ゲーム「仁王2」の二次創作小説です。
短編1話完結。

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飛翔篇「墨俣妖捕り物」が終了したあとの秀と蜂須賀小六です。
河童を倒す手順でミッション達成しています。


すのまた川下り

 仕込棍で足を払う。

 ころんだ河童に、小六の分銅が命中した。甲羅が砕ける。血が噴き出し、河童は倒れて息絶えた。

「あった。俺の鎌だ」

 甲羅に隠されていた鎌を拾い上げる。

 蜂須賀小六の鎖鎌が盗まれた。秀と小六は墨俣に出向かい、河童を追いかけ、そして取り返した。

「その棒、伸びるのか」

 小六は秀の仕込棍を見た。

 世間にはあまり知られていない。一見して細長い棍棒だが、鍛冶技術と陰陽術を用いた内部機構があり、複雑に変形する。

 長さを伸ばして、逃げていく河童にも届いた。鎖鎌に劣らない間合い。

「やっぱり使い慣れた奴がいいよな」

 予備の鎖鎌から持ち替える。手に戻った鎌は、鎖分銅を鉤縄にした小六の専用品。刃にも意匠が見られる。

 無事に取り返す。一件落着に思えた。

「……妙だったんだよな」

 小六は少し首をかしげる。

「河童の奴、なにか怯えてなかったか。俺達にじゃない」

 言われてみると、秀にも違和感があった。ただの泥棒とは違う。不審な挙動が見られた。

 宙に浮かぶ河童の魂代。小六は手をかざして腕に憑着させた。

「これは俺が預かるぜ。どこに逃げるつもりだったのか追いかけてみる。もう少し付き合ってくれねえか」

 秀がうなずく。

「悪いな。この借りはきっちり返すぜ。よっと」

 小六は川に飛び込む。

「俺は下流まで泳いでいくから、お前は道を……お?」

 振り返り見上げると秀の姿がない。

 すぐ隣りにいた。小六と同時に川に飛び込んでいた。

「その鎧で泳げ、いや、おい!」

 水中での戦いを想定した小六の装備と違い、秀は軽装ではあるものの具足を着用していた。

 川から顔を出していたのも束の間。落下するように沈む。

「やめろ、待て!」

 川底に手をのばした。

 

 秀を川から引き上げる。

「なんなんだお前は……もう今ので借りは返したからな」

 川に逃げた河童を追うと聞いて飛び込んだ。泳げるかは考えていなかった。

 少し水を吐いて立ち上がる。

「立てるな。そのまま川下に行け。俺は川の様子を見ながら行く」

 墨俣にいる妖怪が集まり、川並衆と呼ばれる組合ができた。武家ではないが、生きていくために多少の力を合わせている。

 小六は川並衆の代表的存在。墨俣に異変が起きているのであれば、見過ごすわけにはいかない。

「この川は堰で止められてんだ。俺が来たら堰を下げろ。水が流されて、降りられるようになる」

 話が終わると、小六は川に潜る。水中を見回しながら、河童の逃げようとした先に泳ぐ。

 秀は仕込棍を素振りした。水につけたが壊れてはいない。

 小六に言われた通り、坂道を歩いて川を下る。

 清流が美しい。木々が生い茂る。日差しと木陰。川を追いかけて風が吹く。墨俣は平穏だった。

 近くでは織田信長と斎藤義龍が対立していた。一時は荒魂が強まる。秀と藤吉郎が、小六に助力して鎮めた。

 以後、小六は藤吉郎に協力するようになる。織田の勢力に含まれてはいるが、川並衆の大半は人間との関わりを持たなかった。

 川ぞいに歩けば妖怪を見かける。

 秀も小六とは親交がある。川並衆には知れ渡っていた。邪魔立てする者はいない。

 墨俣を見て思う。なぜあの河童は小六の鎌を盗んだのか。川並衆の顔役にして、妖怪の身と人間の武術を併せ持つ半妖。ましてや河童とあれば、同族とすら言えた。

 足元が濡れた。

 思案しているうちに下流まで来た。川に落ちる寸前だった。小六から聞いた通り、川が堰で止められている。小六から聞いた通り、仕掛け棒を動かして堰を下ろす。

 一方、小六は川を泳いでいた。秀と同じく、不審な様子は見当たらない。秀には合流してから堰を下ろすように伝えてある。

 急に水位が下がる。川の水が押し流されていく。何者かが堰を下ろした。何者、とは。

「あいつ……!」

 水がなくなり、川底に放り出される。付近の岩にぶつかりながら倒れ込んだ。水のない川で起き上がる。

 堰から秀が降りてきた。

「あの、な」

 平然としている秀に言葉も出ない。

「藤吉郎はなんだってこんな奴と……ここからは貸しだからな」

 秀が仕込棍を上段に振り上げた。小六は思わず身構える。

「なんだよ、おい?」

 片手で後方を指差す。

 振り向くと、常世が生まれていた。黄泉の入口。次々と妖怪が現れる。いずれも赤い目で敵意を放っていた。

 小六も取り返した鎖鎌を手にした。

「やろうってんだな。変なあやかしに振り回されてんだ。俺は少し機嫌が悪いぜ?」

 

 常世と妖怪が、現れては消える。

 飛び道具や麻痺毒を持つ妖怪もいた。個々の強さはさほどでなくとも、囲まれては分が悪くなる。

 仕込棍と鎖鎌なら離れて戦える。妖怪の力と数を、職人の鍛え上げた武器が上回った。自在に飛び回る曲線が狩る。

 ほどなくして、妖怪は残らず倒れた。

「逃げようとしなかったな」

 小六がつぶやく。秀も鎖鎌を盗んだ河童を思い出していた。

「このあたりの連中は川並衆じゃない。一杯食わせようとしてる奴でもいるのか?」

 水のない川を歩き、左右を見渡す。

 洞窟があった。川の上からでは見えない。水を流したおかげで姿を現した。

「なんだこれ。こんなところ、ねぐらにもできないだろ」

 秀を見る。仕込棍を手に洞窟に歩いていた。

「待て待て待て」

 小六も追いかける。

「俺も行く。お前は少し考えてからにしろ」

 洞窟に入る。

 思いがけない光景。二人は足を止めて見回した。川の形跡はない。地形の変動によって、おそらくは偶然で生まれた、水が流れ込まない隠し部屋。

 宝箱や、他にも中身の入った木箱。樽なども並んでいた。地面に置かれた袋には重さが感じられる。

「賊の隠れ家か?」

 金や武器が落ちていた。小六の鎖鎌と同じく、盗まれてきたものか。

 吹いていない風が渦巻いた。

 大きな常世から、わいらが上半身を出す。悪食の妖怪。その巨体は、水中でも地中でもなく、常世の中を潜る。

「そういう話かよ」

 線がつながる。真相に辿り着いた。

 人間も、妖怪ですらも、出入りできない洞窟。常世を潜るわいらなら棲家にできる。

 洞窟の財宝。怯えていた河童。わいらは凶悪で欲深い。河童に盗みを働かせていた。

 わいらが秀と小六を見る。鋭い爪を振り上げた。

 秀が仕込棍を構える。

「下がってろ」

 小六が手で制した。

「こいつは、俺達がやる」

 鎖鎌を収め、素手で踏み出す。

 わいらが小六を見下ろした。赤い目と青い目が向かい合う。

 小六は右腕に力を集める。河童の魂代を解放する。輝く甲羅が腕に宿る。

「俺が嫌いなのはな。弱い奴を踏みつけて、気持ちよくなってる奴」

 秀は固唾を呑んで小六の妖怪技を見た。魂代なら秀も使えるが、河童と河童により、真の力が引き出されたようだった。

 わいらの爪が襲いかかる。

 小六は身をひねりながら前進。渾身の力で右腕を叩きつけた。

「それと……そうして、自分が強いと思いこむ奴だ!」

 金剛無極。わいらは壁まで吹き飛ばされた。

 

 河童の魂代を地に置く。

「すまねえ。俺が間抜けだった」

 小六は鎌で、みずから胸を刺した。血が流れる。秀は驚き、言葉を話せないままに口を開いた。 

 鎌から血が落ちる。常世が生まれた。

「また化けて出るなら、墨俣で待ってるからな」

 魂代を供養。河童を埋葬した。

 常世は魂代を迎え入れ、やがて消えた。

「人間もあやかしも、変わりゃしねえのか」

 小六は侍が嫌いだった。民から奪い取る姿を見てきた。

 藤吉郎とは協力関係にあるものの、織田の家臣とは折り合いが悪い。

「藤吉郎は、少し違うみたいだがな」

 戦国乱世は続く。身分や家柄、人間と妖怪にある線を越えられない者に、時は進められない。

「川並衆もだ。盗みをやらせるなんて、この俺が許さない」

 次はわいらの魂代を手に取る。

「まだ供養しない。お前も今日から川並衆だ。さんざん勝手にしてたんだろ。こき使ってやる」

 秀は小六から魂代を受け取ろうとした。

「なんでだよ。やらねえよ」

 さえぎる小六に、秀は不服そうな顔を向ける。

「お前……俺の話、なんにも聞いてないよな?」

 かくして捕り物は幕を引く。国取りは終わらない。奪い合いの果てに、やがて何者かが天下を盗み取るまでは。




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