主人公ではないけれど   作:空澄みの鵯

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第2話

想いは重く伝えてこそ。それは誰が言ったか分からないけれど、中々の至言だと思う。

 

ついでにソレに因んだ持論なのだが、愛が重いというのも中々どうして素晴らしいと俺は思うのだ。

 

よく人は恋をすると浮ついているだなんて表現が使われるが、それはつまり普段地に足つけてる自分の代わりに愛が地面につなぎ止めてくれているだろう。浮つき天にも登りそうな自分を地上につなぎ止めているのが愛。愛は重い。至言であると同時に、愛の字の心が真ん中にあるのは浮ついた自分を示しているのだろう。

 

恋が下心。愛は真心。はは、笑わせる。恋は相手を見ているからこそ、心が地に足付いているから下に心がある。愛は自分本位で浮ついているからこそ真ん中にあるのだ。誰かに恋してる奴は歩み寄れる。足ついているからな、当然だ。誰かを愛している奴は近寄れない。足ついてないからな、当然だ。

 

想いは重く伝えてこそ、相手の心を地につけて向かい合える。持論である。

 

心のある場所は本質を示す。それが俺の考えてある。

 

人のある場所は有り様を示すとも考えている。

 

偽るとい字が人の為と書くのは、その『人』の有り様が(自分)の為なのか、(他人)の為なのかで変化しているのだろう。人の有り様は自分を本位に置くか、他人を本位に置くかだ。夕人という俺の名前は夕、つまりは死んだはずの自分の延長戦の様に思える。

 

夕暮れは一日の終わりが近づいている。この世とあの世の最も近づく時間帯。その夕暮れの人間。いやはや、素晴らしいセンスと脱帽せざるを得ない。フルネームで考えれば尚の事か。

 

さて、そろそろ現実を見よう。

 

一応最近のカードプールだけでも確認しようと思い、外に出てしばらく。少々交通の便の悪い場所に住んでいることもあり、かなりの時間を食いながらもあと少しでカードショップだというところ。そして何故か見知らぬ女の子に絡まれているという現実。何なんだよ、この子。

 

「で……何のようです?」

 

「貴方は何者?」

 

質問に質問で返すな。そう正論で返そうかとも思ったが、どうもそういった答えが望まれているわけではないようだ。ジっと一切ブレない視線でこちらを見てくる彼女の制服は何処かで見たことがある。さて、これは何のシリーズの服装だろうか。

 

左胸の位置に校章があり、色彩は赤を基調にしたブレザー。スカート丈が膝よりもずっと高く、恥ずかしくないのだろうかと思ってしまう。というよりも校則的に有りなのだろうか。アニメやゲームでは気にしない様な点ではあるが、現実問題となるとアウトでしかないだろうに。

 

「……聞こえてる?」

 

「あぁ。聞こえてます、聞こえてます。ってか、何者と問われてもさ質問が漠然としすぎててどう答えればいいのかわからないんだよ。名前を答えて満足する?」

 

「しない。それだけではデータ不足」

 

銀髪のツインテールがふるふると横に揺れるのを眺めながら、記憶の掘り返しを行い続ける。遊戯王は違う。アレは一番記憶に残っていることもあって断言できる。それ以外の作品となると……ZEXALは違うと思う。ベクターのお陰か制服らしきものが微妙に記憶に残っている。となると、それ以外の二作か。

 

……いまさらだが、俺の頭もそうとうこの世界で毒されているな。何を持って俺は彼女までデュエルアカデミアでデュエルの勉強をしていると考えたんだ。別にデュエルは学ぶのは当然な世界ではあるが、それを専門にするかどうかは別の話だ。

 

デュエルに強いというのは、勉強ができると同じくらいに優遇されるがそれ以外が不必要になった訳ではない。当たり前だが工業系の学校だってあるし公務員用の短大だってある。何をどうすれば原作に出てくる学校に限定して考えようだなんて考えるのが普通になるのだろうか。

 

「一応聞く」

 

「何をですかね?」

 

「名前。データ不足だから、本人から聞きたい」

 

……そもそもデータデータ言ってる時点で何かがおかしい。いや、こういう世界だと珍しくもないのか。データがあれば何でもできる、みたいなキャラは何処だっているものだ。データでテニスする奴もいれば、デュエルする奴だっている。そういう類なのだろう。

 

「個人情報だから教えないってのは?」

 

「駄目。私、困る」

 

「せめて何に使うかだけでも教えてくれないかな」

 

「禁則事項。教えることはできない」

 

いい加減にイラっとしてきた。会話がここまで成り立たない相手とあったのは初めてだ。

 

「意味がわからないし、教える理由もない。別に君と俺が友人なわけでもないし、恋人なわけでもない。友人なら名前を呼ぶのに必要だろう。恋人なら想い合う為に必要だろう。だが、そういった関係が俺たちにあるか?」

 

「ない。初対面」

 

「だろう。だから教えない、以上だ。俺はこれからカードショップに行きたいんだ……どいてくれ」

 

「どけない。どいてほしければ――決闘(デュエル)

 

出たな決闘脳(デュエルのう)。とりあえず腕力で解決する。それよりもずっと外面は平和であるが故か、この世界はデュエルによって多くの事柄を決める傾向がある。勝負事であると同時に、自らの思いが詰まったデッキで相手の思いと対決する。本能に刻まれているかのように、ごくごく当然として決闘する。

 

まぁ、この世界に転生して俺も長い。

 

「良いだろう、俺が勝ったなら何も聞かずにどけよ」

 

多少の不利な条件だろうと気にしない程度には、慣れてきてるさ。

 

「それじゃあ」

 

「おう」

 

最近のカードプールを確認するだけ、と言いながらも癖で付けてきたデュエルディスクに腰のベルトに取付けられたデッキホルダーから作りたてのデッキをセットする。デュエルディスクが低く唸りを上げながらソレは変形し、まるで腕の側面に刃が取り付けられているかのような異様を誇るがコレこそが世紀の大発明とも言われた代物の真の姿だ。

 

目の前の女の子も同様に展開するが、俺が使うものと違い全体的に丸みを帯びた近未来的なスタイルとなっている。パッと見の印象ではあるが俺が扱うものよりも軽そうである。初代遊戯王を参考にして作り上げたデュエルディスクはこう言ってはなんだが一歩間違えれば凶器だ。

 

「まぁ、気にしないで今は集中だな」

 

デュエルディスクを構え精神を集中。デュエルディスクがデッキから吹き出した黒いモヤに包まれるが、気にしないと少し前に決めたので無視する。

 

「やっぱりおかしい。何者?」

 

「こういう仕様なんだよ。それに質問したければ俺に勝てって話だ」

 

「そう……なら行く」

 

「おう、かかってこい。今回の俺のデッキは灼熱の拳だ。油断すれば容易く燃え尽きるぜ」

 

口上は適当に、それでもお互いの魂を震わせるように挑発的に。

 

俺は睨むように相手を見る。相手はただ見つめてくる。どうも人形か機械という冷たいイメージが先行する女の子だが、それすら今はスパイスだ。楽しんでいこうぜ。

 

「「決闘(デュエル)」」

 

お互いに宣言し、ディスクを構える。

 

チラリと視線を移せばデッキを押さえつけるトップ部分の液晶には『先攻』と表示された後にLP4000という表記が表示されていた。音を立てながら自動でシャッフルされたデッキから五枚分のカードをドローする。マスタールール2の世代らしく手札五枚を手にとった後にデッキトップが僅かにスライドし、ドローしやすいように補助されたのを確認し指をカードトップに重ねた。

 

「俺が先攻だ。ドロー!」

 

スライドされて引きやすくなったカードを引く。これで手札は六枚。先手にも関わらず手札が増える、というのはやはりイイものだ。デッキは未来、手札は可能性ってな。未来から可能性を掴み取る。そう考えると先んじて可能性を増やすというのが、どれだけのアドバンテージになるかわかりやすい。

 

手札は悪くはない。流石に『おいおい、これじゃミーが勝っちゃうじゃないか』なんて冗談を飛ばせるほど良くはないが、このデッキの初手と考えればそれほど悪くはないだろう。

 

「俺はBK(バーニングナックラー)ヘッドギアを召喚」

 

デュエルディスクにカードをセットすれば、まるで吸い付くようにカードが固定される。どういう原理なのかは知らないが、非常に便利で都合の良い技術にニヤリとしていると目の前にモンスターが召喚された。

 

――――――――――――――――――

BKヘッドギア

効果モンスター

星4/炎属性/戦士族/攻1000/守1800

このカードが召喚に成功した時、デッキから「BK」と名のついたモンスター1体を墓地へ送る事ができる。

フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードは、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

――――――――――――――――――

 

BK(バーニングナックラー)】と称されるカテゴリーの下級モンスターにおいてアクセルと言えるカードだ。闇属性の優秀な墓地肥やしの手段である終末の騎士のBK版と言える効果を持ち、一度だけとは言え戦闘破壊に対する効果を持っている。

 

見た目は群青の肢体を持つボクサー。群青の肢体とは対照的なグローブ、レッグ、ヘッドギアの三種が赤く映えるのが非常に格好良くて好みのカードである。戦闘破壊耐性を持ちながらも攻撃力が低く防御のが高いのは、おそらくはBKの中でも練習相手のような立場だったのではないだろうか。真正面から打ち合い、その上で倒れない。繰り返される練習の果てに強靭な肉体を得て……と考えていくと楽しくなるが、それよりも今は決闘に集中しよう。

 

「BKヘッドギアの効果発動。このカードが召喚に成功した時、デッキから「BK」と名のついたモンスター一体を墓地に送る事ができる。俺が墓地に送るカードは――――」

 

さて、相手がどういうタイプなのかがわからないってのがネックだな。

 

超火力でくる場合、打点1000を立たせておくってのは悪手。破壊耐性はあるとは言え、この世界はLP4000がデフォルトな以上、ワンキルってのは充分考えられる。なら様子見も兼ねて安全策が一番か。

 

「BKカウンターブローを選択する」

 

シャコンとデッキから飛び出たカードを抜き取り墓地へと送る。この世界の遊戯王の厄介な所はカードの知識は知っていて当然で、知らなかったらソイツが悪いってことだ。だからこそ決闘者ってのはカードの説明しながらの進行が癖になっているわけだが、そこら辺の事情には当の昔に慣れている。

 

要するに、カードの効果が発動した時にカードの説明をして、それまでは言わなくてもいいわけだ。だからこそ、遊戯王ZEXALのアリトが扱っていたこのカテゴリーは恐らく知らないだろうと踏んだわけだが……反応が全くないから判断がつかない。まぁ、下手なことをすれば返り討ちにしてやろう。

 

「更に俺はカードを二枚セットしてターンエンド」

 

――――――――――――――――――

仲人夕人

手札3

モンスター

・ヘッドギア

魔法罠2

――――――――――――――――――

 

普通の出だしだ。だが、ヘッドギアが初手にあるってのは都合がいい。欲を言うなら欲しいカードが何枚かあったのだが、最初から全力ってのも味気ない。……大概俺も決闘脳だよなぁ、とこういう時に自覚してしまう。朱に交われば赤くなるってやつだろう。

 

「私のターン……ドロー」

 

さて、どうくる?

 

「私は手札からおろかな埋葬を発動」

 

シンプル過ぎる効果を持つその魔法カードの名前を聞いて思わず悪態を吐きたくなるのは仕方ないことだと思う。

 

おろかな埋葬。名称に『おろかな』と付いてはいるが、デッキからピンポイントでカードを墓地に送ることのできる超が付くほどに優秀なカードだ。それを『おろかな』と称する決闘者こそが救いようがないというあたり、だいぶ思考回路の捻くれた人間が命名したんだろうなぁ。なんて邪推してみたこともある。

 

おろかな埋葬ってのは先に例として上げた終末の騎士やBKヘッドギアの魔法カード版であり、俺がBKヘッドギアをエンジンと称したように大抵のカテゴリーにおいてエンジンと言って差し支えのないカードなのは間違いなく――――

 

「デッキから……ゾンビキャリアを墓地に送る」

 

アンデット族において最優のカードの一枚だと俺は考えている。

 

アンデット。つまりは不死なる者。生を冒涜するもの。死を体現するもの。生死両極をその身に孕み久遠を逝く者。

 

破壊耐性こそ少ないものの、それを補って余りあるほどの再生力を誇るカテゴリーである。リクルーター……つまりは後続へと繋げることのできるカードだが、ピラミッドタートルというカードがある。こいつは守備力を参考にして復活対象を選ぶため、唐突に信じられない火力を持ったモンスターが出現し、ゴブリンゾンビというカードはフィールドから墓地に送られれば守備力1200以下のモンスターを手札に加えることができる。

 

殺すことすら躊躇われ、殺したところで墓地より復活し仲間を呼ぶ。

 

「更にゾンビ・マスターを召喚」

 

「あー、こりゃ復活させられるな」

 

そうぼやくと同時に黒い風がフィールドを駆け抜け、風が止んだ時そこには人影がひとつ。ボロ切れのような衣服をまとったソイツは外見からは男女の区別が全く付かないが、その身に待とう禍々しい雰囲気が嫌な予感を加速させ、ざんばらに伸ばされた灰色の髪の毛から覗く瞳が喜悦に染まるのをハッキリと見た。

 

「ゾンビ・マスターの効果、発動」

 

手札からモンスターカードを一枚墓地に送り、墓地のレベル4以下のアンデットモンスターを復活させることが出来る効果。手札とはいえ、墓地を肥やしながらフィールドアドバンテージも取ることができる。非常に恐ろしい効果であると同時に、墓地にあるカードが問題なのだ。

 

「カードを一枚墓地に送ることで」

 

ゾンビ・マスターは両手を水平に伸ばし地面に向けると同時に女性が手札を墓地へと送り、デュエルディスクから黒い波動がゾンビ・マスターへと流れ込む。ニヤニヤを三日月のように裂けた口から理解しがたい言語が紡がれてゆくに連れ、ゾンビ・マスターの足もがボコボコと盛り上がっていく。

 

「ゾンビキャリアを復活」

 

地面を突き破ってきたのはゴリラのような紫色の体毛を持つ巨腕。突き出た片腕をきっかけとしてそのまま這い出てきたその姿は巨腕に爬虫類らしき尾に埋没した顔面と気色悪いとしか言いようのない見た目だが、だからと言って目をそらすには恐ろしい効果を持つカードである。

 

「レベル2のゾンビキャリアとレベル4のゾンビ・マスターでチューニング」

 

やはりきたか、という思いが強い。

 

チューナーモンスターによって他のモンスターとレベルを同調(シンクロ)させることで、自身をより高位のモンスター(高いレベル)へと進化する召喚法。今回はレベルの合計は6。ゾンビキャリアを使っているが……何が来るのやら。

 

ゾンビキャリアの姿が緑色に輝く2つのリングとなって宙に連なり、そのリングの中心へとゾンビ・マスターが飛び込むとゾンビ・マスターの姿が透けて中心線上に4つの輝きが覗いた。絆が結ばれ、そして昇華される。

 

「過去の因縁によって道連れの果てに死に絶えし冥王よ……えっと……きて!」

 

前口上の途中で止まったと思えば……こいつ途中を省略しやがったな。

 

「シンクロ召喚――蘇りし魔王ハ・デス」

 

光は地に堕ち、瘴気を振りまきながら再び地上へと吹き出した。生者の持ちうる生気の皆無な、完全な骨によって構成された肉体。身にまとう衣服こそ上等ではあるが、むしろそれは自身の悍ましさを強調するアクセントにしか過ぎない。あぁ、これが魔王。蘇りし魔王ハ・デス。

 

蘇りし魔王ハ・デス。生きていた頃の名前は冥界の魔王ハ・デス。深淵の冥王を追放し、冥界を支配し更なる領地を求め侵攻するも逆襲され滅んだ後の姿。生きていた頃も、死んだ後もその能力は等しく平等だ。

 

「墓地の馬頭鬼の効果発動。除外して、おいでゾンビ・マスター。バトル……行って」

 

攻撃力2450と1800の2体に対して、こっちにいるのは攻撃力1000のBKヘッドギア1体。このままだと3250という、LPが4000のこの世界では致命傷もいいところのダメージを受けることとなる。まぁ、それはヘッドギアがただのモンスターなら、という話だ。

 

蘇りし魔王ハ・デスが滑るように此方へと向かってくる。そしてその両手でBKヘッドギアを掴もうとするも、ヘッドギアはその拳で足さばきでうまくその攻撃をいなし続ける。だが、いかんせん。土台の攻撃力が違い過ぎる。遂にハ・デスがヘッドギアを掴み、力任せにそのまま持ち上げてから地面へと叩きつける。

 

強靭な肉体を持つヘッドギアだが、それは明らかに肉体の限界(スペック)を超える過剰なまでの一撃。叩きつけられたことにより砂埃が舞い上がりヘッドギアとハ・デスを覆い尽くすが、すぐさまハ・デスはその場を引いて女性のもとへと戻った。俺はといえば余波が衝撃となって叩きつけられており、砂埃に突っ込む余裕もない。

 

夕人

LP4000→2550

 

「……どうして?」

 

「あぁ?」

 

「どうしてモンスターが?」

 

あぁ、なるほど。やっぱり知らないのか。

 

「BKヘッドギアは攻撃表示であるとき、1ターンに一度まで戦闘では破壊されない。便利だろう?」

 

「なるほど。でも、次で終わり」

 

ゾンビ・マスターがその言葉を皮切りに此方へと詰め寄ってくる。思いのほか早いその速度に驚くが、BKというカテゴリーを知らないならこれも初体験だろう。ニヤニヤと歪む頬を隠しもしないでゾンビ・マスターの一撃が届くよりも先に宣言する。

 

「甘い甘い!BKの拳がそう簡単に砕けるわけも、砕かせるわけもないだろうが!墓地からBKカウンターブローの効果発動ォ!」

 

「墓地…から……?」

 

――――――――――――――――――

BKカウンターブロー

効果モンスター

星3/炎属性/戦士族/攻 0/守1100

自分フィールド上の「BK」と名のついたモンスターが戦闘を行うダメージステップ時に手札または墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。そのモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。

「BK カウンターブロー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

――――――――――――――――――

 

「BKカウンターブローを除外し、BKヘッドギアの攻撃力を1000ポイントアップする。これで攻撃力は2000となり、1800のゾンビ・マスターを上回ったぜ。やれ、ヘッドギア!」

 

ゾンビ・マスターの一撃をしゃがみこんで回避し、真下から顎めがけての逆襲の一撃(カウンターブロー)。ヘッドギアの群青の肢体がブレ、ほんの一瞬だが青いヘッドギアをつけたボクサーの姿がインパクトの瞬間に現れそのまま空気に溶けていく。

 

謎の女性決闘者

LP4000→3800

 

見事な一撃。会心の一撃。

 

「熱い一撃だったぜヘッドギア」

 

そう一言呟くと衝撃で動かないのかだらりとした左腕を庇うようにしながら、右腕を此方に向けて任せろと言わんばかりに拳を握る。全く頼もしいことこの上ない。

 

「むぅ……カードを一枚伏せてターンエンド」

 

「なら、それにチェーンして速攻魔法サイクロンを発動。セットカードを破壊させてもらう」

 

ヘッドギアの背後から巨大な旋風が巻き起こり、その勢いそのまま相手のフィールドにセットされたカードを巻き込み粉砕する。その瞬間表になったカードの名称は神の宣告。……ガチもガチの制限カードだった。

 

あまりに強力でデッキに一枚しか入れることのできないカード。それが制限カード。神の宣告は初期からあるカードであるためか、効果が比較的に大雑把であり豪快だ。魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚のどれか1つを無効にし破壊するという馬鹿げてる性能を持つカウンター罠。LPを半分支払うという条件があるとはいえ、相手の出先すら潰すその一撃は非常に重い。

 

……というか先攻と後攻が逆だった場合、俺はヘッドギアの召喚すら出来ずカードをセットしてターンエンド。結果として2450と1800の直撃で敗北していた。やはりLP4000の世界は恐ろしい。

 

――――――――――――――――――

謎の女性決闘者

手札2

モンスター

・冥界の魔王ハ・デス

・ゾンビ・マスター

魔法罠0

――――――――――――――――――

 

「俺のターンだ。ドロー!」

 

さて、どうしたものか。冥界の魔王ハデスの効果は覚えている。あれは破壊したモンスターの効果を封じるという、死者は死者らしく大人しく死んでおけと言わんばかりのものだった。リクルーターが仲間を呼ぶこともできないというのは、死者を司る魔王の名にふさわしい。まぁ、ヘッドギアのように死ななければ問題もないわけだが。

 

四枚になった手札を見ながら一考。シンクロを行ったということ5Dsの世界かもしれないし、ARC-Vの世界かも知れない。だけども、BKはエクシーズに特化したカテゴリー。一応それ以外の戦闘法もないわけではないが、この相手に通じるかどうか。

 

一応遊戯王の世界だと知ってから色々と調べはしたのだ。一応融合はあったし、シンクロもあった。エクシーズは見当たらなかったがネット内の噂では特殊な黒いカードNo.の存在が示唆されていたりと、正直実態が掴みづらいだけで存在はするようであった。

 

だからこそ、躊躇いは吹っ切ろうと思う。噂程度しかエクシーズが存在しない?知ったことではない。決闘だ。俺に気持ちよく決闘させろ。話はそれからだ。

 

「行くぜヘッドギア。俺は手札からBKグラスジョーを召喚!」

 

現れたのはヘッドギアよりも一回りは大きな緑色の巨体の男。ヘッドギアの装備が赤いのに対し、黒い装備を持つ巨体の男は見た目通りのパワーファイターだ。

 

――――――――――――――――――

BKグラスジョー

効果モンスター

星4/炎属性/戦士族/攻2000/守0

このカードが攻撃対象に選択された時、このカードを破壊する。

このカードがカードの効果によって墓地へ送られた時、自分の墓地から「BK グラスジョー」以外の「BK」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

――――――――――――――――――

 

2000というレベル4では破格の火力を持ちながらも、相手の攻撃対象となったときに自壊するという効果を持つカード。その自壊ですら仲間を呼ぶ布石にはなるが、この巨体がそんな効果を持つ由来を考えるにコイツは試合では悪役(ヒール)なのではないだろうか。暴力的なその体躯、それが敗北することの熱狂。……そう考えると根は良い奴なのではと思わざるを得ない。

 

「攻撃力2000じゃ、無理」

 

「だな。ハ・デスには及ばない。だからこそ、こうするんだよ。俺はレベル4のBKヘッドギアとBKグラスジョーをオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

俺の宣言と同時にヘッドギアとグラスジョーはお互いに視線を向け拳をぶつけ合い、その姿を輝く流星へと変え天高く昇る。

 

「……まさか」

 

女性がぼそりと何かをつぶやくが、俺は興奮していてそれどころではない。実はエクシーズをソリッドヴィジョンでやるのは初めてなのだ。今までは何となく自重してきたが、アカデミアに通うにあたってその制限を解こうと思った矢先の出来事。今まではカエル帝とか使っていたのだが……あぁ、もうテンション上がるなぁオイ!

 

流星はそのまま空に突如現れたブラックホールのようなの渦巻きへと飲み込まれ、一瞬の静寂の後に光が溢れ出していく。

 

「エクシーズ召喚!魂に秘めた炎を、拳に宿せ!BK拘束蛮兵リードブロー!」

 

光の中から現れたのはグラスジョーを越す巨体。鎖と錠前で封じられた巨躯の男を中心として赤く輝く恒星が二つ。赤く輝くのはエクシーズ召喚に使ったモンスターが炎族であり、二つである理由はその二つがヘッドギアとグラスジョーだからだ。二体のモンスターによる結束。それがエクシーズ。

 

「あぁ、最っ高に楽しくなってきた」

 

知らず知らずの内に声に熱が篭る。魂が震える。カードが、魂が、デッキが、手札が、フィールドが、世界が、ピリピリと心地よく俺を燃やす。よくわからない能力で生み出したカードではあるが、まるで意思を持つかのように俺に答えてくれるのがわかる。

 

だからこそ、きっと漸くの出番にこいつらは喜んでいるのだろう。

 

「行くぜリードブロー」

 

宣言と同時にリードブローは構えを取りジャラリと絡みついた鎖を鳴らす。それを了承と取り知らずに握っていた拳を突き出しながら攻撃宣言する。

 

「待って」

 

前に止められた。静かに佇む銀髪の女性はそのままもう一枚の伏せカードを発動する。

 

「罠カード発動、これ」

 

表側になったカード名は奈落の落とし穴。攻撃力1500以上のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に対して発動し、そのモンスターを破壊し除外するという準制限カード。というか、制限と準制限とはずいぶんと恐ろしいデッキだ。ファンデッキ殺しにも近い。

 

ま、それを使うならグラスジョーにするべきだったな。

 

「俺はBK拘束蛮兵リードブローの効果発動。このカードが破壊されるとき、代わりにエクシーズユニットを一つ取り除くことができる。故に破壊されなかったリードブローは除外されることもない!」

 

召喚されたリードブローの足元に何時の間にか空いていた大穴。そこに飲み込まれる瞬間、自身の周囲を回っていた恒星の一つがリードブローの拘束へとぶつかることで拘束を砕く。身軽になったリードブローはそれを跳んで回避し、獲物を飲み込むことに失敗した大穴は消えていく。

 

「残念」

 

そう呟く女性には悪いが、それだけがリードブローの効果ではない。

 

「さらに追加効果発動だ。リードブローはエクシーズユニットが取り除かれたリードブローは僅かながら自由を取り戻した。身軽になったリードブローは攻撃力を800ポイント上昇し攻撃力は3000となる!」

 

――――――――――――――――――

BK拘束蛮兵リードブロー

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/炎属性/戦士族/攻2200/守2000

「BK」と名のついたレベル4モンスター×2

自分フィールド上の「BK」と名のついたモンスターが戦闘またはカードの効果によって破壊される場合、その破壊されるモンスター1体の代わりにこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事ができる。

また、このカードのエクシーズ素材が取り除かれた時、このカードの攻撃力は800ポイントアップする。

――――――――――――――――――

 

「行けリードブロー!」

 

ドン!と重く響く踏み込みとともに、先ほど自由になった腕を大きく振り被り睨みつけるのは冥界の魔王ハ・デス。使用したエクシーズユニット――ヘッドギアによりこの自由になった拳に込められた思いは重くハ・デスを打ち抜いた。肉を通して骨を打つわけではなかったためか、骨の折れる音が妙に大きく響きハ・デスは塵となって消える。

 

「くぅ……まだ、問題ない」

 

謎の女性決闘者

LP3800→3250

 

「だろうな……さて、カードを一枚伏せてターンエンド」

 

――――――――――――――――――

仲人夕人

手札2

モンスター

・BK拘束蛮兵リードブロー

魔法罠2

――――――――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

ガチ寄りな編成の相手のドローは何時も怖いけれど、次の手が気になってくる。楽しいなぁ、と内心で呟きながら相手の墓地を思い起こす。アンデットデッキだけではなく、墓地は第二の手札とも言われている。フィールドで戦い、デッキや手札から送られた可能性と戦士達の眠る場所。眠れる獅子を数えることは大事な要素だといえる。

 

えっと……おろかな埋葬、ゾンビキャリア、神の宣告、奈落の落とし穴、冥界の魔王ハ・デスってところだったか。やはりこの中だと怖いのはゾンビキャリアだな。コイツは墓地から自発的に復活することができるってのが強みだからな。

 

幾つかのシンクロモンスターを想起していると、相手もタクティクスを考え終えたのか手札のカードを手に取った。

 

「ゴブリンゾンビを召喚」

 

現れたのはその名のとおりゴブリンのゾンビ。ボロボロの死体ではあるが、生前からの得物であろう曲刀だけがギラギラと輝いている。

 

「魔法発動、生者の書。あなたの墓地のBKヘッドギアを除外。ゾンビキャリアを復活」

 

俺のフィールドに穴が空き、そこから覗いたのはヘッドギア。墓地から急にたたき起こされたヘッドギアは驚いたように周囲を見るが、相手のフィールドに浮かんでいる緑色の書物が紫の輝きが増していく事にヘッドギアが体をガクガクと震わせながら膝をついた。そのまま倒れ込んだヘッドギアはフィールドの穴に戻ることもなく消えていった。

 

「ヘッドギアぁああああ!?」

 

生者の書。相手の墓地のモンスターを除外して自分の墓地のモンスターを復活させる魔法カード。ソリッドヴィジョンだとこんなに酷い映像を見るハメになるのか。

 

「レベル2のゾンビキャリアとレベル4のゴブリンゾンビでチューニング。来たれよ獣神ヴァルカン」

 

現れたのは熱された鉄をハンマーで鍛える虎の頭を持つ獣人。というかハ・デスと違ってシンクロの口上をサボった感が否めないのだが、それをボヤくよりアンデットじゃないのかよ!という叫びをあげるより……あぁ畜生と呻く。中々どうして、そいつは厄介だ。

 

「このカードがシンクロ召喚に成功したとき、私とあなたの表側表示のカードを選んで手札に戻す。私が手札に戻すのはゾンビ・マスター。あなたはBKリードブローを」

 

獣人の鍛える鉄の音が響き熱が周囲を包み込む。火・鍛冶の神ウルカヌスを英語読みするとヴァルカン。その火事の音色は不思議と心地よく、神話の重みが武器ではなく音色を通して響き渡る。

 

「リ、リードブロー!」

 

エクストラデッキへと戻すことになったリードブローがフィールドから消え、同じようにゾンビ・マスターも消える。リードブローは背中しか見えなかったが、どことなくゾンビ・マスターが満足気な表情で戻っていくのが何とも言えない。成仏しそうにすら見えたが……まぁ、気にするだけ無駄か。

 

「さらに墓地に落ちたゴブリンゾンビの効果発動。フィールドからこのカードが墓地に送られたとき、守備力1200以下のモンスターを手札に加えられる。私は馬頭鬼を手札に加える。そして手札をデッキトップに戻してゾンビキャリアを特殊召喚」

 

笑えん状況になってきた。獣神ヴァルカンの攻撃力は2000、ゾンビキャリアの攻撃力は400。よって総合攻撃力は2400となり俺のLPは――

 

「行って」

 

「ぐ、ぅうおおおおおお!!」

 

残り150。火の粉で死ねるとか笑えねぇよな、オイ。

 

LP2550→150

 

「カードを一枚伏せてターンエンド」

 

――――――――――――――――――

謎の女性決闘者

手札2

モンスター

・獣神ヴァルカン

・ゾンビキャリア

魔法罠1

――――――――――――――――――

 

しかしやはりアンデットは恐ろしいな。手札の枚数的には前回のターンエンド時と変わらない。にも関わらず破壊耐性を持つリードブローを処理し、フィールドにはモンスターが二体。少なくとも手札にはゾンビ・マスターか馬頭鬼がいるため、次のターンにはゾンビ・マスターのコストで馬頭鬼を落として馬頭鬼を除外して復活させて……と再生の準備まで整っている。

 

まぁ、だからと言って負ける心算など欠片もない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

……うん、一手遅かったというべきか。それとも相手の展開速度が早かったというべきか。まぁ、最悪の可能性を回避できるいいカードだ。手札のカードも良好。イケるな。

 

「俺はBKスイッチヒッターを召喚する!コイツの効果はシンプル。墓地のBKを呼び起こす――来いグラスジョー!」

 

除外されたヘッドギアと同じ赤いグローブを持つスイッチヒッターだが、ヘッドギアは付けておらず代わりにフードのようなものを被っている。シャープな印象を受けるスイッチヒッターが拳を打ち鳴らすように地面に叩きつけると、グラスジョーが眠りから覚め帰ってくる。

 

――――――――――――――――――

BKスイッチヒッター

効果モンスター

星4/炎属性/戦士族/攻1500/守1400

このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の「BK」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。

この効果を発動するターン、自分は「BK」と名のついたモンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。

――――――――――――――――――

 

「俺は俺はレベル4のBKスイッチヒッターとBKグラスジョーをオーバーレイ!二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

赤いグローブと黒いグローブが打ち合わされ、流星となった二体は渦巻きへと飲み込まれる。生み出されたオーバーレイ・ネットワークから光の奔流が吹き出し、再び燃える拳を持つ戦士が次元の彼方より現れる。

 

「エクシーズ召喚!今一度その意思を!魂に秘めた炎を、拳に宿せ!BK拘束蛮兵リードブロー!」

 

エクストラデッキへと戻されたリードブローが再びこの場に舞い戻る。拘束こそ再びついているが、その瞳に、拳に宿る燃える炎は先ほどとは段違いの迫力がある。何もできずに返されたのが不満だったのだろう。良い気迫だ。

 

「そして俺は魔法カード鬼神の連撃を発動!」

 

――――――――――――――――――

鬼神の連撃

通常魔法

自分フィールド上に表側表示で存在するエクシーズモンスター1体を選択し、そのエクシーズ素材を全て取り除いて発動する。

このターン、選択したモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

――――――――――――――――――

 

「このカードはエクシーズモンスターのエクシーズユニットを全て取り除いて発動できる。このターン発動したモンスターは二回攻撃することができる。そしてエクシーズユニットが墓地に送られたことで効果発動。エクシーズユニットが自身の拘束を砕き、その攻撃力を800ポイント上昇する!更にィ!効果によって墓地に送られたグラスジョーの効果発動!墓地からグラスジョー以外のBKを手札に加えることができる!俺はスイッチヒッターを手札に加える!」

 

砕けた拘束が腕周りのみで万全とは言えないが、その鬼神の連撃の効果か熱く燃えるその闘志は更に強く燃え上がる。

 

「お前のモンスターの攻撃力の合計は2400。リードブロー二連撃分で合計6000。その差3600でお前のLPは0。俺の勝ちだ」

 

「……」

 

「じゃあな、楽しかったぜ。BKリードブローでまずはヴァルカンにアタック!」

 

リードブローの拳が神話の鍛冶師へと逆襲を果さんと駆け抜ける。リードブローの間合いに入る数歩手前、相手のフィールドに伏せられたカードが発動するのが見えた。

 

「罠発動。次元幽閉」

 

罠カード次元幽閉。効果は攻撃モンスター一体を選択してそのカードを除外するというシンプルかつ、非常に強力なカードだ。強制脱出装置に最近は変わっていたが、使われれば呻き声をあげたくなるカードである。

 

リードブローが踏み込む先に異次元へと繋がる門が開く。例え破壊耐性があったとしても除外という手段を取られればリードブローに成すすべはない。

 

「これで私の勝ち」

 

一瞬無表情だった相手の表情にドヤ顔のような雰囲気が浮かんだ気がしたが見間違いだろう。そしてあえて言わせてもらおう。

 

「宣言したはずだぜ、俺の勝ちだってな!カウンター罠発動、ジョルト・カウンター!」

 

――――――――――――――――――

ジョルト・カウンター

カウンター罠

自分フィールド上に「BK」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。

バトルフェイズ中に発動した効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する。

――――――――――――――――――

 

「ジョルト・カウンターはBKがフィールドにいるときに発動できるカウンター罠。バトル中の横槍を粉砕してお互いの実力だけで勝負させるためのカードだ。次元の彼方に幽閉する?甘い!温い!そんなモンは拳で砕いて突き進めリードブロー!」

 

空気を切り裂く拳が摩擦で燃え上がり次元の門へと叩きつけられる。本来ならばその一撃をも飲み込むはずのソレは燃え盛る拳を受けたことにより、一瞬たわみ内側から炎が焼きつくしていく。一撃でダメならもう一発。リードブローが獣の如く吠え、第二撃を叩きつけ――――次元を門を粉砕した。

 

「……嘘」

 

「嘘じゃない。最初に宣言したはずだ『油断すれば容易く燃え尽きるぜ』ってな。エクストラデッキに戻して勝ったと思ったか?次元の彼方に吹き飛ばせば勝ったと思ったか?甘い、甘すぎる。俺の拳は小細工を燃やし尽くして粉砕する!」

 

リードブローの一撃が神話の鍛冶師を粉砕し、その余波が彼女を襲う。

 

LP3250→2250

 

「だからもう一度だけ宣言しよう。俺の勝ちだ」

 

目の前で自分よりも格上の存在が粉砕されたのを見たせいか、ゾンビキャリアは呆然と立ち尽くしており抵抗しようという気力すらわかないようだ。だが、リードブローは容赦なく拳を構え、必殺の一撃を放つ。

 

そもそもリードブローとは正確性と速度重視した(ジャブ)のことだ。BKに限定はされるがレベル4が二体という簡単さ。エクシーズユニットがある場合の破壊耐性。安定した運用のできる頼りになる存在。フィニッシャーたる実力を持ちながら、リードブローという名を持つBKのエース。

 

後続へと続けるヘッドギア。何処からともなく反撃の力を授けるカウンターブロー。ヒールでありながら墓地で眠る戦士を手助けするグラスジョー。眠れる戦士を呼び覚ますスイッチヒッター。

 

「楽しかったぜ」

 

「そう」

 

俺の感想に対して返した言葉は端的ではあったが、どことなくショボくれた子供のような反応だった。

 

LP2250→0

 

ソリッドヴィジョンが解けていく。その直前に勝利を掴んだリードブローが此方に向き直ったので、拳を突き出してやればリードブローは一度だけ頷き拳を此方へと突き出した。今更ながらお前ら随分と人間味がある行動とるなぁ、と苦笑してしまう。

 

「……負けた」

 

「おう、俺の勝ちだな。さっきも言ったけど楽しかったぜ」

 

「そう」

 

表情、変わらない。無表情だ。

 

視線、ブレない。こちらを真っ直ぐに見てくる。

 

背筋、伸びている。疲労の後は全く感じられない。

 

決闘後だというのに傍目から見れば余裕も余裕。体力も精神力も充分な余裕があるようだが、どうしてか落ち込んでいるとわかってしまう。なんだこれ。表情も、視線も、背筋も完璧に出会ったときと変わらないのに、何故だか落ち込んでいるのだとわかる。

 

「私負けた」

 

「そうだな」

 

「どく」

 

スっと道を開けてくれたのでそこを通ろうとするのだが、視線がこちらを追尾してきているのが感じ取れる。決闘者特有の技能とでも言えばいいのか、決闘後というのは特に感覚が鋭敏になっているため見られているのがわかる。

 

振り返ればこちらをジッと見ている。睨むでもなく見ている。虫を観察するような無機質な視線であるが、全身が落ち込んでいますオーラをまとっているため、どことなく漂うダウナー感が非常に厄介なことに罪悪感を覚えさせる。

 

「……」

 

「……」

 

お互いに無言。視線を切るようにしてカードショップへと向かうのだが、聴覚が後ろから響く靴音が気になって仕方がない。ピタリと止まれば靴音も止まった。幾つかの考えを纏め、そうして一つの答えを出す。

 

「あのさぁ」

 

「なに?」

 

「エクシーズ召喚って知ってるか?」

 

少しばかり会話してみよう、と思う。

 

最近のカードプールにも詳しいだろう、なんて言い訳も思考の片隅に置きながら言葉を紡いでいく。ソリッドヴィジョンを使った決闘は楽しかったのだ。俺の何が知りたいのかは知らないけれど、少しくらいなら付き合っても良いだろう。

 

「少しだけ」

 

「そっか。あぁ、それとさ俺の名前は仲人夕人。仲人はそのまま結婚式とかの仲人で夕人は夕暮れの人。お前は?」

 

「私、レイン。レイン恵。」

 

絡まれて、決闘して、テンション上がって、なし崩しに名前交換。

 

そんなどうしようもない出会いが俺とレインの始まりだった。




な、長い。遊戯王のSS書いてる人を本気で尊敬するレベル。
わずか数ターンの出来事で文字数が16156文字。これは失踪者が多いのがよくわかる。
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