シニガミショウカン:死神に魅入られて   作:1週目50時間かかった……

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本当だったらこれぐらいのボリュームで1話の想定でした。
なんか1話と2話が異常にかさんでる……


人気店への、第二歩目

 シニガミショウカンはからっぽのお店だった。2階に宿泊部屋はあるけれど、1階には受付があるだけ。キッチンもないから簡単な料理しか提供できず、売り上げが振るわない日々が続いていた。というのが、昨日までの話。それが、たった1日で色々な設備ができた。

 

 酒場付きのレストランに、かまど付きの調理工房。これからは焼き料理も煮込み料理もなんだってできる。レストランで食べてもらえるようになったから、宿泊しない人向けにも商売しやすくなる。大儲け間違いなしだ。

 

 それと、休憩ルーム。

 

【内装考案したのシイネさんだったよね?】

 

「そうデス」

 

【どう見てもワラのベッドがあったり、樽やらなんやらが無造作に置かれてて倉庫っぽいんだけど。本当に休憩ルーム?】

 

「冒険者の由緒正しい休憩部屋のはずデス」

 

【それ、馬小屋とか牛小屋とか言ったりしない?】

 

「そうは言ってもこれ以上は予算オーバーデス。レストランと調理工房が想像以上にカネ持ってったデス……頑張って稼いで、払った分は取り戻すデス」

 

 その通りだ。設備だけあってもダメ。設備を活用して売り上げを出すまでが、経営だ。そして、経営に必要な要素はまだある。店にいる店員は、僕とシイネさんだけ。たった二人でこれだけの設備をフル活用するのは不可能だ。だから、新しく店員を雇う必要がある。

 

 受付に戻ると、柱時計が約束した時間を指す直前だった。秒針、分針が重なり、鐘が9回鳴る。

 

 営業開始時間の合図だ。それと同時に店の扉が開かれると、色とりどりの服装をした集団が入ってきた。冒険者というものは誰もがカラフルな見た目をしている。その先頭に立っているのは、青いローブのデシルスさん。

 

「営業開始時間になったし、入っていいかい?」

 

【ええ。お待たせしてしまい申し訳ないです】

 

「いいよいいよ、店の前でも雑談が盛り上がったし、色々と貴重な話が聞けた。それじゃ、皆。彼が新しくシニガミショウカンの店長になったテンチョウ君だ」

 

「店長になった、テンチョウ君?」

 

「なんすかその変な名前。あ、デシルスさんのギャグ?」

 

【この店の店長になりました、テンチョウです。喋れないので紙で失礼します。】

 

「事前に訊いてた通り喋れないとは、お気の毒に。でも、店長のテンチョウが本名じゃないですよね?」

 

【本名にされてます。】

 

「はあ?」

 

【本当に、テンチョウが、本名です。】

 

「そ、そうか。色々と苦労してそうだな」

 

 デシルスさんに連れられた一行の視線が暖かくなったのを感じる。若干不服だけど、掴みはばっちりか。

 

 彼らはシニガミショウカンの店員候補。デシルスさんに頼んで、働き先を探している人々を紹介してもらうことにしたのだ。いわゆる、【求人】だ。たった一日、一晩程度しか時間がなかったにもかかわらず、5人ほどの候補を連れてきてくれた。デシルスさんのコネは想像以上のようだ。

 

【それじゃ、レストランの方で簡単に仕事の説明をさせていただきます。どうぞこちらへ】

 

 候補の人は老若男女様々だ。ボロボロの衣服を着ている青年がいたかと思えば身なりが整った老紳士、まだ子供くらいにしか見えない男の子、どこかの制服らしき衣服の女性、そして、黒いクチバシを持つ全身黒ずくめの男。

 

 最後の人不審者では!?

 

 心の仲で叫びつつ、慌てて近くにあった箒を構えたが、スパンとシイネさんに引っぱたかれる。

 

「やめろデス、見た目はすっごいアレデスが、こいつもれっきとした店員候補デス。というか、前に逃げ出した店員デス」

 

「ハッハッハ。シイネさん、驚かれるのも無理はないでしょう。こればかりは仕方ありません」

 

 どうやらシイネさんとも顔見知りのようで、普通に挨拶していう。一体何者なのだ、この不審者は。ペコリと頭を頭を下げた彼は一枚の紙を差し出してきました。

 

「ほら、ちゃんと履歴書も持ってきています。身なりは怪しくともワタシの出自ははっきりしていますよ」

 

 困惑しつつも受け取った履歴書を確認する。過去の経歴やアピールポイント、冒険者ギルドによる能力査定が描かれており、見るだけで人柄がわかりやすい一枚となっていた。

 

 ワカン、男性、年齢は50代後半。

 魔術学院ソルシアにて医療魔術を専攻していたが、卒業直前に実験中の事故に巻き込まれて全身に大やけどを負い、数年間意識不明のまま生死を彷徨う。全身黒ずくめはやけどを隠すため。

 在学中に付き合っていた彼女……達?たちってどういうことだ。

 とにかく10人くらいの彼女は、意識不明の間に新しい彼氏を見つけており、なんなら子供作ってる人もいた。そのせいで性癖がめちゃくちゃになってしまい、女性については寝取られることでしか性的興奮を覚えなくなった。今は性欲を捨てているが、寝取られる人を見るとついつい――

 

【すみません、適当な内容で履歴書書くのやめてもらえます?なんですかこの経歴】

 

「事実です」

 

【いやいやいや。こんなの誰が見ても嘘だってわかりますよ】

 

「NTRスキーですが、ワタシの名はワカン。事実です」

 

【よくわかりませんけど、そこもなんか嘘っぽいんですが!本名はなんですか!?】

 

「テンチョウの気持ちはわかるデスが、事実デス。それを認めるギルド印もちゃんとついてるデス」

 

 シイネが指さしたところには、ギルド職員の名前とギルド名をしめす押印がありました。開いた口が塞がりませんが、ひとまず読み進めます。流石にぶっ飛んだ部分は読み飛ばしつつ、ですが。

 

 二十八日前、諸事情あってシニガミショウカンを退職。

 工事現場での突発的な事故や、クエスト帰りの冒険者を対象としたフリーの治癒師として活動中。

 能力 :体力、料理に自信あり。錬金と清掃の心得も多少あり。

 希望職:料理関係 清掃

 

【医者なのに料理得意なんです?】

 

「医療魔術とあわせて栽培の研究をしていまして。腐りにくい野菜ですとか、沢山実がなる果物とか。それを加工するところまでワンセットでして、料理には自信があるのですよ。火傷した事故もシチューを作っていた鍋への落下です」

 

【実験中の事故 とは】

 

「お隣さんが突然爆発を起こしまして、驚いてそのまま、という感じです。煮込まれた今では鍋料理の鉄人です。よろしければ今晩御馳走しますよ」

 

 反応に困ります。

 

「あ、そうそう。お隣さんは結構散らかす人だったので、掃除も得意です」

 

 お隣さんが問題児だったんですね。それは、ご愁傷様です。

 

 どうしようか、この人。

 

 経歴がエキセントリックすぎる。だけど、書類上ではかなり優秀みたいですし、一応苦労している経歴に同情する部分もなくはない。

 でもそれはそれとして、その。寝取られるのが好きという部分がどうにもひっかかるというか。あまり理解できていない概念ですが、こう、ヤバイ感じがする。女性関係っぽいので、シイネさんや店員候補の方々が危ないのでは。ちらりとシイネさんを見ると表情変えずに首をかしげてきました。

 

「大丈夫です、シイネさんにも、女の人にも手は出しません」

 

【本当に?】

 

「火傷で、アレ取れましたから」

 

【アレ取れました】

 

「故に性欲を捨てた男です、ワタシ。そういう心配は不要ですよ」

 

 詳しく聞いてはダメな気がする。そういう話ではあるものの、あまりのエグさに男性も女性も皆引きつった顔をしています。反応がないのはシイネさんだけ。

 

【えっと……とりあえず、ワカンさん、採用の方向でもいいです?】

 

「かしこまりました。今晩はワタシの鍋が火を噴くことでしょう」

 

 安全な鍋料理にしてください。1人で厨房に立たせるのが不安な人材だけど、とりあえずは腕前を信頼することにした。こんなので大丈夫なのかな、シニガミショウカン……

 

 


 

「オーダー入りました、疑惑のヤキトリ盛り4皿に小ぶりの鳥肉串10本!それと新鮮ハーブの盛り合わせを2組分お願いします!」

 

「ストックの準備があります。盛り付けますので少々お待ちを。テンチョウさん!」

 

【ハーブの盛り合わせ準備します】

 

「ありがとうございます」

 

 全然杞憂だった!食材の下ごしらえはもちろん新メニュー開発までしてくれたし、それでいて手際が抜群、しかも速い!客の情報を少し聞いただけで、これくらいは作っておきましょう、と料理の準備を始めてたけどドンピシャだ!ワカンさん、これで本職が治癒士というのが信じがたい。

 

【このまま運ぶの手伝います】

 

「お願いします。鳥肉串は今焼いているところです。ヤキトリ盛りとハーブの盛り合わせの配膳をお願いします」

 

「任せて。ヤキトリ盛りは私は私がやるから、ハーブの盛り合わせは店長くんお願いね。あ、ワカンさん。今晩はあとどれぐらい出せそう?」

 

「そろそろ在庫が厳しいですね。ハーブの盛り合わせが3組分と、ライスバーを少々がいいところでしょう」

 

「となると、店仕舞いは近いわね」

 

「作れそうな料理と数をカウントしておきましょう」

 

 それ以外の店員もすごく動きがいい。先ほどオーダーを持ってきた女性は、元々飲食店でウエイターとして働いていたらしく、テキパキと接客する。

 彼女に追従して、レストランへと入る。夜を迎えたシニガミショウカンでは、レストランは酒場へと姿を変える。満席とまではいかないけど、それなりに多くのお客さんが入っていた。

 

「おまたせ!注文は他にあった?」

 

「いえ、特にはありませんでしたな」

 

 カウンターには老紳士が立っていた。彼も新しく雇った店員の一人だ。ペンテシレイアさんが席を離れている間、接客を変わってもらっていたようだ。

 僕が会釈すると、同じく会釈を返してくれた。そして、右目だけを三度閉じた。

 

 危ない客がいる。

 

 老紳士の視線をたどれば、見るからにイラついている客がいた。空になった酒瓶が2本見える。酔って騒ぎを起こすかもしれない。その時は、彼に任せることにしよう。

 彼は元々要人警護を主な仕事としていたが、高齢がたたって仕事を続けられなくなったらしい。今でもあまり動けるほどではないが、知識と技術は本物だ。防犯意識があまりなかったこの店にとっては貴重な人材だ、これから頼りにしていこう。

 

「すみませーん。さっき頼んだ料理はまだです?」

 

「あっ、ごめんなさい!今持っていきます!」

 

 客の呼び声に僕たちは動き始める。あ、そういえばハーブ盛り合わせはどこに持っていけば。

 両手にトレイを乗せているから、紙に書くことはできないし。別のテーブルへ料理を運んで行った女性に確認しようとして、トレイに客の特徴が書かれたメモが乗せられていることに気づく。一体いつの間に。遠くで女性がウインクしていた。気を抜いてたら置いていかれそうだ。僕も成長しなければ。

 

【おまたせしました。ご注文の品です】

 

「おう、ありがとな。ちょっと聞きたいんだけど、これに使ってるハーブってなんだ?」

 

【こちらになります】

 

 今日から持ち歩くことにした手帳には、料理の詳細を書き込んでいる。ハーブ盛り合わせの場合は、使っているハーブと、とれる場所等の情報を載せていた。

 

「ふーん、なるほどな。結構うまかったし、今度マテリナに取りに行ってみるか。ありがとうよ」

 

【採取の時はお気をつけて。良かったら買い取りましょうか?】

 

「えっ、いいの?」

 

【お客さん、新人の冒険者みたいですしね。街に帰る時はちょっとでも手ぶらの方が楽じゃないです?どうせならお腹に入れるのもアリですね】

 

「そいつはそうだな。じゃ、そん時は俺が取ったハーブでこれ作ってくれよ」

 

【かしこまりました。その時はちょっと値引きしますね】

 

 それと、筆談のスピードも少しだけ上がった。客とこんな感じに会話をこなすのも余裕だ。さて、次の客は、っと。メモに書かれていた人物は、レストランの隅に置かれている席を使っていた。彼、デシルスさんと目が合うと手招きしてくれた。

 ささっと駆けつけてサラダを置くと、せっかくだから座りなよ、と促される。

 

【ではお言葉に甘えて。今日はありがとうございました、デシルスさん】

 

「これぐらいお安い御用さ。今後とも頼ってくれたまえ」

 

【欲を言えばお店手伝ってほしいくらいですけどね】

 

「ああー。それはちょっと難しいかな。ほら、僕って万能舎弟だし。色々な人から仕事やら商会やら頼まれてるから、ここに腰を落ち着けると動きにくいのさ」

 

 それは残念だ。まだまだ人数としては必要最低限だから、物知りなデシルスさんには是非とも手伝ってほしかったけど、デシルスさんがやることがあるというのなら、引き留めることはできない。

 

「その代わり、今後動くときはそれとなくシニガミショウカンが店員を集めていることを伝聞してみるよ。割と有名な場所に建ってるから、モノ好きも集まりそうだしね」

 

【そうなんです?】

 

「そうなのさ。通称、死神の土地」

 

 死神の土地。シイネさんがいるからだろうか。ハーブを一枚シャクリとかじる。苦い。

 

「ここは昔からいろんなお店が開店しては消え、開店しては消えを繰り返していてね。立地は悪くないはずなんだけどどうにも売り上げが振るわない。死を司る神にでも愛されてるんじゃないか、とか皮肉気味に言われてるのさ」

 

【物騒な理由だった!?】

 

「なのにシイネ君はここが気に入ったみたいでね。そこそこ状態のいい館もあったから、買い取って店を始めたんだ」

 

 シイネさんの経営センスが一層不安になってきた。移転を検討したいところだけど、そんなお金はないしなぁ。死神と一緒に、死神の土地で頑張るしかない。

 

「そういうことだから、店長君も死神の新しい犠牲者にならないように気を付けるんだよ」

 

【もう手遅れかもしれない】

 

「そうなのかい?」

 

 すでに死神代行にされた身だ。死神の手にかかる、という意味ではすでに手遅れです。

 

「大丈夫さ。まだまだこの店には伸びしろはあるし、そう簡単にはつぶれないはずさ」

 

【そうだといいけど。店員雇って設備も作って、経営が本格化したけど、まだ不安なところはあります】

 

「仕入れとかかい?実はシイネ君にさっき仕入れについて簡単にレクチャーしておいたよ。後で話を聞くといい」

 

【本当ですか!?仕入れ先とか、注文の方法とかです?】

 

「そうそう。これから本格的に店を動かすなら、新鮮な食材の流通ルートは必要だろう。僕の知ってるルートでいくつかこの店のことを紹介してるし、なんなら昨日のレストラン建築に合わせて搬入してたからね。明日も業者が同じ量を持ってきてくれるけど、追加注文もその時伝えるといい」

 

【いつの間に】

 

「初回サービスだよ。君はいい店長になってくれそうだしね。後、いいパトロンにもね」

 

【ぱとろん?なんですかそれ】

 

「今はまだ知らなくても大丈夫さ。でも、そうだな。テンチョウ君。1つ確認したいことがある」

 

 いつの間にかハーブの盛り合わせは残り1枚になっていた。それをつまみ上げると、僕に向かって差し出してきた。遠慮せずに、いただくことにする。

 

「食べたね。これで君は、僕に借りができたということだ。そんな時、どうする?」

 

【どうする、とは】

 

「うーん、ちょっと抽象的過ぎたね。テンチョウ君が何か困っていることがあるとしよう。そんな時、誰かに助けられたとしたら。テンチョウ君は、その誰かに何をしてあげたいと考える?」

 

 決まっている。

 

【誰かに感謝します。そして、その誰かが困っていたら助けます】

 

「いい答えだ。もしそのために、明日の経営が難しくなるくらいのカネがかかるとしても、助けるかい?」

 

 一瞬筆が止まる。でも、すぐに動き始めた。

 

【難しい質問です。助けないかもしれない】

 

「おや、そうかい?君は店の方が大切なんだね」

 

【意地悪な言い方しますね、デシルスさん。でも、この店の財布握ってるのシイネさんだし。勝手に使ったら殺される】

 

「……アッハッハ!そうだね、そうだったね」

 

【それでも】

 

「それでも?」

 

【個人的にできる範囲で助けますよ。まずはシイネさんを説得してみます】

 

「君にできるかい?彼女、一度決めたら割と強情だよ」

 

【でも、間違ってたり、もっといい方法があると知ったら考えを変えてくれる人です。僕が来るまでは店員を雇わずに一人で店を経営してましたけど、僕が雇った方がいいと言ったから、今の店がありますし】

 

 ちらり、とレストランを見渡す。雇ったばかりの店員たちが、たくさんのお客さんを笑顔にして、カネをもらっている。よくあるお店の光景だけど、これまでのガラガラ宿屋とは大違いだ。

 

【シイネさんは、デシルスさんが思ってるよりも、優しい人です】

 

「これは参ったね。君もなかなかに意地悪だ。でも、そんなテンチョウ君がシイネ君に付いていてくれるのなら、僕も安心して舎弟に励めるってものさ」

 

【舎弟って励むものなのです?】

 

「励むものなのさ。君も店長に励むといい。店員も増えたことだから、営業終了後に時間があればそれぞれにヒアリングしてみるのはどうだい」

 

【店の改善点ややってほしいことを聞くとか、でしょうか。後、店員の悩みも聞いたりとか】

 

「そうそう。シイネ君は優しいけれど、結構ズバズバ言うタイプだからね。悩み相談なら君の方が適任だよ。もちろん、キミ自身も悩みがあれば、店員に相談すること。意外なところに答えはあるものさ」

 

【意外なところ。NTRスキーとか言ってたワカンさんに恋愛相談とかありでしょうか】

 

「本当に意外なところついてくるね!?もうちょっと手軽なところだよ。ほら、キミの後ろとか」

 

 言われるがままに振り向く。シイネさんが立っていた。不思議な表情で、立っていた。呆れるでもなく怒るでもなく、笑うでもなく。何とも言えない顔と瞳を携えて、僕を見ていた。

 

【えと、これは、その】

 

 何を言えばいいのか困って、まともな言葉を書けない。デシルスさんに助けを求めようにも、すでにいなくなっていた。

 

「本当ならサボりを説教するところデスが。許してやるデス」

 

【ごめん!デシルスさんと話すのが楽しくてつい】

 

「話の内容なら結構最初から聞いてたデス。勉強になる部分もあったデスし、サボりとは考えないデス。私がお悩み相談で役に立たないのは不服デスが」

 

【聞かれてましたか】

 

 と、いうことは。

 

【もしかして、直前のも聞いてた?】

 

「聞いてたデスよ?私は優しい死神らしいデスね」

 

【違ってる?】

 

「違ってないデス。そして、私は慈悲深いデス。今後カネが必要になることがあったとして、店の経営が不可能になる規模のカネは無理デスが、傾ける程度なら好きにするデス」

 

【え、傾けていいんだ】

 

「傾けたところでオマエと私なら元に戻せるデス。違うデス?」

 

 それは……きっと、違わない。シイネさんと僕なら、できる。自信を持って頷いた。

 

「そういうことデス。じゃ、残り1時間頑張るデスよ。私も持ち場に戻るデス」

 

 シイネさんが手を出してきた。パシン、と合わせてハイタッチ。今日の営業もラストスパート、気合を入れて頑張ろう。でも、何か引っかかるような。

 

【シイネさんの持ち場って宿の受付ですよね。なんでレストランにいるんです?】

 

「……ノーコメント、デス」

 

【サボリガミ】

 

「やかましい、デス」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「はい。もう大丈夫です。検査はこれで終了です」

 

「終業後にわざわざすまないデスね、ワカン」

 

「いえいえ。料理も楽しいですが、本業はこれですから」

 

 営業終了後。店員と少しだけおしゃべりする時間を作ることにした。デシルスさんが言っていた、ヒアリングの時間だ。なお、シイネさんもなんだかんだ言ってついてくることになった。今晩ヒアリングすることにしたワカンさんは、本業は治癒士。

 せっかくなので、僕が喋れない原因を診断してもらうつもりだったんだけど。

 

【検査費はまた別途支払いますね】

 

「おや?今回は給料出してくれるのですか?」

 

【今回は?どういうことです?】

 

「シイネさんが店長だった頃は給料なんてありませんでしたから」

 

 なんかとんでもないことがカミングアウトされたんですが。

 

「給料?なんデス、それ」

 

【え?】

 

「雇われたら最後、死ぬまでタダでコキ使われるのが店員のはずデス」

 

【どこでそんな知識身に着けたの?給料はちゃんと払わなきゃダメだって】

 

「まあ、なくてもワタシは別にいいのですがね。その代わりに食事や寝床の準備、薬品の手配をしてくれるのであれば十分です」

 

「ほらみろデス。給料なくとも現物支給で大丈夫デス」

 

【ワカンさんは異例だと思います。というか、逃げ出したの給料出なかったのが原因じゃないんですか?】

 

「ワタシ以外はそうかな、と。ワタシも流石に薬品を買う金がなくなってきましたので、辞めました」

 

 意外なところから、シイネさん経営時代に店員が逃げた理由が判明した。この辺他の店員を集めて大至急ミーティングしておかないと、また店員が辞めていくことになるぞ。

 

「報酬の話はまた今度しましょう。それで、診断結果についてですが」

 

「脳に異常は見つかったデス?」

 

「いえ、それが全然。全くの異常なしかと」

 

【脳は悪くないんですか?】

 

「はい。結果をお見せする機材がないので信じがたいかもしれませんが、異常がないのは事実です」

 

 ワカンさんは覚えている魔法の一つに、体を探る魔法がある。体に魔力の波を当てて、それの反響を感じ取ることで異常を探る魔法。本当だったら、それを絵にする魔道具とかを使うらしい。

 

「脳と喉、どちらにも会話を阻害する要素が見当たりません。体ではなく、心の方に問題があるのかもしれません」

 

【心、ですか】

 

「ええ。すごく悲しいことや辛いことがあって、そのショックで言葉を失う。いくつか事例は聞いたことがありますし、その類ではないかと」

 

【特に心当たりはないかなぁ】

 

「そうは言っても、オマエは記憶喪失デス。覚えてないところで何かが棘のように刺さっているのかもしれないデスね」

 

 となると厄介な物だ。治療の目途が全く立たない。店員も増えたことだし、声が出せた方が助かる場面も多いから、早急に声を出せるようになりたいんだが。

 

「声のことで悩む気持ちはわかりますが、もっと問題があります」

 

【はい?】「デス?」

 

「……断言はできませんが。心臓の調子が少し悪いように見えます。それと、体中が凝ってるような感じも。少々働きすぎではないでしょうか」

 

 心当たりが思いっきりある。作業量は少ないとはいえ、連日ずーっと働きっぱなしで休日らしい日が全然なかった。疲労がたまっているのかもしれない。

 

「なら、今晩は私がマッサージでもしてやるデス」

 

【シイネさん、マッサージできるの?】

 

「デシルスからちょっとだけ聞いたことがあるデス。とはいえ、夜も遅いデスから簡単に済ませられる範囲でやってやるデス。ワカンも夜遅くまで付き合ってくれて助かったデス」

 

「いえいえ。では、今晩はお楽しみくださいませ」

 

「多分そういうことにはならんデス」

 

 表情が薄いシイネさんとは異なり、マスクで顔を隠すワカンさんは全く顔が見えない。それでも、見た目のように怖い人ではない。部屋を出る時もなんかサムズアップしてったし。どういう意味だろう。なんにせよ、いい人が来てくれてよかった。これで病気とも無縁だ。

 椅子から立ち上がり、グイっと背伸び。さて、マッサージとのことだけど、どっちの部屋でやるんだろうか。シイネさんに尋ねようとすると、様子がおかしかった。

 

「……テンチョウ。オマエとは、運命共同体デス。だから。隠さずに言うデス」

 

 何を言うつもりなのか。紙で聞き出そうとする前に、シイネさんは告げる。

 

 

 

 オマエは、近いうちに死ぬ、デス。

 

 それこそ、明日心臓がおかしくなって、死ぬかもデス。

 

 

 

 告げるシイネさんの瞳に、涙はない。それでも。ひどく悲しい瞳をしていた。

 

 




【モブ店員】
ランダムで名前や外見、能力が生成される店員の通称です。

【ワカン】
オリジナルキャラ。だけど、完全にオリジナルではない。
先述したモブ店員で、筆者がお世話になったキャラ。
黒ずくめペストマスクの治癒士で、料理と掃除が得意。
個性は【不遇の天才】【NTRスキー】【性欲を捨てた男】【人間のクズ】【ドM】【バイタリティ】
色んな意味でヤベーヤツにしか見えねぇ!!

流石にモブ店員0で話を進めるのはつらいので、代表として出演。
今後もモブ店員は裏で増えたり減ったりしますが、基本は出番なし。

【給料】
本当に払ってない。ゲーム内で差っ引かれる費用に入ってない。

雇う対象が根無し草の冒険者なので、働けるだけでメリットがあり、
メシとかその他諸々を現物支給する形にしている、とのこと。





【死】
迫りくるソレから、逃げることはできる。
でも、逃げ切ることは、不可能だった。
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