剛魔諸(女)に転生したので楚将として頑張ってみる   作:胡椒砂糖塩

1 / 4
戦国七雄では楚が推し国家なのですが、原作では散々らしいので書きました。

主人公についてですが、憑依してかなり年月が経っているため普通に楚に対して愛着持ってます。


プロローグ

 関中(かんちゅう)という土地がある。

 

 その名の通り、『関所の内側』という意味だ。

 

 古昔、中華の西方に四方を山脈に囲まれた台地があって、そこに住み着いた人々がいた。

 

 陸の孤島と呼ぶべき土地の中で開墾を行い、(むら)がつくられ、やがて国ができた。現在の秦国の原型である。

 

 国の成長とともに、外界―山の向こう側―との交流も生まれた。

 

 必然的に四方に通じる道路の整備が求められた。

 

 隘路(あいろ)を削って広い山道を作り、谷の両側に支柱を打ち立て綱を渡して橋を架け、時に通行を阻害する大岩を砕いたり高低差の激しい個所を埋め立てて(なら)したりした。

 

 通行の容易(たやす)くなった四方の道は便利だったが、それは外敵にとっても同じであり、それぞれの道には招かれざる客を撃退するための巨大な関門(かんもん)が建設されることになる。

 

 それが北の簫関(しょうかん)、西の散関(さんかん)、南の武関(ぶかん)、そして東の函谷関(かんこくかん)。天を突く絶峰と堅牢な関所の内側の土地。

 

 『関中』という呼び名には、侵入者を決して許さないという秦人の決意と自負が見て取れる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「剛魔諸様。汗明様より軍議の招集でございます。」

 

「すぐ行くわ。」

 

 天幕の外から聞こえる声に軽く返事を返すと同時、濡れた絹布をギュッと絞って物干しにかける。

 

 到着早々軍議とは。遠征中だから仕方ないが、おちおち汚れた体を拭くことも出来やしない。

 

「お風呂とは言わないけど、水浴びくらいしたいなあ。」

 

 ぐちぐちと文句を呟いてみるが、まあ無理だ。何せ何万人という大軍勢の駐屯地である。

 

 貴重な清水が湧き出る水源は革袋や竹の水筒、煮炊き用の鍋を抱えた兵士で長蛇の列。

 

 争いが起きないよう司馬(しば)(軍警察)の部隊が簡易の柵まで立てて管理しているありさまである。

 

 体を拭く用の水が支給されているのはむしろかなりの好待遇であった。

 

 足しにならない愚痴をしまい込むと、楚の独特な刺繍が入った着物に袖を通し、長い黒髪をやや雑にまとめて膵玉(エメラルド)(かんざし)を差し込む。

 

 (よろい)は流石に要らないか。胸当てだけつけて行こう。

 

 最後に腰帯に長剣を()いて天幕を出ると、伝令の兵士が待っていてくれた。

 

「ご案内いたします!」

 

「ありがとう。頼むわね。」

 

 ニコリとほほ笑んでお礼を言うと、兵士が一瞬呆けたように固まる。兵卒にお礼を言うといつもこうだ。

 

 まあ、この世界のお偉いさんって一般兵にお礼を言うなんてまずしないから、驚く気持ちは分からなくもないけれど。

 

「あ、そうだ。牛扇(ぎゅうせん)。中に置いてある(おけ)の水、もう使わないから馬に飲ませておいてくれる?」

 

 固まる兵士から目線を外し、天幕の横に座り込んでいる大男に声をかける。

 

 頼れる専属の護衛兵は黙ったままコクリと頷いて見せた。

 

「ありがとう。さあ、案内してくれるかしら。」

 

「は、はい!こちらです!」

 

 兵士の示した方向を見ると、山間から差し込む西日がもうずいぶん色づいているのに気が付いた。

 

 軍議が終わるころには夜になっているかもしれない。

 

 一瞬、牛扇についてきてもらおうかと思ったが、まあ、楚の本陣の中ならば変な連累(れんるい)もでないだろうと思いなおした。

 

 それにしても、軍議に出席する男衆(おとこしゅう)はちゃんと体を洗っているのかしら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「遅い。」

 

 本陣の大天幕に入って、開口一番怒られた。上座に座る汗明将軍―ではなく、その左に座っている臨武君からのお叱りである。

 

「営所の作りを見届けてからこちらに向かったものですから。何せ私の陣は最も外縁にありますので。」

 

 しれっと言い訳して座に加わる。

 

 この人に限らないが、将軍って常に尊大というか、肩ひじを張っている人が多い。

 

 奥さんが聞かせてくれたあんたの家庭でのツンデレぶりを全軍に触れ回ってやろうか?

 

「…そろったのであれば始めるとしよう。」

 

 臨武君の額に青筋が立ったところで汗明将軍が口を開いた。

 

 流石の臨武君も視線をそちらに移して押し黙る。

 

「我ら楚軍の受け持ちは左翼側と決まった。函谷関正面は魏軍、右翼は趙軍となる。燕軍は趙軍のさらに奥から山間部の突破を狙う。」

 

 将軍居並ぶ座の真ん中に敷かれた戦場図に目線をやりながら、汗明将軍が各国軍の大まかな配置を述べていく。

 

 各軍の駒は最初から置いてあるのでぶっちゃけ見れば分かるのだが…陣触(じんぶ)れは大将軍が通達する決まりなのだ。

 

 一種の儀式みたいなものである。

 

「我が軍の細かな陣形と各隊の役割については…仁凹。述べよ。」

 

「は。」

 

 詳細は軍師筆頭のおじいちゃんにバトンタッチ。これもいつもの流れだ。

 

 仙人みたいな髭を生やしたご老人が細かな配置を示していく。

 

 もごもごした口の動きのわりに声ははっきりしていて聴きとりやすい。配置についても一々理由を付け加えてくれていた。

 

 この時代としては、そして楚の国の軍としてはかなり洗練された説明である。

 

 戦場に居て分かったこととしては、兵士は具体的な命令とはっきりした配置を好むということが一つあった。

 

 自分はなぜそこにいるのか、自分は何のために何をすればいいのか、それが分かっていない兵士は脆い。

 

 ちょっとしたことで混乱したり、持ち場を離れてしまったりする。

 

 この時代、電話も何もない。

 

 居場所の分からない部隊には指示を出すすべがないので戦力にならず、どの部隊が何をしているのかは時とともによく分からなくなっていく。

 

 だからこそ、事前の通達はよほど適切なものでないといけなかった。

 

 役割を終えたらどうするのか、不測の事態はまずどこに報告するのか、撃破された場合の再集合地はどこにするのか。

 

 特に、敵の動きに対応するための予備兵力の配置と割り振りは戦場の死活だ。

 

 勝つにしろ負けるにしろ、兵士たちが混乱しなければ被害はぐっと抑えられる。その責任は現場の指揮官と目の前の老人にかかっていた。

 

「…以上。」

 

 その言葉で長々とした説明が終わると、張り詰めていた座の空気が少し弛緩した。

 

「同内容を記した竹簡を、正式な軍令として後で各自に送ることになる。そうなれば(たが)うことはまかりならん。異議のある者はこの場で申し述べよ。」

 

 汗明将軍の言葉に対し、座のほとんどが押し黙る。

 

 臨武君は戦場での勘はいいが脳筋だし、貝満はおじいちゃんの仕事を信頼しているから口を挟まない。

 

 にやにや笑っている媧燐さんはスタンドプレー型の人なので全体のことには関心がなかった。なので…

 

「一つよろしいでしょうか。」

 

 文句をつけるのは私だけだ。




とりあえず導入。こんな感じで地の文多めに楚陣営視点で話が進みます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。