剛魔諸(女)に転生したので楚将として頑張ってみる 作:胡椒砂糖塩
主人公についてですが、憑依してかなり年月が経っているため普通に楚に対して愛着持ってます。
その名の通り、『関所の内側』という意味だ。
古昔、中華の西方に四方を山脈に囲まれた台地があって、そこに住み着いた人々がいた。
陸の孤島と呼ぶべき土地の中で開墾を行い、
国の成長とともに、外界―山の向こう側―との交流も生まれた。
必然的に四方に通じる道路の整備が求められた。
通行の
それが北の
『関中』という呼び名には、侵入者を決して許さないという秦人の決意と自負が見て取れる。
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「剛魔諸様。汗明様より軍議の招集でございます。」
「すぐ行くわ。」
天幕の外から聞こえる声に軽く返事を返すと同時、濡れた絹布をギュッと絞って物干しにかける。
到着早々軍議とは。遠征中だから仕方ないが、おちおち汚れた体を拭くことも出来やしない。
「お風呂とは言わないけど、水浴びくらいしたいなあ。」
ぐちぐちと文句を呟いてみるが、まあ無理だ。何せ何万人という大軍勢の駐屯地である。
貴重な清水が湧き出る水源は革袋や竹の水筒、煮炊き用の鍋を抱えた兵士で長蛇の列。
争いが起きないよう
体を拭く用の水が支給されているのはむしろかなりの好待遇であった。
足しにならない愚痴をしまい込むと、楚の独特な刺繍が入った着物に袖を通し、長い黒髪をやや雑にまとめて
最後に腰帯に長剣を
「ご案内いたします!」
「ありがとう。頼むわね。」
ニコリとほほ笑んでお礼を言うと、兵士が一瞬呆けたように固まる。兵卒にお礼を言うといつもこうだ。
まあ、この世界のお偉いさんって一般兵にお礼を言うなんてまずしないから、驚く気持ちは分からなくもないけれど。
「あ、そうだ。
固まる兵士から目線を外し、天幕の横に座り込んでいる大男に声をかける。
頼れる専属の護衛兵は黙ったままコクリと頷いて見せた。
「ありがとう。さあ、案内してくれるかしら。」
「は、はい!こちらです!」
兵士の示した方向を見ると、山間から差し込む西日がもうずいぶん色づいているのに気が付いた。
軍議が終わるころには夜になっているかもしれない。
一瞬、牛扇についてきてもらおうかと思ったが、まあ、楚の本陣の中ならば変な
それにしても、軍議に出席する
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「遅い。」
本陣の大天幕に入って、開口一番怒られた。上座に座る汗明将軍―ではなく、その左に座っている臨武君からのお叱りである。
「営所の作りを見届けてからこちらに向かったものですから。何せ私の陣は最も外縁にありますので。」
しれっと言い訳して座に加わる。
この人に限らないが、将軍って常に尊大というか、肩ひじを張っている人が多い。
奥さんが聞かせてくれたあんたの家庭でのツンデレぶりを全軍に触れ回ってやろうか?
「…そろったのであれば始めるとしよう。」
臨武君の額に青筋が立ったところで汗明将軍が口を開いた。
流石の臨武君も視線をそちらに移して押し黙る。
「我ら楚軍の受け持ちは左翼側と決まった。函谷関正面は魏軍、右翼は趙軍となる。燕軍は趙軍のさらに奥から山間部の突破を狙う。」
将軍居並ぶ座の真ん中に敷かれた戦場図に目線をやりながら、汗明将軍が各国軍の大まかな配置を述べていく。
各軍の駒は最初から置いてあるのでぶっちゃけ見れば分かるのだが…
一種の儀式みたいなものである。
「我が軍の細かな陣形と各隊の役割については…仁凹。述べよ。」
「は。」
詳細は軍師筆頭のおじいちゃんにバトンタッチ。これもいつもの流れだ。
仙人みたいな髭を生やしたご老人が細かな配置を示していく。
もごもごした口の動きのわりに声ははっきりしていて聴きとりやすい。配置についても一々理由を付け加えてくれていた。
この時代としては、そして楚の国の軍としてはかなり洗練された説明である。
戦場に居て分かったこととしては、兵士は具体的な命令とはっきりした配置を好むということが一つあった。
自分はなぜそこにいるのか、自分は何のために何をすればいいのか、それが分かっていない兵士は脆い。
ちょっとしたことで混乱したり、持ち場を離れてしまったりする。
この時代、電話も何もない。
居場所の分からない部隊には指示を出すすべがないので戦力にならず、どの部隊が何をしているのかは時とともによく分からなくなっていく。
だからこそ、事前の通達はよほど適切なものでないといけなかった。
役割を終えたらどうするのか、不測の事態はまずどこに報告するのか、撃破された場合の再集合地はどこにするのか。
特に、敵の動きに対応するための予備兵力の配置と割り振りは戦場の死活だ。
勝つにしろ負けるにしろ、兵士たちが混乱しなければ被害はぐっと抑えられる。その責任は現場の指揮官と目の前の老人にかかっていた。
「…以上。」
その言葉で長々とした説明が終わると、張り詰めていた座の空気が少し弛緩した。
「同内容を記した竹簡を、正式な軍令として後で各自に送ることになる。そうなれば
汗明将軍の言葉に対し、座のほとんどが押し黙る。
臨武君は戦場での勘はいいが脳筋だし、貝満はおじいちゃんの仕事を信頼しているから口を挟まない。
にやにや笑っている媧燐さんはスタンドプレー型の人なので全体のことには関心がなかった。なので…
「一つよろしいでしょうか。」
文句をつけるのは私だけだ。
とりあえず導入。こんな感じで地の文多めに楚陣営視点で話が進みます。