私はヴェリタス副部長、現部長代理――各務チヒロ。
今日の午後、ホストにハマらないための講習を受講する予定だ。
今は、ヴェリタスの休憩室で過ごしている。ゲームで遊んでいるマキとハレ、ヘッドホンで何かを聴いているコタマもいる。
「コタマ先輩、何聴いてるの~?」
そういって、マキがコタマの肩を叩く。突然声を掛けられて驚いたのか、コタマがビクっと跳ねた。その時、ヘッドホンのプラグが抜けて――端末から直に音が再生され始める。
『――ってことがあったんだよね』
『え~? すご~い!』
先生の声だった。どこかの生徒と話しているようだ。
一方、コタマは顔を青くしている。
「あ~っ! コタマ先輩がまた先生のこと盗聴してる~!」
「あっ、あっ……! これは違くてですね……!」
私はコタマに近付き、彼女を問い詰める。
「コタマ、またやったの?」
「つい魔が差して……」
「人のプライベートをなんだと思ってるの。盗聴は犯罪なんだよ」
「ごめんなさい……」
「やっぱり、ホワイトハッカーとしての倫理を再教育しないと――」
その時、スピーカーから――。
『見て見て、この子可愛いでしょ』
『可愛い~! もしかして、先生と一緒に暮らしてる子ですか?』
『そうそう』
――すごい話が聞こえてきた。
え……? 先生が、誰かと同棲してる……?
空気が凍りつく。コタマも、ハレも、マキも、みんな凄まじい表情で固まっていた。
一方、スピーカーからは、先生たちの楽しそうな声が流れてくる。
『どういう馴れ初めだったんですか?』
『先月、シャーレの近くで出会ってさ。もう一目惚れだったよ。その日のうちに家へ連れ込んじゃった』
ナンパ後即お持ち帰り!?!?!?
先生がそんなことをするタイプだなんて知らなかった。普段の温和な先生からはイメージしづらいけど……でも、先生もやっぱり大人の男性なんだ。
そういうことも、するんだ。
頭が状況を理解してしまった瞬間――冷や水をぶっかけられたように、身体が冷たくなっていく。
受け入れたくない。聞きたくない。なんだろう、すごく……嫌だ。
『いいな~羨ましいです』
『本当に可愛くてさ。私が寝ると、私の上に乗ってくるの』
『え~!?』
『その時の動画がこれ』
『きゃ~~~~~っ!』
な、なんっ……!?
何を見せてるのっ……!?
たちまち頭によぎる、先生と生徒の、生々しい行為。ベッドの上で重なり合う、先生とその恋人。
マキたちは顔を赤くしている。でも、誰も何も言わない。
スピーカーの向こうの、見えない筈の動画の音を、無言で聴いている。
『あ、そうだ。最近一緒にお風呂入ったんだ。その時の動画もあるよ』
ちょっ……!? 本当に何してっ……!?
『あ~! 今先生の裸見えた~! こんなの見せるなんて先生のえっち~!』
『えっ、うそっ!? ていうか、私の方は見ないでよ、変態』
どの口が!?!?!?!?!?
生徒と同棲して、行為を撮影して、あまつさえそれを他人に見せつけておいて、どの口が言ってるの!?
しかも、セキュリティー意識が低すぎる! スマホアルバムに入ってる動画なんて、どこから流出するか分からないのに! 先生の端末にハッキングを試みる不届き者が何人もいるのに!
『あ、そろそろ時間だ。私はもう行くね』
『は~い、あの子とお幸せにね~!』
そこで、会話は終わった。
ヴェリタスの休憩室には、深刻な空気が漂っている。重たい沈黙の中、マキが口を開いた。
「ど、どうしよう、チヒロ先輩。今の、ホントなのかな?」
「落ち着いて。ちょうど、午後からホストにハマらないための講習が入ってるの。私がそこで確認してくる」
と、言いつつも、先生と顔を合わせたくないと思っている私がいた。
先生に恋人がいることを認めるのが辛くて。悲しくて、苦しすぎて、受け入れられない。
ああ……やだな。先生に、訊きたくない。会いたくないな。
すると、コタマが不安そうな顔で訊ねてくる。
「もし、先生が黒だったら……?」
「ヴァルキューレに突き出そう」
*
講習時間がやってきた。
扉を開けると――。
「えっ!?!?!?」
煌びやかな内装の店内。黒を基調とした壁、金色のシャンデリア、仄かな青紫色に灯る壁面照明。店内には華やかなBGMが流れている。
目映さ。妖しい雰囲気。雑然とした、絢爛豪華な空間。
な、なにこの内装!?
「ようこそ、ホストクラブ『S.C.H.A.L.E』へ」
スーツを着た男性職員が、うやうやしく私を出迎える。
私は席に案内され、革張りのソファーに座った。テーブル上には冊子が置いてある。
「この中からお好みのホストをお選びください。ひとりでも複数人でも構いません」
冊子を開くと、すぐに先生が写っているページが見つかった。
「この人でお願いします」
「かしこまりました」
そして、数秒して――。
「ご指名ありがとうございます、チヒロさん」
やってきたのは、黒いシャツとグレーのスーツに身を包み、髪もホストらしく整えた先生だった。
――心臓が高鳴る。
見惚れてしまう。
先生の顔から目が離せない。
顔立ちの整った美男。情熱的で、肉食で、危うい雰囲気。魔性の色香だった。
瞬間的に、身体の芯からぶわっと熱が噴き上がって、身体中が熱くなる。
イケメンすぎる。イケメンすぎる。どうしよ、なんか胸がキューッとするっ……!
「来てくれてありがとう、チヒロ」
「あ、うん……」
先生が私の隣に座る。近い。綺麗すぎる顔が、すぐ近くにある。
……って、何考えてるの、私!?
冷静になれ。私には、大事なミッションがある。
先生が生徒と同棲して、よからぬ行為を撮影し、それを第三者に見せびらかしている可能性がある。
この情報の真偽を、確かめなければならない。
「何か頼む? これとかオススメだよ」
「その前に、話したい事があるの」
「どんな話?」
語気を荒らげないよう、努めて静かに話を切り出す。
「また、コタマが先生のことを盗聴してたの」
「えっ!?」
「それに関しては、ごめん。プライバシーの侵害だから、厳しく注意しておいた」
「そうだったんだ、私のために叱ってくれてありがとう、チヒロ」
先生が笑いかけてくれる。でも、その笑顔すら、演技に見える。外面を取り繕っているように見えてしまう。
「それで本題なんだけど。午前中、先生が生徒と話してるのが聞こえちゃって」
「うん」
「先生、生徒の誰かと同棲してるよね?」
「……?」
「しかも、い、いかがわしい動画を撮影してる、よね?」
「……えっ」
「許可取ってるのか知らないけど、それを別の生徒に見せびらかしてるよね?」
「ちょ、ちょっと待って。なんの話か分からない」
先生は、完全にとぼけていた。
この期に及んで、まだ言い逃れしようとするなんて。
こんなに不誠実な人だとは思わなかった。
「最低っ……」
不快感が込み上げる。先生のことが、一気に無理になる。
「待ってよ、チヒロ。何か誤解してるよ」
「やましいところがないなら、先生のスマホ見せて」
「え、いいよ」
やけにあっさり渡してくれる先生。もしかして、生徒に見せてたのはスマホじゃなくてタブレットだった? あるいは、すぐに見つからないような奥深くのフォルダに入ってる?
ともかく、どこかに、同棲相手との行為を撮影した動画が入っているはずだ。
スマホのアルバムを開く。――猫の画像と動画が、大量にあった。
「猫……?」
「うん、先月シャーレの近くで拾って、そのまま家猫になったんだ」
「そう……ん? 先月……?」
――先月、シャーレの近くで出会ってさ。もう一目惚れだったよ。その日のうちに家へ連れ込んじゃった。
先月、シャーレの近くで出会った。
一目惚れ。
家へ連れ込んだ。
――見て見て、この子可愛いでしょ。
――可愛い~! もしかして、先生と一緒に暮らしてる子ですか?
可愛い。
先生と一緒に、暮らしている。
え、ま、まさか……。
「この動画、特にお気に入りなんだ。見てみてよ」
そういって先生が指差した動画を開いてみる。
猫が先生のお腹の上に乗って、気持ちよさそうにスヤスヤと眠っている。
――本当に可愛くてさ。私が寝ると、私の上に乗ってくるの。
「猫の話!?!?!?」
「うん」
「生徒と話してたのって、猫の話なの!?」
「そうだよ。……え、まさか、そこだけ聞いて誰かと同棲してるって勘違いしたの?」
――世界が崩落するような感覚。
やってしまった。全部、勘違いだった。とんでもない臆断から暴走して、一方的に先生を糾弾してしまった。
罪悪感が込み上げ、心を締め付ける。
「ごめんなさい、先生……。私、勘違いで、先生に酷いこと言った……」
「だいじょうぶだよ、誤解が解けたならそれでいいんだ」
「でも、私の態度、結構酷かったよ?」
一方的に先生を悪者と決めつけて詰ってしまった。その申し訳なさで、消えてしまいたかった。
私は改めて、先生を真っ直ぐ見詰めて謝罪する。
「本当にごめん、先生」
「じゃあ、やっぱり許さない」
「っ……!」
先生から否定の言葉が出たことに驚く。やっぱり怒ってるんだ、と思ったが――先生は、蠱惑的な、妖しい笑みを浮かべる。
「でも、ボトル頼んでくれたら、許してあげる」
「……! 分かった、お詫びに好きなの注文するよ」
「じゃあ10万のボトルで」
「っ……!」
た、高い……! でも、先生には申し訳ないことをしちゃったし……!
いや、それでも、10万円はちょっと苦しい……!
でも、許してくれない、よね。先生に嫌われて、許されないままになっちゃうくらいなら、10万円くらい払うべきかな……。
「うそうそ、冗談だよ、こっちの1万円のボトルでいいよ」
先生はそういって無邪気な笑顔を見せた。
あ、なんだ。からかってただけなんだ。よかったぁ……。
「じゃあ、それ注文するよ」
「うん、ありがとう、チヒロ」
「これで、許してくれるの?」
「うん、許す。じゃあ、仲直りのハグしようか」
「えっ」
抵抗する間もなく、先生に抱きしめられた。
大きな身体。背中に回された腕に、ぎゅーっと抱きしめられて、先生の温かさを感じる。
「ちょっ、先生っ……!?」
「だめ、逃がさないよ」
「~~~~~~~~っ!!!!!」
先生と、密着している。嬉しくて、身体が弾けそうな昂揚感。心臓がバクバクと早鐘を鳴らして、呼吸が早く荒くなる。
上手く、息を、吸えないっ……!
「せ、先生、私もうっ……!」
荒い息とともに、掠れ声でそう伝えると、先生はようやく抱擁をやめてくれた。
「はぁっ……はぁっ……!」
全力疾走後みたいな呼吸。息が苦しい。
凄かった。
頭の中、ぼーっとする。一年分くらいの幸せホルモンがどばっと分泌されたような感覚だ。
なんか、幸せ……。どうしよ、体に力入んない……。
その時――スタッフがボトルを持ってきてくれた。先生はそれをグラスに注いでくれる。
「乾杯しようか」
「うん」
グラスを傾け、乾杯する。
当然、まだ心臓はバクバクと爆音を鳴らし続けている。うるさすぎる。耳に心臓付いてるみたいだ。
「改めて、来てくれてありがとう、チヒロ。せっかく来てくれたんだから、絶対楽しませるよ」
返事ができない。
私、普段どういう風に先生と話してたっけ?
あ、ヤバい。先生、イケメンすぎ……。
先生の綺麗な顔がこっちを向いている。それだけで、途端に何を話せばいいのか分からなくなる。
「でも、誤解が解けてよかったよ。他の人になら同棲相手がいるって誤解されても困らないけど、チヒロにだけは誤解されたくないから」
「っ……!? ど、どういう意味……?」
「チヒロが特別な人ってことだよ」
「~~~っ!」
まっすぐ目を見つめられる。
心臓を鷲掴みにされるような、魔性の眼差し。
だめだ、こんなの。私、ホントに、墜とされるっ……!
「あっ」
その瞬間、私の脳の理性を司る部分が、警告を鳴らした。
これは、講習だ。
実際のホストと同じ接客をして、生徒がホストにハマってしまうかどうかを試す、
頭がいくらか冷静になってきた。
脳内で防御プログラムを組み立てる。これ以上の被害を出さないよう導き出した答えは――話を逸らすこと。
「さっきの猫の写真、もっと見てもいい?」
「いいよ」
先生は再びスマホを取り出し、アルバムを見せてくれる。
うん、完璧だ。この話題で、これ以上口説かれることはない筈だ。
「可愛い猫だね」
「この子が来てくれてから、毎日家に帰るのが楽しみなんだ」
「名前はなんていうの?」
「チーちゃん」
「っ!?」
一瞬、そんなわけないのに、私の名前を呼ばれたのかと思った。
どうかしてる。やっぱりまだ冷静じゃない。
「そういえば、チヒロもチーちゃんって呼ばれてるよね」
「主にウタハにね。あと、たまにマキたちも冗談で呼んでくることあるよ」
すると、先生は魔性の男のような、悪い笑みを浮かべる。
「チーちゃん、可愛いよね」
「~~~~っ! ね、猫の話だよね?」
「どっちだと思う?」
「もうっ……! 最低っ……!」
からかわれてる。遊ばれてる。弄ばれてる。
不満の意を込めて、先生を睨む。すると、先生は真っすぐ見つめ返してきて。
「可愛いね、チヒロ」
「~~~~~~っ!!!!!」
あっ、だめっ。やられるっ……!
あっさり意識を持っていかれそうになり、慌てて先生から目を逸らし、そっぽを向く。
危なかった。もうちょっと目を合わせてたら、脳髄まで陥落させられてた。
だめだ。相手はホストだ。恋に落ちちゃ、絶対ダメなんだ。
遠くの壁を見て心をクールダウンさせる。けれど、その瞬間――先生に、顎を摘ままれ、顔を先生の方へ向けられた。俗にいう、顎クイだ。
「えっ、ちょっ……!?」
「実は私、初めて見た時から、チヒロのこといいなって思ってたんだ」
「なっ!?!?!?!?!?!?」
「可愛い、好きだよ、チヒロ」
「ぁ…………!」
脳がオーバーヒートする。
心が熱を上げ、心臓が絶えず爆音を鳴らし、身体中が熱くなる。
でも、嫌じゃない。嬉しさと照れで、くすぐったい感覚。脳味噌に幸福ホルモンがドバドバと分泌されて、多幸感に包まれる。
もう、こんなのだめっ……! むりっ……! 好きになっちゃうっ……!
「好き、好き、大好き」
「あっ……えっ、えへへっ……!」
「綺麗だよ、チヒロ」
「ふへっ、ふへへっ……!」
まるで、私を壊そうと畳みかける、
人生で貰ったことがない程の、嬉しすぎる褒め言葉の数々。歓喜のあまり、身体が震え出す。理性が決壊して、情けない声が漏れ出てしまう。
「ね、次のボトル行こう? プラチナシャンパーニュとかどう?」
「ひゃい……」
「ありがとう、チヒロ」
押しに流されるまま、10万円のボトルを注文してしまう。
先生がグラスに注いでくれたドリンクで、再び乾杯する。
良く冷えていて、刺激的なのに口当たりがよく、後味を引かない。美味しい。いい味だ……。
すると、先生は私に密着するように近付いてきて――。
「大好きだよ」
「~~~~~っ!?!?」
「チヒロ、好き。大好き」
「あっ、あっ……! 耳っ……だめっ……!」
「でもチヒロ、嬉しそうな顔してるよ?」
「し、してないっ……!」
耳への刺激で、ビクンビクンと震える身体。
耳管を通して脳髄まで直撃する、淫猥な声色。脳が蕩けて、幸せになってしまう。
「チヒロ、本当に綺麗」
「ささやくのだめっ……! これホントにだめなやつっ……!」
壊される。ホス狂いに堕とされる。
人生の危機を感じ、絶えず脳内の隅でアラートが鳴っている。
「チヒロ、やっぱり囁かれるの好きでしょ?」
「そんなことないっ……! ぜんぜん平気、だからっ……!」
「じゃあ、もっとやってあげるね?」
「あっ……だめっ……!」
「チーちゃん、大好き」
「うぁっ……!」
「やっぱりすごい嬉しそうな顔してるよ? チヒロの変態」
「ぅ~~~~~~~~~~っ!!!」
私の弱点――脆弱なセキュリティーホールを執拗に攻められる。
先生にぽそぽそ囁かれる度、脊髄を駆け抜ける、電流のような気持ちよさ。
抵抗も、逃亡もできない。脳味噌に直撃する快楽に、悶えることしかできない。
熱い。熱すぎる。排熱が上手く行かない。身体が燃えるように熱くて、爆発しそう。
「好き、好き、大好き」
「あっ……うぅっ……!!!」
「愛してるよ、チヒロ」
「んんぅ~~~~~~~っ!!!」
口説き文句のDoS攻撃。オーバーヒートして、負荷が掛かって、頭が正常に動かない。
「チーちゃん、シャンパンタワー行っちゃおう?」
「そ、そんな高いのはむりっ……! もう頼まないからっ……!」
「もしタワー頼んでくれたら、これから毎日『愛してる』っていってあげる」
「!?!?!?!?!?」
「会えない日は、モモトークのメッセージか通話で伝えるよ」
「っ……!」
先生に、毎日愛してるって言ってもらえる日々。
それが、たった一回の注文で手に入る。
朝、先生から『愛してる』という通知が来るだけで、心が弾むだろう。
夜、先生と通話して『愛してる』といってもらってから眠りにつくのは、幸せだろう。
そして、先生と直接会える日は面と向かって『愛してる』といってもらえる。
今日みたいに、強引に、愛の言葉を告げてくるに違いない。
そんなの、幸せすぎる……。
「タワー、注文するっ……!」
「ありがとう、チヒロ」
「ちゃんと、毎日愛してるって言ってよねっ……! 約束だからっ……!」
*
休憩スペースのイスに座り、頭を抱えて俯く。
先ほどまでの痴態を思い返して、恥ずかしさのあまり消えたくなる。
このまま、空気になりたい。何も感じず、考えず、ただそこに漂うだけの空気になりたい。
「チヒロ……」
先生の重苦しい声。
けれど、顔を上げられない。恥ずかしい。どんな顔して先生と話せばいいの。
「驚いたよ。チヒロは絶対大丈夫だと思ってた」
「ぐふっ……!」
胸に突き刺さる、先生の言葉。
私は、自分のことを堅実なタイプだと思っていた。多分、先生もそれに近しいイメージを抱いていたと思う。
けれど、実際はホス狂い予備軍だった。
時折ニュースで見る『お金を貢いで破滅するホス狂い』になってしまった。信じられない。ショックすぎる。
「でも、大丈夫だよ。脆弱性が見付かったなら、それを直せばいいだけなんだ。補講、一緒に頑張ろう」
「うん……」
顔を上げ、頷く。先生は優しい顔をしていた。
でもやっぱりイケメンだな……。好き……。
「それと、話さないといけないことがあるんだ」
「え、なに?」
「実は、コタマとハレとマキは、協力者なんだ」
「……えっ!?」
「了承の上で盗聴器を付けて、わざと誤解させるように会話を聞かせたんだ」
「な、なんでっ!? 不公平だよ、そんなのっ! なんで私の時だけそんな手が込んだことっ!」
「いや、全員に同じことをしたんだよ。コタマ、ハレ、マキの順に同じことをして、講習が終わった順に協力者になってもらったの」
「あ、そうなんだ……。ちなみに、わ、私以外も不合格だよね?」
「その、すごく言いづらいんだけど、不合格なのはチヒロだけだよ……」
ガツンと、ハンマーで殴られたような衝撃を受ける。
え、私だけ……? 私だけ、こんな恥をさらしたの? 全員に、嵌められて……?
「……酷いよ、みんなでグルになって、私に恥をかかせるなんて」
「ごめんね、講習のためなんだ」
「それにしても、酷すぎるよ。私、今日一日で、一生分の恥をかいたよ」
ズルい。ズルいよ、先生。私がこんなに恥をかいたのに、先生だけ無傷なの。
「……。今思い出したんだけどさ、先生、猫とお風呂に入った動画も生徒に見せてたよね」
「えっ、うん」
「見せてよ」
「ごめん。実は、改めて確認したら、ちょっと私も映っちゃってて……見せられないんだ」
「私も痴態を晒したんだから、先生も晒さないと不公平だと思う」
「た、確かに可哀想だとは思うけど……」
「その生徒には見せたんでしょ。見せて」
「でも……」
「見せて」
「困るよ……」
「見せてよ、先生の裸」
「うっ……ちょ、ちょっとだけだよ……?」
*
ヴェリタスに戻った私を出迎えたのは、爆笑するマキと、ニヤニヤしているコタマと、気まずそうな顔のハレだった。
「な、なんで笑ってるの、あんた達」
「その、申し訳ないのですが……盗聴器、先生に付けたままなんです」
「え、そうなの? それは良くないんじゃ……。って、え、あんた達、まさか、私の講習内容聞いて……!?」
さぁっ、と血の気が引く。
うそ……じゃあ、ヴェリタスでひとりだけホストに引っ掛かったことが、バレて……。
しかも、あれを、聞かれてた? あの痴態を、メンバー全員に?
「チヒロ先輩、チョロすぎっ……!(笑)」
「ごめんなさい、チヒロ先輩、まさか引っ掛かるとは思ってなくて……」
「あっ、ダメです。思い出したら笑いが……ふふっ……!」
「こ、のっ、あんた達っ……!!!」
穴があったら入りたいとはこのことだった。
痴態を、笑われている。
私は握り込んだ拳を震わせ、恥辱に耐えることしかできない。
すると、コタマが端末を操作し――私の声が再生される。
『せ、先生、私もうっ……!』
「なんで録音してるのっ!? 消してよそれっ!」
たちまち羞恥が込み上げ、頭に血が上る。
『ちゃんと、毎日愛してるって言ってよねっ……!』
「消してっ!!!!!」
「あははははははははっ! ひぃ~!!! お腹痛いっ……!」
マキが床を転げまわり、お腹を抱えて大爆笑している。目には涙を浮かべ、呼吸も苦しそうだ。
ハレは、笑うのは悪いと思っているのか、顔を手で押さえている。しかし、我慢するのが苦しいのか、見たことないくらい顔が真っ赤だった。
『私も痴態を晒したんだから、先生も晒さないと不公平だと思う。見せてよ、先生の裸』
「チヒロ先輩、先生の裸見たすぎでしょっ!笑笑笑笑笑」
「ぶはっ……!!!(笑) コタマ先輩やめてっ……! マキも笑うのやめてあげてっ……!」
「っ……! ぐぅっ……!」
辛い。悔しい。恥ずかしい。
自らの恥部を、後輩たちに笑われている。屈辱的すぎて、憤死しそうだった。
「あたし、そういうところも可愛いと思うよ、チーちゃん(笑)」
「チーちゃんっていうな!」
「チヒロ先輩、今度私の当番の時変わってあげる」
「気を遣わないで!」
「部長代理がこんなにチョロくて大丈夫なんでしょうか……」
「チョロくない! それ以上笑ったらあんた達全員ぶっ飛ばすよ!?」