※このお話はpixivにも同時投稿しています
スペシャルウィークにとって、ハロウィンとはさほど馴染みのあるイベントではない。
せいぜい10月頃になると店にオレンジ色のものが多くなったり、カボチャやお菓子などのおいしいフェアが行われる時期くらいにしか頭に浮かばず。
だから、言われるまで仮装のことなど──聞いて知ってはいても──すっかり頭から抜け落ちていたし、まして自分がそれをするなど考えたこともなかった。
だが自分の所属しているクラスみんなで仮装すると決まれば、知らぬ顔の出来るような性格ではない。
とにかくスペは、自分のハロウィンの仮装を考える事になった。
◇◇◇
スペには仮装の事がわからない。
なのでひとまずは、聞いて回ることにした。
「ハロウィンの仮装?ええと……かぼちゃとか、ミイラとか?」
ルームメイトのサイレンススズカは隙あらば走っている事が多い。もしかして彼女にとってはハロウィンも隙なのか。
祭事に進んで参加するウマ娘ではないようだし、そもそも少し天然な所があるからこういう時にはアテにならないのかもしれない。
聞いていおきながら今更、いささか失礼な感想を抱いた。
「ハロウィンは~フリフリのドレスなんて、素敵だと思いませんか~?」
メジロブライトはメジロ家で様々なイベントに参加しているし、ハロウィンにも通じている。
それにしてもなんだかドレスというかフリフリした衣装への執着が妙に強い。
それも仮装に違いないかもしれないが、フリフリドレスがハロウィンらしいのか? 果たしてスぺには分かりかねた。
「決まったルールがあるわけじゃないわ。それに気にしすぎて楽しめないのは悲しいと思わない?」
マルゼンスキーの言う通りだ。イベントは楽しむもの。仮装が全てではない。納得だ。
思わず納得してしまったので、経緯の説明という大事な事を言うのをすっかり忘れた。
別れた後に気付くほどお間抜けなこともない。やってしまった。
方々走り回った割に収穫の無かったその翌日、スぺは教室でセイウンスカイにその話をしていた。
「まあスぺちゃんだしそんなこともあるだろうって思って、キングやみんなと一緒に”色々”用意しといたよ」
それはとてもありがたいことだ。と思ったのも束の間。思わぬ形で”色々”の意味を知ることになる。おもむろにキングヘイローが両手を叩いて鳴らし、クラスメイト達が一斉にこちらを向いた。どういうことだべ。
思わず教室の出入り口を確認したが、既にエルコンドルパサーとグラスワンダーがそれぞれ構えている。
ツルマルツヨシが笑顔でサムズアップしていた。なして。
そして彼女らが取り出した服、服、服!
愉快なファッションショーの始まりだ!!
◇◇◇
クラスメイトの各々が思いつく限りの、あらゆるそれらしい案が持ち込まれ、試された。
定番のミイラに始まり、吸血鬼、悪魔、ウマゾンビ、ロボット、毒ウマ娘、キョンシー、カボチャレスラー、魔法使い、シスター、番町皿屋敷、村娘、ロックンローラー、その他いろいろ。
しかし一通りに着せ替えショーをやった割に、どれもいまひとつパンチが足りない。
クラスメイト達は気付いた。素材たるスペシャルウィークと、そこに盛る仮装とのバランス感覚はかつてない精緻さを要求されている。
ここぞと出したスペ自身の案も却下された。
サングラスとにんじんTシャツを着用して両手ににんじんを構えた姿の”にんじん怪人”なる仮装は、あまりにシュールで不審な方向へ振れすぎていると判断されてしまった。
いい解決策が浮かばずいよいよお手上げかと思われた矢先、セイウンスカイが提案する。
曰く、「勝負服着たところに適当なツノとか付けておけばそれだけでいいんじゃない?」と。
いっそ雑とも言える案に誰もが懐疑的であったが、他をやりつくしてしまっていたので試しにやってみる事になった。
しかし実際に仕上げてみるとこれがとても合う。余計に足しすぎないシンプルな飾りで十分だった。勝負服を着て、頭部からいかにもな角を生やし、八重歯を追加しただけの仮装。
それなのにいかにも「らしい」雰囲気はこれまでで一番である。スぺっとしていていいじゃないか。
がおー、と両手を構えさせてみれば、もう何も言う事はない!こいつでグランプリはいただきだ!!!
特にそういうコンテストがあるわけでもないのに無性に勝った気になったクラスメイト達は、勝鬨と共に全会一致でこれを可決した。
◇◇◇
ハロウィン当日、スペシャルウィークは謎の自信に満ち溢れていた。
仮装に組み込んだ勝負服の効果か場の雰囲気に酔ったかは定かでない。
しかし圧倒するではなくそのプレーンな可愛さで他者を知らず狂わせるかの如くの面妖なオーラを発し、ある種の怪物になっていた。
「あらスぺちゃん。やっぱり似合うわねその格好。はい、お菓子あげるわね」
「スぺ様とてもお似合いですわ~。次はフリフリのドレス、いいと思いませんか~?」
「答えは見つかったみたいね。バッチグーよスぺちゃん!」
彼女は人もウマ娘を問わず多くを魅了した。
スぺの知り合いはもちろんの事、彼女をよく知らなくとも思わずお菓子をあげてしまう魔法の領域に入っている。そこかしこに”トリックオアトリート”が聞こえるその日の学園において、スぺの放つそれは格別な威力を発揮していた。
そしてハロウィンらしく多くのお菓子を獲得し、その全てを喰らい尽くした。その食べる姿ですらもう一個あげたくなる魅力を放っている。
ハロウィンの学園で流通する食品をすべて喰らい尽くすような勢いの──実際には多種多様な菓子類を全種コンプリートしかけた程度だが──その様はさながら総大将というより仮装も相まって魔王か何かのようで。
その比類なき戦果に、スぺ閣下はいたくご満悦であった。
◇◇◇
「トレーナーさん!トリックオアトリート、ですっ!!がおーっ!!」
「お疲れ様。待ってたよ。ほら、トリート」
さあ決勝戦だと勢いのままトレーナー室に乗り込んだスぺは目論見通り、最重要目標であるトレーナーからのお菓子を頂くことに成功した。
完全勝利である。
今日最後の戦利品をもぐもぐと口にして、満足感に浸る。
「そうだ、ちょっとこっちにおいで……頑張ったね」
「何ですか?……わっ!……えへへ……」
思いがけず、やさしく頭を撫でてもらう。思わず耳がへにょりと横に下がる。
いつもは真剣な目つきをしている事の多いトレーナーの目尻がこの時ばかりは少し下がっていて。
多くの言葉はないけれど、その手の暖かさとやさしさが何だか今日一番に嬉しく思えた。
えもいわれぬ多幸感に任せてトレーナーに身を寄せる。
それから少しの間、心地よさに身を預ける時間が続いた。
◇◇◇
「さて、ご機嫌のところ悪いけど早速今晩から少しの間、食事の調整をするよ」
「えっ」
この至福の内にあってなお、聞き捨てのならぬ言葉であった。
スペシャルウィークは食べることに対して貪欲である。トレーナーさんは、今、何と?
「見てたし、聞いたよ。今日は大活躍だったね。でもハロウィンにしても、ちょっとお菓子の摂り過ぎかな。年明けとかならまだしも今は時期が時期だからね」
「…………」
今になって本日の自分の所業を思い返す。ぐうの音も出ないとはまさにこの事。
そういえばお菓子だけじゃなく朝ごはんもお昼ごはんもしっかり食べたっけ。
我ながら調子に乗りすぎたとはいえ、あんまりにあんまりな事態に顔から血の気が引き、形のいい唇が台形に歪む。
「大丈夫。年末には余裕で間に合う。完璧に仕上げられるよ」
そうだけど、そうじゃない。わなわなと震える身体の底から湧き上がる衝動のまま、絶叫した。
「なしてーっ!!!!!!」
体力+30
スペシャルウィークはこのハロウィンでアホ程お菓子を喰っとったんや
その数…500億個
健啖家のライスシャワーが41億個で遠慮したのにあの総大将500億個も喰っとるんやで