大監獄から変化していく世界   作:ヘビとマングース

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15:痛いのは嫌なので肉壁に極振りしたいと思います。

 レベル4からレベル3に上がった地点に、地面を巻き上げ、螺旋状のスロープが設けられた。

 合計で4本。一度に大勢の人間が駆け上がれる広さで天井まで伸びており、天井には大きな穴が開けられて通過できるようになっている。

 

 その光景を目にしてバレットはさらに速度を上げた。

 レベル4から上がってきた囚人たちが直接レベル2へ向かっている。

 

 囚人たちはバレットを回避して上層へ向かうために急いでいたのだ。しかしようやく本隊がレベル3に到達し、スロープを登り始めた段階で駆けつけてきた。

 その姿を見た囚人たちは悲鳴を上げずにはいられない。

 バレットは異様なスピードで近付いてきて、届かない位置ですでに拳を握っている。

 

「弱ェ上に腰抜けか……! 生かしとく価値もねぇカスども!」

 

 走る勢いを利用して、大きく前へ跳んだバレットは右腕を振りかぶった。

 落下しながら囚人の集団へ向かうのだが、集団の先頭に居た一人が空へ飛び出す。必然的に空中で向き合い、互いに拳を突き出した。

 

「火拳‼」

 

 繰り出した拳から強大な火が放たれた。

 バレットの拳と打ち合い、打ち勝てはしないが広がる炎でバレットを包み込む。

 

 メラメラの実を食べた“火炎人間”、名を“火拳のエース”。

 肉体の至る所から火を放ちながらエースは着地し、落下してくる火の塊を見た。少しだけ遅れて着地したそれは、両腕を振るって火を消し飛ばす。

 バレットは健在。服こそわずかに焦げているが外傷は一切見られなかった。

 

「おれから逃げられると思ってんのか! かかってこい!」

「お前に付き合う義理も理由もねぇよ。おれたちの邪魔すんな!」

 

 バレットが地を蹴って直進した。

 エースはその動きを見てから動いて、しかしほぼ同じタイミングで動き出し、両足から勢いよく火を吹くと空を飛ぶ。

 パンチが空を切って、バレットは反射的に高く空を飛ぶエースを見た。

 

「魚人空手!」

 

 先程までエースが立っていた位置から後方、声を聞く。

 咄嗟にバレットがそちらを向くと同時、届かないはずの位置から拳を繰り出された。

 

唐草(からくさ)(がわら)正拳(せいけん)!」

 

 ジンベエが正拳突きをした。しかし距離があって腕は届かない。

 それでも攻撃が来ると知っていたバレットは、敢えて避けようとしなかった。

 拳は届かずとも、空気中の水分を利用して衝撃だけを伝えていき、バレットの顔面に衝撃のみを直撃させた。大きく首を後方へ反らしたバレットだが、にやりと笑って顔を戻す。

 常人なら一撃で仕留められる。規格外の肉体の強度だ。攻撃したジンベエが表情を変えた。

 

「こりゃあ骨が折れそうじゃ……」

「骨だけで済むと思ってるのか!」

 

 バレットは続けてジンベエに接近しようとするものの、それを阻止するかの如く、走り出したのと同じタイミングで足元の砂が独りでに動き、刃となって体に当たる。

 咄嗟に防御したバレットの体に傷はない。しかし虚を衝かれたのは確か。

 視線を動かし、攻撃を行った人物、クロコダイルを素早く見つけた。

 

「久しいな合体野郎。てめぇの顔はさして見たくもねぇんだが」

「カハハハ! お前も殺せるのか! ちょうど殺し損ねたのを後悔してたとこだ!」

 

 またしても標的を切り替え、今度はバレットとクロコダイルが激突する。

 とても人が生み出せないであろう轟音を伴い、彼らの戦闘は大気を揺らした。

 その間、囚人たちは上階へ急ぎ、ルフィやキリもその中に居た。

 

「エース!」

「お前ら先行け! こいつが相手じゃ歯が立たねぇ!」

 

 エースが叫ぶとルフィはすぐさま決断し、スロープを走って登りながら眼下のエースへ叫ぶ。

 

「わかった! さっさと上がって来いよ! 先に行って軍艦は奪っとく!」

「ああ、そうしろ! すぐ追いつく!」

「死ぬなよ!」

「縁起でもねぇことを……そりゃこっちのセリフだ! いいか、一瞬も油断すんなよ!」

 

 ルフィは囚人たちと共に上層を目指し、止める者はおらず、数人が残ってバレットを止めていたことで行軍は問題なく行われる。

 砂を大きく跳ね上げ、イワンコフが現れた。

 エース、ジンベエ、クロコダイルに並び、その場に残ることを決めたようだ。

 

「ヒーハー! かつてない大パニッキャブル! ヴァナタも相当強いけれど、たった一人で英気を養ったヴァターシたちを止められると思ってんなら大甘っチャブルね!」

「群れねぇと戦えねぇカスども……! 貴様ら如きがおれを殺せると思ってんのか!」

「勝てないと思ってここに残ってると思ってんのォ! ヴァナタ、相当のヴァッキャブルね~!」

 

 先にバレットが動き出し、対峙した四人がそれぞれ迎え撃った。

 地形を変えるほどの激しい戦闘になり、砂を巻き上げ、地面を砕き、インペルダウンへさらに甚大なダメージを与える。

 

 その場に駆け付け、遠目に状況を確認したクザンは敢えて手を出さなかった。

 重視すべきはバレットではなくレベル2へ向かう囚人たち。あまりにも数が多い。

 

「全員階段からレベル2へ。あそこにおれが入ったら囚人の得になる。他の連中を対処するぞ」

 

 クザンは素早く判断を下し、まだまだ余裕がある状態でバレットを避け、上層へ向かった。

 

 

 

 

 レベル2“猛獣地獄”。

 スロープを上って突然現れた彼らは勢いに乗って駆け回っていた。

 

「ギャーッハッハッハ! どんどん鍵を開けろォ! 檻から出やがれ野郎どもォ! 忌まわしき監獄におれたちの時代が来たぞォ!」

「涼しいガネ! ここならいくらでも鍵を作れるガネ!」

「トプトプトプ。早く酒の追加が欲しいんや~」

 

 囚人たちが次々に牢屋の扉を開け、レベル2の囚人たちを解放していく。

 気付けば先頭に居たバギーは高い位置から彼らを見下ろしていた。

 誰よりも大声を出して目立っている男だ。自然と囚人たちは彼を見上げて感嘆する。

 

「解放は近いぞお前ら! 外に出たい奴は足を踏み鳴らして声を上げろ! お前らを救う男はどこの誰だか言ってみろ!」

「キャプテン・バギー! おぉ、おれたちの救世主!」

「哀れな囚人を導く解放の男!」

「天才!」

「ギャーッハッハ! さあ進め野郎ども! お前らにはこのキャプテン・バギー様の加護がある! 看守だろうが海軍だろうが今更お前らを止められる奴など居ねぇのだ!」

 

 多くの囚人たちが「おお~っ!」と声を上げ、拳を掲げて、足を踏み鳴らす。

 脱獄の旗手となったバギーの命令に従い、囚人たちは強烈に動く人の大波と化した。

 武装して向かってくる看守と海兵の集団に対して真っ正面から戦いを挑んで、銃を撃たれようと剣を振り上げられようと、一時も立ち止まらずに飛び掛かっていく。

 

 あまりにも強い勢いだった。

 ただの取っ組み合いとも言えるが、囚人たちはあっという間に敵を呑み込み、道を作る。

 その光景をバギーは上から眺めて上機嫌だった。

 

「ギャ~ッハッハッハ! 見ろよMr.3! なんて最高の展開だ! 世界最強と恐れられたインペルダウンがこの状況! 胸がスカッとするなァ!」

「言ってる場合カネ⁉ 敵はこれからも続々と集まってくる……! 逃げられる時に逃げなければチャンスを失うぞ!」

「なぁに、こっちはこんだけ集まってんだぜ? 今更何を恐れるってんだ。このままだとおれは世界を変える男になっちまうなぁ。むふ」

「こいつダメだガネ⁉ すぐ調子に乗るタイプだガネ⁉ 絶対どこかで痛い目見るガネ!」

 

 バギーが足を止めて悦に浸っている間、ルフィたちが先頭を目指していた。

 じっとしている暇はない。階下ではエースたちがバレットを足止めしている。これ以上厄介な敵が来る前に道を作り、外へ出なければならない。

 ルフィの隣にはキリが居て、唐突に足を止めると大声で叫んだ。

 

「Mr.1! 王様! 看守長!」

「あん? なんだニャー?」

 

 何も言わずにMr.1が駆け付け、アバロ・ピサロが不思議そうに近寄ってきて、シリュウが急ぐ様子もなくやってくる。

 納得するとキリが頷いた。

 

「よし」

「よしじゃねぇ⁉ お前さては肉壁を用意したろ!」

「えぇ? うそぉ? まさかそんな……えぇ?」

「ふざけんな! お前が壁になれニャー!」

「まあとにかく、これだけ揃えばちょっとやそっとじゃやられないでしょ。行こう」

 

 ほんの数秒足を止めた間にルフィの背中は遠ざかっている。

 キリが重視するのは、何より自分とルフィが生き残り、インペルダウンを脱獄すること。エースやジンベエはある程度放っておいても平気だろうという考えがあるが、自分たちが生き残るためには死力を尽くす必要があると感じている。

 再び駆け出した時、キリは周囲にMr.1・ピサロ・シリュウを連れていた。

 

 看守と海兵が次から次に集まってきて、まるで分厚い壁のように列を成している。

 囚人たちは真っ正面からぶつかり合っていたが、そこにルフィが到達した時、それだけで一気に状況が変わる。

 

「麦わらだ!」

「どけェ~! ゴムゴムの雨!」

「ぎゃあああああっ⁉」

「た、隊列を……! 崩すな、ぶへぇっ⁉」

 

 高く跳んで空中に躍り出ると、ルフィは両腕を伸ばして無数のパンチを打ち、密集している敵をまとめて殴り飛ばす。

 ほんの一瞬で隊列が崩れた。その事実はそのまま看守と海兵に動揺を与える。

 囚人たちは嬉々として攻勢に出て、さっきよりも勢いを増した。

 

「ぎゃははは! 麦わらの坊主が敵を崩したぞ!」

「ありがとよ麦わらァ!」

「キャプテン・バギーの親友!」

「親友じゃねぇよ⁉ 勝手に決めんな!」

「このまま一気に行っちまえェ! 監獄なんかぶっ潰せェ!」

 

 調子付いた囚人たちの勢いが増す。

 その様子を見て、状況を変えるべく命令を無視して動き出す若い海兵が居た。

 

 目にも止まらぬスピードで駆けて、小細工無しで真っ向から殴りかかり、囚人の集団に対してただひたすら素早く激突した。それだけで数人の男たちが宙を舞う。

 何が起きたかを理解するよりも早くパンチを打ち、蹴りを放ってさらに大勢の人間を飛ばす。

 一瞬にして空気が変わった。単身飛び込んできた海兵が次々に囚人を殴り飛ばして、その異様な光景で囚人たちの勢いが削がれる。

 

 左腕に拘束具を着けた、赤いソフトモヒカンが目立つ若い青年。

 着地したかと思えばすぐにその姿が消えてしまい、気付けば囚人が攻撃を受けている。

 オールハント・グラントは勝手に突出して戦い始めたのだ。

 

「なんだァあいつ⁉ なんか速ェぞ!」

「おい止まるな! ここまで来てんだぞ! なんでもいいから前に出ろ!」

「誰かあいつを止めろよ!」

「押すなバカ!」

 

 彼らの声を聞きながらグラントはチッと舌打ちをする。

 

「大して強くもねぇくせに、口だけは達者なバカばっか……! こういう奴が偉そうにしてんのがムカつくんだよ! お前ら人間のクズが外に出たいなんて言ってんじゃねぇ!」

 

 感情的になったグラントが地面を強く蹴って直進した。

 集団の先頭に居た囚人は反応できていなかったが、別の角度から人影が飛び込んでくる。

 グラントが突き出した腕を蹴り、片手で肩を掴んで攻撃を止めたのは、至近距離でにこりと微笑むキリだった。

 

「てめっ……⁉ 紙使い!」

「久しぶりグラント君。逮捕以来の再会?」

 

 キリが全身を大きく動かし、豪快にグラントを投げ飛ばした。しかしその行動自体にダメージは伴わず、即座に体勢を整えて地面に着地する。

 グラントはすぐさま攻撃を行おうと駆け出そうとした。だがその前に仲間が追いつき、彼の肩を両手で掴んで制止する。

 

「待てグラント! 勝手に突出するな、このバカ!」

「また命令無視を……落ち着け! アイン大佐に叱られるぞ! う、う、羨ましい!」

「離せ! あいつまで出てるじゃねぇか! おれの手柄だぞ!」

 

 グラントを制止したのは彼にとっての親友、手長族のアント・デ・ボナムと、女好きの二刀流剣士シモイ・ザッパの二人。

 彼らは元々、海軍大将“青キジ”の部下だったのだが、問題行動が多いことから鍛え直す意味を込めて海軍遊撃隊に配属され、日夜海賊たちと戦う日々を送っていた。

 キリは捕縛した海賊の一人。グラントは自らが功労者だと主張している。

 

「えぇ~、そんなことないんじゃない? 何百人って遊撃隊全員が相手だったんだよ。君一人の手柄じゃないでしょ」

 

 その言葉に対してキリは苦笑しながら否定する。

 グラントはすぐにキレた。元々彼との相性は悪く、一瞬たりとも黙っていられない。

 

「ふっざけんな! 三日三晩お前を追い続けたのはおれだけなんだぞ!」

「でも援護は常にあったし。他の人は交代しながらずっと君を助けてたよ」

「おれが追い続けたからできたことだろうが! 位置だって常にわかってた!」

「最終的には元海軍大将が登場って感じだったし……なんか一人で勝ちました、みたいな言い方されてましたけど、ねぇ?」

「なんだその言い方⁉ ムカつくなァ!」

「落ち着け! お前はそのすぐカッとなるとこを直せって青キジさんに言われたんだろ!」

 

 ボナムが必死に押さえつけようとするのだが、グラントは素直に怒って落ち着きがない。

 キリはにこにこ笑っていて気楽に話しかけてくる。感情的なグラントを挑発して、本来の力を発揮できなくさせているのは明らか。

 しかしグラント自身は自分を抑えるつもりもなく戦うつもりだった。

 

「上等じゃねぇか! だったらおれ一人でお前を負かしてやるよ! 泣いて謝っても許してもらえると思うなよ!」

「え? そんなことできるの? あんまり大口叩かない方がいいんじゃないかなーって……」

「舐めてんだろお前⁉ できるわっ! お前なんかに負けるわけねーだろバーカッ!」

「やめろグラント! お前ほんとひっぱたくぞ!」

「ひっぱたかれそうになってる人に言われても無理そうっていうか、無理そうっていうか」

「二回も言ってんじゃねぇ!」

「いい加減にしろオラァ!」

「ぶえっ⁉」

 

 バチーンと頬をひっぱたかれて、グラントはようやく冷静になる。

 

「こいつがこっちの平静を崩そうとするのはわかってたはずだろうが! 挑発に乗るな! おれたちの声を聞け!」

「あ、ああ……すまなかった。もう平気だ。あいつのペースには乗せられねぇ」

「ほんとにひっぱたかれましたね」

「ウルルァアアアアアッ‼」

「グラントォオオオオオオッ‼」

 

 説得の甲斐なく、グラントは再び飛び出した。

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