主人公ではないけれど   作:空澄みの鵯

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『ただ記憶のままに』を書いているとき、ポーカーの描写で遊戯王のSSを参考にしながら書いていた。そして何時の間にかそっちを放置して一話分だけ書けてしまったので、投稿してみる。

えぇ、死んだわけではないのですよ。


第1話

ときに一部の実力者達だけが反応する単語というものがある。

 

例えば『萌え』という単語。

 

緑萌ゆる。なんて使われ方が一般的だったのは今は過去の話だ。今は『可愛い何かに対して生まれた衝動』が萌えという単語として認識される時代である。何かがおかしい。そのはずなのだが、全く違和感なく受け付けられるようになれば、それは既にある種の『逸脱者』の仲間入りだ。

 

常識から離れた非常識を常とする。と、中二病よろしく言葉にすれば何とも言えぬ素晴らしい響き。そう思ってしまえるのなら、きっと俺と同類なのだろう。握手してハグして仲良くしよう。ただし相手を選ぶ。自身がイケメンとは言えないので女性には拒否られることこの上なしである。

 

さて、長々と持論を語ってもしかたない。

 

とりあえず、幾つかの単語を上げるのだが……まぁ、この言葉のルビを脳内で再生出来るだろうか。

 

『決闘』

 

『決闘者』

 

『LP』

 

『満足』

 

有名といえば有名なものを四つほど上げてみたのだが、翻訳することができただろうか。というよりも、翻訳する以前にそのまま言葉以外の意味で読むことが出来ればそれは既に『逸脱者』だ。おめでとう。と心からの祝福を送らせてもらおう。ちなみに正解だけれども。

 

決闘(デュエル)

 

決闘者(デュエリスト)

 

LP(ライフポイント)

 

満足(サティスファクション)

 

である。とある世界に足を踏み入れた連中なら息を吸うように読み、瞬きするように理解し、巡る血液のように自然に回答をはじき出していただろう。少々難易度を上げてしまうと『ATM(アテム)』や『社長の嫁(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)』。ルビ以外でなら『ボチヤミサンタイ』『ボチテンシヨンタイ』『サモサモキャットベルンベルンDDBDDBシャシュツシャシュツアザッシター』という呪文もあるのだが、それはそれとしてだ。

 

決闘と言えばなんだろうか。

 

常識から考えれば決闘を往来で急に人から挑まれるだなんてどうかしている。だがそれは『決闘(けっとう)』の話であって『決闘(デュエル)』の話ではないのだ。そう、バカバカしくもアホらしくも、それでいて忌々しいことにこの『世界』では決闘はイコールでデュエルなのだ。

 

遊戯王の世界。

 

決して『世界(ザ・ワールド)』とか、そういうネタではない。ここは遊戯王という作品の世界らしいのだ。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんでは断じてない。現実、本当、偽りなく、と書いてリアルと読む類の話なのだから。

 

 

 

 

 

欠片ほどだけれど記憶がある。

 

真っ黒で真っ白な妙な空間だった。道筋が決まっていて無意識の内に今歩いているこの道を進まないと行けないのだと判断していたように思える。どこに行けないのかは分からないけれど、ただそうしなければいけないのだと思っていたのだろう。

 

だから歩いていた。そのうちに気がついたら目の前が暗いことに気づいて思わず立ち止まっていた。それもきっと無意識。暗い道筋がきっとよくない何かだと判断していたのだろう。どうしてかなんてものは分からないけれど、あの場所がどこだったのかもわからないけれど、きっとアソコは意識さえあれば何でも分かるのではないだろうか。

 

だから進まなければと分かったし、暗い道筋がダメなのだともわかった。

 

それでも自分にはそれ以上のものがなかったのだろう。気がつけば傍らには白い人型が立っていてのっぺらぼうのソイツに何かされたように思えたが、結局何をされたかは覚えていない。気がつけば新しい人生を歩んでいたのだから。うっすらと前世らしき記憶がある。

 

それだけだ。

 

俺の特別はそれだけだった。

 

「はずなんだけどなぁ?」

 

遊戯王の世界だと気づいたのはそうとう昔のことだ。何しろ前世の記憶自体を認識したのは幼稚園に入った辺りからなのだ。両親に育てられながら違和感を覚えて、その違和感を突き詰めていった結果前世があると知ったのだ。その前世ではありえないことに、テレビ中継で決闘を行っていた時の衝撃は忘れるに忘れない。

 

遊戯王の知識はそれなりにある方だと自負している。何しろ原作の遊戯王は一巻から最終巻まで持っていたのだ。妙に遊戯王に関してだけ前世の記憶が鮮明なのは、世界に関わりがあるからなんて適当に考えているけど実際はどうなのだろうか。

 

閑話休題。

 

ともかくとして、俺は遊戯王の記憶がある。それこそデュエルモンスターズではなく、マジックアンドウィザードと呼ばれていた漫画版の知識すらある。……とは言っても、俺が知っているのは漫画とアニメだけだ。それも東映版遊戯王と遊戯王デュエルモンスターズは知っているというのに、GXは丸ごと知らないし5Dsは地縛神編だけ何故か見た。。ZEXALはベクターという愛されキャラが有名になってから見始めた。ARK-Vは放送して間もなく序盤も序盤だ。知る由もない。

 

つまるところ、何が言いたいかというと。

 

「デュエルアカデミアってどのシリーズだ?」

 

目の前の入学案内の学校に関しての知識が全くないのだ。遊戯王ではない。遊戯が通ったのは童実野町の童実野高校。間違ってもこのデュエルアカデミアのような海に囲まれた孤島ではなかった。5Dsはオープニングで学校らしきものが写っていた気がするし、ZEXALは学校があるらしいのだが俺が見ている限りではずっとデュエルしてたため学校を見ていない。最新作は言わずもがな。

 

「どれだ……どのシリーズの学校なんだ」

 

生け贄召喚もといアドバンス召喚。レベル1~4までのモンスターを下級モンスターとし、5~6を上級、7以降を最上級として、召喚に必要なコストが決まっているというもの。モンスターの階位によって能力をアドバンス(前進)させていく方法。

 

シンクロ召喚は足し算の召喚法。チューナーという特殊なモンスターとそれ以外のモンスターとのレベルの合計によってモンスターを召喚する。個々の階位が低くてもそのレベルを同調(シンクロ)させることで、一個の存在として高位へと至らせる方法。

 

エクシーズ召喚は重ねる召喚法。エクシーズ(XYZ)の名前のとおり、X・Y・Zの名前が攻撃力が防御力が別のものであったとしても同じレベルをXYZ(重ねる)ことで階位そのものを変化させランクとする。絆を紡ぐシンクロと違い、思いを重ね結束するのがエクシーズだと言えるだろう。

 

そしてペンデュラム召喚。ペンデュラムモンスターというモンスターでありながら魔法カードと同じ性質を持つカードをフィールドの両端にセットし、カードに記されたスケールと呼ばれる数値内でモンスターを召喚する。振り子のように揺れる感情の振り幅、人の思い力にしている……そんなイメージの方法だったはず。

 

さて、長々と語ったが問題は融合だ。

 

これは遊戯王GXで主題とされた概念で、モンスター同士を融合させる方法だ。アニメを見ていないから、どんな思いが込められているかは知らないので明言は避ける。というよりも、よく知らないと言ったほうが早いか。指定されたモンスターを融合をさせるというのは知っているのだが、アニメで出てたかそんなの?

 

少なくとも俺が知っているのは有翼幻獣キマイラとかそこらへんだ。強いかと言われれば弱いと答えたい。だが、シリーズによってはソレに特化している試験内容が考えられる。問題はそこなのだ。融合系統の問題が出てくると落ちる自信がある。

 

音楽家の帝王の素材を答えよ。なんて言われて答えられる自信があるやつとかいるのだろうか。簡易融合で出して素材にしていた覚えはあるが、正しい素材を用意してまで出すステータスではないモンスターだ。魔法使い族ということでシンクロのお供に簡易と一緒に入れたデッキを作った覚えはある。だが、素材なんて知らん。

 

「いや、それよりもデッキを作っておくべきか」

 

融合の問題が出てきたら捨てよう。数学のテストで二次関数を切り捨てる程度の思考回路の俺に今から覚えろというのは、あんまりにも酷な話というものだ。なら事前知識として知っていることと、この実技って奴に賭けるしかない。

 

「そういえばデュエルディスクにコイツ等は読み込めるんだろうか?」

 

転生特典とでも言えばいいのか、俺の右手は少々というには過小評価なくらいに特別だ。いわゆる最強決闘者の証(ディスティニー・ドロー)が出来るという謎仕様と化している。引きたいカードがデッキから引けるだけでなく、欲しいカードの創造まで出来るという馬鹿げてる状態だ。

 

しかし、それがデュエル中に出来るかというと答えはNOだ。

 

どうもこの右手の能力は感情が高ぶった時に偶発的にならデュエル中に発動している気がしないでもないのだが、ごく普通にデュエルをするぶんには云とも寸ともいわない。まるで不正をデュエル自体が嫌っているかのような、そんな印象すら受ける。

 

とは言えど、デュエル中以外なら問題なく創ることができる。カードの性能を見る限りOCG基準のようだが、まぁ問題はないだろう。弱体化されたカードが殆どではあるが強化されたカードだってあるのだ。好きなカードを創れる時点で反則と言っても過言ではないのだから、そもそも文句を言うなんて贅沢が過ぎる。

 

「とりあえずやるかね」

 

部屋の真ん中で立ち上がり、右手を心臓に当てながら集中していく。何に集中するのかと言われると難しいのだが、転生する前にみたあの場所をイメージするようにしている。そうするとジワジワと熱と痛みが全身を満たしていく。

 

辛くはない。

 

ただ妙に擽ったいし、息苦しいとも思える。卵の内側に自分がいて殻を破ろうとしていると言えば、なんとなく伝わるだろうか。自分を自覚しているのに、思うように動けないのだ。だからその先を目指す為に集中するのだ。

 

活動(Assiah)っと」

 

右手が鈍く銀色に輝く。水銀のような輝きながらも鈍く重くどことなく暗いイメージが付き纏う輝きだ。ここまでが準備段階。兎に角ここまで起動させないと、次の段階にいけない。

 

形成(Yetzirah)

 

銀色の輝きが胸を貫き収束する。収束した銀色は深く重い輝きを捨て去り、協会に飾られる十字架を思わせる輝きと静謐を持って姿を変えた。そして流体として手に平に集い四角形の板切れと成る。そしてようやく最終段階に入る。

 

創造(Briah)

 

銀色の板切れの表面が渦を巻く。銀色は白と黒に分たれ、渦の中に飲み込まれる。痛みがピークを迎え、熱が手のひらを焦がし、視界が此処ではない何処かを写す。一瞬だけ『死』のイメージが浮かぶが、痛みと熱が自分を連れ戻してくれる。

 

「……これが俺の天地開闢ってね」

 

炭化した掌の上にはカードの束。何というか本当にカードが創れるというのは凄いのだが、デメリットが大きすぎる気がしないでもないのだ。この世界ではカードに云百万と言う値がつくのは知っているのだが対価が炭化する手では……ねぇ?

 

まぁ何処かしら歯車が狂っているのか、炭化した掌を軽く叩いてやれば炭が砕けその下には瑞々しい肌色が出てくる。再生なのか、それともそれ以外なのか。

 

俺がわかるのはこの能力は白いのっぺらぼうに与えられたということだけで、どうしてこうなるのかまでは理解が及ばない未知の世界だ。一応作り出したカードをデュエルディスクにセットしてみると、一瞬のラグの後に読み込めたのか黒い霧の中からモンスターが現れた。

 

というよりも何故かデュエルディスクが常に黒いオーラを纏っているのだが……まぁ、気にしないでおこう。爆発したくらいなら、ほぼ確信を持って死なないと断言できるし。少々人間辞めてる気がしないでもないが、カードゲームの世界では珍しくもないだろう。

 

斬鉄すらカードでやってのける人間がいるのだ。爆発に巻き込まれても生きてるくらいなら常識の範囲のはず。

 

とりあえずカードが読み込めることも確認した。

 

「となると後は……入学の書類に名前書かないとなのか」

 

必要な部分以外は既に両親が書き込んでくれている。後は当人が書かなくてはいけない部分の空白を埋めるだけだ。

 

仲人(なこうど)夕人(ゆうと)っと。ふぅむ、我がことながら良い名前だよな。両親のセンスには脱帽と言わざるを得ない」

 

この上なく自分らしい名前に苦笑を浮かべながら創りたてのカードを元にデッキを構築し直す。

 

鼻歌交じりにデッキを組みながら学園での生活に思いを馳せる。死んだ事を微妙に覚えているせいか、少々どころではなくネジが外れているのだがあまり自覚していない彼の物語。

 

逸話を幾つも作られることになる彼の未だ無名だった頃の小さな一室での一時である。

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