私は連邦生徒会財務室長――扇喜アオイ。今日は総決算のためにシャーレのビルを訪れた。
業務が終わり、引き上げようとしたところ――。
「アオイ、今時間ある?」
「……! え、ええ、あるわ。なにかしら、先生」
珍しく、先生に呼び止められた。
驚きと期待で、つい声が上擦ってしまった。ば、バレてないわよね……?
「アオイにお願いがあるんだ」
「お願い? 何かしら、先生」
「実は『ホストにハマらないための講習』にビデオ教材を導入しようと思ってるんだ。断り方の『良い例』を見せることで、断り方を学んでもらえると思って」
「ビデオ教材、ね。いい案だと思うわ」
「そこでお願いなんだけど、その撮影に付き合ってほしいんだ」
「えっ、私に?」
「うん、アオイに」
「……私、演技なんてしたことがないのだけれど」
「映画の撮影とかじゃなくて講習用教材だから、ある程度は棒読みでも大丈夫だよ」
「そう……でも、大役よね……」
「お願い、アオイにしか頼めないんだ」
「……!」
私にしか、頼めない。
なんだか、特別感と優越感が湧いてくる、甘美な響きの言葉だった。嬉しくて、口角が上がりそうになる。
「……そ、それなら引き受けるわ」
「本当? ありがとう、アオイ」
「期待はしないでね?」
思いがけず大役を引き受けてしまったけれど、悪い気はしなかった。
「じゃあ行こうか、アオイ」
「ええ」
移動しながら、先生に気になっていたことを尋ねる。
「講習って、具体的にどんな内容なの?」
ホストにハマらないための講習を受けるのは一般生徒だけなので、連邦生徒会関係者は講習を受けていない。
だから、詳細な内容までは知らなかった。
「普通にホストとして接客してるよ。ボディタッチしたり、個室のVIPルームへ誘導したり、支払額で競わせてお金を払っちゃうか試したりしてる」
「そう……それで本当に払っちゃう生徒がいるんだもの、驚きよね」
こういってしまうのも憚られるけど、その程度の内容なら、やっぱり私に講習は必要ない。ホス狂いになんて、なるはずないもの。
講習会場のあるフロアに到着する。講習会場の扉の前には、休憩スペースがある。
「じゃあ、私は準備してくるね。アオイは15分経ったら扉から入ってきてほしい」
「ええ、了解したわ」
――15分後。
扉を開けると――。
「……っ!!!」
煌びやかな内装の店内。黒を基調とした壁、金色のシャンデリア、仄かな青紫色に灯る壁面照明。店内には華やかなBGMが流れている。
目映さ。妖しい雰囲気。雑然とした、絢爛豪華な空間。
す、すごい……!
「ようこそ、ホストクラブ『S.C.H.A.L.E』へ」
スーツを着た男性職員が、うやうやしく私を出迎える。
私は席に案内され、革張りのソファーに座った。テーブルを挟んで向こうに、撮影用カメラを構えるキャストがいる。
「……」
空気感が、凄い。緊張して、身体に変な力が入る。
財務室長として、この会場の改装費と工事内容の資料は見たことがある。けれど、いざこうして入ってみると『夜の街』の雰囲気に圧倒される。
「この中からお好みのホストをお選びください。ひとりでも複数人でも構いません」
職員に促され、冊子を開く。様々なイケメンキャストたちの顔写真とプロフィールが並んでいる。その中に、先生の姿もあった。
撮影だし、当然先生を選ぶべきよね。
「先生でお願いします」
「かしこまりました」
そして、数秒して――。
「ご指名ありがとうございます、アオイさん」
やってきたのは、黒いシャツとグレーのスーツに身を包み、髪もホストらしく整えた先生だった。
肉食的な華やかさと、妖しげな美男子の儚さ。その両方が同居した、魔性の美貌。
――。
呼吸が止まる。心臓を鷲掴みにされ、限界まで握り締められたような感覚。
身体が、顔が、ぶわっと熱を帯びる。
イケメン。イケメンすぎる。
いくらなんでも、カッコよすぎる……!
あっヤバっ。
好きっ。
好きっ……!!!!!
先生が隣に座ってくる。それだけで、心臓がバクン!と大きな鼓動を鳴らす。
うわっ、ヤバっ、ホントにイケメンすぎる。
「アオイ、もしかして緊張してる?」
「え、えぇ、雰囲気が凄くて。それに、カメラの前で演技するっていうのも……」
「ふふっ、アオイの可愛い一面が見れて嬉しいよ」
「……っ! もうっ、からかわないでちょうだいっ」
可愛い……可愛い……。え、えへへっ……。
体が熱い。けれど、ふわふわするような、夢心地の感覚。
なんだろう、すごく楽しい。
「ん……?」
その時、私はテーブルの端に妙なものがあるのを発見した。
「これ、卓上カレンダー?」
「うん、当店オリジナルの特製卓上カレンダーだよ」
「こ、こんなものまで用意してあるのね」
手に取って、パラパラとめくってみる。どのページにも、先生が写っている。爽やかな王道コーデ、俺様系ワイルドコーデ、知的なメガネ姿コーデ。全部、ずっと見ていたくなるくらいイケメンだった。
「欲しい?」
「え、これ講習用のセットよね? 貰えるの?」
「予備の分も含めていっぱい作ってあるよ」
「そ、そうなのね」
「一個2000円だよ」
「……二個貰えるかしら」
「うん、ありがとう、アオイ」
先生がバックヤードから卓上カレンダー二点を持ってきて、袋に入れてくれる。多分、お金はお会計の時に払う感じなのね。
「ねえ、アオイ」
「なにかしら」
「いいの? こんなところに来てるってバレたら彼氏に怒られない?」
「か、彼氏……!? 彼氏なんて、いないけれど」
「えっ、ウソっ、そうなの? アオイ、可愛いから絶対彼氏いると思ってた」
「……っ!!!」
「もっと早く知りたかったな。今までアプローチとか控えてたから」
「!?!?!?!?!?」
え、え、えっ!?
彼氏いるって思ってなかったら、アプローチ掛けるつもりだったの……!?
というか、今そう分かった時点で、もしかしてアプローチされるの!?
い、いや、期待しちゃダメ! 喜んじゃダメよ私! これはあくまで撮影なんだから!
「ねえ、アオイ、私がアオイの彼氏に立候補してもいいかな?」
「~~~~~~~~~っ!!!」
すごっ! ホストクラブってこんなに口説かれるの!? これ、すごい求められてる感じする! 気分いい! ドキドキする!
って! ダメよ私! これは教材用ビデオの撮影なんだから! 良い例になるよう、毅然と対応しなきゃ……!
「だ、ダメよ。そういうのは遠慮するわ」
「そっか、ちょっと急だったね。ごめんね」
「えっ……」
もっと口説いてよ!!!!!
カメラある都合上こっちは断るしかないんだから!
くっ……!!! 撮影してなければもうちょっと楽しむのに!
先生は引き下がり、話題を変える。
「なにか飲む?」
メニュー表を見る。……奮発したら、もっと口説いてもらえるのかしら。
「じゃあ、エメラルドバブルをお願い」
「ありがとう、今持ってくるね」
先生がバックヤードに行き、ボトルを持ってくる。たった今冷蔵庫から取り出したのか、白い冷気を纏っている。
先生はグラスにエメラルドバブルを注いでくれた。ふたりで乾杯する。
こ、これくらいなら、いいわよね? 普通の喫茶店でもこれくらい高い飲み物あるものね……。
「こうやってアオイとふたりで話せるの、嬉しい」
「ど、どうしたの改まって。今日だって総決算のためにふたりで話してたじゃない」
「逆にいうと、アオイとは総決算の時くらいしか会えないからね。アオイが帰っちゃった後、毎回寂しいよ」
「……!!!」
「アオイと毎日会えたらいいのにな、なんて」
「~~~~~~~~~っ!!!」
だめだ、これ。口角上がる。抑えられない。ニヤニヤしちゃう。
嬉しい。嬉しすぎる。
走り出したくなるほどテンションが急上昇していく。
すごい。こんなに口説かれるの、初めて……。嬉しい……。もっと言われたい……。
確か、講習では2万円まではセーフなのよね? なら――。
「先生、プリズムシャワーもいただくわ」
「本当? ありがとう、アオイ」
先生が二本目のボトルを持ってきてくれる。
大丈夫、これでも金額は1万7千円にしかなってない。本物の講習だとしてもセーフの判定だ。
先生がプリズムシャワーをグラスに注いでくれる。
その直後――先生が、腕を絡めてきた。
「!?!?!?!?!?!?!?」
え、な、何が起こって……!?
「アオイとくっつきたくなっちゃった」
「せ、先生っ……!?」
先生の綺麗な顔が、より近付く。魔性の美貌に見惚れて、心臓が早鐘を鳴らす。
しかも、男の人と腕を組んで、密着して……こんなの初めて……! すごい、すごいすごいすごい!
私、今、幸せ!!!!!
「ねえ、アオイ、こっちのゴールドエンジェルもどう?」
「……っ!」
頼みたい。注文したい。でも、もう合格ラインの2万円を超えてしまう。
「だ、ダメよ! これ以上はダメ!」
「どうしても?」
「だって、これ以上は……!」
ん? あ、あれっ……?
色々あって忘れてたけど、最初に卓上カレンダー買ったから、もう2万円オーバーしてる……?
血の気が引く。これ、講習だったら不合格ライン越えちゃってるじゃない。教材用の「良い例」の撮影をしなきゃいけなかったのに……。
「あ、あの、私もう2万円以上払ってしまったのだけど……」
「私のために沢山お金使ってくれてありがとう。アオイの想いが伝わってくるよ」
あ、あれ、カメラ止めないの……? 先生も、演技を続けてるし……。
あ、そっか、そうなのね。元々講習じゃないから、別に2万円以上払ってもいいのね。
だったら……もっといってもいいわよね?
「ゴールドエンジェル、注文するわ」
「本当? ありがとう。大好きだよ、アオイ」
「~~~~~~っ!!!」
先生が持ってきて注いでくれたゴールドエンジェルで乾杯する。本当に美味しい。人生で飲んだドリンクの中で、一番美味しい。
ノンアルコール飲料のはずなのに、身体が熱くなって、意識がふわふわしてくる。きっと、ホストクラブの雰囲気のせいだ。
「ねえ、先生」
「なに?」
「リン行政官のこと、どう思ってるの?」
「え、どうして?」
「リン行政官のことだけリンちゃんって呼んでるじゃない。それに、私相手だと一歩引いてるのに、リン行政官の時はあんなに親しげで、楽しそうにして……」
先生が座り直し、私とぴったり肩がくっつく。さらに、絡めた腕もより強く、ぎゅっと密着する。
「寂しい思いさせちゃって、ごめんね」
「……だめ、許してあげないわ」
「アオイに彼氏がいるって思ってたから、距離を置いてたんだ。本当にごめんね」
「じゃあ、私とリン行政官、どっちが好きなの?」
そう質問した、次の瞬間。先生が、私の顎を指で持ち上げる。俗にいう――顎クイ。
先生が顔を近づけてくる。間近に、身震いするほど綺麗な美貌。先生の妖しい瞳が、目と鼻の先にある。
「世界で一番、アオイのことが好きだよ」
「~~~~~~~~~~~~っ!!!!!」
心臓が、ぎゅんっっっっっ!と縮む。嬉しさのあまり、意識が蕩ける。歓喜が心を満たし、爆発しそうな程のエネルギーが身体中を渦巻く。
ああ、幸せ……。私、今、すごい幸せ……。
幸福。多幸感。どっぷりと、酩酊するような、喜びの中に沈んでいく。
タワー、やっちゃおうかな。本物のホストクラブでやったらアウトだけど、ここでなら安全にできる。むしろ、これがタワーをやれる人生で唯一の機会よね。
「先生」
「うん」
「ゴールドエンジェル5本で10段のシャンパンタワー入れてあげるわ」
「タワー、いいの?」
「ええ、特別よ?」
「ありがとう、愛してるよ、アオイ」
スタッフが10段のシャンパンタワーを運んでくる。そして、その頂から、ゴールドエンジェルを注ぐ。琥珀色の美しいドリンクが、滝のように流れていく。タワー全体が、シャンデリアの華々しい照明を反射して、黄金色に輝く。
非日常的で、夢のような光景だった。
そして――。
「今日はありがとう、アオイ。もうアオイのことしか考えられないくらい、世界で一番愛してる」
「~~~~~~~~~~~~~っ!!! ええ、私も、愛してるわ、先生」
店内の全ホストによるコールと喝采の中、私たちは愛を囁き合いながら乾杯する。
「アオイ」
「なにかしら」
「私と、結婚してほしい」
「!?!?!?!?!?!?!?」
ビックリしすぎて、一瞬心臓が止まりかけた。流石に信じられなくて、耳を疑う。
「今、なんていったの?」
「私と、結婚してほしい」
聞き間違いじゃ、なかった。
先生は真剣な顔で、私を見つめている。私の返事を待っている。
突如手に入った望外の幸福に、恐れおののく。
こんな幸せが手に入るなんて、思ってもみなかった。
セミナーのユウカさんに、リン行政官、その他大勢の生徒。競合が多すぎて、先生と結ばれるのは半ば諦めていたけれど――。
私は、万感の思いで、プロポーズに応える。
「ええ、喜んで。末永く、よろしくお願いするわね」
*
「えーっと、すみません、一旦中断します」
先生がそういって、キャストたちのコールを中断させた。
「?????」
私は何が起こったのか理解できず、じっと先生を見つめる。先生はすごく痛ましいものをみるような顔をしていた。
「アオイ……」
「どうしたの、あなた?」
「目を覚ましてアオイ! これは撮影! ここは講習会場だよ!」
「?????」
「『良い例』のビデオ教材を撮るって話だったのに! これじゃ『悪い例』だよ! アオイ!」
「………………」
……さつえい。撮影。講習用ビデオ教材の、撮影。
……えっ。まさか、今の、全部演技なの……? いやいや、そんなことあるわけが……。
「冗談よね? だって、先生、私にプロポーズしてくれたじゃない」
「ごめんね、アオイ。撮影のための演技だよ……」
「そ、そんな!?!?!? 結婚しようって言ってくれたじゃない!」
「アオイ、ホストクラブでホストに言われることは、全部嘘なんだ。信じちゃダメなんだよ」
「あんなの……誰だって信じるに決まってるじゃない……! ねえっ、先生! 本当は結婚してくれるんでしょう!?」
「アオイ、よく聞いてね。たとえホストが『結婚しよう』って言ってくれたとしても、それはただのリップサービスで、本当に結婚するつもりはないんだ。真に受けた姫がいざ結婚の話を持ち出すと、『転職先が決まるまで待ってて』とか言われて、のらりくらりと籍を入れるのを躱されるんだよ。それでも待ち続けて、お金と時間ばかりなくなって、20代30代と年齢を重ねて、焦って婚活を始めるけどなかなか上手くいかず苦しい思いをして、癒しを求めてホストクラブに行って、お姫様扱いされて幸せを感じちゃって、またズブズブと沼にハマっていくんだよ」
「うっ……!」
リアルなホス狂いの末路を語られたせいで、そうなる未来を想像してしまった。
「それにしても、アオイにホス狂いの素質があるとは思わなかったよ……」
「違うの……こんなはずじゃなかったのよ……」
*
数日後。私と先生とリン行政官の三人で、シャーレの会議室に集まった。
三人で並んで、モニターに映る講習用ビデオ教材の『良い例』を確認している。
ホスト役の先生がリン行政官を口説き、彼女がそれを断る。という内容だ。
ちなみに、私の件があってから別日に、リン行政官に依頼して『良い例』のビデオを撮影したとのことだった。
ちゃんと『良い例』の断り方ができていれば、私と先生の映像が講習で使われるはずだったのに……。
――映像が終了した。
「どうでしょうか、先生、アオイ財務室長」
「うん、完璧だよ」
「い、いいと思うわ」
「では、『良い例』はこのまま講習に採用します。次に――」
そういって、リン行政官が次の動画を再生する。
えっ、ビデオ教材って、今ので終わりじゃないの?
「リン、次の教材って何?」
先生も知らなかったのか、そう質問した。しかし、リン行政官が答えるより早く、モニターに映し出されたのは――。
「えっ、私っ!?」
私の映像だった。あの時撮影されていたものだろう。でも、どうして……?
『アオイ、もしかして緊張してる?』
『え、えぇ、雰囲気が凄くて。それに、カメラの前で演技するっていうのも……』
『ふふっ、アオイの可愛い一面が見れて嬉しいよ』
『……っ! もうっ、からかわないでちょうだいっ』
「ちょ、ちょっと止めて! リン行政官!」
リン行政官が停止ボタンを押し、映像は止まった。
「何よこれ! どうして私の映像も編集してあるのよ!」
「アオイ、貴女さえよければ、貴女の動画も『悪い例』として講習で使用したいのだけれど、いい?」
「いいわけないでしょう! 公開処刑じゃないこんなの!」
「ホス狂いの好例だったのだけど……」
「誰がホス狂いの好例よ!!!!!!」
「分かったわ。この動画はなかったことにする。講習には『良い例』だけを使うということで。先生もそれでよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
こうして会議は終了した――かと思われた、その時、シャーレの職員が慌てた様子で会議室に飛び込んできた。
「た、大変です! シャーレのサーバーが何者かにハッキングされて、教材用に撮影したビデオが流出しています!」
さぁっと、血の気が引く。
先生が端末を操作する。その画面を覗き込むと、SNSのトレンドは「ホス狂い」「講習用ビデオ」「財務室長」などのワードがトップ10を埋め尽くしている。
「なっ、なによこれ!?!?!?」
さらに、リン行政官が動画投稿サイトにアクセスし、急上昇1位の動画を再生すると――。
『リン行政官のことだけリンちゃんって呼んでるじゃない。それに、私相手だと一歩引いてるのに、リン行政官の時はあんなに親しげで、楽しそうにして……』
『……だめ、許してあげないわ』
『ゴールドエンジェル5本で10段のシャンパンタワー入れてあげるわ。特別よ?』
『そ、そんな!?!?!? 結婚しようって言ってくれたじゃない!』
『ねえっ、先生! 本当は結婚してくれるんでしょう!?』
「きゃ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
*
「クロノスチャンネルをご視聴中の皆さん! いかがお過ごしでしょうか? 今回番組進行を務めさせていただきます、川流シノンです!」
「では最初のニュースです! 現在キヴォトス全土で話題になっている、財務室長のホス狂い問題について!」
「既に多くの方がご覧になった通り、財務室長がホストクラブで豪遊している動画がネット上にアップされ、大きな話題を呼んでいます!」
「この件について、元連邦生徒会関係者の方に、匿名を条件にお話を聞かせていただけました! こちらの映像をご覧ください!」
*
?『えぇ、財務室長には不審なところがありましたね。金銭の動きが不透明なんですよ。その件について抗議しても揉み消されてしまって』
?『財務室長に限らず、連邦生徒会全体が、そういう隠蔽体質の塊なんですよ。もう汚職だらけです』
?『しかも正しい声を上げる人が潰され、追放されるんです。私もそうでした』
?『ですが、今回の一件で世論の目が連邦生徒会に向けられているのは、良い流れだと思います』
?『これを機に世間の皆さんが連邦生徒会の不審さを理解し、現状を知ってもらい、考えを改めていただければ、クーデターも成功しやすいのではないかなと』
*
「以上、元連邦生徒会関係者の証言でした!」
「続いてスタジオでは、財務室長のホス狂い問題について、コメンテーターの皆様にお話を伺っていきたいと思います!」
「今回のコメンテーターは、セミナー生徒会長の調月リオさん、Cleaning&Clearingリーダーの美甘ネルさん、正義実現委員会および補習授業部の下江コハルさんにお越しいただきました! 今日はよろしくお願いします!」
「よろしくお願いするわ」
「おう、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします」
「シャーレビルの講習会場の改装工事には、財務室長も関わっていると明らかになりました! 財務室長の趣味でホストクラブ化を断行したという見解もあります! これについて、リオさんはどのようにお考えでしょうか?」
「財務室長という責任ある立場の人間として嘆かわしいこと。財源を私物化している疑いがあるため、厳正な調査を行うべき」
「はい、まさに仰る通りだと思います! また、財務室長のシャーレビルに対する頻回訪問も確認されており、総決算業務と偽ってホストクラブで遊んでいるという疑惑も出てきています! これについて、ネルさんはどのようにお考えでしょうか?」
「業務のことはよく知らないけど、なんでいっつも総決算ばっかやってんだ。桃鉄かよ」
「はい、まさにその通りです! さらに、講習会場には『VIPルーム』という個室も設置されており、この密室環境で淫行に及んでいるという疑いもあります! これについて、コハルさんはどのようにお考えでしょうか?」
「エッチなのはダメ! 風営法違反!」
「まさに仰る通りです! では、続いてのニュースは――」
*
【補講後のコメント ミカ編】
「うん、なんというか、私って、他の人からああいう風に見られてたのかなって……結構、ショックだった」
「ありがとうね、先生。先生の講習とあの動画のおかげで、目が覚めたよ」
「うん、ちゃんと約束は守るよ! もうホストクラブには行かない! 絶対行かないから! これからはホストと関わらない人生を送ってみせるよ!」
*
【補講後のコメント ユウカ編】
「えぇ、はい……見ましたよ、財務室長の動画。自分の言動を振り返るいい機会になりました。反省しています」
「ノアにも『ホス狂いやめないとアオイさんみたいになっちゃいますよ』って叱られました。はい、ノアとモモイにも心配されていますし、ホスト攻略恋愛ゲームの製作は諦めます……」
「はい、その節も含めて、大変な迷惑と心配をお掛けしました。今後はホストと距離を置き、節度を持って生きていこうと思います」
*
【補講後のコメント カズサ編】
「キツかった。自分の講習の時のこと思い出しちゃって、恥ずかしくて最後まで見れなかった」
「実は、講習が終わった後、いろんな所で『あ、ホス狂いの人だ……』みたいな反応されてさ。ナツたちにも爆笑されるし、最悪だった。それに、宇沢にも心配かけちゃったし……」
「うん、もうホストは卒業。二度とホストクラブにも行かない。今日は補講やってくれてありがとう、先生」
*
【補講後のコメント ヒナ編】
「流出した動画……? ええ、見たわ。扇喜アオイさん……だったかしら。あんな動画を流されるなんて、流石に気の毒ね」
「ええ、先生の講習のおかげで、ホストの恐ろしさを体験できたわ。それに、扇喜さんには申し訳ないけれど、あの動画のおかげで客観的に自分を見つめることもできたわ」
「そうね、もうホストクラブには行かないわ。それと、その……講習の時のことは、忘れてちょうだい。恥ずかしいから……」
*
【補講後のコメント イチカ編】
「あ~、例の動画っすか……? 見たっすよ……。その、流石に可哀想っすよね、あれは」
「いい意味で反面教師になったというか……いえ、反面教師って言い方は失礼っすよね、えっと……なんというか、どう言葉を選んでも角が立ちそうなので、これ以上のコメントは控えるっす」
「はい、改めてありがとうございましたっす。先生のおかげで、将来ホス狂いになるのを避けられたっす。感謝してもしきれないっすよ」
*
【補講後のコメント カンナ編】
「えぇ、苦しい時間でした。ですが、自分への戒めと思って、最後まで動画を見ましたよ」
「責任ある立場の人間が散財する姿は、不信感を生むものですね。強く反省しました」
「講習・補講、ありがとうございました。それと、もし講習でお手伝いできることがあったら呼んでください。ホス狂いになってしまう人が一人でも減るように、私も協力を惜しみません」
*
【補講後のコメント カヨコ編】
「あぁ、うん……あの動画ね……ちょうど、最近便利屋でも話題に上がったよ」
「私も見てて辛かったけど、社長も講習のこと思い出しちゃって落ち込んでた。それで、ハルカが頑張って励まそうとしてたよ。そういえば、不思議とムツキが神妙にしてたんだよね。あの動画見たら爆笑すると思ってたのに」
「うん、約束する。ホストクラブには絶対行かないよ。……騙されるのは、先生にだけでいいから」
*
【補講後のコメント ワカモ編】
「あの女……! あなた様にあれほど情熱的に口説かれるなんて……!」
「しかも、あなた様にしなだれかかって……密着して……! 思い出すだけで腸が煮えくり返るようです……! 許せません! 絶対に許しません!」
「え? あの動画が公開された時点で可哀想、ですか? えぇ、まぁ、それはそうかもしれませんが……」
*
【補講後のコメント チヒロ編】
「酷いね。公開されたのが自分の講習内容だったらと思うとゾッとする。一度ネットにアップロードされた動画は、一生消えないもんね」
「私もタワーまで注文しちゃった立場だし、あの人のこと笑えないよ。本当に同情する」
「うん、補講、ありがとう。先生もお疲れさま。ハッキング犯の特定で手伝えることがあったら呼んでね」
*
【補講後のコメント ミヤコ編】
「はい、見ましたよ、あの動画。かなり拡散されているようなので、私たちの耳にも届きました」
「正直なところ、羨ましいと思いました。私も彼氏いないって分かった途端に口説かれたいです。あと『毎日会いたい』って言われたいですし、結婚の約束してほしいです」
「え、再補講、ですか……? ど、どうして……」
*
【補講後のコメント シロコ編】
「ん、苦しかった。先生が他の女を口説いてる姿、見ていて腹が立った。セリカたちは、自分のことを見てるようで恥ずかしいって言ってた。それ以来、ホストの話しなくなった」
「あと、月間キヴォトスの『真面目な生徒の裏の顔! 事務担当O,Aがホス狂いで豪遊三昧!』って記事。アヤネが『私のことみたいだからやめてほしい』って抗議文送ってた。うん、イニシャルが同じだから、完全な風評被害」
「ところで、講習用教材の『良い例』は多い方がいいと思う。私とも撮影するべき」
*
数日後、私はシャーレのビルへと向かっていた。
人に見られている感覚がある。道行く人が私を見てヒソヒソと話し始める。
「ねえ、今の……」
「『伝説のホス狂い』じゃない……?」
「誰が伝説のホス狂いよ!!!!!」
ヒソヒソと話す二人組の生徒に向けて怒鳴ると、彼女たちは慌てて走り去っていった。
けれど、余計に目立ってしまい、道行く人々の注目を集めてしまう。
私は恥ずかしさのあまり、全力疾走でシャーレのビルへと駆け込んだ。
そして、騒動の原因を作った張本人――先生の部屋を訪れる。
「失礼するわ、先生」
「あ、アオイ……」
先生は私を見るなり、ひどく痛ましいものを見る顔をした。
「アオイ、その、今回の件は、本当に気の毒というか……」
「どうしてくれるのよ。あんな不名誉な姿を晒されるなんて、私、もうキヴォトス歩けないわよ」
「うん、なんというか、ごめんね……」
「あなたのせいよ」
「えっ、どうして?」
「支払額が2万円を超えた時に撮影を止めてくれればよかったじゃない。それならまだ傷は浅く済んだのに」
「アオイがホス狂い候補だと思ったから、ちゃんと講習してあげるべきだと思ったんだ。本当にごめんね」
「ひどいわ、あんまりよ。本当に傷付いたわ」
胸の内に燃える、失意とも欲望とも復讐心ともつかない暗い感情。私は情動に突き動かされるまま、先生へと近づく。
「アオイ……? どうしてそんな怖い顔で近付いてくるの……?」
「責任、取りなさいよ」
「……っ!!!」
「どうして逃げるのよっ! 先生っ!」
「誰か助けて!
「痛客って言わないで! 私はホス狂いじゃないの!」
『ブルアカ ホストにハマらないための講習』完!