TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦うことになった 作:タメガイ連盟員
「じゃあ、人型プレデターさん。わたしたち高等部二年生の活性化率を下げてほしいんだけど、いーい?」
夕紀に促された響生が鎧もどきに尋ねる。それに鎧もどきはしばし間を空けて、床を指さす。ここでやるのか? とでも言いたいのだろうか。
「そうだよ!」
「月世先輩もここでやってますしね。愛奈先輩は路上だったけど」
他の二年生達はなにやら話し合っているようだが、響生が許可を先に取っても問題はないだろう。
「山里」
「うん?」
いつの間にか起き上がった夜稀が炭酸飲料を片手に夕紀に話しかける。
「彼はどのようにして活性化率を下げるのか、聞いてもいい?」
「ああ、お前見てないもんな。あーっと、あいつの背中に管みたいなの付いてるだろ。あれで全身あちこち噛みつかせてたな。それから、ラブ先輩は何かが体に入ってくる感じがしたって言ってたな」
それを聞いた夜稀はブツブツと考察を始めるが、実体験に勝るものはないからと自分もやってもらおうとするが、響生が活性化率を下げることを鎧もどきが了承したと二年生達に呼びかける。
話の腰を折られた夜稀は、先輩達のあとにするしかないな、とひどく落ち込んだ様子で炭酸飲料を飲み干す。
「そういえば、なんで白衣が脱げてるの……?」
「俺が脱がした。と言うかお前さあ、あれ洗濯しろよ。なんか変なの付いてたぞ」
「別に汚れても支障はないし。だいたい白衣は汚れが服に付かないようにするためのものだから汚れるのは当然」
「洗濯しなかったらその役割果たせないだろ」
「で、なんで脱がしたの」
「着てる奴見てると殴りたくなるから」
脱がした後にスープレックスしたのに? と言いたげな視線を夕紀に向ける夜稀。
「……北陸の連中思い出すんだよ、あいつらみんな白衣着てやがったからな」
夜稀は夕紀と話したことはあまりないものの、彼女が北陸聖女学園から転入してきたことぐらいは知っている。そして、今の言葉で彼女が出身校についてかなり悪い印象を抱いていることは察せられた。
「……山里が来てから、ALISの送信データに妙なものが混じるようになったんだけど」
「ああ、俺だな、原因……これ、みんな言っておいた方が良いよなぁ。野花には話してあるけど」
「蝶番には話してるんだ」
「あいつ生徒会長だからな。野花達が戻ってきたら、まとめて話すわ」
「……一度、全員が持ってる情報を突き合わせた方がいいかもね。これからのことを考えたら、情報共有はなるべくした方がいい」
「そうだな。同じこと何度も話すの面倒だし」
二人が話している間に、二年生達の活性化率を下げる準備ができたらしい。
「先輩、お願いがある」
「なんだ? ……硯が部屋から出てるの初めて見たな」
レアキャラか何かか。
どうやら夜稀は活性化率が下がるのをリアルタイムで見たいらしく、彼女らにはALISを起動したままやって欲しいと言うことだった。確かにALISには活性化率を表示する機能があるが、それは副次的なもので本来は兵器、それも対プレデター用だ。そんなものを持ってあの鎧もどきと向き合うのは気が引けるところだ。
ならば、と夜稀が思いついたのは月世に繋げていた人工呼吸器だ。あれにも活性化率が表示されているし、ALISのように使用者の登録も必要がない。のだが。
「なんか倒れてる!?」
「あ、それ、つっきー先輩が抑制限界になって毒が流し込まれそうだったから壊したわ。ラブ先輩が」
夜稀は新たにジュース缶を取り出してそれを飲み干す。彼女は愛奈達にぶつぶつと文句を言いながら、同時に装置が作動してたのに月世が死んでいなかったことに納得しつつ装置が起き上がらせて壊れてないから確認し出す。
「なぁ、それ毒付いてないか?」
「うん。でも胃酸に触れなければ無害な液体だから。それに少量なら口に入っても死にはしないし」
数時間、血を吐きながら激痛に悶え苦しむだけ、と続ける。
「ダメじゃねえか。いやまて、お前の白衣に付いてたのって……!」
「あれは毒とは別だから大丈夫。うん、問題ないみたい」
ドン引きしながら、夕紀はハーフパンツのポケットを探ると元の持ち主がずぼらだったのか、ハンカチが出てきたのでそれを使って毒を拭う。
「これ、洗って大丈夫なのか?」
「今言った通り胃酸と反応させない限り無害。洗えば下水に流れるし、一定未満の濃度のなったら機能しなくなるから」
これまで何人ものペガサスを冥府に送ってきた代物だ。そう言われてもいまいち安心できない。夕紀は早めに洗っておこうと思った。
夜稀は夕紀同様引いている真嘉の近くに人工呼吸器を寄せる。活性化率を計測するのは手首に装着するものらしく、夜稀は誰から見ても興奮した様子で叫んでいる。
「現代技術では不可能だと思われていた奇跡! あたしが生きている内は見られないと思っていた活性化率の数値が若返る光景を今から見られるなんて! 人類では不可能な奇跡を早くまなこに映させて!」
やべえなこいつ。
と思いつつ夕紀は静かに病室を出る。愛奈や月世のときは鎧もどきのあの管を服の中にまで入れていた。二人のときは緊急事態のようなものだったから気にしている暇がなかったが、今回は違う。
何と言うか、冷静に考えてみると、小学生だった頃に見た奇怪な性的妄想が描かれたコミックのような光景なのだ、あれは。
愛奈と月世のことで悶々としてしまった夕紀には、またそうした光景を見てしまったらさっきと同じような気分になってしまう。二年生達も三年生コンビに負けず劣らずの美少女揃いだ。はっきり言ってあの場に留まることなどできない。
「夕紀?」
「先輩」
ちょうど愛奈達が戻ってきたところだったようだ。
「あー、今から下げるとこっす」
「そっか。夕紀はいいの?」
「俺は後でいいっす。やるにはちょっとやんないといけないこともあるんで」
「やらないといけないこと?」
「ああ、いや。あーっと、あっちが済んでからみんなに話します」
愛奈はそれ以上詮索せずに病室に入っていく。野花はそれが何か察したようだが、特に何も言わなかった。
夕紀は病室から少し離れた場所に腰を下ろす。
既に触れているが、夕紀自身は活性化率を下げることについてはどっちでも良いと思っている。
しかし、下げなければ次の大規模侵攻で生き残ることはできない。それどころか、現在の活性化率が90%である夕紀はその途中で限界抑制値に達してしまうだろう。夕紀はヒーローのような活躍をしたいと思っている。大規模侵攻はその格好の舞台だと言って良い。だから、戦えなくなるのは面白くない。
大抵のペガサスは戦うことを好んでいない。例外は月世と夕紀ぐらいのものだろう。
だから活性化率を下げてもらうのが良いのだが、いまいち乗り気にならない。
北陸での経験ゆえか、体に何かを入れられることに忌避感があるのだろうか?
大規模侵攻と言えば。と考えを切り替える。
二年生達も、真嘉が自分以外は時間がない、みたいなことを口走っていたからみんな活性化率はかなり高いのだろう。となると、あの鎧もどきによって活性化率を下げることができなかった場合、夏の大規模侵攻が終わったら二年生は真嘉一人きり、一年生も戦闘が不得手な三人だけになってしまう。中等部三年は例年より人数がだいぶ少ないらしいし、冬の大規模侵攻はかなりまずいことになっていたのではないだろうか。
となると、鎧もどきはアルテミスにとっても救世主になるわけか。
今日一日で、随分と状況が変わったもんだな。
などと考えていると病室から月世と野花が出てきた。
「毛布を取ってくるので手伝ってもらえませんか?」
月世にそう言われ、野花の方を見ると、必死に一緒に来てくれと目で訴えていた。それはともかく、断る理由もないので一緒について行く。行き先は三年生寮のようだ。
「誰か寝たんすか?」
「穂群先輩ですね!」
「じゃあ別に人出いらなくないか?」
「いえ、運ぶのはあの場にいる全員分です」
「あそこで、みんなで、寝るんですか?」
「え、俺、遠慮したいんすけど」
「あら、嫌なんですか?」
「嫌と言うか、何と言うか……」
夕紀が転校以来寮で寝起きしていないのは、要するに女子と一緒に寝るのが恥ずかしいからだ。しかし、それを月世に伝えるのは躊躇われる。月世は人をからかうのが好きなようだから、言ったら確実に逃がしてくれない。
「と、とにかく、運びましょうか! 毛布!」
数枚の毛布を抱えて足早に病室に向かおうとする夕紀。それに野花も追随する。
「野花ぁ、あの先輩こええよぉ」
「なんで聞こえる音量で言うんですか!?」
「何言っても聞こえるだろ、ペガサスなら」
「そう言う問題じゃなくてですね」
「とにかく急ぐぞぉ」
「行き先同じなんだから意味ないです!」
「あらあら」
夕紀にはかなり高圧的な姉がいたため、年上の女性には萎縮しがち。