TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦うことになった   作:タメガイ連盟員

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第十四話

「ただいま帰りました!」

 

 病室に戻り、とりあえず毛布は部屋の隅にでも置いておく。毛布は大した重さではないが、それが10人分以上となればとにかくかさばる。月世が人手がいる、と言ったのはそういうことだろう。

 

 出迎えた愛奈から月世からひどいことをされなかったか、などと聞かれる。

 

「ひと言も喋りませんでした!」

 

「何もありませんでした!」

 

 実際に何もなかったのだが、2人揃って月世にビビっていたのは事実である。

 

 それに対して愛奈は苦笑しながら、何かあったら自分に言うようにと告げる。月世も自分が酷いことをしたら遠慮なく愛奈に報告するように、と続ける。

 

 この人は何を言っているのだろうか。と怪訝な表情をしながら首を傾げる夕紀。野花の方も何なのこの人、とこぼしている。

 

 そうこうしているうちに、二年生の活性化率を下げる作業が終わったらしい。

 

 残るは1年生だが、夜稀は鎧もどきが持つ能力が本物であることは確認できたから、どうせならちゃんと準備してから、と後回しに。野花も後日にするつもりのようだ。そして夕紀だが。

 

「俺も下げるなら後にしないといけないんで」

 

「何か理由が?」

 

「あ、そういうことですか」

 

 と野花が頷く。

 

「どういうこと?」

 

「あー、野花にしか話してないんすけど……」

 

 言いながら、夕紀は左腕を挙げる。その手首には金属製のブレスレットのような物があった。当然ながら、アルテミス女学園で支給される装備品にはそういうものはない。こうしたアクセサリーを身につけているペガサスもいないではないが、夕紀がそうした目的で装着するタイプではない。

 

「これ、俺の生体データを収集してるんすよ」

 

「生体データ?」

 

 妙な言葉が出たことで、活性化率が下がって浮ついた雰囲気になっていた部屋中の注目が一転夕紀に集まる。

 

「俺をこっちに送り込むのは良いけど、せめてそれぐらいは、ってことだそうです。ALISってメンテナンス装置に入れると戦闘データをメーカーに送信するんだよな?」

 

 言葉を向けられた夜稀が頷く。

 

 高等部に支給される専用ALISはそうした収集されたデータを元に制作される。良いところ2年程度しか使われない専用装備を開発・製造するのはメーカーにとって重荷になるはずだが、これは彼らの好意によるところだ。

 

 それはともかく。

 

「そいつに間借りする形で天馬の東京支部だかに送信されるんだと。で、こっちに来るときに送信用の装置も一緒に持ってきてるってわけで」

 

「つまり、それのせいで活性化率が下がったことがバレるってことか」

 

「そうなるだろうな。毎日8時までにデータを送らないといけないから、それが途切れるってことは俺が死んだってことだからな。もし送信が途切れたら、あっちから学園に問い合わせが来るんじゃないか? そう言うわけだから野花にはその辺説明しておいたんだけど」

 

「となると、活性化率を下げるにはまず、夕紀も卒業したってことにしないと」

 

「も?」

 

 野花によれば、月世は昏睡状態に置かれた時点で、既に卒業したと申請していると言うことだった。野花も、学園を管理する大人に最初は月世の状況について真面目に説明したそうなのだが、当然反対されたため、カッとなって嘘八百を並べて卒業させたと言ってしまったらしい。が、そのまま雑に受け入れられてたのだった。

 

 雑である。

 

 だからこそ、今後の自分達の活動がやりやすくなるのだから、微妙なところだ。

 

「喜渡先輩も同じように申請するつもりです」

 

「2年の先輩達は?」

 

「まとめてやると、もしかしたら怪しまれるかもしれないので先輩達はまた後日に工作します。なので、夕紀も間を空けてからです」

 

「おう。面倒だろうけどよろしく頼むわ」

 

「本っ当に面倒ですけどね」

 

 流石にうんざりした様子でため息をつく野花。実際、外部と関わる問題に対応できるのは生徒会長である野花だけだ。今後のことを含めやるべきことが山積しているのだから、ある意味当然の反応だろう。

 

「疑問がある」

 

 すっと夜稀が挙手する。野花がどうぞ、とでも言うように頷く。

 

「北陸聖女学園で何をしていたかは知らないけど、山里にわざわざ生体データを収集するような価値があるようには思えない。土峰先輩みたく、活性化率の上昇率が低いと言ったこともないようだし、標準的なペガサスとそう変わらないはず」

 

 まだ何か話していないことがあるんじゃないか、と言外に言っているようなものだった。

 

 別に夕紀も隠しているわけではない。ただ単に言ったところで誰も信じないからだ。野花には話したことがあるが、冗談だとあしらわれている。まあ、これは普段の彼女との会話が実のないものばかりなのもあるが。

 

 そして夕紀が標準的なペガサスだ、と言う指摘も間違っていない。そもそもそれを目指した実験であり、そうであるがゆえに夕紀は唯一の成功例なのだから。

 

「……あっちでやってたことがどういう目的だったかはしらねー」

 

 部屋中の注目が夕紀に集まっている。

 

 しかし、どう話したものか? 繰り返しになるが、そもそも信じないだろうと夕紀自身が考えている時点で、説明をする意味があるのだろうか。

 

 まあいいや、言うだけ言ってしまえ。

 

「俺、元々男だったんだ」

 

 元々静かだった病室に、奇妙な沈黙が流れる。

 

 ほら、やっぱり信じない。

 

「えっと……?」

 

「なに言ってんの?」

 

「だから! 女にされて! それからペガサスにされたんだよ!」

 

 本日何度目かわからない戸惑いに皆が支配されるなか、夜稀だけが静かに魔眼を発動させる。

 

「『真透』」

 

「ぁん?」

 

「うーん……男性器は確認できないな」

 

「なにやってんだ! 魔眼まで使って!!」

 

 思わず股間を両手で隠す夕紀。

 

 夜稀の魔眼、『真透』は透視能力だ。相手がペガサスでも効果がある。

 

「意味ないから、それ」

 

「そういう問題じゃねえよ! やっぱこいつ!」

 

 嫌いだ。

 

 初めて会ったときから“合わない”と感じていたが、今回は決定的だ。敵ではないからそれなりに譲歩はする。するがそれだけだ。できるだけ同じ空間にはいたくない。

 

「それを証明することはできますか?」

 

 これは月世。

 

「……ないっすね。体の方は完全に女になってるし、俺が男だったときの情報なんてどこにもないんじゃないですかね。ああ、聖女学園にはあるかも」

 

 もっとも、場所が場所だけに確認しようがない。つまりはないのと同じ。状況的には、夕紀がそう主張しているだけ。

 

「俺からは以上っす。別に信じてもらいたいわけじゃないんで、好きに受け取ってください。ああ、あと俺がアルテミスに送られた理由もわからないんで聞かれても困ります」

 

 投げやり気味に言った夕紀はそのまま床に座り込む。

 

 当然と言うべきか、変な空気になってしまった。

 

「……えっと、これからどうします? もう日付が変わりそうな時間だし」

 

 このままでは拉致があかないと思ったのか、真嘉が沈黙を破る。いつの間にか随分と時間が経ってしまっていたらしい。

 

 それに愛奈がお開きにしようか、と言うと待ってましたとばかりに月世が提案する。

 

 それはここでみんな一緒に寝ないか、と言うものだった。

 

 まず愛奈は一にも二にもなく賛意を示し、他のペガサスも一瞬互いの顔を見合わせるが、このまま寮に帰っても眠れそうにない、と提案に乗ることにする。

 

「どちらへ行かれるんですか?」

 

 毛布を受け取って各々が寝床を定めている中、部屋からこっそり出ようとしていた夕紀を月世が呼び止める。

 

「見逃してください」

 

「理由を素直に言えたら考えましょう」

 

 見逃す気ないじゃん。

 

 蛇に睨まれたカエル、あるいは悪戯好きの猫に目をつけられた鼠と言うべきか。問題は悪戯猫には人間の脳が搭載されていることだ。一般にそうした存在は悪魔と呼ばれるわけだが。

 

「……ついさっき俺男だって言いましたよね!? 女だらけのところで寝るなんて恥ずかしいんすよ! て言うか先輩たち皆美人なんだからその辺自覚してもらえませんかねぇ!?」

 

「ふむ。なるほど」

 

 美人と言われたあたりをあっさりと流し、顎に右手を当てながら月世は頷く。

 

「ダメです」

 

「ほらやっぱり!」

 

「男の子なら、こういう状況は嬉しいのでは? いわゆるハーレム状態です」

 

 と、レミが口を挟んできた。ある意味でその認識は間違っていないのだが、夕紀の内面は、異性よりも同性と遊んでいる方が楽しい、と言う情緒レベルでしかないため、女子と一緒にいることに羞恥心があるのだった。加えて彼女の知識が、過去に出版されたライトノベルに由来する偏った物であることも問題だった。

 

「いや、恥ずかしい方が上回るんすけど……どこ情報ですそれ」

 

「図書館の本からです」

 

「諦めた方が良いですよ、夕紀」

 

 毛布を被った野花に言われ、夕紀は頭を垂れる。

 

「端の方でいいっすか……」

 

 観念した夕紀は毛布を受け取って穴の空いた壁の近くに毛布を巻いて座る。

 

 外を見ると、雨はすっかり上がっていて、雲の隙間から月や星が見えている。

 

 雨が降っている中、鎧もどきが現れてからまだ半日も過ぎていない。

 

 なんとまあ、濃密な半日か!

 

 なにもかも、とまでは言わないが、多くのことがひっくり返った。

 

 明日からどうなるか見当も付かない。

 

 部屋の中からは他のペガサスたちが小声でおしゃべりをしているが、混ざる気にはならない。

 

 今夜眠れるかなぁ、と思いながら、夕紀は瞼を閉じた。




山里(やまざと) 夕紀(ゆうき)
特徴赤と白の縞模様 ベリーショート
一人称
転入日8月17日
身長167cm
出身北陸聖女学園
魔眼通家(つうか)
ALISアコニツム

北陸聖女学園からの転校生。中等部3年時の夏期大侵攻後、という微妙な時期にやってきた。

基本的に怠惰であり、身の回りのことも最低限しかやらないが、私物が極端に少ないため、着の身着のままに人目につかないところでだらけていることが多い。ときどき生徒会室にお菓子をたかりに来る。

反面、戦闘には非常に積極的であり、忌避感城を持つペガサスが多い中、それを楽しむ。本人のヒーロー願望もあって仲間を助けに入ることも多い。戦闘能力は平均的な高等部1年生よりやや上。

北陸聖女学園での度重なる人体実験の結果、聖女(シスター)、アイアンホース、電池(バッテリー)のいずれにも応用できなくなってしまったこと、また当該プランがコスト面から凍結されたことで立場が宙に浮いてしまい、最終的に混乱を起こすことを期待してアルテミス女学園へ送り込まれることになった。
もっとも、当の本人にやる気がなさすぎたため、なにも起きなかったのだが。

元々は男性。P細胞研究の副産物として性転換技術の実験台となっていた。その上で『ペガサス』にする、と言うのが当該プランである。まともに『ペガサス』となったのは夕紀1人、成功率5%未満と言う数値と性転換に時間がかかりすぎるため、コストに見合わないことからプランは凍結された。


原作1章部分はこれで締めになります。
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