TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦うことになった   作:タメガイ連盟員

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第四話

 思わずビルの影に隠れた夕紀は、顔だけを出して様子を窺う。

 

 いや、隠れてどうする。すぐにでも愛奈を殺さなければまずいと言うのに。

 

「人型のプレデター? そんな馬鹿な……」

 

 人型プレデターはペガサスの末路であるゴルゴン以外には存在しないはずだ。例えば、男性にプレデター細胞を注入した場合、肉体改造の途中で起きる神経系の損傷が原因で死亡してしまう。これは対象年齢外の女性に対して行われた場合も同様だ。ではペガサスが成人になったらどうなるか、と言うと。実例がないため不明である。

 

 では、あれはなんだ?

 

 あれがプレデターだとすれば、愛奈を攻撃しないのは不自然だ。人間とみれば即座に殺しにかかるプレデターが。しかも傘なんてものまで持って! 実は人間が西洋甲冑のようなものでも着込んでいるのか? いや、市壁で覆われた居住地区以外で人間が生きていくことは不可能に近い。仮に人間だったとしても、もっと動きやすい格好をするはずだ。

 

 耳を澄ませると、愛奈が鎧もどきはプレデターで、自分ももうすぐゴルゴンになることを認識しているかのような言葉を漏らしている。

 

 あの謎の鎧もどきに気を取られすぎていた。もう95%は超えているに違いない。間に合うか?

 

 ビルの影から出ようとした夕紀は、さらに信じがたい光景を目にすることになる。

 

 鎧もどきの背中に生えている蔦のようなものが伸び、いや、先端部が生物の口のようになっている。それが愛奈に噛みつく。それもさらに何本も続いていく。

 

 なんだ、なんなんだ、いったい、なにをしているんだ? わけがわからないにもほどがある。夕紀は自分の頬を引っ張ってみる。痛くはないが感触はある。どうやら夢や幻覚ではないらしい。しかし、目を離すことができない。

 

 なら現実、現実なのか。何かを吸い出している、あるいは注入? わからない。夕紀が混乱している間に、蔦が愛奈の体から離れていく。愛奈自身は……気を失っているようだ。しかし、もうゴルゴンになってもおかしくないはずだ。まさか、今のでゴルゴンになるのが止まった?

 

「そんな、馬鹿な」

 

 そうだとしたら、あの鎧もどきは活性化率の上昇を止めるか下げられると言うことになる。なら、ならば、いや、どうする、どうすればいい。待て待て、愛奈の活性化率を見ればいいんだ。鎧もどきが意識のない愛奈を運ぼうとしている。

 

「おい!!」

 

 ままよ、とばかりにビルの影から飛び出し、『アコニツム』の切っ先を鎧もどきに向けて呼び止める。

 

「その人を離せ」

 

 すると、鎧もどきはゆっくりと夕紀に振り返ってから、愛奈を地面に横たえ、その上に傘を置いてから数歩下がってから両手と膝をついて跪く。

 

 言葉がわかるのか。こいつ、本当に人間なんじゃないのか?

 

 驚きながら、愛奈に近づく。ゴルゴンになる様子は……いや、活性化率が100%にならない限り肉体改造は起きない。

 

 愛奈に彼女のAILSである『ルピナス』を持たせる。ALISには登録者の活性化率を数値で表示する機能がある。こうすれば今の愛奈の活性化率がわかる。そして、その数値にまたもや夕紀は驚愕させられる。

 

 47%

 

「嘘だろ……」

 

 装置の異常と言うこともあり得る。自分の数値も計測すると“90%”と今朝計測したときと変わらない。となると故障ではない。なお、夕紀の数値を計測しても意味はないのだが、まったく混乱しているためか気づいていない。

 

「本当に下がってるのか」

 

 まだ跪いている鎧もどきを見る。

 

「お前が、やったのか? ラブ先輩の活性化率を下げたのは」

 

 そうたずねるが返事がない。喋れないのか? まあ、口があるようには見えない。

 

 すると鎧もどきは頭だけであげて、僅かに首を下げる。肯定と言うことだろうか。

 

 混乱は続いているが、なんとか状況の、鎧もどきについての整理を試みる。

 

 1.言葉が理解できる

 

 2.プレデター細胞の活性化率を下げることができる

 

 3.愛奈の活性化率を下げたことから、ペガサスの存在を認知している

 

 4.同上から、ペガサスに対して友好的であると思われる

 

 と言うことが考えられる。

 

 どうするべきだろうか。

 

 愛奈と共にアルテミス女学園へ連れ帰る? いや、いや、それはなにかまずい気がする。自分だけの判断で行動すべきじゃない。せめて生徒会長か上級生に相談しないと。自分に戦闘以外での判断ができると思っていない夕紀はガシガシと頭を掻く。

 

 あ、そうか、上級生なら丁度ここにいる。愛奈が目覚めたら、判断してもらえばいいんだ。よし、とにかく、愛奈の意識が戻るのを待とう。

 

 『アコニツム』を腰に戻して、鎧もどきに向かって両手をぐーぱーの要領で何度も開閉させる。こちらも戦意がないことを示すためだ。

 

 鎧もどきがサムズアップを返してきた。了解と言うことだろうか。それから鎧もどきは愛奈を指さしてから、そのまま指先を付近の民家に向ける。

 

「あー、なんだ、雨が降ってるから家の中に入ろうってことか?」

 

 首肯する鎧もどき。

 

 ペガサスは雨に濡れたからと言って風邪を引いたりはしない。プレデター細胞が体内に侵入したウイルスを即座に死滅させてしまうためだ。しかし、このまま雨の中にいれば服が濡れるし、それはそれで不快だ。それにこうした場合、相手の提案に乗った方が相手からの印象も良いだろう。

 

「わかった」

 

 夕紀は自分は『ルビナス』を、愛奈は鎧もどきに担がせて移動する。どうやらどこかに雨宿りをしよう、と言うだけで入る民家は別らしい。

 

 

 目的地らしい民家に入ると、鎧もどきは玄関に愛奈を横たえて、何か探そうとしているのか、二階へ上がっていった。夕紀は洗面所に向かって、タオルがないか探す。幸いバスタオルなどがそのまま放置されていたので使わせてもらう。玄関には靴が何足か残されていたし、かつてのこの家の住民は着の身着のまま逃げ出したらしい。

 

 とりあえず、自分の服をバスタオルで拭いていると、鎧もどきが何かを持って降りてきた。なにかを思っているとそれを広げて見せてきた。

 

「パジャマ……?」

 

 それは猫柄のパジャマだった。しかも二着。

 

「なに、俺に着替えさせろってか?」

 

 右手をあげる鎧もどき。いや、確かに鎧もどきは人間っぽいが人間かどうかはわからない。だから愛奈を着替えさせるのは夕紀が適任だろう。夕紀が元は男であることを気にしなければ、だが。もちろん鎧もどきにそんなことがわかるはずもない。

 

「……わかったよ、先輩を寝かさせられる場所まで運んでくれ」

 

 夕紀は深いため息をつきながら了承する。

 

 2階の個室に入り、愛奈をベッドに横たえた鎧もどきはそのまま出て行ってしまった。

 

 意を決して愛奈の上着を脱がせてハンガーにかける。次にスカート……

 

「はぁ……」

 

 顔を背けるべきか、見ながら脱がすべきか。見ない方がいいのだが、見ないと手探りになってしまい、もっとよくない気がする。

 

 スカート、そしてブラウスを脱がすと、シンプルな白い下着と愛奈の肢体が露わになる。

 

 愛奈の通称に『アルテミスの化身』なるものがあるが、その姿はまさしく女神のごとくだ。

 

 正直、気持ちは男のままの夕紀にとって目の毒でありすぎる。これまで他の生徒と着替えや入浴を避けてきたほどだ。

 

 あくまで噂話なのだが、優れたペガサスほど容姿が整っているものらしい。特にスタイルが良いとかなんとか。

 

 愛奈の体を見る限り、その噂は事実なのではないかと思える。

 

 できるだけ体に触れないように四苦八苦しながらようやくパジャマを着せて、改めてベッドに寝かせて布団をかける。

 

「疲れた……」

 

 精神的にひどく疲労してしまった。壁に背中を預けて床に座り込む。戦闘でもこんなことはないと言うのに。やっぱり、こういうところで自分は他のペガサスと違うと実感する。

 

 自分も服が濡れていたことを思い出したが、寝るわけではない自分がパジャマを着ても仕方がないと思い、衣装ダンスから別の服を見繕う。幸いと言うべきか、この部屋の主は夕紀と似たような背格好だったらしく、丁度良いTシャツとハーフパンツがあったので拝借する。もちろん、自分の制服もハンガーにかけておく。

 

 愛奈の方は傘の下にいたからそれほど濡れていないが、夕紀の方はもろに雨を受けているので乾くのには時間がかかりそうだ。あとで回収した方がいいかもしれない。

 

 『アコニツム』を装備し直すと、ふと本棚が目に入る。背表紙からして漫画本ばかりだが、これらも当然置き去りにされてしまったようだ。

 

「おっ、おお? これ、もしかして……!」

 

 夕紀には一部の表紙に見覚えがあった。ペガサスになる以前、読んだ昔の漫画のものだ。

 

「やっぱり! 『Transform Heroines&10th Heroes』じゃないか!」

 

 この漫画、連載途中でプレデター絡みの騒動があったために連載中止になってしまったとかで未完になってしまっているが、根強いファンがいるため紙の本がいまだに残っているのだった。夕紀はその内の最初の数巻しか読むことができなかったが、ここには未完までの全巻が揃っている。

 

 愛奈が起きるまで時間がかかるかもしれないし、それまでの時間潰し、と自分に言い訳をして、早速読み始める。

 

「やっぱりカッコイイなぁ、デビル」

 

 作中のヒーロー達のように、グレムリン、ではなくプレデターと戦ってみんなを守りたい。そう子供心に思ったものだ。奇しくもその願いは叶ったのだが、さて、それが夕紀にとって幸福であったかは定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私は? ……私は、そうだ、確かゴルゴンに……っ!?」

 

 夕紀が夢中で漫画を読んでいる間に愛奈が目を覚ましたらしい。案の定混乱している様子だ。

 

「……違う、あの時……確か傘を……」

 

「おはよっす、ラブ先輩」

 

「……!? 夕紀?」

 

「とりあえず、ここはあの世じゃないっすよ」

 

「え? なに……?」

 

「あと、ゴルゴンになったペガサスが見る精神世界的なものでもないっす」

 

「そういうのあるの……?」

 

「いや、どうなんすかね?」

 

 もしかしたらあるのかもしれないが。

 

 ともかく、愛奈が起きたから、あの鎧もどきをどうするか決められるわけだ。

 

 さて、愛奈はどうするだろうか。

 




「Transform Heroines & 10th Heroes」は原作者さんの別作品「変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う」が元ネタです。読んでみてね☆

愛奈(この子、私のことラブ先輩って呼んでたんだ……)
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