シニガミショウカン:死神に魅入られて 作:1週目50時間かかった……
原作『死神商館RExEX ~ カネのチカラをマシマシして女冒険者のハーレムを作るRPG』は絶賛発売中デス!
ボリュームが凄まじいゲームを色々出している『サークル冥魅亭】様の最新作でして、
あまりにも面白過ぎて、R-18シーンも気になるけど、先の話が読みたい!経営したい!!
ってR-18シーンほぼカットしても、1週目クリアに50時間かかったとんでもないゲームです。
経営要素もストーリー要素も非常に楽しめる良作です。
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https://www.dmm.co.jp/dc/doujin/-/detail/=/cid=d_368296/
これ見て興味持ってくださった方がいらっしゃれば、是非ご購入をば。
転生物語のはじまりに、死、ありき。特に、死神の話をするのであれば、猶更だ。
だから。まずは、物語の主人公が死ぬ話からはじめよう。
その日は酷い嵐だった。当時を知る者によると、強風によって屋根がはがされた家もあれば、僅かな隙間から滝のように雨が入り込んであっという間に部屋中水浸しの家もあり。雷もドンドコ落ちるものだから色々な物が壊れたし、亡くなった命もあった。
おっと、雷で主人公は死んでいないよ。それはそれとして大変なことになっていたけど。
嵐の中を一台の馬車が駆け抜けてゆく。手綱を握る者は無理を承知で馬を走らせていく。彼が急いでいた理由はいまいちはっきりしないが、荷台に積んであるモノをいち早く届けようとしていたのではないかと推測される。未曽有の大嵐だ、道が崩れてモノの納品が遅れたらどれだけの損害が出ることになるか、恐ろしくて仕方なかったのだろう。
崩れる前に無理して嵐を突っ切ろうとするなんて、とんでもない馬鹿だ。
とはいえ、無策で突っ切ろうとはしていなかった。馬や車輪にはぬかるんだ地面でも進めるように滑り止めやスパイクを履かせていたし、荷台も当時の最新鋭。多少は対策していたようだ。
そんな無茶に付き合わされる人からすると、たまったものじゃないけど。ああ、荷台を転がって体をあちこちぶつけている。可哀そうに、悲鳴を上げても、雨音にかき消されて誰にも届かない。
積み込んでいるモノが壊れないように荷台で見張れ、とかそんな依頼を受けていたのだろうけど、自分を守るので精いっぱいだったはずだ。
それでも彼はモノを守ろうと押さえたり積みなおしたりと気を配っている。自分よりも周りを優先するところが【主人公】たる所以なのかもしれないけど、それはそれとして無茶であった。
主人公の努力をあざ笑うように、雷が近くに落ちた。馬が驚き飛びはねて、馬車が揺れてモノは飛びまわり、主人公も頭を打ち付けた。なんとか立ち上がろうとする彼の頬を雨が濡らす。
馬車が揺れたショックで、扉が開いてしまったようだ。このままだとモノが外に出てしまう。慌てて扉を閉めようとする主人公をモノが阻む。危険だから止めろと言わんばかりだったけど、主人公は振り切って扉を閉めに向かった。
滑り落ちないように、慎重に、荷台の縁に足をかけて外に出ると、開いた扉を戻した。ついでに扉の様子を確認すると、バチバチとカギが音を立てていた。カギにかけられていた魔法が落雷で壊れたみたいです。最新鋭を謳った不良品だったみたいだね?
しかし、主人公には魔法に多少の覚えがありました。修復する自信満々だ。
雨風に負けずどうにか扉を閉めると、錠前に手をかざし魔法を唱えます。ガチリと扉が閉まりました。これで荷物が零れ落ちることはありません。よく頑張ったね。
が。閉めた後で自分がまだ外にいることに気づきました。やっぱりこいつも馬鹿デス!!
扉を開けようとしますが、びくともしません。カギをかける魔法は使えてもカギを開く魔法は覚えていないのでした。諦めて、馬車の縁を通って手綱を握る者のところへ回ろうとします。
そこに、雷がもう一度落ちました。
今度は馬も警戒していたようで、さほど揺れはしませんでした。とはいえ、狭いうえに濡れている縁を渡ろうとした主人公にとってはわずかな揺れでも大打撃。
つるりと足を滑らせて、馬車から振り落とされました。ドン、と地面にたたきつけられて勢いままにぬかるんだ地面を転がります。勢いがなくなった頃、彼はまるで泥まみれのゴミでした。
痛みに喘ぐ彼に気づくことなく、馬車はそのままどこかへと走り去っていきます。今度は立ち上がることはできません。体が痛むのは確かです。馬車に戻らなければとも考えていたはずです。
しかし、心に反して体は動きません。体の重要なところが、落下したショックで壊れてしまったようです。降り注ぐ雨が少しずつ体温を奪っていきます。雨風の音も次第に遠くなっていきます。
息も次第に小さくなって。意識も闇へといざなわれる。
抗うこともできないまま、彼は眠りについたのです。
……でもまだ死んでいませんでした。生命力おかしいデス。
さてさて、馬車から振り落とされたゴミ、もとい主人公がそのまま眠りについて数時間。嵐は過ぎ去り、辺りを太陽が照らします。意識が戻る兆候はないデスが、周りの様子を見ていきます。
空の上から見ると、主人公が倒れている辺りは森林地帯のようです。気が生い茂る中に一直線、人々が踏み固めた道があります。そこに彼は倒れていました。周りに、このままだと死んでしまいそうな彼を助けてくれそうなナニカは……ありました。
すぐそばの広場に、古ぼけた館が一つ建っています。二階建ての小洒落た洋館です。
館の扉が開き、中から一人の女性が出てきます。店の前に【営業中】の看板を立てると、大きく背伸びします。どうやらこの洋館はお店のようです。女性は周囲に客らしき者は誰も見えないことに落胆しますが、あるモノを見つけて嫌そうな顔をします。
「誰デスか。うちの前にゴミ捨ててったヤツは。犯人見つけたら始末してやるデス」
物騒なことを言いつつ、ゴミを片付けに行きます。ゴミが多い店に客は寄り付きません。道端に捨てられていたゴミを片付けようとした女性は、それがヒトであることに気づきました。
「んん、浮浪者デス?息は……ある。おっ、カネもそこそこ持ってるデス」
じゃあコイツ客ということで。エイヤっとゴミ、もといヒト、というか、主人公を引きずって、入り口の前で横にします。財布を抜き取った女性が館に戻ってしばらくすると、バケツを持ってきた女性が主人公に水をばしゃんと被せました。
──―!?
泥まみれの人間を店に入れたくなかったのだとは思いますが、なかなか酷なことをします。かすかに意識を取り戻した彼を、女性は乱雑にゴシゴシとタワシでこすって泥を落とします。
「起きたデス?うちの店へようこそデス。あ、タワシもう一個あるから自分でも泥落せデス」
痛む体を何とか動かし、タワシを受け取った彼は言われるがままに泥を落とします。明らかに妙な状況になっていますが、それを認識できるほどは頭が回っていないようです。
「それじゃ、体を乾かしたら泊ってくデス。二階の好きな部屋を使っていいデスよ、オマエ以外に宿泊客はいないデスし」
どうやらこの店は宿屋のようです。でもお金はまだ払っていないはずだ。主人公は懐をまさぐりますが、財布がありません。荷台から落ちる時に失くしたのでしょうか。
「お代はもういただいたデスよ。体洗ってやった分ちょっと割り増しで支払ってもらうデス」
いつの間に財布を?!驚く主人公ですが、そういえば引きずってきた後にちゃっかりと抜いてましたね。取り返そうとする主人公ですが、あることに気が付きます。
「……ん?オマエ、声出ないデス?」
パクパクと口を開き、ハアハアと息を漏らしますが、声は出ません。うめくような音がどうにか出るくらいで、意味のある言葉は何も出ません。喉を触って様子を確かめますが、何か変わった様子もありません。奇妙な様子に女性も首をかしげます。
「ちょっと見てやるデス」
座った主人公の頭をぺたぺたと女性が触ります。その内、ズキりとひどく痛む部分がありました。顔をゆがめる主人公にほうほうと頷きながらそのあたりを探ります。痛がる彼の顔を見て口角が上がっているあたり、サディスティックな女性のようです。
「頭の裏にコブがあるデスよ。喉に妙なところはないから、多分頭をぶつけたショックで脳がおかしくなって声が出ないみたいデス。街に戻ったら医者に診てもらうといいデス」
ショックを受けます。街の医者に頼めば脳の異常も治してもらえますが、薬にせよ魔法にせよ高くつきます。財布の中に入っているカネの10~20倍は覚悟しなければなりません。
貯金なんてものはほとんどありませんから、治すには長い時間がかかりそうです。
「ま、気を落としてもしょうがないデス。生きてればいいことの1つや2つはあるデスよ」
ポンポン、と背中を叩くと女性は店へ戻ります。肩を落とした彼は日向に照らされながらぼんやりします。これからどうしようか。答えが出そうにない悩みを抱えながら、服が乾いてゆきます。
結局、悩み続けたまま服が乾いた頃、立ち上がって背を伸ばします。少し前に看板を立てた女性のように、ぐいっと背伸び。女性の言う通り、気を落としても仕方ない。まずは生きることだ。
店に戻ろうとした彼の視界に、服も髪もカラフルな人々が目に入ります。担いでいる荷物の中に剣や杖やらが見えることからどうやら冒険者の一行のようです。ひらひらと手を振って挨拶すると彼らも手を振り返します。主人公と店を見た彼らは何やら話し合うと、代表者らしき男か主人公の元へやってきました。
「お兄さん、ちょっといいか?俺たちは昨日の嵐の被害を調べる依頼を受けてて、この道を担当してるんだ。で、疲れたもんだから休憩したいんだが……」
ちらり、と男が看板に視線を向けます。【営業中】、です。どうぞ中へ。主人公は店員じゃないけど、扉を開けて案内します。
「あ、それはわかるんだけど。ここ、何の店なんだ?」
宿屋っぽいです。伝えようとしましたが、声は出ませんでした。はっとしつつ、ここが宿屋であることを、看板に書かれたわずかな文字とジェスチャーで伝えました。
「お兄さんも声が出ないなんて大変だな。それにしても、宿屋か。ちょうど拠点が欲しかったし、泊ってもいいか?」
いいと思う。客はほとんどいないらしいし。一行を店の中に案内すると、手をパンパンと叩く。あの女性に客が来たことを知らせようと思った主人公ですが、女性が出てくる様子はありません。
入ってすぐの窓口を探ると、宿泊台帳があります。ひとまずこれに名前を書いておいて、後で説明すればいいか。冒険者一行に名前を書いてもらい、2階に部屋があることを説明します。一行が部屋へ上がっていくのを横目に、主人公も名前を書こうとします。
……あれ。そういえば僕の名前って──―?
ペンを持って硬直する主人公の肩が叩かれます。
「ねえ。お腹すいたんだけど、何か食べれるモノ欲しい」
叩いたのは一行の中にいた女性魔法使いです。宿屋によってはレストランがありますから、食べれるものの一つや二つはあるはずです。少し待ってくれとジェスチャーして、店を調べました。
1階を見て回りますが、どこもかしこも空き部屋です。どうもおかしい。2階に上がってみますが、テーブルにベッド等の簡素な家具が置かれた宿泊部屋がいくつかあった程度です。レストランどころか厨房もありません。困り果てた主人公ですが、そういえばと思い出します。
2階の隅の方に、変な部屋がありました。ドクロの表札が立てかけられた怪しい部屋です。店の女性もドクロの髪飾りをつけていたことから、彼女の部屋かと思い、入りませんでしたが。
どのみち店の女性にも用事があります。コンコン、とノックしますが返事はありません。ドアに鍵もかかっていない様子。仕方がありません、入ることにします。人の部屋に入るのに躊躇なしとか最低デス。
部屋の中はやはり店の女性の私室のようです。部屋の雰囲気がどことなく似ています。
彼女はいませんが、食べ物がいくらかありました。ちょうどいいところに皿とコップも。近くの紙に客のために使うと書き残し、モノを抱えて持っていきます。外にあった井戸から水を汲み、手持ちのナイフを洗います。包丁が見つからないので代用に使うつもりです。大丈夫、料理にも多少覚えがあります。
パンにジャーキー、ハーブを手際よく刻み、挟む前にこれまた手持ちの万能調味料をふりかけます。様々なスパイスを混ぜた小瓶で、どんな食材に使ってもそれなりに上手くなる調味料です。
本当だったら熱を通したいところですが、機材はないので諦めたようです。さて、特製サンドイッチは完成しました。あの冒険者は3人組だったはず、6つもあれば十分でしょう。お盆にのせてテッテコ運び、受付で待っている女性に渡します。
「……なんか1個、形悪くない?」
切るのに失敗したサンドイッチ、なんだかガタガタした切り口です。思ったように手が動かなかった彼です、自信はあっても失敗はします。言葉が出ない以外にも、頭を打ったの影響があるのかもしれません。
「そう。形は気にしないし、悪いやつをもらう。ラシェウスとツバキは2つずつでいいだろうし、1つはあなたが食べたら?あなたもお腹空いてそうだし」
いいのだろうか。首を傾げた主人公に、魔法使いはうなづきます。
「そういう顔してる。あまり無茶はしない方がいい。ところで、このサンドイッチはいくら」
回答に困りました。主人公が作ったものですので、正式な商品でない。かといって店の物を勝手に使って出した商品だし、少しはお金を取った方が異様な気もする。悩んでいると、魔法使いが何枚かの硬貨を渡してきました。
「これくらいあればいい?多い分は、チップということで」
明らかに多い気がします。硬貨を返そうとすると、魔法使いは首を横に振ります。
「結構美味しそうだから、その気持ち。ありがとう」
……美味しそう、か。本人としては手を抜いてるつもりですが、それでも褒められて悪い気はしません。もらった金額は、600ゴールド。なかなかに高額です。原価を考慮するなら半額くらいでも十分の金額ですが、なかなか気前のいい冒険者です。
「おい、オマエ、何してるデス」
サンドイッチ1つ片手に呆けていると、店の女性が現れます。ようやく探していた人が見つかってほっとする主人公ですが、ぎょっとして後ずさります。
……店の女性が、大鎌担いであらわれた!!
「人の部屋に勝手に入っていくわ食べ物持っていくわ、オマエドロボーだったのデスか。残念ですが、この店は犯罪者に容赦はないデス」
ちゃんとメモは残したはず!反論しようとしますが、声は出ません。万事休す。近くに使えそうなものを探しますが……サンドイッチが一切れありますね。それとサンドイッチ代のお金が。許しを請うようです。
「サンドイッチ?いきなり渡されて土下座とかよくわからないデスが、いただくデス。ちょうど小腹も空いてるところデスし」
パクパクと食べる女性の目が丸くなった当たり、味はいいようです。今のうちに台帳を持ってきて、女性を探している間に何があったかを説明します。
「ふむふむ。宿泊客が来て食事を用意した、と。宿泊代はまだだが食事代で600Gもらった。このサンドイッチを6つで600Gデス?」
これでです。
「経営と料理がそれなりにできるデスかね?声が出ないのによくやったデス」
食べ終えた女性が大鎌を置きました。どうやら許してもらえたようです。
「うーん……泊ったやつが3人で食事でこれで。締めて6000Gくらいは狙えそうデスね」
宿泊代の相場からすると、それくらいはいけそうだとは思う。若干ぼったくりな気もするけど。
「よし。オマエ、今日からここで働くデス」
なんデスと。
「この店はまだ営業始めたばかりでとにかく人手がいるのデス。後、経営に明るいヤツを見つけて助手を作らないと、この先色々と困るデス。なかなか便利そうデスし、オマエでもいいデスね」
なんだかよくわからないうちに話が進んでいきます。そうはいっても彼にもやることの一つや二つくらいあるはずです。例えば、馬車の……馬車の……なんだったか、思い出せませないようです。
「やることなさそうな顔してるデスし、契約するデス」
さあ契約書はこちらデス。ハンコあるデス?ない?なら拇印でいいデスよ、指出せデス。さっさと押せデス契約デス30秒で決めろデス!!あれやこれやと話が進んでいく。OK出してないのに話がどんどん進んでいく。今更イヤだと言えるでしょうか。
……言えそうにありません。ウキウキしてる女性にイヤと言えるほど、彼は女に強くないのでした。
どうやら困ってるみたいですし、ちょっと人助けするくらいならいいか。
契約書がどうにも読みづらいけど、こういうのに物騒なことを書く人はそうそういないハズ。内容は読み飛ばし、指にインクを塗って、押すところにペタ──りと、押して。
「よし、これで契約成立デス。今日からオマエ……おい、どうしたデスか」
めまいがする。視界がぼやける。立っていられなくてへたり込む。立ち上がろうとしても、力が入らない。
「きゅ、急に倒れたデス!?しっかりするデス!」
そうは言われても、どうしようにもない。意識を張って、なんとか気を失わないようにするけれど、どうにも耐え難い。よく見えないし、感じないが、どうやら女性に揺さぶられているらしい。
「……あ。そういえば。オマエ、頭打ってたデスね」
まあ、そうだが。
「ということは、頭の中で血が出たりとかで時間差死というヤツデスか」
死。
「残念ですが、オマエの命はここで終わりデスね」
そうか。死ぬのか。
言葉の意味は、不思議なことに、すっと理解できた。死ぬのは怖いものだと思っていたし、死にたくなくて今日まで色々とやってきたはずだ。怖くて、怖くて、仕方ない。
そのはずなのに。涙も、恐怖にうめく声も、何も、出てこない。
「そんな顔をするなデス。大丈夫デスよ」
頬に彼女の手が当てられる。もう片手で、僕の手を握る。
「最後まで、私に付き合ってもらうデスから」
死ぬまで、付き合ってくれるのか。
……あれ。何か違うような。
僕が死ぬまで付き合うんじゃなくて。あなた「に」付き合ってもらう?
「まあ。とりあえず、今だけは安らかに眠るデス」
頬の手が目を閉じる。闇の中で、少しずつ、意識が薄れる。村を出た頃。冒険者になった頃。色々あって、冒険者を引退した頃。そして、なんでも屋を始めて……今日に、至るまで。
女性のやさしさに抱かれながら、命を振り返り。
そして。消える。何も、見えなくなる。何も、聞こえなくなる。
世界が、わからなくなる。闇の中へ、放り出される。溺れるように、何もできない。
声も上げられない。感じるものが何もなくなる。女性のやさしさも、わからなくなった。
闇の中に、一人、ぼくは、いるのか。それさえも、わからない。自分を、感じ取れない。
それでも。不思議と、怖くなかった。むしろ、なぜか。
ワクワク、していた。
なんとなく。楽しくなる気が、した。
さて。こうして、オマエは死んだのデス。おお、しんでしまうとは なにごとだ!デス。
でも大丈夫、オマエはラッキーデス。死ぬ前に、私と契約したのデスから。
ほら、ここにちゃんと書いてあるデス。
【私は死神シイネの『死神代行』として、一生服従してコキつかわれることを誓います】
そんなこと書いてたのか?詐欺じゃないのか?契約書にはちゃんと書いてたデスから、読まずにサインしたオマエが悪い。文句は聞かない、デス。そして、ここを見るデス。ほら、契約期間。
【契約期間、ずっと】
ずっと、デス。だから、オマエが死んでも関係ないのデス。
死ぬ前に、戻して。生き返らせてやるデス。
これからきっちりコキ使ってやるデス。それじゃ。頑張ってくるのデスよ。
それはそれとして、もらうモノはもらっていくデスよ。
蘇生もタダじゃないのデス。とりあえずオマエの財布は確定で、ついでに貯金も……
……あっ。これ、どうするデス?まあ、どうせ持っていくデスし……別にいいデスね。
光が瞼を照らす。瞼の赤い色が、見える。かすかな物音が、聞こえる。世界を、感じる。
「起きたデスね。自分のことはわかるデス?」
起き上がる。ここは、先ほど倒れた宿の受付前だった。少しずつ、意識が覚醒していく。そして、自分を確かめる。息ができる。声は……出せない。でも。生きてる。胸に触れると、心臓の鼓動がわかる。僕は、生きている。生き返ったんだ。
そして、側にはあの女性がいた。死ぬまで、側にいてくれて。そして、死んだ後も、何故かいた。紫色の髪と瞳の、美しい女性がいる。お店の女性が、いる。
「そういえば、自己紹介がまだだったデス。私はシイネ。『死神』の、シイネ、デス」
しにがみ。シニガミ?シニガミ、とは。
「ああ。そういえばこの世界の人間は、神をうまく認識できなかったデスね。死神とは、死を司る神様デス。その力でオマエを生き返らせてやったのだから、感謝するデスよ」
神様。なるほど。それなら先ほどの不思議なことも納得できる。死んだ人を生き返らせるような奇跡も、神様なら使えて当然、ということか。お礼を伝えたくて、頭を下げる。
「それじゃ。仕事をするデスよ」
仕事。
「今日からオマエは、私の『死神代行』デス。ほら契約書」
ぴらぴらと振りかざす紙を受け取る。そこには、こう書いてあった。
【テンチョウは死神シイネの『死神代行』として、一生服従してコキつかわれることを誓います】
……なにか、おかしい気もする。テンチョウの文字の下に何か書いてあったような、それを無理やり消したような。後からテンチョウとか書き足してるような。
「コキつかわれることがおかしいとか思ってるなら、契約した生前のオマエを怨めデス」
そうじゃなくて。適当に何も書いてない紙とペンを見つけると、さらさらと書く。
【テンチョウって、何?】
「およ、そこが気になるデスか。コキつかわれるのは別にいいのデス?」
【生き返らせてもらった恩を返すなら、それくらいは当然かな、って】
「ほうほう、よい心がけ、デス。それじゃあキリキリ働け、デス!」
それはわかったけども。指でもう一度指す。
【テンチョウって、何?】
「……オマエの名前、デス」
【僕の?】
「そうデス。オマエの名前がわからないから、今日からオマエはテンチョウに改名デス」
【ええええ?】
名前がわからないって。それは酷いよ。僕にはちゃんと名前が……あれ。僕の、名前。なんだ。
「ほら、どうせ名前も思い出せないデス。生き返る時、もとい、転生する時にオマエの記憶とか経験とか、オマエを構成するモノの9割は持っていかれるのデス」
【なんと】
「先に言っておくと、私にもわからないデス。オマエ、何故かうちの店の前で倒れてたけど、それ以上は何も知らないデス」
【そんな怪しい人、良く死神代行?にしたね】
「ここで便利そうなヤツに死なれて、次に候補を見つけるまで待ちぼうけはイヤデス。美味しい話は逃さないのは、儲けるコツデス」
それは違うと思う。ほとんど何も覚えていない僕でもわかる。
「さ。ぐだぐだ言う、もとい書いてないで仕事するデス」
【はーい。何をすればいい?】
「紙の上でハイを伸ばすなデス。この店の店長として、カネを稼ぐデス。それが、死神代行の仕事デス」
【……死神代行なのに?誰か殺すとかじゃなくていいの?】
「今時人を殺すとか魂を奪うとかやってたら評判最悪デス。最近の死神はカネを稼いで、カネの鳴り響く音に幸せを覚えるのデス」
死神、とは。死ではなくてカネを司る神、カネ神では。
「無駄なこと考えてないでとっとと働けデス!とりあえず、オマエは喋れないから接客は私がやってやるデス。で、その他諸々はオマエがやるデスよ」
【具体的には?】
「経営、調理、清掃、防犯、後できるのなら鍛冶とか建築もやれデス」
無茶ぶりにもほどがある──っっ!!!思わずペンを落とすほどの悲痛な叫びはシイネには聞こえません。喋れてませんから。
「あのー。お取込み中のところ済まないんだが」
受付のところに、カラフルな人々が立っていた。彼らは確か、冒険者。
「部屋の方に荷物置いたから、これからちょっと出かけてくるんだ。それで、弁当を頼みたいんだけど、できる?さっきのサンドイッチでいいからさ」
「ほら、早速仕事デス。キリキリ働くデスよ、テンチョウ」
反論する余裕はない。一息つくと、紙にさらさらと言葉を書く。なんだかさっき、食料を探しに行って怖い目に逢った気がする。なので、シイネに確認を取りたかったのだ。
「あー。材料は私の部屋にあるらしいデス。特例として、入ってもいいデスが取ったらとっとと出ていけデス」
確認取ってよかった。それじゃ、行ってこよう。
まだ、少しだけ体が重い気がするけど、動けないほどじゃない。まずは材料を集めて、サンドイッチを作ろう。その次は、お店を掃除して……あ、そうだ。まだ聞いてなかった。
【シイネさん。このお店、名前何?】
「あ。そういや俺たちも聞いてなかった。店長さんも知らないのか?」
「コイツは今日からテンチョウになったから、知らなくても無理はないデス。この店の名前は──
「え”っ、しょ、娼館?ちょ、そういう店だったのかここ!?」
「……スケベ」
「何も知らない女を連れ込むとは、ヘンタイのリーダーめ」
「なんか変な勘違いされてるデス!エッチな娼婦のショウじゃなくて、商売のショウ、デス!!テンチョウも私を見てナニ納得してるデスかっ!!おらっ、ささっと仕事してこいデス──!!」
蹴り飛ばされる哀れなテンチョウ。でも、着物を着崩して肩を露出させてる女性とか、それっぽく見えるのも仕方ないと思うのでした。
こうして、転生物語ははじまる。死神に魅入られた者たちと、シニガミショウカンの物語。
テンチョウとシイネ、波乱万丈転生物語、はじまりはじまり。
【シニガミショウカン】
原作『死神商館』は、元々『死神娼館』というゲームでして、
追加要素、いわゆるDLCの開発に伴ってシステムを調整したところ、
フルリメイク本編+追加要素の制作に至ったとんでもないゲーム。
そして、別のゲームとして販売されることとなり、
タイトルも『死神娼館』から『死神商館』へと変わっています。
この二次創作では、店名を『シニガミショウカン』としていますが、
実際のゲームでは自由に設定できます。商館でも娼館でもお好きな物をどうぞ。
【テンチョウ】
この二次創作の主人公。転生して記憶も経験も無くしたお人よし。
でも体に染みついたセンスで料理に掃除と大体のことはできる。
まあ、器用貧乏なだけですが。
契約書に名前を書かなかったのが運の尽き。
勝手に命名されて【テンチョウ】として生きることになった彼の運命はいかに。
ちなみに、ゲームでは名前を自由に設定できますが、ボイス上では【店長】呼びです。
原作の主人公とは別人です。ラシェウスでもルースでもない。
原作主人公は非常に魅力あるキャラですので、気になった方は是非原作をご確認ください。
【シイネ】
死神。デスデス言ってるのは本当に原作通りデス。デスー!?がかわいい。
カネが好きなのも主人公に色々やらせようとするのも原作通り。
【月下美人】と評される美女で、会話しているといつの間にかカネを余分に支払わされるとか。
ゲーム内の初期ステータスは、接客と清掃がずば抜けて高いが、その他は低め。
特に体力は最低評価だが、病弱とかではなくて、やる気がないので【最低】の模様。
戦闘面は……また今度でいいデス。そんな【サボリ魔】な一面もある。