大監獄から変化していく世界   作:ヘビとマングース

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16:ダンスガンビットダンス

 囚人たちの行軍がレベル2で止まった。

 看守と海兵が詰めかけ、壁となって進むことができない。

 状況は硬直するが戦闘は続いてる。どちらも犠牲が増えていて、焦れた様子のバギーは苦い顔をし始めていた。

 

「クソ、流石に敵の数が多い……! イナズマは何やってんだ! なぜさっさと道を作らねぇ!」

「作ったところで天井に穴を開けられんのだガネ。ボスが下に残っているから」

「な~にやってんだあのワニ野郎は! 逃げるつもりねぇのか!」

「仕方ないのだ、バレットを抑えているのだガネ。そうしなければ我々は今頃全滅している」

「ぬううぅ、せっかくここまで来たってのに! 今更諦められねぇぞ!」

 

 状況は芳しくない。長引けば長引くだけ囚人たちの不利になる。

 バギーは焦っていたが、Mr.3は彼に比べれば冷静で、状況を俯瞰的に見ていた。

 バギーの傍に居る間はやかましい男でしかないとはいえ、元来彼は計略や策略が得意で、直接的な戦闘よりも他人を動かすことを得意としている。それだけでなくこの場にはかつて所属していた秘密結社“バロックワークス”でタッグを組むこともあったキリも居る。

 

 状況を確認して、Mr.3は焦ってはいなかった。

 陣頭指揮を執るのはイワンコフであっても作戦を考えられるのは一人や二人ではない。

 必ずチャンスは作れるはずだと考えていた。

 

「幸いにもこちらには能力者が多い。敵の統率を乱せればなんとかできるはずだガネ」

「はあ~、落ち着かねぇぜ。こっちはさっさとシャバに出てぇのによォ」

 

 戦闘は激化している。

 特に大暴れしていたのがルフィとキリだ。

 ルフィは周囲を気にせずにひたすら直進しており、キリは敢えて敵の集団の中へ飛び込む。

 

紙創造(ペーパークラフト)

 

 キリは何の変哲もない紙切れを操作する。

 鉄同然の硬度にする“硬化”。

 手で触れずとも動かす“浮遊”。

 そして紙同士を繋ぎ合わせる“連結”。

 それらを複合的に使用して“操作”を行い、思うままに鉄同然に硬い紙の武器を作り出した。

 

大鎌(おおがま)!」

「ぎゃあああああっ⁉」

「紙使いを止めろ! 素早いぞ!」

 

 敵陣の中へ飛び込み、長大な鎌を握って思い切り振り回す。

 鋭利な刃先で看守と海兵を切り裂き、鮮血が舞った。

 キリは返り血を浴びないようぴょんぴょん跳んで次々に場所を移動しており、移ってから攻撃してすぐに逃げ、素早く甚大な被害を生んでいる。

 

 グラントはキリを捕らえようと追いかけるのだが、ひたすら距離を置かれて逃げられている。

 思い返せば彼を捕縛した時もそうだった。とにかく逃げて真面目に戦わない。

 以前も今もそれが厄介でならないのだ。

 

「逃げるな紙使い! おれと勝負しろォ!」

「やだね」

 

 広範囲に及ぶ彼らの攻撃で看守と海兵は混乱していた。

 誰から、どう対処すればいいのか、対応が遅れてどんどん流れが悪くなっている。

 

「流石にこれだけの戦力が居れば看守であろうと海軍本部だろうと簡単には負けんガネ。ふふふ、用兵で勝負できるのであれば私は負けるつもりなど毛頭ないガネ」

「よーしやってやれMr.3! 戦わせろ! おれたちはこのまま楽に脱獄だぜ!」

「ウィ~、それはええやんなぁ」

 

 Mr.3が勝ち誇り、バギーが嬉しそうに笑っていたが、状況は瞬く間に変わっていく。

 

「うわぁあああああっ⁉」

「ルフィ⁉ あーもう、勝手に先行するから……!」

「なんじゃあっ⁉ 麦わらがすっ飛んできやがった⁉」

「何か嫌な予感がするのだが……」

 

 ルフィが殴ってぶっ飛ばされたのをきっかけに雰囲気が変わる。

 下層に居たはずの人間が駆け付けたのだ。

 長い十手を振り回してルフィを打ったスモーカーと、その後ろから悠々と歩いて現れるクザンが集団をかき分けて進み出てくる。

 

「大将が来られた!」

「心強い援軍だ!」

「隊列を立て直せ! 射撃陣形!」

「あらら、ずいぶん困ってるようじゃないの。やるねー君ら」

「ぎゃあああああっ⁉ 青キジィが来ちゃうのォ⁉」

「不測の事態だガネ⁉ そこは考えてないガネ!」

 

 看守と海兵の士気が高まる一方、バギーとMr.3をはじめ、囚人たちに動揺が走った。

 ただ登場しただけで戦況が変わってしまうほどの圧倒的な戦力。

 クザンが到着したことで反射的に囚人たちが後退しようとしていた。

 

「くっそぉ~、ケムリンに青キジか……! 強ェのが来たな」

「エースたちはバレットを止めてる。僕らだけでなんとかするしかない」

 

 看守と海兵の顔つきが変わって、大声を上げながら戦闘に臨もうとしている。

 下へ降りていた看守たちも駆けつけており、ハンニャバルが武器を掲げて一同へ語り掛ける。

 

「私も来ているぞ! 未来の監獄署長ハンニャバルがついている!」

「そう! 私が居る限りお前たちに敗北はない! 必ずやこの事態を解決して署長に……えぇええええええっ⁉ 私が二人ィイイッ⁉」

 

 同時に二人現れたハンニャバルが互いに顔を見合わせ、絶叫する。

 片方はマネマネの実の能力で変身したMr.2であり、看守たちは資料でその能力を知っているはずなのだが、混沌とした状況がそうさせるのか激しい動揺が伝播している。

 

「くそっ! 作戦が止まったガネ!」

「海軍大将なんざどうしろってんだよォ! やっぱりインペルダウンじゃ分が悪過ぎる! あいつを避けられてもまだ続々と来るだろうしよォ!」

「ぬぅ~何かないのか……⁉ 危機一髪の打開策は……!」

「考えろMr.3! エースたちを呼び戻さねぇか! そんなことしたらバレットが来るだろうが⁉」

「ちょっと静かにするガネ⁉ 考えてるガネ! なぜお前は一人ではしゃいでいるのだ!」

「うるせーっ! こんな状況で落ち着けるかってんだ!」

 

 集団の先頭にクザンが立つ。それだけで威圧感が凄まじかった。

 

「下もずいぶんややこしい状況だ。これ以上面倒なことになる前にとっととお前ら凍らせとくか」

「キリ、紙くれ! それで青キジを殴る!」

「殴ったら凍るんだから装備したってダメだよ。紙ごと拳が凍るだけ」

「じゃあどうすりゃいいんだ!」

「できればまともに戦いたくないんだけど」

 

 囚人たちの足が完全に止まってしまった。

 明らかに看守と海軍が優位に立ったと思われたその時、クザンは異変を感じる。

 

「なんだ? おいおい、これ以上面倒なことは……」

 

 彼が呟いている途中で大きな地鳴りがする。インペルダウン全体が揺れているかのような、地震でも起きたかのような衝撃を感じる。

 囚人も看守も海兵も、地面が大きく揺れたために立っていることすら難しく、大勢の人間が戸惑いの声を発していた。

 

 離れた位置ではあったものの、やがて地面が下から吹き飛んで瓦礫が飛ぶ。

 下層から現れたのは規格外に巨大な人間だった。

 レベル6の囚人、サンファン・ウルフが勢いよく顔を出してきたのである。

 

「いってぇ~。頭打っつった。足もあっつー」

「うわぁああああっ⁉ あ、あれは“巨大戦艦”サンファン・ウルフ……!」

「レベル6の囚人だァ!」

 

 ウルフは手の上に人間を乗せていた。

 顔の上まで手を上げたことでレベル2を見渡せ、彼らは状況を確認する。

 

「ゼハハハハ! 爽快じゃねぇか! よくやったぜウルフ、上出来だ!」

「あっつー」

「囚人どもにも追いついたぜ。大将まで出てきて盛り上がってんのか。ここが先頭ならまずは海軍を蹴散らすとしよう」

 

 いの一番に動いたのがバーンディ・ワールドだった。

 海軍大将が居ると聞かされて怯むどころか、むしろ好戦的な態度で自ら前へ出る。

 

「モアモア」

 

 悪魔の実の能力を使い、地面を蹴って異常な加速。

 ワールドは数百から数千メートルの距離を一秒とかからずに詰め、正面からクザンへ迫った。

 ぎょっとしながらも両腕を上げて、顔を守ったクザンの腕にワールドのパンチが当たる。彼は決して油断していなかった。だが異常な加速と強靭な腕力により一息で殴り飛ばされる。

 クザンの巨体が軽々と飛び、近くの牢屋の壁を破壊しながら遠くへ行った。

 

 安堵したのも束の間、今度は海軍も黙り込む。

 囚人たちもすぐには状況を受け入れられずに静まり返っている。

 今この場を支配したのは黒ひげ海賊団であった。

 

「どうしたよ海軍! お前ら大将が居なきゃ何もできねぇ腰抜けか⁉ 海賊がてめぇらの目の前にまで来てんだぜ! ゼハハハ、さあ! 派手にやり合おうかァ!」

 

 ティーチの号令をきっかけに、黒ひげ海賊団が攻撃を開始した。

 次から次に動く展開についていけない看守と海軍にのみ狙いを絞り、一方的に襲い掛かるようにして吹き飛ばしていく。

 喜んでいいのか、危機感を覚えるべきか。バギーとMr.3は悲鳴を上げた。

 

「大将が来たと思ったらでけぇ巨人が来て今度は急に看守どもを襲ってるだと⁉ 一体全体何がどうなってこうなってんだ⁉」

「もうわからんガネ⁉ 作戦もクソもないガネ⁉」

「ングー……スピー……」

「なーにを酔っぱらって寝とんじゃあお前ェ!」

「レベル6とて許せんガネ! 起きろバスコ・ショット!」

 

 レベル2の混乱は深まる一方だった。

 

 

 

 

 囚人たちが勢いを取り戻し、黒ひげ海賊団の進撃が続く中、その男が眼前に立った。

 ルフィとキリは目の前にやってきたティーチを見る。

 わずかな時間とはいえ、彼らは以前に出会った経験があった。ルフィは何かを思い出すように彼を見つめ、ティーチは楽しげに笑う。

 

「ゼハハハハ。久しぶりだなァ、麦わら」

「お前……」

「“黒ひげ”だよ。エースを倒したのはこの男だ」

「お前がっ……黒ひげ……!」

「なんだ、知らなかったのか? 確かにお前の兄貴を倒して海軍に突き出したのはおれだが、まあ細けェことはいいのさ」

 

 周囲では怒声が飛び交う戦闘が繰り広げられている。

 その中で立ち止まり、彼らは、或いは後方に居る者たちはティーチの声を聞いていた。

 

「よくもまあこれほどの格の犯罪者が集まったもんだぜ。海賊なら心が躍るってもんだよなァ? どうだおめぇら! おれと組まねぇか!」

「なにィ⁉」

「それは、まさかの発言だね」

「麦わら、おれはお前にも言ってんだ。停滞した海賊時代に風穴を開ける。おれたちが! かつてない最強の海賊団を作り上げて世界に対してケンカを売る! ここに来たのはそのためのクルーを集めるためだ! お前らに会えたのはよかった!」

 

 ティーチは上機嫌に語っている。

 その時、不意にルフィが前へ一歩踏み出したため、戦うつもりだと察したキリが素早く彼の肩を掴んで止めた。

 

「ふざけんなっ! お前はエースを殺そうとしたやつだ!」

「ゼハハハハ! 仕方がなかったんだよォ! そもそもを言えばおれが白ひげ海賊団の4番隊隊長を殺したからだが、やらなきゃおれがやられてた。むしろおれは、エースを仲間にしたいと今でも思ってる。その弟のお前もだ、“麦わらのルフィ”」

 

 ルフィは今にも飛び掛からん様子で前のめりになっていた。しかしキリに止められているため、ギリギリのところで踏みとどまっている。

 話を持ち掛けたティーチ自身は、彼の怒気を浴びても意にも介さず、挑発や嘲りではなく本当にルフィを誘っているようだ。

 混沌とした状況だとはいえ、冷静に受け止めるのが難しいのは間違いなかった。

 

「勘違いすんなよ。だからって何もおれの手下になれって言ってんじゃねぇ。予想だが、お前は船長がいいってタイプだろう?」

「そうだ! おれはお前の仲間にはならねぇし、船長がいい!」

「それでいいんだよォ。おれは自分の海賊団を率いて、お前も自分の一味を率いる。だが必要な時が来れば同じ船に乗り、目的のために力を合わせる。それがおれの理想だ」

 

 険しい表情をするルフィからは、同意を得られそうな気配は全く感じられない。

 

「いやだ! お前は信じられねぇ。おれはお前と組まねぇし、エースのことだって許してねぇ!」

「結局あいつは生きてるじゃねぇか。お前が助けに来た甲斐もあってな」

「それにこれだけははっきり言っとく! 海賊王になるのはおれだ!」

 

 「んん?」と声を漏らしたティーチだったが、直後には笑顔になって豪快に笑った。

 

「ゼハハハハハハ! 野心家だなァ! だがその座は海賊なら誰もが目指すもんだ。もちろんおれだって考えはある」

「お前になんか渡さねぇって言ってんだ!」

「おめぇを放っておくのはずいぶんもったいねぇが、決裂しちまったんならしょうがねぇ。いずれ王の座を巡って戦うことになるだろう」

 

 ルフィは思いとどまり、戦うのはやめたようだった。体から力が抜ける。

 キリが手を離すと、ティーチの視線に気付く。ルフィと話した後は彼を気にしていた様子だ。

 

「おめぇはいいのか? 合理的な野郎だと聞いてるが」

「船長はルフィだ。彼に従う」

「そうか。まあいいさ。お前らも“新時代”を作る同志になると、おれァ信じてるんだ」

 

 ようやくティーチが彼らから目を離し、他の囚人たちへ同様に語りかけた。

 

「おめぇらはどうだ! おれと一緒に来る覚悟のある奴ァ居るか⁉ おれはまず手始めにおれの国を作り、“四皇”になる! 当然おめぇらも甘い汁を吸えるわけだが、弱ェ仲間はいらねぇ。使える奴だけ乗せてやる!」

 

 辺りは喧騒に包まれていたが、その声を聞く人間は居た。

 中でもシリュウの決断は最も早く、敢えて何も言わなかったものの、ティーチの言葉が終わるとその目はすでに変化していた。

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