大監獄から変化していく世界   作:ヘビとマングース

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14:仁義なき戦い インペルダウン死闘篇

 インペルダウン内部の状況が変わったことで、囚人たちも激しく混乱していた。

 

「青キジがバレットと戦闘開始しましたァ!」

「黒ひげはレベル6に到達! あそこにはほんの数人とはいえ、ニューカマーランドに来るのを拒んだ囚人たちが居ますが……!」

「ダグラス・バレットに対する態度を見れば一目瞭然! あの男はインペルダウンの囚人たちを仲間にするために来たっチャブル! 今はこのまま放置するンーナ!」

 

 レベル5とレベル6の間にある、レベル5.5番地“ニューカマーランド”に集結した囚人たちはざわめきを抑えられずにいた。

 上層には海軍と看守。下層には黒ひげ海賊団。

 前代未聞かつ全く想像できなかった事態に、ニューカマーランド総帥であるイワンコフですら少なからず動揺を見せている。

 

 “黒ひげ”と聞いて特に大きな反応を見せたのがエースだ。

 モニタールームにまで押しかけ、ティーチの動向を見ながら苦々しい顔をしている。

 

「ティーチの野郎……! ずいぶん堂々と歩いてやがるなァ……!」

「抑えるんじゃエースさん。今はお前さんらを外へ連れ出すのが最優先。ここでティーチと戦ったところでさほど意味はない。奴を討つのは、白ひげの親父さんの船へ帰ってから改めてじゃ」

「わかってる! ここにはルフィも居るんだ……これ以上あいつを巻き込むわけにはいかねぇ」

 

 エースは以前、ティーチとの決闘に敗北して海軍へ突き出され、インペルダウンに収監された。その件に加えて彼を追うきっかけになった“仲間殺し”の問題もまだ解決していない。心中は穏やかではないが、傍らに立ったジンベエに諭される。

 苦い顔は変えられないものの、エースはきつく拳を握りながらも必死に耐える。

 

「しかァし! そこまで心配はなっシブル! レベル6に残ったのはニューカマーランドに来るのを拒んだバーンディ・ワールド、運ぶのが無理だったサンファン・ウルフの二人のみ! そこまでの脅威じゃない、と思いたいわ!」

「希望じゃねぇか」

「結局バレットと潰し合うことはなかった。バーンディ・ワールド……これ以上厄介な展開にならなければよいが」

 

 彼らのやり取りを聞いたイワンコフはぐるりと振り返り、エースに顔を寄せてきた。

 単なる予想と気休めでしかないが、そちらを深く考えている余裕がないのは確か。

 彼らの目的は地上へ出て脱獄すること。イワンコフは最初からそちらを優先している。

 

「深く考えてもしょうがなっシブル! とにかく今こそ脱獄の時! ヴァターシたちはバレットを回避して地上へ向かい、この監獄を出ていく! さあ、行くわよ~ンナ!」

 

 イワンコフが陣頭指揮を執り、囚人たちへ語り掛ける。

 ついに脱獄の時。準備は完了している。ここからはただひたすら外を目指すのみだ。

 

「まずはレベル5へ出て生き残ってる囚人たちを解放し、味方を増やす! 動ける奴は問答無用で全員連れてきなさーい!」

 

 ニューカマーを筆頭として、脱獄を今や遅しと待ちわびている囚人たちが拳を掲げて叫んだ。

 

「イナズマたちが先行して道を作っておくわ! ヴァターシたちは可能な限りバレットを回避して海軍の包囲網を突破し、外へ出る! 途中で倒れた奴には手を貸しなさい! 死んだ奴は一瞬で見捨てなさい! 今からは脱獄できるその時まで、一秒たりとも止まっちゃダメーンナ!」

 

 「おーっ!」と大勢の人間が返事をした直後、ニューカマーの一人がイワンコフへ報告した。

 

「麦わらボーイたち、すでに出発してます! イナズマさんも一緒に!」

「早いっ⁉ 自由か⁉ ヒーハー!」

 

 居るかと思った主力たちはどうやらすでにその場には居なかったようだ。

 驚愕したイワンコフだがすぐに気を取り直し、その状況すらも良しとして受け入れる。

 

「こうなったらもう理屈じゃないよォ! 勢いに乗って突っ走るだけっチャブル! 行けェ~‼」

 

 地響きすら起こる大音量で叫びながら、ニューカマーと囚人たちは全力で駆け出した。

 

 

 

 

 先行してレベル5へ出た一団は、脇目も振らず一直線に上層へ向かう階段を目指していた。

 レベル5“極寒地獄”。雪に覆われた地面を踏みしめ、ほとんど勢いよく蹴り飛ばしながらひたすら前進し、息が白くなろうとも全く気にしていられない。

 どうせ一時のことだと寒さに耐えながら、彼らは急いでいた。

 

 先頭を走るのはルフィ・エース・ジンベエの三人。

 もしも敵が現れて戦闘になろうと挑むつもりであった。

 真っ先に飛び出したルフィを守るため、急いで出たエースとジンベエが両側から挟んでいる。

 

「行くぞォ~! 誰が来ようがぶっ飛ば~す!」

「おいルフィ! お前調子に乗って実力見誤るなよ! 勝てねぇならすぐ退け!」

「エースさん、それはあんたもじゃ。普段から無茶ばかりするが、弟の前じゃからとあまり張り切らんでくれよ。わしらが苦労する」

「わかってる! だがこいつは話を聞かねぇバカなんだ! ちゃんと見とかねぇとほんとになんかしでかすぞ!」

「うおおおお~! 出るぞ~!」

 

 先頭から少し離れて後方、次に居るのはキリ・Mr.2・そして男性になったイナズマだ。

 やけに騒がしい先頭よりも幾分落ち着いて会話している。

 

「バレットを避ける? できるの?」

「可能だ。私はチョキチョキの実を食べた“鋏人間”。ハサミと化した両手で物質を裁断し、性質はそのままに形を作り替える。螺旋状のスロープを作って直接上階を目指す算段だ」

「な~るほど! バレットや海軍と戦わなくて済むってわーけねい!」

 

 脱獄の要となるのはイナズマの存在。逃走経路を作るために彼は不可欠らしい。

 そう聞かされたキリはちらりと後方を見た。

 最後尾に続くのはクロコダイルとMr.1。誰に言われたわけでもなく自発的に行動している。

 

「それでボスが来てるのか。スナスナは渇きの力で破壊工作が得意だもんね」

「おれも外に出る必要がある。そのために力を貸すだけだ。イワンコフの指示に従ったと思うな」

「うーん、このわかりやすいツンデレ。ありがとうございます」

 

 追いついてきたクロコダイルが左手のフックでガンッとキリの後頭部を殴った。

 キリはぐったりするのだが、咄嗟にイナズマが小脇に抱えて運び出す。

 

「ぐへぇ。ありがとうイナズマ。お世話になります」

「構わない。君は妙に軽いな」

「紙人間だからね」

「んが~っはっはっは! あんたとゼロちゃん仲がいいわねい! 昔は顔すら見せなかったのにまさかこんなやり取りずっとしてたなんて~!」

「黙れMr.2。こんなやり取りは一度もしてねぇ」

 

 彼らは迷わずレベル4へ向かう。

 それから少し経ち、レベル5のあちこちにある穴から続々とニューカマーや囚人たちが現れて、大声を発しながら行動し始めた。

 

 いの一番に出てきたバギーは近くの牢屋を指差して大声で叫んだ。

 囚人服を着たままの男たちはなぜか彼に心酔しており、疑問を抱かずに従っている。

 

「よーし野郎どもォ! おれの提案だが! ここから脱獄するためには戦力が要る! そこでMr.3が作った鍵を使い、囚人どもを解放するのだァ!」

「イエス! キャプテン・バギー!」

「おれたちの救世主!」

「なんかノリノリで手柄横取りしとるガネ⁉ お前はさっきまで酒飲んでただけだガネ!」

「あぁ~、酒が切れるのはまずいんや~。さっさとここから出んといかんな~」

 

 囚人たちはMr.3が作った蝋の鍵を使って牢屋の扉を開け、囚人を解放していく。

 一番最後に大量の雪を巻き上げて派手にイワンコフが現れた。

 

「ヒーハー! これでニューカマーランドに残った人間は一人もいなっシブル! あとはひたすら上へ向かうだけよーンナ!」

 

 

 

 

 レベル6“無限地獄”。

 そこに到達したティーチは囚人たちに会い、手早く説得を終えた。

 

「ゼハハハハ! 面白くなってきたじゃねぇか! 野郎ども、急いで上へ行くぞ!」

 

 焦ることも残念に思うこともなく、ティーチは先頭になって素早く踵を返した。

 

「“オカマ王”イワンコフが率いるニューカマーランドか。こことレベル4に人が居ねぇはずだぜ」

「追ってどうすんだ船長? 戦うのか?」

「そんなはずがありませんよ。やるべきことは一つです」

「そうとも。ここに居た連中はたった一人外へ出しただけで世界がひっくり返るような連中だ! このまま逃がしちまうのはもったいねぇ! 増やせる分だけ仲間は増やしとくべきだろう!」

 

 仲間になるだけの価値があると判断して、その場で従えたのはたったの三人。それ以外はもはや物も言わずに横たわっている。

 ティーチは急いで歩きながらも背後を確認し、にやりと笑った。

 

「感謝するぜ、カタリーナ・デボン。お前が持ってきた情報でやるべきことが決まった」

「ムルンフッフッフ。感謝するのはお互い様よ。私は自分の欲しいものを手に入れるため。あなたたちに協力してもらえればそれでいいの」

 

 監獄内に限定されるとはいえティーチを導こうとしていたのは、最悪の女囚と呼ばれる女海賊、カタリーナ・デボン。美しい女性の頭部を切り取ってコレクションする癖があると噂される、世界中の女性に恐れられる人物である。

 彼女はティーチの後ろについていき、わくわくした顔で話す。

 

「今回私がどうしても欲しい首は男のもの……だけどあの女に似た、とても美しい顔。ずっと隙を窺っていたけど必ず誰かが傍に居たの。だからこっそり切り取るのは諦めたわ。こうなったら力ずくでもあの首を私のものにしたい」

「正直な奴だ。だがだからこそいい。利害が一致してさえいりゃてめぇの願望が何だろうがおれは一向に気にしねぇ」

 

 「ゼハハハ」と特徴的な笑い声を響かせ、ティーチは以前にも増して上機嫌だった。

 

「おめぇもそうだぜ! バーンディ・ワールド! ちょうどここには海軍が来てるようだ! 早速一戦交えるかァ!」

「当然だ。ダグラス・バレットもぶち殺してやりたかったところだが、まずはおれを裏切った仲間と海軍、世界政府を潰してやる」

「ゼハハハハ! 思うようにやりゃいいんだ! それが海賊ってもんだろうが!」

 

 厳めしい顔の大柄な男、バーンディ・ワールドが怒りを抑えられない様子で呟く。

 バレットとの戦闘後、自らの実力で生き残ったがニューカマーランドへ向かわなかった彼は今もなお囚人服を身に着けている。しかしなぜか没収されなかった、角の生えた兜を被っていて、その兜に触れると過去を思い出したようだった。

 かつて二本あったはずの角は一本折れて一本のみ残り、今となってはその記憶すら忌々しい。

 

 本来ならバレットとの戦闘の続きをしたかったところではあるものの、ティーチの誘いを受けたワールドは本来の目的を優先することにした。

 世界政府とその諜報機関サイファーポールが最たる標的。そして海軍、かつての仲間。

 自らを監獄へ送り込んだ全てを憎み、徹底的な破壊を行うと決意したのである。

 

 ただ純粋な戦闘を望んでいるバレットとは違う。

 まるで取り付く島がないかと思ったものだが、意外にも上手くいってティーチは満足げだった。

 

「上もすでに盛り上がってるようだ。海軍が到着しやがったな? 面倒なことになる前にさっさと全部いただくぞ!」

 

 階段を上ろうとしたものの、ティーチがふと振り返る。

 見上げるほどの巨人が彼らの後ろに居た。一歩進むだけで地面が大きく揺れ、ただ立っているだけで凄まじい威圧感。

 上る必要などないではないか。ティーチは上機嫌に笑った。

 

 

 

 

 レベル3“飢餓地獄”。

 戦いやすさを重視して特に開けたフロアを選んだバレットは、正面から海軍を待ち受け、喜々として戦闘を開始していた。

 

 限りがあるとはいえ灼熱の砂漠であるレベル3に、巨大な氷がいくつも生えていた。

 クザンはヒエヒエの実を食べた“氷結人間”。体そのものが氷であり、冷気を操ることができる。

 熟練した能力は周囲の熱にも負けない氷を生み出して、武器として放ち、環境を変えるほどの力を持っている。クザンが戦う場所は少なからず気温が下がっていた。

 

 バレットはこの戦闘を心から楽しんでいた。

 正面から殴り合っても簡単には倒れない強者。そんな相手を倒すために全力を注ぎ込む。

 

「カハハハハ!」

「参ったなこりゃ。悪魔みてぇなやつだよ……」

 

 肉体から冷気を発し、氷を生成して、如何なる距離であろうと攻撃を行うクザンに対し、ひたすら距離を詰めるバレットは肉弾戦を挑んでいる。

 クザンの攻撃が直撃してもダメージはほとんど見られない。それでいてバレットの攻撃も華麗に回避されていて、状況はどちらに傾くこともなく拮抗していた。

 

 ただ、この状況が長引けばまずい予感がする。

 クザンは正面のバレットに集中しながら苦い顔をしていた。

 

「一昼夜やり合っても終わりそうにねぇな。こいつはどうやったら倒れるんだ……」

「おれを倒すだと? 不可能だ!」

 

 バレットのパンチが豪快に振り下ろされた。

 クザンが回避したことで、勢いは止まらず地面に激突し、砂を巻き上げて床を豪快に破壊する。広範囲に渡って地面が粉々になって、階下に砂が漏れて落ち、壊れていない地面まで大きく揺れて看守たちが転んでしまう。

 

 人数の差など物ともしない、たった一人で戦況をいとも容易く変えてしまう、圧倒的な個の力。ダグラス・バレットは開放してしまえば単独で時代を変えてしまいかねない脅威。恐るべき力を目の当たりにして、クザンを含めた看守たちは息を呑んだ。

 一方でクザンは冷静さを保っており、バレットとの戦いを継続している。

 氷を飛ばして距離を測りつつ、後方に居る看守たちを守るように動いていた。

 

 戦闘中であるクザンの行動からは「仲間を守ろう」という意思が感じられる。

 それに気付いた途端、瞬時にバレットの顔色が変わった。

 敢えて攻撃をやめて止まるほどに激怒し、全身から激しい怒りを放ち始める。

 

「貴様、手を抜いてやがるのか?」

「あぁ? そう見えたのか? こっちは必死に戦ってんのによ」

「後ろのカスどもを守ってるな」

「部下を守るなんざ上官として当然の責務だ」

「くだらねぇ!」

 

 バレットが強く一歩を踏み込んだ。目で見てわかるほど爆発的に迫力が増している。

 

「そんなに強くてなぜ弱くなる!」

 

 地面を踏み砕くと同時、巨体が消えたかと思うほどのスピードで飛び出して、一瞬にしてクザンへ迫った。瞬きさえ許さない速度でパンチが繰り出される。

 接近まで一秒とかからない。クザンが顔の前で腕を交差し、辛うじて防御した。だが全身にまで強烈な衝撃が走り、殴られた体が弾丸のように吹っ飛ぶ。

 

 同時に、殴ったバレットの拳と、四肢が凍らされて動きを封じられていた。

 怒り狂うバレットは意にも介さないものの、攻撃が当たった瞬間にクザンが反撃したのである。

 凍った手足もそのままに、バレットは激怒してクザンを睨みつけた。

 

「弱ェカスを庇うから弱くなる……! 仲間は、弱さの原因だ。そしてこの世は弱肉強食! 強い奴のみが生き残れる! それ以外は無価値だ!」

 

 バレットの全身から威圧感が増すと、気迫だけで四肢を拘束する氷を破壊する。

 腕を振って破片を飛ばし、彼はさらに一歩進み出た。

 

「おれは貴様らのようにはならねぇ……! 絶対的な最強になってこの海を――」

 

 言い終わる前にハッとしてバレットが背後を振り返った。

 後方、遠くに気配を感じる。しかしその動きが奇妙だ。

 

「強い気配を感じる……だがなぜ上へ向かっている⁉ 能力者か!」

 

 バレットは完全に後方へ振り返り、クザンを無視して素早く駆け出した。

 

「おれから逃げるつもりか! 弱者の思考だ! 生きる価値もねぇカスは全て叩き潰す!」

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