TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦うことになった 作:タメガイ連盟員
「うおっ!」
突然目が覚めた。周囲を見回すが、室内にはベッドで寝ている兎歌と外壁近くにいる鎧もどきだけだ。ほんの数分だけ眠ってしまっていたらしい。
「あー……」
悶々とした気分のまま眠っていたため、ピンク色の夢を見てしまっていた。
全裸の愛奈と月世が過度に密着している光景だ。
月世はさきほどまで入院服と言うか病人服と言うべきものを着ていた。北陸聖女学園時代の夕紀が着ていたものと似たようなものなのだが、簡素なもので生地もさして厚くないため、彼女の体のラインが浮かび上がっていた。
女神の相方もまた女神と言うか、各部位が過度に成育しているわけではなく、均整の取れたその肢体はただそれだけで目を奪われてしまうほどだ。
夕紀は彼女を直視するのをなるべく避けていたのだが、気になってしまって仕方がなかった。
月世もそんな格好で表に出るのは抵抗かあるのか、着替えるつもりらしいのでこの部屋に戻ってくるときは皆と同じ制服姿になっていることだろう。
「でもすごい美人だからなぁ、あの人……」
ことに戦闘中の彼女は正しく戦女神。初めて戦闘で一緒になったときは思わず見惚れてしまったほどだ。
それはともかく。
兎歌は寝ているからいいとして、鎧もどきは何をしているんだろうか。
壁の破片をくっつけて直そうとしている? どうやってくっつけてるんだ? あの管から出ている液体だかなんだかで破片をくっつけているように見える。あれ、もしかして活性化率の上げ下げだけじゃなくて、様々な成分の液体を作ることができるとか? いやわからん。
ああ、そういえばあそこ穴が空いたままだったな。あそこを壊したのは半分ぐらいは夕紀によるものだから、後で直さないとな、と思いつつも別に急ぐことじゃないから明日でいいやと放置するつもりだった。
あいつ、もしかして暇なのか?
確かに留守番二人が寝てしまっていてはやることもないのはわかる。
本でも持ってきておけばよかったか、と思ったが、一応留守番だからここを離れるのは良くないだろう。さきほど自販機まで行ったときは兎歌がまだ起きていたからノーカンである。
それにどれぐらいで先輩達が戻ってくるがわからない。
まず、生徒会長である野花に会いに行った三年組。正直これは長引くんじゃないかと思われる。
夕紀とは意味のない会話ばかりしている野花だが、相手が愛奈と月世では話が違う。
生徒会長には様々な業務があるが、その一つに年に二度発生するプレデターの大規模侵攻の対応がある。東北で増産されたプレデター、約一万が東京地区めがけて一斉に南下するこの現象、その途上にはアルテミス女学園があるため所属ペガサス全員が戦闘に参加することになる。対プレデター戦闘は降伏も停戦もないので完全な殲滅戦だ。一度に全てのプレデターが押し寄せるわけではなく、数派・数日かけての戦闘になるため、ここで少なからぬペガサスが犠牲になる。
愛奈・月世世代のペガサスも数ヶ月前の冬季大規模侵攻で生存していた五人の内二人が戦死、その数日後には抑制限界値に達した一人が毒を飲んで死んでいる。
この大規模侵攻における生徒会長の役目は全体指揮とペガサスの配置の決定だ。この配置は大人達の指示によるものだが、最終的な決定は生徒会長が行うことになる。このため、野花は愛奈らの同級生の死の原因が自分にあり、それゆえ恨まれていると考えるのは無理からぬことだった。
こうして、多大なストレスを抱えた野花は既に精神の均衡を失っている。夕紀とは関わりが薄いために比較的安定しているが、愛奈が相手では確実に乱れる。それゆえ長くなると夕紀は予想している。まあ、しびれを切らした月世がエントリーしたら短縮されるかもしれないが。
そして二年生だが、こちらはわからない。
そもそも夕紀は二年生達とはほとんど関わりがない。そのため、彼女達の人となりもあまり把握できていない。
真嘉も鎧もどきの存在を素直に受け入れている様子はなかったし、他の四人は活性化率が下がる瞬間を目撃していないから揉めるかも、ぐらいしか考えが出ない。
ともかく、戻ってくるまで待つしかないのだが、朝までには解放してもらいたいところだ。夕紀にもしなくてはならないことがあるのだ。
ふと、以前、野花から生徒会長について聞かされたとき、笑い出しそうになったのを思い出した。
生徒会長と言っても所詮は子供だ。大人からの指示を実行しているに過ぎない。だから人死にが出たところでそれは生徒会長の責任だろうか? 歴代の生徒会長がどうだったかは知らないが、少なくとも戦闘の配置なんて重要な仕事を野花のような素人にできるわけがない。漫画から得た知識だが、そういう仕事は何年も専門の教育を受けた者がやるようなことだ。それが原因で他のペガサスに恨まれているのだとしたら、理不尽極まりない。
本来ならば、その恨みを向けるべきは大人達だ。そもそも、ペガサスなんて化け物にしたのは誰だ? 大人だ。なのにペガサスは大人に恨みを向けていない。なぜか? 大人が恨まれては困るからだ。大人に憎悪を向けるようになれば、ペガサスはプレデターより人間を敵と見なすようになってしまう。だからペガサスの反乱を防ぐために大人達はあれこれと策を講じているわけだ。生徒会長にヘイト集中するようになっているのはそうした策の一環だろう。
この辺、鉄道アイアンホース教育校や北陸聖女学園はもっと直接的だ。鉄道アイアンホース教育校は所属ペガサスに首輪を装着させ、活性化率が90%を超えたり、担当区域から外れた時点で首輪から毒が注入される。北陸聖女学園の場合は信仰を軸とした管理がされている。ようは洗脳しているようなものだ。
ともかく、『せめて、最後まで人間として生きてほしい』と言うアルテミス女学園のコンセプトの実態はそんなものだ。
夕紀が笑いたくなったのはそこだ。どんなに理想的なこと言っていたとしても、他のペガサス校と変わらない。結局、人間にとってのペガサスがどういう存在なのか、それでわかると言うものだ。そもそもこれらを管理している大人達がいる限り、状況が変わることはない。野花はそう言う大人と、大人の思惑通りに振る舞うペガサスの板挟みになって苛まれている。生徒会長には様々な見返りがあるが、果たして釣り合っているのかどうか。野花の様子を見る限り、デメリットの方が大きそうだ。
しかし、ペガサスの枷である活性化率と抑制限界値の問題が解決するなら、今後どうなるだろうか。
夕紀が愛奈に捲し立てたように、大人に知られてしまえば良いように利用されるのは目に見えている。だからこそ秘匿すべきだ、と主張したのだ。
真面目なことを考えていたおかげか、悶々とした気分も落ち着いてきた。
今後どうするか、となるとまるで考えが思い浮かばない。この辺は他のペガサスが考えてくれるだろう、と丸投げしてしまうことにする。
ソファの上でゴソゴソと姿勢を変える。アコニツムはソファに座る前にベルトごと外して壁に立てかけてある。そもそもあんなものを装備したまま座ったらソファが穴だらけになってしまう。
アコニツム以外にもう一つ、ALISが置かれていることに気づく。大盾の形状をした、真嘉専用ALIS『ダチュラ』だ。真嘉が最初この部屋に入ってきたときは何も持っていなかったから、二年生の誰かが持ち込んだのだろう。
それにしても、自分のALISを置いていくなんて、あの人も随分混乱しているようだ。
などと思っていると扉が開かれる。
真嘉だ。
結論が出たのだろうか? いや、他の四人が付いてきている様子がない。ALISを取りに来たのか?
どうかしたのか、と尋ねようとした瞬間、真嘉が鎧もどきに飛びかかり、その顔面に殴りかかった。
「……は?」
【アコニツム】
| 山里夕紀専用ALIS。ダイダロス工房設計、械刃重工が製作した三本一組の剣型ALIS。P細胞の発電能力を利用した電磁石化により、体の各所に吸着させることができる。また剣同士を吸着、合体させることで大剣にすることも。これにより、小型プレデターには三本剣として、中・大型には大剣での対応が可能となっている。また、手に持つ必要がないため当ALIS以外の物品を運用することができる。 【雪待草】のコンセプトに対する別回答と言えるALIS。【雪待草】はマトリョーシカ方式であったため設計・製造は困難を極めたため、【アコニツム】はその逆に複数の剣を合体させて大型剣にすることで設計・製造の簡略化に成功している。 使用者である夕紀のデータの少なさ故か、機刃重工製としては信じられないほど手堅い技術でまとめあげられいている一品。ある意味、機刃重工の製作技術の集大成である。なお、一部の設計者が電磁石を使っているのだから電磁加速砲の機能も追加できるのではないか、と考えていたが、技術的・時間的な困難であるとして却下された。 通常時は夜稀製作の金属製のベルトに吸着、装備する。柄にあるスイッチで電磁石化のON/OFFが切り替えられる。 |
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