出来なかった。確かにゲームで主人公が狩人達に力を貸していたのは、知っていたが具体的に何をしていたかは描写されていなかった。そこん所はふんわりしていたんだよな。
それに、ゲームでのチュートリアルは負けイベントだった。まだアイツの姿は見えないが、もしこの世界がゲームと同じ世界ならそうなる筈だ。
「すいません……やり方が分からないんです」
『は?』
いやそんなマジかコイツみたいな顔をされても知らないんだって。適当に本のページをめくってみるも全ページで白紙で何も書いていない。そんな中。
『二人とも。来るよ』
赤ずきんの言葉で前を向けると、奴がニヤニヤと笑っていた。
『どうやら頼みの綱のライトノベルの人間はその力を使う事が出来ないようだな!これは傑作だな。私が見本を見せてやろう』
そう言って奴は黒い本を取り出し、栞が挟んであるページを開いた。
『お前らにはコイツが良い
殴りたくなる笑みで奴はそう笑うとまるでそれが合図のように奴の本が黒くそして暗く光り始めた。
『さぁ食い散らかせ!ハングリーウルフ』
あぁと思わず声が漏れた、今最も会いたくない知り合いが顔を見せた。それがこのハングリーウルフ。巨体な肉体と年中腹を空かせているのが特徴の狼だ。
そう、オオカミ。もう気付いた人もいるだろう。分からない人は赤ずきんの因縁の相手と言えば分かるだろうか?
このチュートリアルが負けイベである理由。そして彼女達のトラウマである奴には、片手と震えた身体。そして、邪魔なお荷物がいては勝てる筈も無くあっという間に蹂躙された。
《あれぇ?なぁなぁ。赤ずきんだよなぁ、あ。狩人もいる!その後ろの奴は知らないけど……》
動くだけで砂は飛び、重い巨体を軽々と浮かせてその避ける事の無い出来ないデカさと重さが勢い良く俺達を潰す。それは精神的にも肉体的にも、コイツには勝てないと思わせられるには十分なダメージだった。
単調なのに避ける気力すら無くなり、わざと喰らった時。ハングリーウルフはその状態に飽きて……。
《あむっ》
赤ずきんを掴み、そのまま口へと押し込んだ。
『は?』
それを見て、怒りながら近づく狩人を腕で薙ぎ払い。
《ほいほいほいほいっ♪》
リズムを刻んで叩き潰して、再び口に運んだ。
淡々と行われるその作業を見ていると、狼の目は俺の方に向いた。
『これで終わりか。いや、頑張った方と言えるか、この私相手に』
身体が動かない、何処か怪我をした訳じゃない。ただショックで動けないだけだ。否定しようとしたって頭の隙間にトラウマが入り、永遠と流れていく。
『なぁ、お前もそう思うだろうハングリーウルフ』
何も聞こえない。ただ、自分を責める声だけが響くだけだ。何かを出来た訳じゃないのに、何もしないで一人だけ生き残っている自分を責める事しか出来ない。覚悟は出来ていても、画面の前で死と実際の死では全然違う。
《なぁなぁ!アレも食べたい。良いか?》
『チッ、好きにしろ。処理の方法までは問われていない。ただ、誰か分かる様に丸呑みにしろよ?』
《いただきまーす》
身体が浮かび、そのままゆっくりと意識が消えていく。その瞬間をただ噛み締めるように、流れていく走馬灯を俺はただ眺めているだけだった。
やっぱり、チュートリアルが負けイベントなのは変わらないんだなと思っていると俺の意識はそのまま消えた。