TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦うことになった 作:タメガイ連盟員
アルテミス女学園。
旧茨城県南西部に設置されたこの施設は本来の意味での学校ではない。
人類の敵である『プレデター』に対抗する戦力『ペガサス』の拠点だ。
学校と言う体裁をとっているのはペガサスが十代の少女たちであるから、とされている。
ペガサスは既存生物を『プレデター』へと変貌させる
通常兵器でも『プレデター』を倒すことは不可能ではない。しかし、資源に乏しく海洋すら『プレデター』が跋扈する状況ではそのための武器弾薬を充足させることは困難だ。であるならば、生産がそれほど難しくない人間を戦争資源として利用することは自明の理であろう。人道なるものは、あくまで平和な環境でしか機能しない、その好例と言える。
そのペガサスも兵器としては難点がいくつかある。まずP細胞による兵器改造はあくまで停止しているだけで、時間経過、またP細胞を利用することで次第に活性化が進む。これを数値化したものを活性化率と呼び、これが100%になった時点でペガサスは人型プレデター『ゴルゴン』と化す。
活性化率は平均一ヶ月に1%上昇する。何もしなくても約八年、戦闘行為やペガサスの特殊能力である魔眼の使用によっても活性化率は上昇するからさらに短くなり、五年以上生存しているペガサスは稀だ。そして、『ゴルゴン』になってしまえば完全に『プレデター』と同じになってしまう。そうなる前に配布されている専用の毒を服用し、自害することが求められている。つまり、ペガサスになった時点でその後の生涯は極短いものになると決まっている。
また、アルテミス女学園において卒業とはペガサスの死、あるいは殺害を意味する。前述のゴルゴン化を防ぐために仲間を殺すことは珍しいことではないため、罪悪感を紛らわせるためにそのような文化が定着していったと言われている。また、生徒会長が自害を促したり、直接殺害することを進路相談と呼ぶ。こうした学校に関わる用語の多くがこうした隠語として用いられているのだった。
表向きは学生だが、その実態が人間兵器であることを考えれば、学校と言う箱庭に押し込められているのは悪い冗談にしか思えない。
もっとも、その冗談のおかげでアルテミス女学園のペガサスたちは人間らしい生活ができているのだが。
「これで最後ですか?」
学園外、とうの昔に放棄された旧市街地、ペガサス達が呼ぶところの『街林』に数名のペガサスの姿があった。
プレデターの脅威から人類を守るため、日本ではいくつかの都市を中心に居住地区を設け、その周囲を市壁で覆うことで守っている。当然ながら、市壁外の地域は放棄され、住民は居住区へ収容されている。長らく無人となった街は人間もプレデターもお構いなしの植物たちに半ば支配されつつあった。
そんな中でもプレデターたちは我が物顔で、獲物を求めて闊歩している。当然アルテミス女学園周辺にも出没、あるいは潜伏するため定期的に巡回を出してこれを排除するのが日常業務の一つになっている。
「そうみたい。えっと、カブトガニ型とバッタ型をそれぞれ一群。時間的にも丁度良いからそろそろ戻ろう」
前述した通り、アルテミス女学園は通常の学校とは違う。指導に当たる教師もいないし、管理者もできるだけペガサスには関わらないようにしている。ほとんどがAIによって管理されている。となれば、下級生への指揮・指導を上級生が行うことになる。こうして、学園内にはいくつかのグループが形成されることになる。
この日、巡回に当たっているのは『鮫島グループ』。進級を間近に控えているとは言え中等部一年のみで構成されているのは端から見ても不安に思える。そのため、お目付役として夕紀が付いているのだった。リーダーであった鮫島ささらは既に卒業してしまっているが、その名前をグループ名として使い続けられていることから後輩達に慕われていたことがわかる。
実は現在の中等部三年生は非常に評判が悪い。何しろ『最低』などと言う冠が被せられているほどだ。彼女らが既に高等部寮へ引っ越しているのはある意味当然の行為だろう。夕紀は転入生でどこのグループにも所属せずにいたし、戦闘中に下級生を助けたことも多々あるため、他の三年生とは別扱いされている。もっとも、戦闘中以外は誰かと交流しないどころかどこにいるかもわからないため、どう扱えばいいのか困惑されているのだが。
「山里先輩、どうでしたか」
「危なげなく、だな。と言うか、お前らの方が経験あるだろ」
「先輩一人の方が強いじゃないですか」
「俺は勝手にやってるだけだよ。ちゃんと連携考えてやる方が良いって」
会話をしながらだが、周囲への警戒は怠らない。すべて倒したと思い込み、潜伏していたプレデターの奇襲で死傷者を出した例は枚挙にいとまがない。
彼女達の手には、少女には不似合いな弓や、剣、槍と言った現代では実戦的な武器として扱われない、中世的とすら言えるものがあった。これこそがペガサス専用武器であるALISだ。特にアルテミス女学園ではその第三世代が運用されている。
ラテン語で『翼』を意味するこの武器は、その部品にプレデター撃破時に残る遺骸と呼ばれるものを加工したプレデターパーツを使用している。
プレデターパーツには発電能力もあるため、一般家電にも使用されているほどだ。多くの発電所の運用が困難になっている現在、プレデターパーツは人々の生活になくてはならないものになっているのはまことに皮肉であった。
世界的には第二世代の運用が主流となっており、第三世代は活性化率が上昇しにくい代わりに攻撃力が三割低下、またコスト面で高価になりがちであった。この第三世代が配備されている面でもアルテミス女学園は優遇されていると言える。
夕紀は剣型をメインに槍型を始め様々なものを使用する、と言う珍しい使い方をしている。普通、一人一つのALISを使うのだが、複数使用はあまりない。本人曰く、この方が戦いやすいから、だそう。
「先輩、ありがとうございました」
「おう、お疲れー」
鮫島グループの後輩達と別れ、夕紀は高等部区画へ向かう。
アルテミス女学園は中等部区画・高等部区画・生活区画の三つに分かれていて、それを壁が覆う形になっている。上空から見ると、サンドイッチか角煮のようにも見える。中等部と高等部ではその内実はかなり異なっている。中等部は富裕層もかくやと言わんばかりに煌びやかなのに対し、高等部はコンクリート剥き出し、ひたすら頑丈に作られている。これは高等部のペガサスはその分活性化率が高く、ゴルゴンになる危険が高いためだ。高等部の施設はゴルゴンが出現した武器の取り回しがしやすいようにどの部屋も広く作られている。つまり実質的な隔離施設なのだ。
北陸聖女学園から転入してきた夕紀にしてみれば、それでもずいぶん人間扱いされていると思わずにはいられないが。
初めて中等部を見たときは、本当にここがペガサス校なのかとまず疑ったぐらいだし、高等部だって支給される電子マネーを使って家具を揃えることだってできる。監視機器は備えられているが、監視を行う大人達にやる気がないこともあってザルと言って良い。
夕紀はこのザルさを利用して、高等部区画の未使用施設を勝手に使っている。アルテミス女学園の敷地は広く、使われていない施設も少なくない。高等部は利用しているペガサスが多いときでも二〇人に満たないため、余計に空きが多い。
夕紀にしてみれば、女だらけの学園での生活は正直気が休まらない。だから誰も寄りつかない場所が欲しかったのだ。
『街林』から拾ってきたソファに身を沈める。夕紀も電子マネーを支給されているが、あまり使う気にならなかった。
思えば、人生短いながら色々あった。
家族が事故で死んでからは特にそうだ。親戚に引き取られるまでは良かったが、彼らは夕紀を『参人壱徴兵法』、つまり三人いる子供のうち一人を男子なら自衛隊、女子ならペガサスにすると言う法律の対象にしようとしていたのだ。つまり、国に売り飛ばしたのだ。
自衛隊はまともに戦う能力を持っているのは空自だけで、陸自は食料生産ための耕作要員でしかない。本来ならば、夕紀もそうなるはずだった。
ところがその年は異例の対応が行われた。
北陸聖女学園の経営・管理を行っている天馬研究所がP胞研究の副産物として、人体を作り替える薬品の製造に成功していた。これは男性を女性に作り替えると言う効果があり、これを使えばペガサスにできる者を増やせるのではないか、と考えられた。もっともペガサスの運用にはそれなりのコストがかかるため、それに見合うかどうかはまた別の問題なのだが。
徴兵された男子二〇名を対象に、まず性別変用、ついでペガサス化の実験が行われた。
しかし、最終的にペガサスとしてまともに運用できたのが夕紀ただ一人、成功率5%と言う数値は実験プロジェクトの凍結を決定するには十分すぎた。ここで問題になったのが夕紀の処遇だ。夕紀は元男のペガサス、と言う希少性ゆえに様々な実験の対象となっていた。これが原因で、北陸聖女学園の『
ならば、と提案されたのがアルテミス女学園への転入だった。これまで記述した通り、アルテミス女学園のペガサスは贅沢な暮らしができるが当然ながら運用コストは決して安くない。このため、そうした優遇措置を排除、鉄道アイアンホース教育校のような厳格な管理体制にすべきとする『兵器派』と言う勢力もいる。現状ではその運用費用を負担している東京地区の住民がペガサスに好意的であることもあって実現していないが、何か大きな問題が起きれば改変のきっかけになるはずだ。夕紀にアルテミスに混乱を招くよう誘導させようと言うわけだ。
こうして夕紀のアルテミス女学園行きが決まったのだが、夕紀自身は親戚に売られた経緯から、大人を信用してはいけない、しかし生きるためには利用しなくてはならない、と言う面従腹背の態度を身につけており、大人に何を吹き込まれようと神妙な顔をして聞く振りをしていたに過ぎない。結果、大人の目論見は無意味なものとなっていた。まあ、その大人もそれほど効果を期待していたわけでもないのだが。
「あー……お菓子たかりに行くかな……」
気怠げに呟くが、ソファから動こうとはしない。北陸にいたときは24時間監視され続け、実験動物として扱われていたのだから、自由などどこにもなかった。
多くのペガサスにとってアルテミス女学園が地獄であっても、夕紀にしてみれば住めば都と言ったところだ。
しかし、ここでの生活もそう長くは続かない。
夕紀の活性化率は現在85%。
8月に起きる、東北で増殖した一万ものプレデターが一斉に南下する大規模侵攻で生き残るのは困難だろう。
戦って死ぬのは構わない。
だが、自分で死ぬなんてまっぴらごめんだ。
せめて、納得の出来る死に方がしたい。
死んだときに、仲間と呼んで良いかわからないけど、それでも、あの19人に顔向けできるような。
プレデター細胞で直接TSしたわけじゃなくて、プレデター細胞の研究の過程でTS薬ができたってわけです。
ちなみにTSの過程で8人、ペガサス化で5人、その後の活性化率の急上昇やらで6人って感じ亡くなってます。最初の段階で成功率低すぎ。頭天馬か?